★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇若き日のパウル・パドゥラ=スコダとバリリ四重奏団員らによるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

2024-09-30 09:40:21 | 室内楽曲


シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

ピアノ:パウル・パドゥラ=スコダ

バリリ四重奏団員           

     ワルター・バリリ(ヴァイオリン)      
     リドルフ・シュトレング(ヴィオラ)      
     エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

コントラバス:オットー・リューム

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OS‐8003‐AW

 シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」ほど、日本人に愛好されているクラシック音楽はないであろう。それほどポピュラーな曲ではあるが、楽器の編成が、ピアノに加え、コントラバス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ一つずつという少々変わったものになっている。通常のピアノ五重奏曲は、ピアノに弦楽四重奏という編成となっているのが普通であるが、シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」は、これとは少々異なる。この理由として考えられているのが、この曲の作曲を依頼し、シューベルトが旅をしたときに世話になった、鉱山関係の役人であったジルヴェスター・パウムガルトナーである。この人はチェロの演奏をしばしば楽しんでいたようで、シューベルトは、このことに配慮をして、コントラバスに主に低音部を担わせ、チェロには自由に演奏できる余地をつくったのではないかと考えられている。室内楽の古今の名曲であるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を、このLPレコードで演奏しているのが、ピアノのパウル・パドゥラ=スコダ(1927年―2019年)とバリリ四重奏団員、それにコントラバスのオットー・リューム(1906-1979年)である。パウル・バドゥラ=スコダは、オーストリア出身のピアニストで、若い時には、イェルク・デームス(1928年―2019年)やフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに、いわゆる“ウィーン三羽烏”のひとりと言われていた。1945年からウィーン音楽院に学び、1947年に「オーストリア音楽コンクール」に優勝。1949年にはフルトヴェングラーやカラヤンらといった著名な指揮者と共演し、1950年代には日本を訪れた。80歳を過ぎても現役のピアニストとして活躍し、度々来日して円熟の極の演奏を披露して、日本の聴衆に深い感銘を与えたが、2019年9月25日にウイーンの自宅で死去した。このLPレコードでのパウル・パドゥラ=スコダの演奏は、ピアニストとして最も円熟の境地に達していた年齢であり、ウィーン情緒たっぷりに、優雅で歌うように演奏しており、聴いているだけで自然に心が浮き浮きしてくるような演奏を披露している。バリリ四重奏団員も、パウル・パドゥラ=スコダにぴたりと息を合わせ、持ち前のウィーン情緒をたっぷりと含んだ演奏を聴かせる。このLPレコードを聴き、久しぶりに本場のシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を聴いた思いがした。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ピエール・バルビゼ 、クリスチャン・フェラス 、パレナン弦楽四重奏団のショーソン:「果てしない歌」/「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

2024-09-19 10:02:04 | 室内楽曲


ショーソン:「果てしない歌」       
      「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

ピアノ:ピエール・バルビゼ

ヴァイオリン:クリスチャン・フェラス

弦楽四重奏:パレナン弦楽四重奏団           

        ジャック・パレナン(第一ヴァイオリン)         マルセル・シャルパンティエ(第二ヴァイオリン)         ドゥネス・マルトン(ヴィオラ)             
        ピエール・ペナスウ(チェロ)

ソプラノ:アンドレエ・エストポジート

LP:東芝EMI EAC‐40125 

 フランスの作曲家であるエルネスト・ショーソン(1855年―1899年)は、我々日本人にとっては、フォーレほどは馴染はないのかもしれないが、「詩曲」の作曲家と言えば、「あの曲の作曲家なのか」と誰もが頷くことになる。それは「詩曲」を一度聴けば、その繊細で、夢の中を歩いているかのような、文字通り“詩的”な音楽との出会いに、誰もが一度は感激したことを思い出すからであろう。ショーソンは、24歳でパリ音楽院に入り、マスネ、フランクなどに作曲を学んだ後に、バイロイトでワーグナーの影響を強く受けたりもした。44歳で亡くなるまで、交響曲、室内楽、歌曲、歌劇など幅広い分野での作曲を手がける。その中でも、1896年(41歳)のときに作曲したヴァイオリンと管弦楽のための「詩曲 」が有名である。そのほか、交響曲 変ロ長調 や「愛と海の詩」などの曲で知られる。このLPレコードには、ソプラノの独唱にピアノと弦楽四重奏団が伴奏をする「果てしない歌」と「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」が収められている。この2曲は、「詩曲 」ほど有名ではないが、その内容の充実度からすると、「詩曲 」に比肩し、むしろフランス音楽的な詩情に関しては、一層濃密さを湛えた、隠れた名曲という位置づけがされても少しもおかしくない優れた作品だ。「果てしない歌」は、シャルル・クロスの、失われた愛に対する切々たる心情を吐露した詩によるもので、ソプラノのアンドレエ・エスポジートの澄んだ歌声が実に印象的であり、その繊細極まりない伸びやかな歌声を、ピアノのピエール・バルビゼとパレナン弦楽四重奏団が巧みにエスコートする様は、聴いていて、自然にため息が出てくるほど詩的情緒が溢れ出すといった演奏内容となっている。一方、「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」は、協奏曲という名称が付けられてはいるが、実質的には、室内楽の「六重奏曲」に相当する曲。全体は4つの楽章からなり、ピアノとヴァイオリンがリードしながら、6つの楽器全体が巧みに融合された、優れた室内楽作品に仕上がっている。ピエール・バルビゼのピアノ、クリスチャン・フェラスのヴァイオリン、それにパレナン弦楽四重奏の、デリケートなリリシズムに貫かれた演奏内容にリスナーは酔い痴れる。このようなフランス音楽の室内楽を静かに味わうにはLPレコードほど適したものはない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ルービンシュタイン&ガルネリ弦楽四重奏団のシューマン:ピアノ五重奏曲

2024-09-16 09:44:30 | 室内楽曲


シューマン:ピアノ五重奏曲

ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン

弦楽四重奏:ガルネリ弦楽四重奏団                              

             アーノルド・スタインハート(第1ヴァイオリン)
             ジョン・ダリー(第2ヴァイオリン)
             マイケル・トリー(ヴィオラ)             
             デヴィッド・ソイヤー(チェロ)

発売:1969年

LP:日本ビクター SRA-2523

 このLPレコードは、シューマンの室内楽の名品「ピアノ五重奏曲」をアルトゥール・ルービンシュタイン(1887年―1982年)とガルネリ弦楽四重奏団が演奏している。この曲は、シューマンの代表的な室内楽作品で、ピアノと弦楽四重奏のために書かれている。1842年の9月から10月にかけてのわずか数週間のうちに作曲され、妻のクララ・シューマンに献呈された。同年中に3曲の弦楽四重奏曲とピアノ四重奏曲を作曲しており、シューマンの“室内楽の年”として知られる。このLPレコードのライナーノートで上野一郎氏は「これは、今年82歳になる老大家のルービンシュタインと、30代の若手メンバーで組織された新進のガルネリ弦楽四重奏団が合奏しているところに新鮮な魅力を見い出すことのできるレコードである」と指摘している。この中で上野氏は「ルービンシュタインのレコード歴は50年に近い年月に及んでおり、室内楽もハイフェッツ、フォイアーマン、ピアテゴルスキーと組んだ”百万ドル・トリオ”で知られているが、弦楽四重奏団と合奏した室内楽のレコードは意外に少ない」と書いている通り、ルービンシュタインの遺した録音の中でも貴重な一枚と言っていいであろう。アルトゥール・ルービンシュタインは、ポーランド出身のピアニスト。20世紀の代表的なピアニストの1人で、特にショパンの演奏では当時最も優れたピアニストと目されていた。前半生はヨーロッパで、第二次世界大戦中・後半はアメリカで活躍。1910年、第5回「アントン・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール」で優勝した。ガルネリ弦楽四重奏団は、1965年にニューヨークでデビューし、その1年後には、辛口評で知られたニューヨーク・タイムズ紙のハロルド・C・ショーンバーグが「ガルネリ弦楽四重奏団は、世界最高のクァルテットの一つである」と賛辞を掲げたほど、当時実力を持った弦楽四重奏団であったが、2009年に活動を中止してしまった。このLPレコードでのルービンシュタインのピアノ演奏は、ルービンシュタイン特有の中庸を得た特徴に加え、伸びと穏やかさを持った安定感のある演奏を存分に聴かせる。ガルネリ弦楽四重奏団もルービンシュタインのピアノ演奏にぴたりと寄り添い、シューマンの独特なロマンの世界を、繊細さと優雅さたっぷりに聴かせてくれている。この録音は、”健康的なシューマン”の秀演とでも表現できようか。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スメタナ四重奏団+ヨゼフ・スークのモーツァルト:弦楽五重奏曲第2番/第6番

2024-08-26 09:57:53 | 室内楽曲

 

モーツァルト:弦楽五重奏曲第2番/第6番

演奏:スメタナ四重奏団              

      イルジー・ノヴァーク(第1ヴァイオリン)
      リュボミール・コステツキー(第2ヴァイオリン)
      ミラン・シュカンパ(第2ヴィオラ)
      アントニーン・コホウト(チェロ)

      ヨゼフ・スーク(第1ヴィオラ)
 
録音:1981年6月15日~21日、プラハ、芸術の家ドヴォルザーク・ホール

発売:1981年

LP:日本コロムビア OF‐7011‐ND

 モーツァルトの弦楽五重奏曲は、有名な第3番と第4番を含んで全部で6曲ある。第1番は、モーツァルトが17歳の時のザルツブルグ時代の曲である。何故、モーツァルトが弦楽四重奏曲でなく、弦楽五重奏曲を作曲したのかは、未だもって明らかにはなっていない。五声部の曲にチャレンジをしたかったのか、あるいは誰からかの依頼を受けたのかもしれない。第2番はその14年後に作曲された、管楽器のためのセレナーデハ短調KV388を編曲した曲。そして名曲として名高い第3番、第4番が連なる。さらに、力強く活発な内容を持つ第5番を経て、死の年に作曲した洗練された美しさが特徴の第6番へと続く。このLPレコードでは、第2番と第6番とが収められている。弦楽五重奏曲第2番の原曲は、1782年に作曲された、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2本の管楽八重奏曲によるセレナードである。セレナードといっても当時のセレナード様式とは大分かけ離れた内容となっており、非娯楽的な要素が強い。弦楽五重奏曲への編曲は1787年に行われた。弦楽五重奏曲第1番は、1773年の作曲であり、この第1番から遅れること14年もの歳月が流れて、第2番の弦楽五重奏曲が完成したことになる。そのためか、第2番は第1番に比べて、内容が格段に充実したものになった。しかも、原曲となった管楽八重奏曲によるセレナードよりも優れたものに仕上がったことは、続く、弦楽五重奏曲の傑作である第3番および第4番の登場を予言する内容とも取ることができる。一方、弦楽五重奏曲第6番は、モーツァルトの死の年に当る1791年に作曲された曲。全部で6曲ある弦楽五重奏曲の中では、情緒的な雰囲気が排除され、内面的な求心力が勝ったような内容の曲と言える。最高度に洗練された美しさに覆われ曲となっている。演奏は、スメタナ四重奏団に第1ヴィオラとしてヨゼフ・スーク(1929年―2011年)が加わったメンバーによるもので、第3番/第4番に続いての録音。スメタナ弦楽四重奏団は、1945年から1989年まで存在したチェコの弦楽四重奏団。結成当初の名称はプラハ音楽院弦楽四重奏団で、1945年にスメタナ弦楽四重奏団と改称。このLPレコードでの演奏内容は、実に緻密そのものであり、流麗を伴った憂いを含んだ表情が印象に強く残る。モーツァルトの弦楽五重奏曲を、このように静寂さをもって演奏した例を私は他に知らない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ドヴォルザークの室内楽曲の名品、ピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番

2024-08-19 09:36:56 | 室内楽曲


ドドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲         
         弦楽四重奏曲第7番

ピアノ:エディット・ファルナディ

弦楽四重奏:バリリ四重奏団                      

        ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)         
        オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
        ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)           
        エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

発売:1976年8月

LP:日本コロムビア(ウェストミンスター名盤コレクション) OW‐8045‐AW

 ドヴォルザークの作品を挙げるとなると、「新世界交響曲」や「アメリカ弦楽四重奏曲」などが直ぐに思い浮かぶ。これらの作品は、さしずめ大広間に置かれた、多くの人に愛される一般的な名曲とすると、このLPレコードに収められたピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番は、奥座敷にひっそりと置かれ、ドヴォルザークの作品をこよなく愛する人向けの名曲と言える存在。ドボルザークのピアノ三重奏曲に「ドゥムキー」という曲があるが、この「ドゥムキー」の3年前に書かれたのが、ピアノ五重奏曲である。このピアノ五重奏曲の第2楽章は「ドゥムカ」と題されている。つまりこの曲は、ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」を先取りした曲とも言えるのだ。「ドゥムカ」とは、スラヴ民族の哀歌であり、多くの場合、悲しげでゆるやかな旋律と急速で情熱的な旋律とを対立させて書かれている。さらに、この曲の第3楽章には「フリアント」と記されている。「フリアント」とは、ボヘミアの舞曲のことで、激しさと甘さとが交互に取り入れられているが、「ドゥムカ」とは対照的に、早い速度の部分を主体としている。このピアノ五重奏曲は、スラヴやボヘミアなどの民族的香りを濃厚に持つ、古今のピアノ五重奏の中でも傑作の一つに数えられている名曲なのである。一方、アメリカからの旅からボヘミアへ戻って、書かれたのが第7番と第8番の2つの弦楽四重奏曲である。弦楽四重奏曲第7番は、それまでの曲のような民族的な郷愁感は極力抑えられ、明るい幸福感に包まれ、豊かな曲想に覆われているのが特徴。伝統的な形式美を追い求め、じっくりとした深みが感じられる弦楽四重奏曲。ピアノ五重奏曲でピアノを演奏しているエディット・ファルナディ(1921年―1973年)は、ハンガリーのブダペスト出身で、リスト・アカデミーで学び、卒業するまでに2度までもフランツ・リスト賞を受賞したという才媛で、当時マルグリット・ロンやクララ・ハスキルと並び称された名女性ピアニスト。バリリ四重奏団は、1945年にウィーン出身のワルター・バリリ(1921年―2022年)を中心に結成された名弦楽四重奏団。ピアノ五重奏曲の演奏は、エディット・ファルナディのナイーブなピアノの音色とバリリ四重奏団の弦の響きが絶妙に混ざり合い、極上の雰囲気を醸し出している。一方、弦楽四重奏曲第7番の演奏は、バリリ四重奏団の緻密な演奏内容に加え、暖かくも厚みのある、その音色にも魅了される。音は多少古めだが、2つのの曲の演奏内容とも完成度の高いものに仕上がっている。(LPC)

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