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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇スメタナ弦楽四重奏団のシューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と少女」 /ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」

2025-01-23 09:53:17 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と少女」
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」

弦楽四重奏:スメタナ弦楽四重奏団

録音:1954年(「死と少女」)/1958年(「アメリカ」)

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OW-7708-S
 
 このLPレコードで演奏しているスメタナ弦楽四重奏団は、1943年にプラハ音楽院の学生のリベンスキー(第1ヴァイオリン)、コステツキー(第2ヴァイオリン)、ノイマン(ヴィオラ)、コホウト(チェロ)の4人により、最初プラハ音楽院四重奏として結成され、1945年になり、スメタナ弦楽四重奏としてデビューを果した。得意のチェコ音楽をはじめ、モーツァルト、ベートーベン、ハイドン、ブラームスやドビュッシーなど、幅広いレパートリーを持ち、世界各地での演奏活動によって多くのファンを魅了した。確固とした技巧に裏付けられた、その流れるような美しい表現力は、当時のカルテットの中でも一際抜きんでた存在であった。全員が暗譜で演奏するそのスタイルでも話題をさらったものだ。1958年には初来日し、その優れた演奏を聴かせ、以後16年間に渡り日本での演奏活動を行い、日本の多くのファンから愛されたカルテットであった。1988年最後の日本ツアーが行なわれ、翌年の1989年に解散した。スメタナ弦楽四重奏団の演奏は、全てが自然な流れの中に身を置くような演奏スタイルであり、聴いていて何の抵抗感がない。かと言って、当然ただ漠然と演奏するわけではなく、微妙なニュアンスを大切にし、幽玄の美といったような至高の芸術にまで高めることに真骨頂があった。どこか、日本的な要素もあり、日本のクラシック音楽ファンにとっては、非常に親近感が湧くカルテットではあった。そんなスメタナ弦楽四重奏団の演奏で、弦楽四重奏曲の古今の名曲「死と少女」と「アメリカ」の2曲が聴けるのが、このLPレコードである。シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と少女」で、スメタナ弦楽四重奏団は、精緻を極めた演奏を繰り広げる。何と豊かで、同時にこのカルテットでしか表現しえないような静寂さが込められている演奏となっている。少しも表面的な表現に流されることはなく、常に精神の内面を覗き込むような強靭な求心力を秘めた演奏となっている。一方、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」の演奏は、シューベルトの時とはがらりと演奏スタイル変え、明るく、歌うように演奏を盛り上げる。もうこうなると、「この四重奏曲は我々の曲」とでも言いたげな雰囲気さえ醸し出す演奏だ。スメタナ弦楽四重奏団の根底には、どうも民族的音楽の情熱がたぎっているように私には聴こえる。今もって、スメタナ弦楽四重奏団を超える叙情味溢れる演奏を聴かせてくれるカルテットは存在していないと言っても間違いなかろう、と私は思う。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団によるシューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」/第10番

2024-08-12 09:46:13 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」        
       弦楽四重奏曲第10番

弦楽四重奏:ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団          

        ウィリー・ボスコフスキー(第1ヴァイオリン)
        オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
        ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)
        ロベルト・シャイヴァン(チェロ)

発売:1979年

LP:キングレコード GT9254

 このLPレコードで演奏しているウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団は、ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)をはじめとして、当時のウィーン・フィルの首席奏者達による、ウィーン弦楽派の最高峰に位置する弦楽四重奏団であり、ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)やワルター・バリリ(1921年―2022年)という歴代のコンサートマスターによるムジーク・フェライン弦楽四重奏団のメンバーを引き継いだ弦楽四重奏団でもあった。このLPレコードでの曲は、シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」と弦楽四重奏曲第10番の組み合わせだ。有名な弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」は、シューベルトがマティアス・クラウディウスの詩に作曲した歌曲「死と乙女」が採用されていることで広く知られている。作曲は、1824年に着手され、完成は1826年とシューベルトとしては時間を掛けた作品。それだけに霊感に飛んでいると同時に、十分な推敲がなされ、あたかもベートーヴェンの弦楽四重奏曲を思わせるような深みと迫力を備えた作品に仕上がっている。一方、弦楽四重奏曲第10番は、1813年に完成した曲。シューベルトの家では、父親のチェロ、兄二人のヴァイオリン、そしてシューベルト自身のヴィオラによって弦楽四重奏曲を演奏して楽しんでいたという。特別に目立つ曲ではないが、このLPレコードのライナーノートで小林利之氏は、「少年時代のシューベルトらしい、伸びやかなメロディーと簡素なスタイルは見逃せない」と書いているように、健康的で明るいシューベルト像がそこにはある。このLPレコードにおけるウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団の演奏は、弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」については、繊細この上ない演奏に終始している。一般的に「死と乙女」の演奏は、どのカルテットも力が入るものであるが、ここでの同四重奏団よる演奏は、通常とは真逆の道を行く。これは、この曲の持つ抒情的な面をことさら強調することによって、新しい「死と乙女」像をつくり出そうとする狙いがあったのかもしれない。デリケートで傷つきやすい「死と乙女」像がそこには出来上がっており、私なぞ「こんな演奏もあるんだ」と感じ入った次第。一方、第10番の演奏については、家庭的で明るく、伸び伸びとした演奏を聴かせ、若き日のシューベルトの残像を追い求めるような演奏内容となっている。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇バリリ弦楽四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番「ラズモフスキー第2番」/「大フーガ」op.133

2024-06-03 09:44:01 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

     

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第8番「ラズモフスキー第2番」                 「大フーガ」op.133

弦楽四重奏:バリリ弦楽四重奏団

発売:1963年

LP:キングレコード(ウェストミンスター) WXO‐1

 バリリ弦楽四重奏団は、若きウィーン・フィルのコンサートマスターのワルター・バリリ(1921年―2022年)を中心に1945年に結成された。1950年代末に解散するまでの間、ウィーンコンツェルトハウス弦楽四重奏団とともに、当時のウィーンを代表する弦楽四重奏団として活躍した。特に、ベートーヴェン、モーツァルト、シューベルトなどの演奏において定評があった。途中、ヴィオラ奏者とチェロ奏者は交代したが、第1ヴァイオリンのワルター・バリリと第2ヴァイオリンのオットー・シュトラッサー(1901年―1996年)は、解散するまで変更はなかった。その演奏内容は、常に安定しており、しかも、重厚な中にもウィーン情緒が込められたものとなっており、当時、日本の多くのファンの心を掴んでいた。ベートーヴェンは、弦楽四重奏曲を「大フーガ」を含めて全部で17曲を作曲したが、これらの創作期は次の4つに集約される。第1期(1798年~1800年、op.18の6曲)、第2期(1805年~1806年、op.59の3曲)、第3期(1809年~1810年、op.74、95)、第4期(1824年~1826年、op.127、130~133、135)。このLPレコードに収められた弦楽四重奏曲第8番は、第2期の1806年に作曲された曲。第2期は、ベートーヴェンの創作力が爆発的に発揮された時期に当る。3曲はロシア大使のラズモフスキー伯爵の依頼によって作曲されたため、“ラズモフスキー四重奏曲”と呼ばれており、このLPレコードに収録された弦楽四重奏曲第8番は「ラズモフスキー第2番」と名付けられている。この第2番は、他の2曲に比べて規模は比較的小さいものの、それでもこれまでの弦楽四重奏曲のイメージを大きく塗り替えるような豊かな広がりと、室内楽を越えるような力強い表現力が特に印象に残る。第1楽章はソナタ形式、第2楽章はモルト・アダージョ、第3楽章はロシア民謡がフーガ的手法で処理され、第4楽章はプレストで、ロンド・ソナタ形式。そんな曲をバリリ弦楽四重奏団は、深みのあるバネのような強靭さで、しかも、優雅さを少しも損なわずに、とうとうと流れるように演奏して、ベートーヴェンが新たに切り開いた弦楽四重奏曲の世界を描き切って、見事と言うほかない。「大フーガ」も、4人の息がぴたりと合い、豊かな弦の響きと完璧なその演奏技法に、リスナーは思わず引き込まれそうになるほど。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バルトーク弦楽四重奏団のバルトーク:弦楽四重奏曲第5番/第6番

2024-04-04 10:30:54 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


バルトーク:弦楽四重奏曲第5番/第6番

弦楽四重奏:バルトーク弦楽四重奏団

LP:ビクター音楽産業(ΣRATO) ERA‐2056(STU‐70398)

 バルトーク(1881年―1945年)は、全部で6曲の弦楽四重奏曲を作曲している。最初の第1番が1909年の作で27歳の時、そして最後の第6番が1939年の作で58歳の時と、生涯を通して作曲されたことが分る。そして、その内容は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に匹敵する高みに達した曲として、現在高く評価されている。これは、思索的な深さ、発想の独自性、技術的な完成度の高さのどれをとっても、近代の弦楽四重奏曲の白眉であることを指しているわけである。第1番は、ドイツ・ロマン派的な傾向と民俗音楽が融合しており、美しい旋律に満ちているが、ある意味では、ドイツ・ロマン派の影響からまだ抜け出していない作品と言える。第2番は、シェーンベルクの無調音楽の影響も見ることができ、バルトークの作風の転換を示す過渡的な作品。第3番は、単一楽章からなり、対位法による打楽器的な演奏が要求され、感情を作品中に反映させる表現主義に基づいた作品。第4番は、その構成の緻密さ、有機的な統一性においてベートーヴェンの弦楽四重奏曲にもなぞらえる作品で、荒々しいリズムと不協和な和声とを、より先鋭化する特殊奏法が駆使され、演奏技巧上、弦楽四重奏曲中屈指の難曲とされている。そして今回のLPレコードに収納された晩年の第5番、第6番へと続く。第5番は、全部で5つの楽章からなり、それまでの難解な表現主義的な傾向を捨て去り、再びロマン派的な作風への回帰が見られる作品。簡潔な分かりやすさ、調性感の明確さが際立つ。第6番は、母の死により、全体がメスト(悲しげに)と指定された曲で、悲しげな感情を通し、バルトークの人間性が結実した精神性に富んだ曲。知的なものと情緒的なものが新しい平衡感覚をつくり上げている。このLPレコードでのバルトーク弦楽四重奏団による第5番/第6番の演奏は、緻密であると同時に、精神的に深く掘り下げられた内容を持ち、さらに躍動感溢れた内容となっており、ともすれば難解なバルトークの弦楽四重奏曲の世界を、リスナーに分りやすく演奏しており、非常に好感が持てる。バルトーク弦楽四重奏団は、ハンガリーの首都ブタペストのリスト・フェレンツ音楽院の卒業生をメンバーにより、1957年結成された。「バルトーク」という名称が付けられたのは、バルトーク:弦楽四重奏曲の演奏における素晴らしい功績が認められ、バルトーク未亡人およびハンガリー政府から贈られたもの。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イタリア弦楽四重奏団のドビュッシー&ラヴェル:弦楽四重奏曲

2024-02-12 09:39:16 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


ドビュッシー:弦楽四重奏曲
ラヴェル:弦楽四重奏曲

弦楽四重奏:イタリア弦楽四重奏団
          
         パオロ・ボルチアーニ(第1ヴァイオリン)
         エリーザ・ペグレッフィ(第2ヴァイオリン)
         ピエロ・ファルッリ(ヴィオラ)
         フランコ・ロッシ(チェロ)

録音:1965年8月11日~24日、Vevey Theatre

発売:1979年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード)13PC‐11(835 361 LY)

 このLPレコードでドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を演奏しているイタリア四重奏団は、1945年にデビューし、1980年に解散した弦楽四重奏団。全盛期には“黄金のかがやき”と評され、そのはつらつとした弦の音色は、他の弦楽四重奏団には決して求められない魅力を秘めていた。明快にして息の合った絶妙なアンサンブルに加え、現代的でいて、しかもイタリアの室内楽団らしく、歌ごころを常に宿していた。その実力は、世界第一流のカルテットとしての評価を定着させ、世界各地の音楽祭にもしばしば招かれて花を添えていた。そのレパートリーは幅広く、この分野におけるほとんどすべてに渡っており、ベートーヴェン、モーツァルト、シューマン、ブラームス、ウェーベルンの弦楽四重奏曲の全曲録音を完成させている。そんなイタリア弦楽四重奏団が、このLPレコードにおいては、ドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を演奏している。これらの2曲は、当時一世を風靡していたワグナーのドイツロマン派音楽に対するアンチテーゼとも言うべき曲であり、ドビュッシーとラヴェルのフランス音楽への強烈なメッセージが込められている作品だ。2曲とも、どことなく水墨画を思い出させるつくりとなっており、限りなく幽玄で繊細な世界へとリスナーを導く。ドビュッシー:弦楽四重奏曲は、丁度「牧神の午後への前奏曲」と同じ頃の1893年に作曲された。ドビュッシーが書いた室内楽作品は、極めて少なく、このLPレコードに収められた弦楽四重奏のほかは、晩年に書き遺した3曲のソナタがあるだけである。一方、ラヴェル:弦楽四重奏曲は、1902年から翌年にかけて作曲され、1904年にパリで初演されている。弦楽四重奏曲だけとると、ラヴェルの曲は、ドビュッシーの後となるが、ピアノ曲としてのフランス印象派音楽としての作品としては、ラヴェルはドビュッシーに先駆け、「水のたわむれ」(1901年)を書いている。弦楽四重奏曲においては、ドビュッシーが幽玄さに徹しているのに対し、ラヴェルは、理性と典雅さが勝ったような作風に仕上がっている。知的な作品ではあるが、同時に表情が生き生きとしていて、情熱の高まりにも、抒情のふくらみにも不足はない。イタリア弦楽四重奏団は、フランス印象派音楽を象徴するかのようなこれらの2曲を、実にしっとりとした味わいと同時に、明快さも加味させて、全体を説得力のあるものに仕上げている。(LPC)

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