★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団のビゼー:交響曲第1番/組曲「美しきパースの娘」 /小組曲「子供の遊び」    

2024-08-29 10:19:59 | 交響曲


ビゼー:交響曲第1番     
    組曲「美しきパースの娘」     
    小組曲「子供の遊び」

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:フランス国立放送管弦楽団

録音:1971年2月、パリ

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW5154(2544 100)

 交響曲と言うと直ぐに、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの古典派やマーラーやブルックナーなどのロマン派のドイツ・オーストリア系の曲が思い浮かぶ。それでは、フランス系の交響曲を挙げてみなさいと言われると・・・ベルリオーズの「幻想交響曲」ぐらいしか思い浮かばない人も少なくない。今回のLPレコードは、そんなドイツ・オーストリア系偏重の交響曲の中で、フランス系の交響曲として、ベルリオーズの「幻想交響曲」と並んで気を吐いている、ビゼーの交響曲第1番である。ビゼーと言えば、オペラ「カルメン」が有名だが、この初期の作品の交響曲第1番は、何とも親しみやすい交響曲に仕上がっており、昔から多くのリスナーに愛聴されてきた曲である。この曲は、1855年、ビゼーがまだパリ音楽院に在学中の17歳の時の作品である。当時、ビゼーは、ドイツ音楽の様式を勉強していた時であり、このため、この曲には、ハイドンやモーツァルトの影響が色濃く反映されている。とはいえ、ビゼーはフランスのパリ生まれであり、南フランスの明るく、ラテン的気質が存分に盛り込まれており、ドイツ・オーストリア系とフランス系の2つの様式が融合され、その結果独特の魅力を発揮する交響曲が生まれた。この曲のスコアは長い間パリ音楽院の図書館に埋もれていたが、20世紀に入りようやく発見され、1935年にワインガルトナーによって初演されたといういわく付きの曲でもある。ところでビゼーは、交響曲を何曲作曲したかというと、この第1番のほかに、第2番を作曲したが破棄し、第3番は作曲されたかどうかも分らないという。つまり、第1番といっても、ビゼーの交響曲はこの曲しか遺されてはいない。このLPレコードで指揮しているジャン・マルティノン(1910年―1976年)は、フランスの名指揮者。フランスものの作品の指揮には定評があり、ドビュッシーの管弦楽曲全集、サン=サーンスの交響曲全集、ベルリオーズの「幻想交響曲」、ラヴェル管弦楽曲全集などの優れた録音を今に遺している。このLPレコードでも、実に軽妙洒脱に3曲のビゼーの作品を指揮しており、聴いていて楽しめる。特に、交響曲第1番の指揮では、軽快なテンポと的確な構成力で、全体がきりりと引き締まった曲づくりに成功しており、この曲のベスト録音として、現在においてもその存在価値は少しも失われていない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルのブルックナー:交響曲第5番

2024-08-22 09:54:19 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第5番

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9091

 これは、ブルックナーという、ドイツ音楽の中でも最もドイツ音楽臭い大作曲家の傑作、交響曲第5番を、これもワーグナーやブルックナーの演奏にかけては右に出る者はいないと言われた巨匠ハンス・クナッパーツブッシュが、ウィーン・フィルを指揮したLPレコードである。ブルックナーが作曲した9つの交響曲の中でも、この第5番は、全体がみごとな構成美に形づくられており、まるで壮大な建築物を仰ぎ見るような重々しい迫力は、聴くものを圧倒せずにおかない。そして何よりも、ブルックナーのカトリック教徒としての深い信仰心が滲み出ており、リスナーは知らず知らずのうちにブルックナーの精神的な内面を覗き見ることになる。この傑作交響曲をブルックナー自身は、“対位法的作品”あるいは“幻想的作品”と位置づけていたようであるが、一般的には“中世的作品”という位置づけがされる場合も多い。これは、強固な対位法に基づいている作品であり、バロックの教会を思い起こさせ、宗教心を思い起こさせるからであろう。しかし、現在聴いてみると、中世的という古めかしさ以上に、壮大であると同時に限りない精神的な高みに達した傑作交響曲という側面を強く感じる。ハンス・クナッパーツブッシュ(1888年―1965年)は、ケルン音楽大学で学び、バイロイト音楽祭で助手として登場。34歳の時の1922年には、ブルーノ・ワルターの後任としてミュンヘンのバイエルン州立歌劇場の音楽監督に就任する。1936年からはウィーン国立歌劇場で活躍。第二次世界大戦後の1951年にはバイロイト音楽祭に復帰。その後、世界各国で活躍する。その指揮ぶりは、悠揚迫らざる、ゆっくりとしたテンポであり、特にワーグナーやブルックナーの指揮では、その力を遺憾なく発揮することで定評があった。このLPレコードでもその特徴は、遺憾なく発揮されている。ウィーン・フィルの厚みのある、そして奥行きの深い弦の響きを背景に、巨大な教会を仰ぎ見るようなゆっくりとしたテンポで、壮大な演奏を聴かせる。時には、途中でこのまま演奏が終わってしまうのではないかというほどの、ゆっくりとしたテンポも聴かせる。決して奇を衒うことはなく、淡々と演奏する。必ずしもこの曲の標準的演奏とは言い難いが、全体を通した精神的な深さでは、到底他の指揮者の追随を許さない高い演奏内容となっている。聴き終えて、しみじみとした満足感に包まれる、そんな演奏内容である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇巨匠オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団のブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」

2024-08-08 09:38:19 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1953年版)

指揮:オットー・クレンペラー

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

発売:1956年

LP:東芝音楽工業 AA‐7270

 ブルックナーは、全部で11曲の交響曲を書いているが、通常は第1番から、未完成に終わった第9番までの9曲が演奏される。これら9曲の交響曲の中で、ブルックナー自身によりニックネームが付けられた曲が、この第4番の「ロマンティック」なのである。ブルックナーの交響曲は、いずれも重厚感たっぷりで、重々しく長大な曲ばかりであり、そう気軽に聴くことは出来そうもない曲ばかりである。その理由は、ブルックナーが敬虔なカトリック信者であることと切り離しては考えられない。教会音楽、なかんずくオルガンに対するブルックナーの思い入れは強いものがあり、ブルックナーの交響曲の根幹を成すものとなっている。それに加え、ドイツ・オーストラリア系音楽の王道を歩むような堅牢な音楽であり、堂々とした聖堂を仰ぎ見るような迫力に、聴く者は圧倒されてしまう。そんな中にあって、この第4番は、比較的穏やかな表情を持った交響曲として人気が高い。まるで、ドイツの深い森の中に迷い込んだような感じがして、ある意味の爽快感を感じられるところが、人気の源かもしれない。それに、他の交響曲に比べて宗教的な傾倒が少々薄められているようでもあり、気軽に聴けるところがいいのだろう。しかし、そこはブルックナーの交響曲であり、いくら気軽に聴けるといっても、全4楽章を聴き通すと、ほぼ1時間を要する曲であり、通常の交響曲と比べたら、長大で手ごわい曲であることには違いない。このLPレコードで「ロマンティック」交響曲を指揮しているのがドイツ出身の20世紀を代表する巨匠指揮者オットー・クレンペラー(1885年―1973年)である。22歳でマーラーの推挙を受け、プラハのドイツ歌劇場の指揮者になるが、48歳の時(1933年)、ナチス・ドイツ政権樹立に伴い、アメリカへ亡命。そこで、ロサンジェルス・フィルハーモニックやピッツバーグ交響楽団の指揮者として活躍する。しかし、1939年に脳腫瘍に倒れる。復帰後、1954年(69歳)からフィルハーモニア管弦楽団とレコーディングを開始し、EMIから多くのレコードをリリース。このLPレコードは、手兵のフィルハーモニア管弦楽団を指揮した中の1枚。クレンペラーの指揮は、悠然としたテンポの中に、曲の隅々にまで強い緊張感を漂わせたもので、フィルハーモニア管弦楽団の響きも深々としており、ブルックナーの交響曲に相応しい雰囲気を醸し出すことに成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇トスカニーニ指揮NBC交響楽団のメンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」/ 交響曲第5番「宗教改革」           

2024-04-08 09:44:38 | 交響曲


メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」            
         交響曲第5番「宗教改革」

指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ

管弦楽:NBC交響楽団

録音:1954年2月28日(第4番)、1953年12月13日(第5番)、米国、カーネギーホール

発売:1978年

LP:RVC(RCA) RVC-1539

 アルトゥーロ・トスカニーニ(1867年―1957年)は、当時一世を風靡したイタリア出身の大指揮者。パルマ王立音楽学校をチェロと作曲で首席で卒業し、最初はオーケストラのチェロ奏者として活躍する。以後、指揮者としてイタリア各地で活動を開始。ミラノ・スカラ座音楽監督(1921年―1929年)を経て、メトロポリタン歌劇場の首席指揮者(1908年―1915年)を務めた。1927年にはニューヨーク・フィルの常任指揮者に就任。さらに1937年にはNBC交響楽団の首席指揮者に就任する。このNBC交響楽団は、トスカニーニの演奏をラジオ放送するために特別に編成されたオーケストラで、生みの親はRCAのサーノフ会長であった。同楽団は、1954年まで活動したが、その後は「シンフォニー・オブ・ジ・エアー」と名称を変え、自主運営により1936年まで演奏活動を続けた。このLPレコードは、トスカニーニの最晩年に録音されたものである。メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」は、メンデルスゾーンがイタリア旅行中に書き始めた曲で、1831年から1833年にかけて作曲された。イタリアの明るく美しい風景を連想させるような軽快なリズム感と情熱的なメロディーと叙情的なメロディーとが巧みに交差しており、メンデルスゾーンの交響曲の中でも最も人気が高い曲となっている。ここでのトスカニーニは、誠に歯切れが良く、一部の隙もない、力強い指揮ぶりを存分に聴かせる。まるでリスナー自身が、聴きながらイタリア旅行を楽しんでいるかのような感覚に陥るほどの名演だ。数ある「イタリア交響曲」の録音の中でも、現在においても、その存在意義は少しも色失せていない。一方、メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」は、1830年に作曲された曲で、実際には交響曲第1番の次に作曲されたメンデルスゾーン21歳の時の初期の作品。自らも熱心なルター派の信者だったメンデルスゾーンが、マルティン・ルターの宗教改革300年祭のために書いた曲(宗教改革300年祭は実際には開催されなかったという)。第1楽章に、ドイツの賛美歌「ドレスデン・アーメン」、終楽章には、ルターのコラール「神はわがやぐら」が用いられていることで知られる。ここでのトスカニーニは、「イタリア交響曲」で見せたメリハリある指揮ぶりに加え、さらに遠近感を付けたようなスケールの大きい指揮で、聴くものを圧倒する。今でもこの交響曲のベスト録音と言ってもいいほどの力演となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アンドレ・プレヴィン指揮シカゴ交響楽団のショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

2024-01-29 09:39:26 | 交響曲


ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

指揮:アンドレ・プレヴィン

管弦楽:シカゴ交響楽団

録音:1977年1月25日、シカゴ

LP:東芝EMI EAC 80405

 このLPレコードは、ショスタコーヴィッチの最も有名な交響曲である第5番「革命」を、アンドレ・プレヴィン(1929年―2019年)指揮シカゴ交響楽団が遺した優れた録音である。ショスタコーヴィッチは、この第5交響曲を、1937年(31歳)の時に作曲した。その前年にショスタコーヴィッチは、オペラとバレエを作曲したが、これが当時、旧ソ連の当局に激しく批判され、それを受けて作曲したのがこの曲なのである。初演は、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルによって1937年10月21日に行われた。この曲がソヴィエト革命20周年に捧げられたこともあり、前年の批判を吹き飛ばす圧倒的な成功を収めることになる。曲は、全部で4楽章からなり、ベートーヴェンの第5交響曲にも似て、苦悩から歓喜と勝利へという、大変分りやすい形をとり、高貴な精神の表現が聴くものを奮い立たせるかのようでもある。しかし、どうもショスタコーヴィッチは、旧ソ連政府の圧力に全面的に屈服したのではない、という説が昔から囁かれている。それは、第4楽章に、虐げられた芸術の真価が時と共に蘇るという内容のプーシキンの詩が引用され、コーダ近くのハープをともなう旋律が静かな抵抗とも取れるというのである。指揮のアンドレ・プレヴィンは、ベルリンのユダヤ系ロシア人の音楽家の家庭に生まれ、1943年にアメリカ合衆国市民権を獲得。当初、ポピュラー音楽を手掛けていたが、その後クラシック音楽に転向したという経歴を持つ。これまで、ヒューストン響音楽監督、ロンドン響首席指揮者、ピッツバーグ響音楽監督、ロサンジェルス・フィル音楽監督、ロイヤル・フィル音楽監督、オスロ・フィル首席指揮者、NHK響首席客演指揮者を務めるなど、指揮者としての経歴は華やかだ。このLPレコードでは、黄金時代のシカゴ交響楽団の能力をフルに発揮させた颯爽とした指揮ぶりに、リスナーは聴いていて爽快感を身を持って感じることができる。ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」を“純音楽的”に楽しめる希有な録音として、現在でもその価値はいささかも失っていない。NHK交響楽団は、アンドレ・プレヴィンの死去の報を受け、2019年3月1日付で「2009年9月、首席客演指揮者に就任したが、東日本大震災直後の2011年3月のN響北米ツアーでは、自らバッハ“G線上のアリア”を演奏することを提案し、日本への痛切な思いを現地の聴衆に音楽を通じて届けた」と哀悼の意を発表した。(LPC)

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