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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ショーソン:交響曲変ロ長調/交響詩「祭りの夕べ」

2025-02-10 09:43:00 | 交響曲


ショーソン:交響曲変ロ長調
      交響詩「祭りの夕べ」

指揮:ミシェル・プラッソン

管弦楽:トゥールーズ市立管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐40184
 
 このLPレコードは、フランス人の作曲家エルネスト・ショーソンの2曲の作品を収めたものである。ショーソンというと「詩曲」が余りにも有名である反面、ショーソンのその他の作品を聴く機会が正直あまりなく、その作曲家像も我々日本人としては、いまいちピンとこないのではなかろうか。ショーソンは、大学で法律を学んだ後、24歳でパリ音楽院に入学する。叙情性と憂愁を含んだ独特の作風で作曲活動を展開し、ヴァイオリンとオーケストラのための「詩曲」、オーケストラ伴奏の歌曲「愛と海の詩」、交響曲変ロ長調のほか、多くの歌曲や室内楽曲を発表した。しかし、突然の事故で短い一生を終えることになる。それは、1899年6月にパリ郊外を自転車で散策中に柱に頭を打ち付けて即死したのだ。享年44歳であった。ショーソンは、セザール・フランクを師と仰ぐ、いわゆる“フランキスト”の一人であった。その頃、ショーソンはフランス音楽を広く知らしめるために設立された国民音楽協会の書記に就任している。ちなみに同協会の会長がフランク、書記がショーソンとダンディ、会計がフォーレであることで分かるとおり、フランス音楽の大御所が名を連ねている。この後フランスは、デュカス、ルーセル、オネゲル、ミヨーといった我々にもお馴染みの作曲家を輩出することになる。このLPレコードに収められているショーソン:交響曲変ロ長調は、あの有名なフランクの交響曲が書かれた直後に完成した作品で、全体が3楽章からなる交響曲という珍しいスタイルを取り、フランクの影響が強く反映されている。フランクの影響を受けた交響曲といっても、その陰鬱な抒情味と甘美なメロディーは、ショーソンなくしては成し得ない独自の世界を形作っていることも確か。基本的にはフランス音楽特有なエレガンスさには貫かれているものの、時にワーグナーを思わせる壮大な響きを奏でる場面やブルックナーの交響曲のように聴こえる一瞬もある。私個人としては甘美なメロディーに彩られた、如何にもフランスの作曲家の作品らしい微妙な彩を持った第2楽章に引き付けられる。交響詩「祭りの夕べ」は、交響曲変ロ長調の7年後に書かれた作品。イタリアの美しい自然の中において作曲されたこともあり、友人であったドビュッシーの作品にも似た、微妙な管弦楽の色合いの美しさが印象的な秀作。パリ出身のミシェル・プラッソン(1933年生まれ)指揮トゥールーズ市立管弦楽団の演奏は、ショーソンの叙情性と憂愁味を存分に表現し切っている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ターリッヒ指揮チェコ・フィルによるドヴォルザーク:交響曲第8番/ヤナーチェク(ターリッヒ編曲):交響組曲「利口な女狐の物語」

2025-02-03 09:42:50 | 交響曲

ドヴォルザーク:交響曲第8番
ヤナーチェク(ターリッヒ編曲):交響組曲「利口な女狐の物語」

指揮:ヴァーツラフ・ターリッヒ

管弦楽:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1997年7月

LP:日本コロムビア OW‐7704‐S
 
 これは、チェコの大指揮者のヴァーツラフ・ターリッヒ(1883年―1961年)を偲ぶLPレコードだ。どちらかと言えば“歴史的名盤”の範疇に入る録音なのかもしれないが、決して鑑賞に向かないほどでもなく、ターリッヒ指揮チェコ・フィルの名演を堪能することができる貴重な録音である。演奏しているチェコ・フィルは、最初に指揮をしたのがドヴォルザークであり、今日の世界的な一流オーケストラに育て上げたのがターリッヒであった。チェコの首都プラハには1881年に建てられたプラハ国民劇場があるが、同劇場のオーケストラのメンバーを中心として、チェコ・フィルハーモニー協会が設立され、その2年後の1896年に、ドヴォルザークが自作を指揮して、現在のチェコ・フィルが誕生したのであった。そして、1919年にターリッヒが常任指揮者に迎えられ、以後、22年間にわたってターリッヒは、チェコ・フィルの技能を大幅に向上させ、魅力的な音質と独特なリズム感を持った、世界でも有数のオーケストラへと育て上げたのである。ターリッヒの指揮の特徴は、現代的な合理的な感覚をベースとして、ボヘミアの民族的な香りを巧みに融合させたところにある。ヴァーツラフ・ターリヒは、モラヴィアの出身。プラハ音楽院を卒業後、ベルリン・フィルのコンサート・マスターに就任後、指揮者に転向。このLPレコードには、ターリッヒ指揮チェコ・フィルの演奏で、ターリッヒと同郷のドヴォルザークとヤナーチェクの作品が収められている。正調のドヴォルザークそしてヤナーチェックを聴くことができる歴史的録音とでも言えようか。ドヴォルザーク:交響曲第8番は、しばしば「イギリス」という愛称で呼ばれるが、これはただ単に最初にイギリスで出版されたので付けられただけで深い意味はない。有名な新世界交響曲の4年前に書き上げられ、ドヴォルザークの“田園交響曲”とでも言えるほどボヘミアの民族色が反映された曲で、哀愁に満ちたそのメロディーを聴いたら二度と忘れられない魅力を秘めている。ここでのターリッヒ指揮チェコ・フィルの演奏は、民族の共感に溢れ、心の底に響くような熱い情熱と、明快な圧倒される表現力でリスナーを魅了して止まない。一方、ヤナーチェク:交響組曲「利口な女狐の物語」は、ヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」をターリッヒが交響組曲に編曲した作品。普段はあまり演奏されない曲ではあるが、“チェコの真夏の夜の夢”とも言われる幻想的な曲だ。豊かなボヘミヤの自然の息吹が肌で感じられるような心地良い演奏に仕上がっている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノンのボロディン:交響曲第2番/リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 、歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

2025-01-13 09:36:00 | 交響曲


ボロディン:交響曲第2番
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
            歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:キングレコード GT 9351

 このLPレコードでロンドン交響楽団を指揮しているのが、フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910年―1976年)である。マルティノンは、リヨンに生まれ、パリ音楽院でヴァイオリン、作曲、指揮を学ぶ。パリ音楽院管弦楽団、ボルドー交響楽団などの首席指揮者などを歴任した後、シカゴ交響楽団音楽監督を経て、1968年からはフランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任する。しかし、これからという66歳で世を去ってしまう。マルティノンは、何と言ってもフランス音楽を振らせたら、右に出る者はいないと言われたぐらいフランス音楽との相性が抜群に良い指揮者であった。中庸を得た明快な指揮ぶりと、知的でセンスのある繊細な音づくりには定評があった。そんな特徴を持つマルティノンにロシア音楽を振らせたらどういうことになるのか?既に紹介したチャイコフスキーの「悲愴交響曲」では、幾多あるこの曲の録音の中でも、今もって上位にランクされるほどの名演奏を聴かせてくれた。さて、このLPレコードのボロディンとリムスキー=コルサコフの二人のロシア作曲家の曲をマルティノンはどう指揮するのであろうか?ボロディンとリムスキー=コルサコフは、19世紀後半に活躍した“ロシア五人組”のメンバーである(あとの3人は、バラキレフ、キュイそれにムソルグスキー)。その中の一人、ボロディンは、大学教授と作曲家の二足の草鞋を履いた生活を送ったため、作品の数はそう多くはないが、歌劇「イーゴリ公」やこのLPレコードの交響曲第2番などの名曲を今に遺している。交響曲第2番は、古典的な交響曲の手法に基づきながら、スラブ的な民族色を打ち出した曲として今でも多くのリスナーから愛好されている曲。一方、リムスキー=コルサコフは、若い頃海軍士官の経歴を持ち、後に作曲家に転じ、晩年は、音楽院の院長として後輩の育成にも貢献した。このLPレコードでのマルティノンの指揮ぶりは、ボロディン:交響曲第2番では、実にメリハリに利いた明快な表現力が実に魅力的だ。30年以上前の録音とは思えないほど、現在でも通用するような表現力の驚かされる。リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲は、マルティノンのセンスのいい指揮振りが一際印象に残る。リズム感に溢れたその演奏は、自身が持つ資質を存分に発揮した演奏と言えよう。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のルーセル:交響曲第3番/第4番

2024-12-26 10:32:47 | 交響曲


ルーセル:交響曲第3番/第4番

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AA‐7595
 
 アルベール・ルーセル(1869年―1937年)は、最初は印象主義の作風から始まり、その後新古典主義の作品を作曲するに至ったフランスの作曲家。当時、ラヴェルとともにフランス楽壇の重鎮として活躍した。ルーセルは、海軍に入り軍艦の経験を積む。1894年に海軍を退くと、パリで音楽の道を志し、ダンディなどに師事。ルーセルの作風は、初期作品は印象主義音楽に影響を受けたが、もともとは古典主義者であった。同時代のドビュッシーやラヴェル、サティの作風とルーセルとの作風の違いは、その強烈なリズム感と重厚なオーケストレーションにある。ラヴェルと同じようにルーセルもジャズにも興味があったようで、「夜のジャズ」という歌曲を残している。日本においては、同時代のフランスを代表する作曲家のフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルに比べ、ルーセルの認知度は必ずしも高いとはいえない。これは、強固な構成と形式美を追い求めるルーセルの音楽は、フランス音楽独特得の雰囲気とは少々異なるところに原因があるのではないかと推察される。フランス音楽は、繊細さを追究する反面で、強烈な主張を持った音楽も存在する。つまり、フランスにおいてはルーセルの音楽もまた、フランス音楽そのものなのだ。このLPレコードには、交響曲第3番/第4番が収録されている。第3番は、ダイナミックで強烈なリズムを持った交響曲であり、そのエネルギッシュさが特に印象に残る。第4番も基本的には第3番と似たような作風の曲であるが、第3番には無かった平穏さも持ち合わせ、一回り大きな印象を受ける。これら2曲の交響曲は、現在ではフランクやサンーサーンスの交響曲と並び、フランスを代表する交響曲に位置づけられている。さらに、このルーセルの2曲の交響曲は、この後につづくオネゲル、ミヨー、リヴィエ、デュティユーなどに大きな影響を与えたといわれているほど、重要な作品と言える。このLPレコードでは、フランス出身の名指揮者アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)とパリ音楽院管弦楽団(パリ管弦楽団の前身)の演奏で、ルーセル独特の世界が思う存分繰り広げられる。第3番の演奏は、激しいリズムと奥深いオーケストラの音色が巧みに取り込まれ演出され、そのエネルギッシュさに圧倒される思いがする。第4番は、第3番とは異なり、優美な側面を間に挟みながら曲が展開される。このため、第3番ほど強烈な印象は与えないが、深みのあるオーケストレーションが、よりスケールの大きな交響曲としている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇フリッツ・ライナー最後の録音 ハイドン:交響曲第101番「時計」/交響曲第95番

2024-11-21 09:40:18 | 交響曲


ハイドン:交響曲第101番「時計」
     交響曲第95番

指揮:フリッツ・ライナー

管弦楽:臨時編成による交響楽団

録音:1963年

LP:RVC(RCA) RCL‐1001

 このLPレコードで指揮をしているハンガリー出身のフリッツ・ライナー(1888年―1963年)は、10年間にわたりシカゴ交響楽団音楽監督を務め、同楽団を一流オーケストラに生まれ変わらせたことで知られる。リスト音楽院に学び、バルトークやコダーイ等に師事したという。1909年、同音楽院を卒業後、ブダペストのコミック・オペラに入団し、ティンパニー奏者と声楽コーチを担当。フリッツ・ライナーの録音を聴くと、いつも歯切れのいい、軽快な指揮ぶりに感心させられるが、これはティンパニー奏者としての経歴からきているのではないかとも言われている。1922年のアメリカに渡り、シンシナティ交響楽団の音楽監督に就任後、 ピッツバーグ交響楽団、メトロポリタン歌劇場などで活動する。そして1953年に、シカゴ交響楽団の音楽監督に就任し、死去までの10年間、同楽団の黄金時代を築いたのである。このLPレコードは、フリッツ・ライナーが遺した数多くの録音の最後の録音(1963年)となったもので、特に、ハイドン:交響曲第101番「時計」は、数ある同曲の録音の中でも、屈指の出来栄えを誇るものとなった。オーケストラは、単に「交響楽団」とだけクレジットされた”覆面オーケストラ”となっている。その実態はメトロポリタン歌劇場管弦楽団、ニューヨーク・フィル、ピッツバーグ交響楽団、シカゴ交響楽団等からの選抜メンバーで構成された臨時編成のオーケストラ。ハイドン:交響曲第101番「時計」は、1793年にウィーン近郊で着手し、翌1794年にロンドンで完成させたロンドン交響曲のうちの1曲。愛称の「時計」は、19世紀になってから、第2楽章の伴奏リズムが時計の振り子の規則正しさを思わせることから付けられたもの。一方、交響曲第95番は、ハイドンが1791年の第1回ロンドン旅行のおりに作曲した交響曲で、いわゆる「ロンドン交響曲」と呼ばれる中の1曲で連作の中では唯一の短調作品。交響曲第101番「時計」は、全楽章にわたり、フリッツ・ライナーの特徴である、筋肉質で、しかも軽快なリズムに乗り、オーケストラの持つ能力を極限にまで引き出す指揮ぶりには感心させられる。これを聴くと大変耳の良い指揮者であったことが推察できる。逆に言うと、オーケストラは少しの手抜きも許されず、さぞ大変であったのではなかろうか。交響曲第95番は、統一感のある肉太な指揮ぶりが印象的。(LPC)