★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇シュナイダーハン、シュタルケル、フリッチャイ、マゼールによるブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲/悲劇的序曲

2019-12-26 08:27:41 | 協奏曲

①ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲

  ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン
  チェロ:ヤーノシュ・シュタルケル

  指揮:フェレンツ・フリッチャイ
  管弦楽:ベルリン放送交響楽団

  録音:1961年6月3日~5日、ベルリン、イエス・キリスト教会

②ブラームス:悲劇的序曲

  指揮:ローリン・マゼール
  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

  録音:1959年1月12日~14日、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE 7902

 ブラームスは、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲を1887年(57歳)の夏、スイスのトゥーン湖畔で書き上げた。それ以前に、2曲のピアノ協奏曲とヴァイオリン協奏曲、さらに第4交響曲も既に作曲を終え、最期の集大成の時期に差し掛かった頃の作品である。当時としては珍しい2つの楽器の協奏曲とした理由は明らかではないが、このLPレコードのライナーノートで浅里公三氏は「ブラームスは、その頃(第4交響曲の2年後)バッハやそれ以前の音楽に強く心をひかれていましたから、おそらく彼は、バッハ時代の”コンチェルト・グロッソ”にあやかる楽曲として”2つのソロ楽器”のための当世風の協奏曲を着想していたのでしょう」と推察している。最初の構想では、交響曲の作曲を目指していたようだが、それを変更して協奏曲とした経緯があるだけに一般の協奏曲と比べ、オーケストラの比重が高く、独奏ヴァイオリンとチェロがオーケストラに溶け込むように演奏されるので、普通の協奏曲を聴くのとは、大分趣が異なり、厚みのあるオーケストラの印象が強く残る。初演は、1887年10月18日にケルンで、ヨアヒムとハウスマンを独奏者として、ブラームス自身の指揮で行われた。このLPレコードの録音は、ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)、チェロ:ヤーノシュ・シュタルケル(1924年―2013年)、指揮:フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)、管弦楽:ベルリン放送交響楽団という、当時望みうる最高のメンバーによってなされている。重みのあるオーケストラの響きを背景に、ヴァイオリンとチェロが巧みに融合し合い、如何にも渋い、ブラームス特有の世界を十二分に表現し切っている。ところで、ブラームスは第2交響曲と第3交響曲の間に、演奏会用の独立した序曲を2曲作曲した。一つは、「大学祝典序曲」であり、もう一つが、このLPレコードに収録されている「悲劇的序曲」である。「悲劇的」という意味が具体的に何を指すのかは明らかでないが、交響曲の一つの楽章のように充実した序曲であり、暗い熱情とでも言ったらいいような雰囲気を持った名曲である。指揮のローリン・マゼール(1930年―2014年)とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、求心力に富み、聴いているとブラームスの情念が自然とリスナーの心の内に忍び寄ってくるような演奏を繰り広げる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇巨匠リヒテルがベートーヴェン:ピアノソナタ第7番とバガテル集を弾く

2019-12-23 09:36:06 | 器楽曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノソナタ第7番/バガテル集(Op.33、119、126)

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

発売:1979年

LP:ビクター音楽産業 VICX‐1018

 このLPレコードでピアノを独奏しているスヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)は、圧倒的な技巧に加え、感覚的で鋭い表現力を持ち、しかも音そのものの粒が揃い、弱音から強音までダイナミックレンジが広いピアノ演奏で一世を風靡したロシアのピアニストであった。リスナーが一度でもリヒテルの演奏を聴くと、男性的で力強いピアニズムの一方で、その力強いピアノタッチからはとても想像も出来ないような繊細な表現力も併せ持っているので、たちまち完全に魅了されてしまうことになる。LPレコードからは、なかなか分りづらいが、実演では即興性にも長けていたピアニストであったという。要するにリヒテルは、ピアニストとして完璧と言っていいほどの完成度を誇っていたのである。このLPレコードには、「メロディアが誇る三大巨匠の記念碑的名演を厳選して贈る画期的シリーズ遂に登場」とある。三大巨匠とは、当時世界のクラシック音楽界を席巻していた、3人のロシア出身演奏家、チェリストのロストロポ-ヴィッチ、ヴァイオリニストのオイストラッフ、それにピアニストのリヒテルを指す。このシリーズには、リヒテルについて7枚のLPレコードが含まれている。それらは、このLPレコードのベートーヴェン、それに加えハイドン、シューベルト、ショパン、シューマン、スクリャービン、プロコフィエフのLPレコードである。これは、リヒテルが得意としていた作曲家の幅が如何に広かったかに驚かされる。こんな例は、ホロビッツぐらいしかいないであろう。このLPレコードでは、ベートーヴェンの初期の作品がリヒテルのピアノ演奏で聴ける。A面のピアノソナタ第7番は、第1交響曲よりも少し前の作品で、1793年に書かれた3曲のピアノソナタの3番目の曲。このピアノソナタの第2楽章は、「ラールゴ・エ・メスト(悲しげに)」と書かれており、物悲しさに満ちた楽章。ベートーヴェンは「心の憂愁な状態をあらわし、そのあらゆる微妙な陰影やあらゆる様相を描く」と語ったと言われる。ここでのリヒテルの演奏は、正に”憂愁な状態”を巧みに弾き出しており、ベートーヴェンの中期から後期作品かと見まごうほどの内容の濃い表現力で、聴くものを魅了する。B面に収められたバガテルとは、“ちょっとしたもの””つまらないもの”といった意味のピアノ作品のこと。リヒテルは、これらの作品でもピアノソナタと同じように全力で弾きこなす。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クララ・ハスキルのシューマン:ピアノ協奏曲/子供の情景/アベッグ変奏曲

2019-12-19 09:37:41 | 協奏曲(ピアノ)

シューマン:ピアノ協奏曲       
       子供の情景       
       アベッグ変奏曲

ピアノ:クララ・ハスキル

指揮:ウイレム・ヴァン・オッテルロー

管弦楽:ハーグ・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本ビクター(PHILIPS) SFL‐7924

 このLPレコードのA面に収められたシューマンのピアノ協奏曲は、5年という長い月日を掛けて完成された。この協奏曲の第1楽章は、シューマンが31歳のとき「ピアノと管弦楽のための幻想曲」として作曲され、その後、2つの楽章が書き加えられ完成したもの。しかし、聴いてみると3つの楽章には統一感があり、一気に書かれた曲のような印象を持っている。シューマンは、ピアノ協奏曲を作曲するに当たり、名人風の協奏曲を狙ったのではなく、「交響曲と協奏曲と大きなソナタとを混ぜ合わせたような曲」づくりを目指したという。この曲の初演は、シューマン夫人のクララ・シューマンがピアノを独奏し、1845年にドレスデンで行われた。一方、B面に収められた「子供の情景」は、1838年、シューマンが28歳の時に作曲されたピアノ独奏曲。30曲ほど作曲した中から、13曲を選んで「子供の情景」という名前が付けられた。演奏上難しい技巧は必要としない代わり、夢や幻想などの雰囲気を内包した演奏内容でなければ、この曲集の真に意図するものを的確に表現することは到底出来ない。最期の「アベッグ変奏曲」は、1830年、シューマンが20歳の時に書かれたピアノ独奏曲。当時シューマンはハイデルベルグ大学で法律の勉強をしていたが、学友の一人に恋人がいて、その名をメタ・アベッグと言った。シューマンは、このアベッグの姓を音に当て嵌め、イ(A)、変ロ(B)、ホ(E)、ト(G)、ト(G)の5音を主題にして一つの変奏曲をつくり上げた。これがアベッグ変奏曲である。法律の勉強をそっちのけで音楽の勉強ばかりに没頭していた、如何にもシューマンらしい作曲の由来だ。これらのシューマンのピアノ曲をこのLPレコードで弾いているのがルーマニア出身の名ピアニストのクララ・ハスキル(1895年―1960年)である。ハスキルは当時、「モーツァルトの生まれ変わりのように演奏する」と言われていたが、その純粋で情念のこもった演奏は、シューマンのロマンの世界をつくりだすことでも突出した存在であった。このLPレコードでの演奏内容は、いずれの曲もシューマンの持つロマンの薫り高い世界を十全に描き切って、実に見事な出来栄えを披露している。一瞬、時間が止まったような、抒情の世界にリスナーを誘ってくれて、気分が安らぐ。ハスキルのような”夢”を演出してくれるピアニストは、貴重な存在だった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ランパル&ラスキーヌ”フルートとハープの夢の共演”

2019-12-16 09:40:24 | 室内楽曲

~ランパル&ラスキーヌ~フルートとハープ名曲集~

作者不詳:グリーンスリーヴス
クルムフォルツ:ソナタ ヘ長調
ロッシーニ:序奏と変奏
フォーレ:子守歌
イベール:間奏曲
ダマーズ:ソナタ

フルート:ジャン=ピエール・ランパル

ハープ:リリー・ラスキーヌ

発売:1979年

LP:RCV E‐1048

 このLPレコードは、フルートの名手であったジャン=ピエール・ランパル(1922年―2000年)とハープの名手であったリリー・ラスキーヌ(1893年―1988年)が共演して録音したもの。フルートとハープの組み合わせの曲は、モーツァルトの有名な協奏曲以外は、ありそうでいてあまりない。というより、あまり演奏されない楽器の組み合わせなのだ。そうであるからこそ、このLPレコードの存在自体が貴重になってくる。しかも、それぞれの奏者が超一流であるから、さらにその存在意義が高まる。そして、LPレコードという記録媒体が本来的に持つ、音の柔らかさやピュアな音質が存分に発揮されて、一度聴くと「LPレコード以外ではもう聴きたくない」と感じられるほど。フルートとハープは、数ある楽器の中でも最も古くからある楽器であるが、近代的な楽器として完成したのは、19世紀の前半という比較的最近というから、少々驚きだ。モーツァルトは、フルートの音程が不安定であったため、フルートの曲はあまり残していない。一方、ハープはというと、長らく転調が出来ないという欠陥をもった楽器であったのが、ようやく19世紀に入り、エラールによって近代的な楽器へと生まれ変わった。この2つの楽器に共通するのが、作曲家、演奏家、楽器製造家いずれをとってもフランスとの関りが非常に強いということ。これは、フランス音楽が、この2つの楽器の優雅で、華やかな美しさに彩られた特質に、ぴたりと符合することから来ることなのであろう。フルートのジャン=ピエール・ランパルは、フランスのマルセイユに生まれ。1943年にパリ音楽院に入学。1947年に「ジュネーブ国際コンクール」で優勝しソロで活動を開始。1956年からパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者となる。現在「ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」が開催されている。ハープのリリー・ラスキーヌは、パリ出身。1904年にパリ音楽院に入学。16歳でパリ・オペラ座管弦楽団にハープ奏者として入団。1934年にフランス国立管弦楽団が創設されると、ハープの独奏者に就任。現在「リリー・ラスキーヌ国際ハープコンクール」が開催されている。このLPレコードでの2人の共演は、正に”夢の共演”の表現がぴたりと合い、優雅さと華やかさとが融合し、聴いていると、あたかも一面に美しい花々が咲き誇った花園に居るような気分に浸ることができる。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇バックハウスのモーツァルト:ピアノ協奏曲第27番/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番(ライヴ録音)

2019-12-12 09:36:08 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番(ライヴ録音)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番(ライヴ録音)

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

<モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番>

指揮:カール・ベーム
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

<ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番>

指揮:ハンス・ロスバウト
管弦楽:ケルン放送交響楽団

録音:1960年8月2日、ザルツブルグ音楽祭(モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番)    
    1950年10月16日、ケルン(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番)

発売:1982年

LP:キングレコード K22‐168

 ウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)は、ドイツ出身のピアノの巨匠。1905年、パリで開かれたルビンシュタイン音楽コンクールのピアノ部門で優勝。スイスに帰化した後、1954年には米国のカーネギー・ホールでコンサートを開催。その後訪日も果たしている。 若い頃は、“鍵盤の獅子王”と言われたほどのテクニシャンであった。今回のLPレコードの録音は、それまで未発表であったコンサートのライブ録音が収録された貴重な遺産である。バックハウスが残したライブ録音としては、「バックハウス:最後の演奏会」のほかに、1954年3月30日にニューヨークのカーネギー・ホールで行ったベートーヴェンのピアノソナタを中心としたリサイタルが重要な録音として挙げられる。これらはいずれもリサイタルのライヴ録音であるが、今回のLPレコードに収録されたものはコンチェルトのライヴ録音というところがポイントとなる。バックハウスは、第27番以外のモーツァルトのピアノ協奏曲をあまり弾かなかったようであり、特に晩年は第27番だけに絞られていたという。一方、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番は、カール・ベーム指揮、およびハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮でそれまでに2回録音している。今回のレコードの指揮は、モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番がカール・ベーム(1894年―1981年)、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番がハンス・ロスバウト(1895年―1962年)である。ハンス・ロスバウトは、特にハイドンからベートーヴェンに至るまでウィーン古典派の作品に定評があった。このベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番について、ライナーノートにおいて浅里公三氏は「1950年の録音としては比較的音質が良く、また拍手も入っていないので、コンサートではなく生放送用の録音と思われる」と書いている。このLPレコードでのモーツァルト:ピアノ協奏曲第27番の演奏内容は、全体が襟を正した端正な表現に終始しており、モーツァルトの音楽が持つ純粋な美しさを満喫することができる。録音の最後で1960年8月2日当日のザルツブルグ音楽祭の聴衆の拍手が聞けるのが何となく嬉しい。ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番は、如何にもバックハウスの十八番らしく、スケールの大きい、柔軟性を持った表現力が印象に残る。ベートーヴェンに真正面から取り組み、その本質を見事に引き出す技には感服せざるを得ない。(LPC)

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