★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ノルウェー出身のソプラノ:カリー・レファースがノルウェー語で歌うグリーグ:歌曲集

2024-03-28 09:40:39 | 歌曲(女声)


グリーグ:きみを愛す      
     おはよう!      
     王女さま      
     ソルヴェイグの子守歌      
     待ちのぞみつつ      
     はじめての出逢い      
     わたしは春に詩を与える      
     ご忠告ありがとう      
     ソルヴェイグの歌      
     ばらの季節に      
     黙っている夜鶯      
     わが思い、いつの日か      
     マルグレーテの子守歌      
     さくら草を手に      
     春の雨      
     春

ソプラノ:カリー・レファース

ピアノ:ユストゥス・フランツ

録音:1978年5月、ミュンヘン

LP:日本コロムビア OX‐1142‐K

 ノルウェーの大作曲家のグリーグの名を聞くと、3曲のヴァイオリンソナタ、ピアノ協奏曲、劇音楽「ペール・ギュント」、4つのノルウェー舞曲、それに管弦楽曲「ホルベアの時代から」などの作品を、まず思い出す。これらに加え、忘れられない曲として、ピアノ独奏曲「抒情小曲集」そして、珠玉のような幾つかの「歌曲」を挙げることができよう。ピアノ独奏曲「抒情小曲集」は、何かピアノによる詩集のようでもあり、情感の篭った独特の味わいが、一度聴いたら忘れられない印象を残す。これと同じく、「歌曲」も、「抒情小曲集」と同様に、グリーグならではの素朴な抒情味に富んだ作品が多く残されており、今でも多くのリスナーから愛好されている。このLPレコードは、ノルウェー出身のソプラノであるカリー・レファースが、グリーグのお馴染みの歌曲「きみを愛す」「ソルヴェイグの歌」「ソルヴェイグの子守歌」「春」などを歌ったもの。カリー・レファースの歌声は、可憐でチャーミングな声質が特徴であり、これが素朴な味わいのグリーグの歌曲にぴたりと合っている。これまで数多く録音されてきたグリーグの歌曲の中でも、このLPレコードは、未だに生命力を持ち続ける名録音(1978年の録音)として挙げることができる。このLPレコードに収められた歌曲のうち、「ばらの季節に」「黙っている夜鶯」「わが思い、いつの日か」だけがドイツ語で歌われ、それ以外は全てノルウェー語で歌われている。ノルウェー語に基づいた詩に、ノルウェー人であるグリーグが作曲した歌曲を、ノルウェー人のソプラノのカリー・レファースが歌っているわけで、これにより、詩が本来持っている生命力を十分に発揮させることを可能としている。このことは、日本の歌曲を考え合わせてみれば、容易に類推できよう。ちなみに、最初に収められている歌曲「きみを愛す」の詩の内容は、「君を愛す。この世の何にもまして君を愛す。今も、そして永遠に!」と、ただそれだけの短い詞にグリーグが作曲した作品であり、グリーグが歌手であった妻に、婚約のときに贈った歌とされている。ピアノのユストゥス・フランツ(1944年生れ)は、ドイツ、ホーエンザルツァ(現ポーランド領)出身。出来る限り幅広い聴衆にクラシック音楽を広めるため、1986年に「シュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭」を創設し、1994年まで音楽祭の監督を務めた。その後、同音楽祭は世界的水準の音楽祭に成長を遂げている。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団のグラズーノフ:バレエ音楽「四季」

2024-03-25 09:39:04 | 管弦楽曲

 

グラズーノフ:バレエ音楽「四季」

指揮:ボリス・ハイキン

管弦楽:モスクワ放送交響楽団

LP:ビクター音楽産業 VIC‐5057

 私は、このLPレコードに収録されているグラズーノフ:バレエ音楽「四季」が昔から好きであった。今聴いてもやはりいい。どういいのかと言われても、ちょっと返答に窮するが、曲全体が何となくほのぼのとしており、同時にバレエ音楽特有の華やかさが随所に散りばめられているところが魅力であり、そして気楽に聴けるところがいい。このことは、グラズーノフという作曲家の持つ特質と切り離しては語れまい。グラズーノフ(1865年―1936年)は、ロシア帝国末期および旧ソビエト連邦建国期の作曲家。グラズーノフの作曲家としての特徴は、民族主義と国際主義を巧みに融和させた点にある。このため一方では折衷主義という批判もあったが、誰もがその存在感を認めていたのである。グラズーノフは、帝政時代のマリンスキー劇場の華やかなバレエを見て育ったこともあり、生涯に幾つかのバレエ音楽を残している。作曲順に挙げるとそれらは、「ショピニアーナ」「バレエの情景」「ライモンダ」「恋の術策」そして「四季」である。「四季」は、一種の抽象バレエであり、いろいろな季節の風物が擬人的に扱われ、童話風の楽しさを表しているが、特に、深い情緒と暗示性を含んでいるところが魅力となっている。そして、何より円熟した管弦楽の扱いが大きな魅力となっている。このLPレコードで指揮しているボリス・ハイキン(1904年―1978年)は、旧ソ連の指揮者。帝政時代のマリンスキー劇場は、旧ソ連時代では国立キーロフ歌劇場と名称を変えたが、バレエの殿堂としての役割は一貫して持っていた。第二次世界大戦で同劇場は大きな損害を被ったが、それをものの見事に再建し、かつてのロシア音楽とロシアバレエの光栄を取り戻した貢献者の一人がボリス・ハイキンである。モスクワ放送交響楽団は、1930年に旧ソ連の全国ラジオ放送向けのオーケストラとして設立された。旧ソ連崩壊の後の1993年に、チャイコフスキーの音楽演奏について中心的な役割を果たしたとして“チャイコフスキー”の称号が与えられ、「モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団」となった。このLPレコードでのボリス・ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団の演奏は、いわゆる民俗色を強く押し出したロシア人による演奏という印象は希薄で、実に洒落ていてウイットに富んだ軽快さが耳に残り、バレエ音楽としての的確なリズム感に溢れた、優れた演奏となっている。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ポール・トルトゥリエのフォーレ:チェロソナタ第1番/第2番&エレジー

2024-03-21 10:28:57 | 室内楽曲(チェロ)

 

フォーレ:チェロソナタ第1番/第2番       
     エレジー

チェロ:ポール・トルトゥリエ

ピアノ:ジャン・ユボー

LP:RVC(ΣRATO) ERX‐2021(STU‐70101)

 フォーレがチェロを愛していたことは、このLPレコードを聴けば即座に納得できる。特に、このLPレコードのB面に収められた有名なエレジー(悲歌)を聴けば誰もが納得するに相違ない。これは、チェロという楽器の持つ、物悲しくも、奥行きのある音色を、最大限に発揮させたチェロの小品の古今の名曲である。フォーレは、ピアノ伴奏付き独奏曲を全部で13曲作曲しているが、そのうち8曲がチェロとピアノの曲ということからも、フォーレのチェロ好きが偲ばれよう。チェロとピアノの組み合わせは、実に相性がいい。チェロの内省的な篭った響きに、ピアノの歯切れのよい引き締まった音が絶妙な味わいを醸し出す。フォーレは、1917年にヴァイオリンソナタ第2番を作曲しているが、その後に作曲したのが2曲のチェロソナタである。この2曲とも、とても70歳を超えた作曲家が書いた作品とは思われないような瑞々しさに溢れた最晩年の佳曲である。チェロソナタ第1番の第1楽章アレグロは、力強く、流れるようなドラマティックな展開がリスナーに充実感を与える。第2楽章アンダンテは、フォーレの持ち味を存分に発揮させた叙情的で、内省的なメロディーが印象に残る。もうこれは、チェロとピアノが奏でる詩そのものと言ってもいいほど。一方、チェロソナタ第2番は、何と言っても第2楽章アンダンテの雰囲気が如何にもフォーレらしい内省的な音楽を形作っており、何とも印象的だ。かつて「葬送歌」として作曲したメロディーをテーマに展開される。終楽章は、とてもこの2年後に亡くなった人の作品とは思えないほど、華やいだ雰囲気に満ち溢れ、リスナーはチェロの醍醐味を存分に味わい尽くすことができる。チェロを弾いているのはフランスの名チェリストであったポール・トルトゥリエ(1914年―1990年)である。パリに生まれ、6歳の時からチェロを学び、16歳でパリ音楽院を首席で卒業。その後、カザルスに師事。モンテ・カルロ交響楽団、ボストン交響楽団、パリ音楽院管弦楽団の首席チェロ奏者を務め、独奏者としても人気があった。このLPレコードでの演奏は、完全にフォーレに同化した名人芸を披露している。ジャン・ユボー(1917年―1992年)は、フランスのピアニストで数多くの録音を今に遺している。このLPレコードでは、ポール・トルトゥリエとの息もぴたりと合い、室内楽演奏の醍醐味を存分に味あわせてくれている。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇グリュミオーのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番/第7番

2024-03-18 09:36:35 | 協奏曲(ヴァイオリン)

 

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番/第7番

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

指揮:ベルンハルト・パウムガルトナー

管弦楽:ウィーン交響楽団

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード)  13PC‐249(A 00313L)

 このLPレコードは、名ヴァイオリニストであったアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が、モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲の第1番と第7番を録音したもの。モーツァルトは、1775年4月から12月にかけて故郷ザルツブルクでヴァイオリン協奏曲を5曲まとめて作曲した。いわゆる“ザルツブルク協奏曲”と呼ばれる第1番から第5番までのヴァイオリン協奏曲である。この時、モーツァルト19歳であり、“ザルツブルク協奏曲”は、モーツァルトがまだ若い頃の作品となる。これらのヴァイオリン協奏曲の中では、第3番から第5番がしばしば演奏される。特に、第5番が最も演奏される回数が多いようである。このLPレコードにおいては、第1番と第7番とが取り上げられている。第1番はともあれ、問題は第7番である。この第7番は、第6番と同様に、昔から偽作ではなかという疑惑が掛けられている作品である。このうち、第7番については、モーツァルトの自筆原稿が失われているものの、自筆原稿からの写しといわれるものが、パリの私的コレクションとして保存され、ベルリンの図書館に現存するという。そこには、「モーツァルトのヴァイオリン協奏曲、ザルツブルク、1777年7月16日」と書かれているために、モーツァルトの作品に違いないとされる根拠とされている。このように、昔から第7番の真贋論争が盛んに行われてきたが、現在では、モーツァルトの作ではないとする見方がある一方で、他人による加筆がある作品ともされ、結果として、新モーツァルト全集においては偽作扱いされている。しかし、録音当時、グリュミオーは、第6番は偽作としたが、第7番については、モーツァルトの作品という結論に至ったため、この曲の録音に踏み切ったという。このLPレコードにおいて、第1番について、アルテュール・グリュミオーは、敢えてこの協奏曲に深遠さを吹き込むように配慮した演奏をしているように感じられる。若書きとも思える曲想だが、活気のある協奏曲という印象をリスナーに植え付けると同時に、来るべき名曲の森への道しるべのような作品といった位置づけをグリュミオーはしているようにも聴こえる。一方、第7番は、グリュミオーの大きく振幅するヴァイオリンの弓使いに、リスナーは釘づけとなる。あたかも名優が最高の演技を披露しているようにも聴こえるのだ。第7番の真贋論争などは、グリュミオーのこの名演の前では無力となる。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇メニューインのベートーヴェン:ロマンス第1番、第2番 /ショーソン:詩曲 /サン=サーンス:序奏とロンド・カプリツオーソ、ハバネラ/ヴィエニアフスキー:伝説曲

2024-03-14 09:39:57 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ロマンス第1番/第2番
ショーソン:詩曲
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリツオーソ/ハバネラ
ヴィエニアフスキー:伝説曲

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

指揮:ジョン・プリチャード

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝音楽工業(SERAPHIM) AA・5029

 ヴァイオリンの音色は、人間の音声に近く、ヴァイオリンの名演を聴くと、身も心も心底からリラックスできる。私は、若いときはヴァイオリンよりピアノの方が圧倒的に好きであったが、歳をとるに従い、ヴァイオリンの音色に愛着が出てきて、今では「ピアノとヴァイオリンのどっちが好きか」と問われると、どちらとも言えないと答えてしまうかもしれないほど。このLPレコードは、ヴァイオリンのとびっきりの小品の名曲を、かつてヴァイオリンの名手として、その名を世界に轟かせたユーディ・メニューイン(1916年―1999年)が録音した、極上の一枚なのである。ベートーヴェンの第1番と第2番の「ロマンス」は、あの闘争的なベートーヴェンが、よくぞこんな優美な曲を作曲したものだ、と思わせる小品の名曲中の名曲。1802年から03年にかけて、ウィーン郊外のハイリゲンシュタットで作曲された。ショーソンの「詩曲」は、夢のような甘美な世界へとリスナーを誘う。1896年に作曲され作品で、最初から最後まで神秘的な美しいメロディが流れるが、静かに消えて行く終結部は、作曲者の短命を予言したかのようである。サン=サーンスの「序奏とロンドカプリチオーソ」と「ハバネラ」は、一度聴いたら忘れられないメロディーが印象的。「序奏とロンドカプリチオーソ」は、サラサーテに捧げられ、彼によって初演された。「ハバネラ」は、ハバネラのリズムを用いた甘い恋歌だが、高度の技巧を要求する曲でもある。そして、ヴィエニアフスキーの「伝説曲」を聴けば、リスナーは、城壁で囲まれた中世の街に迷い込んでしまったかのような気分にさせられる。これらの曲を演奏するメニューインのヴァイオリンは、理知的でぴーんと筋の入った演奏でありながら、情感もたっぷりと含んでおり、これらの小品の名曲の演奏には、最適な演奏家であることは間違いない。ユーディ・メニューインは、米国出身の名ヴァイオリニスト。7歳でサンフランシスコ交響楽団と共演してデューを飾る。第2次世界大戦後の1947年にドイツを訪れ、フルトヴェングラーと共演。メニューインはユダヤ系だが、何故かユダヤ系音楽家が支配的な米国の楽壇からは冷たい目で見られ、以後、英国を拠点に活動するようになる。1951年に来日。この頃から メニューインの名声は世界的なものとなる。体力の克服のため坐禅やヨーガ、菜食主義を実践したことでも知られる。1985年英国に帰化。英国からはサーとロードの勲位を授与されている。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする