★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ギーゼキングのモーツァルト:幻想曲ハ短調/ピアノソナタ第14番/第16番/第17番

2024-02-29 10:15:29 | 器楽曲(ピアノ)

 

モーツァルト:幻想曲ハ短調K.457         
       ピアノソナタ第14番K.457         
       ピアノソナタ第16番K.570         
       ピアノソナタ第17番K.576

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

LP:東芝EMI EAC‐70010

 ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)は、ドイツ人の父とフランス人の母のもと、フランスのリヨンに生まれた。ドイツとフランスという2国をベースにしていたためか、そのレパートリーはかなり幅広く、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンなど古典的なものから、シューベルト、シューマンなどのロマン派、これに加えドビュッシー、ラヴェル、ラフマニノフ、さらに、当時の現代音楽にも及んだ。驚異的な暗譜能力を持ち、新譜を1回見ただけで、完璧に弾きこなしたという。また、楽譜に忠実に演奏する”新即物主義”の旗手としても名高かかった。当時は、作曲家の楽譜を忠実に再現する奏法が新しく勃興していた。ギーゼキングは、作曲家が作曲した楽譜を忠実に再現する奏法、即ち”新即物主義”奏法を貫き通し、ついにはそれを定着させることに成功したのである。これを実現させたのが、比類なきペダル操作と完璧なまでの作品の記憶能力であった。しかし、単に細部にわたる楽譜の忠実な再現だけでないところが、ギーゼキングの真骨頂である。即ち、楽曲構造に対する明快な洞察力も備えていたのである。単に楽譜に忠実に再現するだけなら、今日までその名を残すことは到底あり得ない。バッハならバッハ、モーツァルトならモーツァルトの曲でなければ醸し出せない、その曲の真髄をギーゼキングは再現してみせたのである。スカルラッティやモーツァルトの音色の美しさや格調の高さ、ドビュッシーやラヴェルの微妙に変化する和声や色調は、ギーゼキングの内面から発せられたものであったからこそ、逆に”新即物主義”奏法の真価が発揮されたのだ。このLPレコードでは、モーツァルトの幻想曲と3つのピアノソナタの演奏を通して、そんなギーゼキングの”新即物主義”奏法の真髄を聴くことができる。録音は古くなったが、モーツァルトのピアノ独奏曲における存在価値は、今後もいささかも損なわれることはないだろう。ピアノソナタ第14番は、モーツァルトがウィーンに移ってから最初に作曲した作品で、1784年10月14日に完成した。翌1785年、この曲をウィーンの出版商アルタリアから刊行した際に、曲頭に1785年5月に作曲した幻想曲ハ短調K.457を付け、ソナタの前奏曲のような役割を持たせている。ピアノソナタ第16番は、1789年2月にウィーンで作曲された。ピアノソナタ第17番ニ長調は、1789年7月に作曲されたモーツァルト最後のピアノソナタとなった。(LPC)

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◇クラシックLP◇シフラのリスト:ピアノ協奏曲第1番/第2番

2024-02-26 09:37:22 | 協奏曲(ピアノ)

 

リスト:ピアノ協奏曲第1番/第2番

ピアノ:ジョルジ・シフラ

指揮:アンドレ・ヴァンデルノート

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30040

 リストは、ピアノ協奏曲を2曲遺しているが、このLPレコードにはこれら2曲が、“リストの再来”と当時言われた伝説のピアニストのジョルジ・シフラ(1921年―1994年)によって録音されている。第1番と第2番とは、共に技巧的なピアノ協奏曲ではあるが、現在では圧倒的に第1番の人気が高く、第2番が演奏される機会は少ない。第1番は、当時ピアニストとしての名声が高かったリストが1830年頃から作曲を開始し、ワイマールに定住し、作曲に専念するようになった1849年に完成した。初演は、1852年、ワイマールの宮廷演奏会において、ベルリオーズの指揮、リスト自身のピアノで行われたというから、当時さぞや話題を集めたであろうことが想像される。最終的に現在の曲となったのは1857年という。この曲は4つの楽章からなるが、全体は途切れることなく演奏される。第2番は、1839年に作曲されたが、その後何回かの改訂が行われ、一応の完成をみたのが1849年。初演は1857年にワイマールにおいて、リストの指揮、弟子のハンス・フォン・ブロンサントのピアノで行われた。しかし、その後も改訂が行われ、現在の形になったのは1863年という。全体は6つの部分からなるが、第1番と同様、全体は途切れることなく演奏される。今回、改めて第2番を聴いたが、なかなか技巧的な曲であり、完成度も高く、もっと演奏されてしかるべき協奏曲だと私は思うのだが・・・。このLPレコードでピアノ独奏をしているのが、超絶技巧で一際名高い、ハンガリー出身のピアニストのジョルジュ・シフラである。シフラは、ブダペストにてロマの家系に生まれる。要するにシフラには、もともとジプシーの血が流れていたのである。このLPレコードでも、シフラの持ち味が最大限に発揮されており、第1番の演奏では、ゆくりとした独特のテンポで、まるでオペラ歌手がアリアを歌うが如く、ピアノを弾いているのが聴き取れる。シフラの演奏には、高い技巧の奥に、常に何かほの暗い情念みたいものが、纏わりついているかのような印象を受ける。このことがジプシー精神そのものであろうことに、このLPレコードでリストの2曲の協奏曲を聴き終わったリスナーは、自然と納得させられるに違いない。指揮をしているのは、ベルギー、ブリュッセル出身のアンドレ・ヴァンデルノート(1927年―1991年)。1960年にモネ劇場の音楽監督になり、1974年からベルギー国立管弦楽団の音楽監督を務めた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン・ユボーのピアノによるフォーレ:ピアノ四重奏曲第1番/第2番

2024-02-22 09:37:00 | 室内楽曲


フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番/第2番

ピアノ:ジャン・ユボー

ヴァイオリン:レイモン・ガロワ=モンブラン

ヴィオラ:コレット・ルキアン

チェロ:アンドレ・ナヴァラ

発売:1976年

LP:RVC(ΣRATO) ERX‐2221

 フォーレのピアノ四重奏曲というと、私はすぐにGR盤(歴史的名盤)にあった、ロン、ティボー、ヴィユー、フルニエによる第2番のLPレコードを思い出す。マルグリット・ロンのピアノ演奏が、この曲の力強くも幽玄な趣を巧みに表現しており、引き込まれるように聴いていた。しかし、GR盤はあくまで歴史的名盤であって音質は芳しくなかった。そんな時にこのLPレコードに出会い、ようやくフォーレのピアノ四重奏曲が音質の良い状態で聴けることが何よりも嬉しかったのを思い出す。フォーレの室内楽曲というと真っ先の思い浮かぶのが2曲あるヴァイオリンソナタである。それ以外の曲は?と問われてすらすらと答えられる人は、相当なフォーレファンか、キャリアを積んだリスナーだろう。正解は作曲された順に、ピアノ四重奏曲第1番(1876年)、ピアノ四重奏曲第2番(1879年)、ピアノ五重奏曲第1番(1906年)、チェロソナタ第1番(1918年)、ピアノ五重奏曲第2番(1921年)、チェロソナタ第2番(1922年)、ピアノ三重奏曲(1923年)、そして遺作となった弦楽四重奏曲(1924年)。これらのフォーレの室内楽曲に共通しているのは、弦楽四重奏曲を除き、全てピアノが使われ、これにより実に流麗な感じの室内楽曲が揃うことになった。さらに特徴として挙げられるのが、全て短調で書かれていること。これは、フォーレの曲が持つ秘めたロマン性という特質を発揮させることに繋がる。フォーレの室内楽は、日本では、ヴァイオリンソナタが人気があるが、欧米では、このLPレコードに収められたピアノ四重奏曲の方が人気が高いという。そう言えば、ドイツでは「フォーレ四重奏団」の活躍を思い出す。この2つのピアノ四重奏曲は、7年の間をおいて、どちらも国民音楽協会の音楽界で初演された。このLPレコードでの4人は、如何にもフランスの演奏家らしく、限りなく優雅な雰囲気を湛えた演奏を聴かせてくれており、フォーレの室内楽の醍醐味を味わうのには打って付けなものと言える。2曲とも、第2楽章、第3楽章の2つの楽章が、一際印象深い楽章に仕上がっている。ピアノのジャン・ユボー(1917年―1992年)は、フランス、パリ出身。 9歳でパリ音楽院への入学を許され、わずか13歳でピアノ科の首席となる。1935年「ルイ・ディエメ賞」受賞。ソリストとしても室内楽奏者としても著名なピアニストであった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルのチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

2024-02-19 09:41:42 | 協奏曲(ピアノ)

 

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

指揮:エフゲム・ムラヴィンスキー(チャイコフスキー)     
   クルト・ザンデルリンク(ラフマニノフ)

管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1974年

LP:日本フォノグラフ(フォンタナ・レコード) FG-229 MONC

 このLPレコードのA面に収められたチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、数多くあるこの協奏曲の録音の中でも、決定盤と言っても過言ではない程の名盤中の名盤である。リヒテルのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音では、一般的にはカラヤンとの共演盤が広く知られているが、録音状態はともかく、演奏内容では、このムラヴィンスキーとの共演盤の方が一歩上を行く。リヒテルの恐るべき確信に溢れたピアノ演奏は、聴いていると背筋が凍りつほどである。スケールは限りなく大きく、同時に細部に渡って一部の隙もない演奏は、見事というほかはない。地底から響き渡るような力強さは、男性的な演奏の典型的なものであると同時に、一転して詩的な情緒が、一面に香り立つ様な見事な演奏によって、リスナーはこの名協奏曲の真髄に存分に浸ることができる。ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの伴奏も見事なもので、決して前面に出ることはないが、リヒテルのピアノ演奏の精神と一体化し、この協奏曲を一層奥深いものにすることに成功している。一方、B面のラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番は、演奏そのものは、ほぼチャイコフスキーの協奏曲とほぼ同じことが言えるが、チャイコフスキーの協奏曲の完成度ほどまでには至っていないように私には聴こえる。スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)は、ドイツ人を父にウクライナで生まれる。1960年にアメリカ各地でコンサートを行い、センセーショナルな成功を収めた。その卓越した演奏技術から“20世紀最大のピアニスト”とも称された。1970年に初来日。それ以降はたびたび来日してリサイタルを開き、日本の音楽ファンにもなじみ深い存在であった。ところで、私は、このLPレコードのライナーノートの解説者の名に「藤田晴子」と記載されているのを見つけて、懐かしい思いが自然と込み上げてきた。藤田晴子(1918年―2001年)は、自身ピアニストであると同時に、当時音楽評論家としても広く知られ多存在で、昭和21年、女性で初めて東京大学法学部に入学。法学者として選挙制度審議会委員なども務めた多彩な能力の持ち主であった。私がクラシック音楽のリスナーとして目覚め始めたころ、藤田晴子が書いた著作物を読んだり、ラジオの解説などを聞いたりした記憶がある。2009年には、故人の功績を称え、岩手県八幡平市に「藤田晴子記念館」が開館された。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇プーランクの室内楽曲集

2024-02-15 09:46:55 | 室内楽曲

 

プーランク:ピアノと管楽五重奏のための六重奏曲                      
        ジャック・フェヴリエ(ピアノ)                      
        パリ管楽五重奏団                          
           ジャック・カスタニエ(フルート)
           ロベール・カジェ(オーボエ)
           アンドレ・ブータール(クラリネット)
           ジェラール・フザンディエ(バスーン)
           ミシェル・べルジェ(ホルン)

     :クラリネットとバスーンのためのソナタ                       
        ミシェル・ポルタル(クラリネット)            
        アモリー・ヴァレ(バスーン)

     :ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ                       
        ロベール・カジェ(オーボエ)            
        ジェラール・フザンディエ(バスーン)

     :ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ                       
        アラン・シヴィル(ホルン)            
        ジョン・ウィルブラハム(トランペット)         
        ジョン・アイヴソン(トロンボーン)

録音:1964年1月20日(ピアノと管楽五重奏のための六重奏曲)     
   1972年3月3日(クラリネットとバスーンのためのソナタ/
          ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ)     
   1971年11月(ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ)

発売:1979年

LP:東芝EMI EAC-40137

 普段、ドイツ・オーストリア系の作曲家の音楽に馴れ親しんでいるリスナーが、フランス6人組(デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリック)の作曲家であるフランシス・プーランク(1899年―1963年)の曲を聴くと一瞬戸惑う。どうも耳に馴染まないのだ。そんなわけで、私はプーランクの曲には、これまであまり興味が湧かなかったというのが実情であった。今回、昔買っておいたプーランクのLPレコードを引っ張り出して聴きな直してみた。最初の内は、昔感じた通り、どうもしっくりとこなかった。しかし、このLPレコードに収められた室内楽の一部にハッとするような美しさを発見し、繰り返し、繰り返し聴いてみた。すると、何ということであろうか、今まで考えてもみなかったような、まったく新しい音楽の世界が目の前に現れたではないか。その結果、私は、今回初めてプーランクの曲が持つ、軽快、洒脱さ、そしてユーモアとアイロニー、そさらに知性もほどほどに盛り込まれた独特の感性にすっかり魅了されてしまったのである。ドイツ・オーストリア系の曲の多くが、何か思索的で、哲学的なのに比べ、プーランクを含んだフランス6人組の音楽は、感覚的で、情緒を大切にした音楽だと言えると思う。このため、プーランクの曲を聴く時は、皮ふ感覚で聴くに限る。つまり、その音楽と肌合いが合わなくては、どうも具合が悪いのだ。ところが、食わず嫌いと言う言葉があるように、プーランクの曲をほとんど聴かずに、嫌いだというリスナーが日本には多くいるように思う。このLPレコードのB面に収められた「ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ」と「ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ」の2曲は、プーランクを初めて聴くリスナーにも聴きやすい曲であり、“プーランク初心者”には打って付けの曲と言える。このLPレコードに収められた全ての曲の演奏内容は、当時のフランスの最高峰の演奏家によるものだけに、いずれも聴き応え十分であり、満足が行く。プーランクは、パリで生まれ、15歳からスペイン出身の名ピアニスト、リカルド・ビニェスにピアノを師事。3年間の兵役の後、本格的に作曲を学ぶ。1920年に「コメディア」誌上に批評家のアンリ・コレが掲載した論文「ロシア5人組、フランス6人組、そしてエリック・サティ 」によって「6人組」の名が広まった。「6人組」は、声楽曲、室内楽曲、宗教音楽、オペラ、バレエ音楽、オーケストラなどあらゆる音楽ジャンルの楽曲を作曲した。(LPC)

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