★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇トスカニーニ指揮NBC交響楽団のメンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」/ 交響曲第5番「宗教改革」           

2024-04-08 09:44:38 | 交響曲


メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」            
         交響曲第5番「宗教改革」

指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ

管弦楽:NBC交響楽団

録音:1954年2月28日(第4番)、1953年12月13日(第5番)、米国、カーネギーホール

発売:1978年

LP:RVC(RCA) RVC-1539

 アルトゥーロ・トスカニーニ(1867年―1957年)は、当時一世を風靡したイタリア出身の大指揮者。パルマ王立音楽学校をチェロと作曲で首席で卒業し、最初はオーケストラのチェロ奏者として活躍する。以後、指揮者としてイタリア各地で活動を開始。ミラノ・スカラ座音楽監督(1921年―1929年)を経て、メトロポリタン歌劇場の首席指揮者(1908年―1915年)を務めた。1927年にはニューヨーク・フィルの常任指揮者に就任。さらに1937年にはNBC交響楽団の首席指揮者に就任する。このNBC交響楽団は、トスカニーニの演奏をラジオ放送するために特別に編成されたオーケストラで、生みの親はRCAのサーノフ会長であった。同楽団は、1954年まで活動したが、その後は「シンフォニー・オブ・ジ・エアー」と名称を変え、自主運営により1936年まで演奏活動を続けた。このLPレコードは、トスカニーニの最晩年に録音されたものである。メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」は、メンデルスゾーンがイタリア旅行中に書き始めた曲で、1831年から1833年にかけて作曲された。イタリアの明るく美しい風景を連想させるような軽快なリズム感と情熱的なメロディーと叙情的なメロディーとが巧みに交差しており、メンデルスゾーンの交響曲の中でも最も人気が高い曲となっている。ここでのトスカニーニは、誠に歯切れが良く、一部の隙もない、力強い指揮ぶりを存分に聴かせる。まるでリスナー自身が、聴きながらイタリア旅行を楽しんでいるかのような感覚に陥るほどの名演だ。数ある「イタリア交響曲」の録音の中でも、現在においても、その存在意義は少しも色失せていない。一方、メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」は、1830年に作曲された曲で、実際には交響曲第1番の次に作曲されたメンデルスゾーン21歳の時の初期の作品。自らも熱心なルター派の信者だったメンデルスゾーンが、マルティン・ルターの宗教改革300年祭のために書いた曲(宗教改革300年祭は実際には開催されなかったという)。第1楽章に、ドイツの賛美歌「ドレスデン・アーメン」、終楽章には、ルターのコラール「神はわがやぐら」が用いられていることで知られる。ここでのトスカニーニは、「イタリア交響曲」で見せたメリハリある指揮ぶりに加え、さらに遠近感を付けたようなスケールの大きい指揮で、聴くものを圧倒する。今でもこの交響曲のベスト録音と言ってもいいほどの力演となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アンドレ・プレヴィン指揮シカゴ交響楽団のショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

2024-01-29 09:39:26 | 交響曲


ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

指揮:アンドレ・プレヴィン

管弦楽:シカゴ交響楽団

録音:1977年1月25日、シカゴ

LP:東芝EMI EAC 80405

 このLPレコードは、ショスタコーヴィッチの最も有名な交響曲である第5番「革命」を、アンドレ・プレヴィン(1929年―2019年)指揮シカゴ交響楽団が遺した優れた録音である。ショスタコーヴィッチは、この第5交響曲を、1937年(31歳)の時に作曲した。その前年にショスタコーヴィッチは、オペラとバレエを作曲したが、これが当時、旧ソ連の当局に激しく批判され、それを受けて作曲したのがこの曲なのである。初演は、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルによって1937年10月21日に行われた。この曲がソヴィエト革命20周年に捧げられたこともあり、前年の批判を吹き飛ばす圧倒的な成功を収めることになる。曲は、全部で4楽章からなり、ベートーヴェンの第5交響曲にも似て、苦悩から歓喜と勝利へという、大変分りやすい形をとり、高貴な精神の表現が聴くものを奮い立たせるかのようでもある。しかし、どうもショスタコーヴィッチは、旧ソ連政府の圧力に全面的に屈服したのではない、という説が昔から囁かれている。それは、第4楽章に、虐げられた芸術の真価が時と共に蘇るという内容のプーシキンの詩が引用され、コーダ近くのハープをともなう旋律が静かな抵抗とも取れるというのである。指揮のアンドレ・プレヴィンは、ベルリンのユダヤ系ロシア人の音楽家の家庭に生まれ、1943年にアメリカ合衆国市民権を獲得。当初、ポピュラー音楽を手掛けていたが、その後クラシック音楽に転向したという経歴を持つ。これまで、ヒューストン響音楽監督、ロンドン響首席指揮者、ピッツバーグ響音楽監督、ロサンジェルス・フィル音楽監督、ロイヤル・フィル音楽監督、オスロ・フィル首席指揮者、NHK響首席客演指揮者を務めるなど、指揮者としての経歴は華やかだ。このLPレコードでは、黄金時代のシカゴ交響楽団の能力をフルに発揮させた颯爽とした指揮ぶりに、リスナーは聴いていて爽快感を身を持って感じることができる。ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」を“純音楽的”に楽しめる希有な録音として、現在でもその価値はいささかも失っていない。NHK交響楽団は、アンドレ・プレヴィンの死去の報を受け、2019年3月1日付で「2009年9月、首席客演指揮者に就任したが、東日本大震災直後の2011年3月のN響北米ツアーでは、自らバッハ“G線上のアリア”を演奏することを提案し、日本への痛切な思いを現地の聴衆に音楽を通じて届けた」と哀悼の意を発表した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジョン・バルビローリ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のシベリウス:交響曲第2番

2023-12-28 10:37:25 | 交響曲


シベリウス:交響曲第2番

指揮:ジョン・バルビローリ

管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:RVC(RCA RECORDS) RVC‐1015

 シベリウスは、生涯に7つの交響曲を作曲した。このうち1番~2番は前期のロマン派的な雰囲気を残した曲。一方、4番~7番は後期の曲。3番は前期と後期の橋渡し的性格の曲。これら7曲の交響曲のなかで4番は、作曲様式を大きく転換した曲として知られ、5番、6番、そして最後の7番へと引き継がれて行く。最後に到達した7番において、シベリウスは、全く新しい様式の交響曲を生み出すことに成功するのである。この第7番の交響曲を作曲したのが、59歳の時で、以後シベリウスは、92歳で死ぬまで何故か作曲の筆を断ってしまう。今回のLPレコードは、第2番の交響曲で、この交響曲は1902年に完成した。第1番がまだ個性を出し切るところまでに至っていないのに対し、この第2番交響曲は、シベリウスの個性が存分に発揮された曲として知られている。内容は、フィンランドの自然と風土に根付いた作風であり、同時にフィンランドの民族的独立を強く意識した作品となっている。要するに民族的音楽の要素が、多くの人々の心を掴み、それが現在に至るまで続いているのである。このLPレコードでの演奏は、英国出身の指揮者ジョン・バルビローリとロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。バルビローリ(1899年―1970年)は、英国ロンドンの出身。1970年に初来日が予定されていたが、出発の直前に亡くなってしまい、来日は果たせなかった。ロンドンの王立音楽学校を卒業後、まず、チェロ奏者としてデビューし、その後、指揮者に転向した。1936年ニューヨーク・フィルハーモニックを客演指揮し好評得る。そして、トスカニーニの後任として常任指揮者を務め、世界的な指揮者の一人として名声を確立する。1943年イギリスのハレ管弦楽団の音楽監督に就任し、同管弦楽団を一流のオーケストラに育て上げた。また、ヒューストン交響楽団の常任指揮者も歴任した。その指揮ぶりは、少しの奇を衒うところがなく、演奏内容が充実し、誠実な演奏で知られていた。このことは、このLPレコードの演奏で十二分に発揮されており、シベリウス:交響曲第2番が持つ、フィンランドの自然と風土、並びに民族の独立という命題を、ひしひしと感じさせる演奏内容となっているが、あくまで客観的な指揮ぶりが印象に残る録音となっている。特に録音状態が非常に良く、LPレコード特有の音質の柔らかさを存分に堪能できることが嬉しい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのブルックナー:交響曲第9番

2023-10-16 09:43:20 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第9番(原典版)

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本グラモフォン LGM‐1133

 このLPレコードには、“歴史的名盤”という記載があるだけで、録音日の記載が無く、渡辺 護氏もライナーノートに「このレコードはいつ頃の録音か明らかでないが」と書いている(宇野功芳著「フルトヴェングラーの全名演名盤」<講談社+α>によると1944年10月7日に行われた演奏会のライヴ録音)。普通ならそのような録音は、今、無理に掘り起こす必要もなさそうであるが、このLPレコードだけは別格だ。確かに最初にこのLPレコードを聴くと、現在の録音レベルからすると相当貧弱な音しか聴こえてこない。しかし、暫く聴いているとそんな音質の貧弱なことなぞ、何処かへ飛んでいってしまい、一切気にならなくなり、ブルックナーの最後の大作である交響曲第9番が放つ、深遠なオーケストラの響きに、リスナーは釘付けとなること請け合いだ。このLPレコードを聴いた後では、果たして録音の音質の良さ、悪さとは一体何なのだろう、とさえ考え込んでしまう。それだけ、この録音におけるフルトヴェングラーとベルリン・フィルの意気込みは、他のブルックナー:交響曲第9番の録音を遥かに凌駕している。この交響曲第9番は、未完で終わっており、第4楽章はスケッチが遺されているのみ。ブルックナーは、第4楽章が未完なことが気になっていたらしく、代わりに「テ・デウム」を演奏することを指示したという。このため、演奏会では、交響曲第9番に続けて「テ・デウム」が演奏されることがある。この交響曲を作曲中にブルックナーは「愛する神に捧げるつもりで」と書いており、自分の死期が近いことを悟っていたようだ。それだけにこの交響曲は、全体が緊張感に包まれ、聴くだけで疲れてしまうほど、内容の限りなく深い作品に仕上がっている。第1楽章<荘重に、神秘的に>、第2楽章スケルツォ<活発に、快活に>、第3楽章アダージョ<荘重に>からなる。フルトヴェングラーはこの曲をディオニュソス的(陶酔的、創造的、激情的)に演奏しており、この結果として深い感動をリスナーに与えることになる。フルトヴェングラーはドイツ・ブルックナー協会の総裁を務めるほどブルックナーに傾倒していたが、「この音楽の言葉の敬虔さ、深さ、純粋さは、一度体験したことのある人にとっては、もはやそれから逃れることのできぬものである」とも語っている。この録音は、この言葉を忠実に音で再現したような、極めて深い内容を持つ優れた演奏となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルのマーラー:「大地の歌」

2023-08-28 09:35:18 | 交響曲


マーラー:「大地の歌」

指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

コントラルト:カスリーン・フェリアー

テノール:ユリウス・パツァーク

発売:1964年

LP:キングレコード MR 5036

 マーラーは、交響曲としては、1~10番(第10番は未完の遺作)のほかに「大地の歌」を書き遺している。本来は全部で11の交響曲となるのだが、「大地の歌」だけには交響曲としての連番が付けられていない。つまり、「大地の歌」は、交響曲か否かという疑問が残る。この「大地の歌」の楽譜の副題は「テノールとコントラルト(またはバリトン)独唱と管弦楽のための交響曲」と書かれているが、ウニヴェルザール出版社から出版されている決定版総譜には「大地の歌」とだけ記されていて、「交響曲」とは記されていない。このため現在は「大地の歌」だけの表記が一般的だ。「大地の歌」のテキストは、中国の詩集をドイツ語訳した「支那の笛」と題した本から取っている。マーラーは、それまで「さすらう若人の歌」「亡き子をしのぶ歌」「リュッケルトの詩による歌曲」など、管弦楽付きの歌曲を作曲してきた実績を持つ。では、どうして「大地の歌」も管弦楽曲付き歌曲に終わらせなかったのであろうか。多分、中国の詩人が書いた詩というエキゾチックな雰囲気に浸るうち、歌曲以上に管弦楽のパートに力が入ってしまい、気が付くと交響曲がで出来上がっていた、といった風にも取れる。このLPレコードでの指揮は、マーラーの直弟子で、ロマン的な曲を指揮させれば当時、右に出るものはいなかった指揮者のブルーノ・ワルター(1876年―1962年)。そして、管弦楽演奏は、マーラー自らが指揮したウィーン・フィルという黄金コンビ。それに加え、独唱陣がコントラルトのカスリーン・フェリアー(1912年―1953年)、テノール:ユリウス・パツァーク(1898年―1974年)と当時考えられる最高の歌手を揃えている。カスリーン・フェリアーの深く思慮深い歌声は、中国の詩人の歌を歌わせればぴったりだし、ユリウス・パツァークの明るく澄み切った歌声は、中国の詩人たちの伸びやかな詩の世界の表現にこれほどのものはなく、共に説得力は充分だ。このため、今でもこの録音は、数ある交響曲「大地の歌」の録音の中でも、ベストワンに数え上げられているほどの名演となっている。コントラルトのキャスリーン・フェリアは、イギリス、ランカシャー州出身。正式な音楽教育を受けてはいなかったが、後に本格的音楽教育を受けた。作曲家のブリテンは、彼女のために多くのパートを作曲した。テノールのユリウス・パツァークは、ウィーン出身。クレメンス・クラウスに見いだされ、ドイツやオーストリアを中心に活躍した。(LPC)

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