★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇レオポルド・ウラッハのブラームス:クラリネットソナタ第1番/第2番

2024-04-25 09:36:40 | 室内楽曲

 

ブラームス:クラリネットソナタ第1番/第2番

クラリネット:レオポルド・ウラッハ

ピアノ:イェルク・デムス

LP:東芝EMI IWB‐60005

 ブラームスは、最晩年になってクラリネットの作曲を始め、クラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲に続き、今回のLPレコードに収められたクラリネットソナタ第1番と第2番の2曲を完成させた。何故、急にクラリネットの曲を書くことに目覚めたかというと、リヒャルト・ミュールフェルト(1856年―1907年)というクラリネットの名手と知り合い、彼の演奏に魅了されたためと言われている。具体的な作曲は1894年から開始され、この2曲が相次ぎ完成した。このためこの2つのクラリネットソナタは、双子のような性格を持っていることが、聴き始めると直ぐに分る。初演は1895年で、ミュールフェルトのクラリネット、ブラームスのピアノによって行われたという。この作品は、ブラームスの最後のソナタ作品となった。クラリネットの代わりにヴィオラあるいはヴァイオリンで奏されることもある。この2曲のクラリネットソナタを聴くと、老人が遥か昔を偲んで物思いに耽るような感覚が強く滲み出しており、聴けば聴くほど味のある曲であることが分る。何か諦観の面持ちさえ聴いて取れる。この意味で、私などは西洋音楽というより、どちらかと言うとブラームスが東洋的な神秘の世界に踏み込んで作曲したのではないかとさえ考えてしまう。現に、ブラームスは、世界の民俗音楽に深い興味を持っていたようで、琴の六段の演奏を実演で聴き、採譜をした記録が残っているほど。このLPレコードでクラリネットを演奏しているレオポルト・ウラッハ(1902年―1956年)は、オーストリア出身のクラリネット奏者。ウィーンで生まれ、1928年からウィーン国立歌劇場およびウィーン・フィルの首席奏者、ウィーン・フィル管楽器アンサンブルの主宰を務め、ウィーン・フィルの最盛期を支えた一人。その音色は、ビロードのような滑らかさで奥が深い。ウラッハの奏でる夢幻のようなクラリネットの音色を聴いていると、これが古き良きウィーンの響きなのかという思い至る。多分、ブラームスが魅了されたミュールフェルトの音色も、ウラッハのそれに近かったのではなかろうかという思いに至る。ピアノ伴奏のイェルク・デムス(1928年―2019年)もウィーン出身で、日本ではパウル・バドゥラ=スコダとフリードリヒ・グルダとともに“ウィーン三羽烏”と呼ばれていた。ここでは、ウラッハに寄り添うように演奏して、見事な出来栄えを聴かせてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スーク・トリオのチャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出のために」

2024-03-07 09:41:37 | 室内楽曲


チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出」

ピアノ三重奏:スーク・トリオ

         ヨセフ・スーク(ヴァイオリン)
         ヤン・パネンカ(ピアノ)
         ヨセフ・フッフロ(チェロ)

録音:1965年

発売:1979年

LP:日本コロムビア OW‐7769‐S

 このチャイコフスキーのピアノ三重奏曲に付けられた副題「ある偉大な芸術家の思い出のために」の、ある偉大な芸術家とは、19世紀後半のロシア音楽の推進力となった偉大な指導者ニコライ・ルービンシュタイン(1835年―1881年)のことである。ニコライ・ルービンシュタインは、ピアノと作曲とを学び、1859年にロシア音楽協会の設立に尽力し、1864年にはモスクワ音楽院を創設して、自から院長となってロシアの音楽教育に多大な功績を果たした。また、ピアニストとしても活動する傍ら、指揮者として若きロシア人の作曲家の作品を積極的に紹介したのである。チャイコフスキーも、ニコライ・ルービンシュタインの指導、激励を受け、作曲家として成長を遂げていった。そのニコライ・ルービンシュタインは、1881年3月23日に、旅先のパリで客死してしまう。これを悼んでチャイコフスキーは、それまでほとんど手掛けていなかったピアノ三重奏曲を作曲したのである。これはニコライ・ルービンシュタインがピアニストであったためだと思われる。曲はピアノが主導する曲想となっている。全体は、2楽章で書かれているが、第2楽章は2つの部分に分かれており、その第1部分は主題と11の変奏からなる。変奏曲の主題はピアノ独奏だけに基づいているが、これはピアニストのニコライ・ルービンシュタインへの哀悼の意を込めたものと考えられる。これを演奏しているのが往年の名トリオであるスーク・トリオだ。3人の奏者の技量がぴたりと合い、しかも情感をたっぷりと入れ込んだ名演奏を聴かせてくれる。ヨセフ・スークのヴァイオリンが切なくメロディーを奏で、これに応えるようにヤン・パネンカのピアノが、あたかもニコライ・ルービンシュタインそのものであるかのように活発に動き回る。そしてヨセフ・フッフロのチェロが、そんな2人を静かに受け止める。ヴァイオリンのヨゼフ・スーク(1929年―2011年)は、チェコ、プラハ出身。ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者として高い評価を受けていた。ピアノのヤン・パネンカ (1922年―1999年)は、チェコ、プラハ出身。1951年「スメタナ国際コンクール」で第1位。日本へは1959年の初来日以降たびたび訪れた。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年―2009年)は、チェコ、プラハ出身。1959年「カザルス国際チェロ・コンクール」の優勝者で、抜群の安定感のある演奏には定評があった。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ジャン・ユボーのピアノによるフォーレ:ピアノ四重奏曲第1番/第2番

2024-02-22 09:37:00 | 室内楽曲


フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番/第2番

ピアノ:ジャン・ユボー

ヴァイオリン:レイモン・ガロワ=モンブラン

ヴィオラ:コレット・ルキアン

チェロ:アンドレ・ナヴァラ

発売:1976年

LP:RVC(ΣRATO) ERX‐2221

 フォーレのピアノ四重奏曲というと、私はすぐにGR盤(歴史的名盤)にあった、ロン、ティボー、ヴィユー、フルニエによる第2番のLPレコードを思い出す。マルグリット・ロンのピアノ演奏が、この曲の力強くも幽玄な趣を巧みに表現しており、引き込まれるように聴いていた。しかし、GR盤はあくまで歴史的名盤であって音質は芳しくなかった。そんな時にこのLPレコードに出会い、ようやくフォーレのピアノ四重奏曲が音質の良い状態で聴けることが何よりも嬉しかったのを思い出す。フォーレの室内楽曲というと真っ先の思い浮かぶのが2曲あるヴァイオリンソナタである。それ以外の曲は?と問われてすらすらと答えられる人は、相当なフォーレファンか、キャリアを積んだリスナーだろう。正解は作曲された順に、ピアノ四重奏曲第1番(1876年)、ピアノ四重奏曲第2番(1879年)、ピアノ五重奏曲第1番(1906年)、チェロソナタ第1番(1918年)、ピアノ五重奏曲第2番(1921年)、チェロソナタ第2番(1922年)、ピアノ三重奏曲(1923年)、そして遺作となった弦楽四重奏曲(1924年)。これらのフォーレの室内楽曲に共通しているのは、弦楽四重奏曲を除き、全てピアノが使われ、これにより実に流麗な感じの室内楽曲が揃うことになった。さらに特徴として挙げられるのが、全て短調で書かれていること。これは、フォーレの曲が持つ秘めたロマン性という特質を発揮させることに繋がる。フォーレの室内楽は、日本では、ヴァイオリンソナタが人気があるが、欧米では、このLPレコードに収められたピアノ四重奏曲の方が人気が高いという。そう言えば、ドイツでは「フォーレ四重奏団」の活躍を思い出す。この2つのピアノ四重奏曲は、7年の間をおいて、どちらも国民音楽協会の音楽界で初演された。このLPレコードでの4人は、如何にもフランスの演奏家らしく、限りなく優雅な雰囲気を湛えた演奏を聴かせてくれており、フォーレの室内楽の醍醐味を味わうのには打って付けなものと言える。2曲とも、第2楽章、第3楽章の2つの楽章が、一際印象深い楽章に仕上がっている。ピアノのジャン・ユボー(1917年―1992年)は、フランス、パリ出身。 9歳でパリ音楽院への入学を許され、わずか13歳でピアノ科の首席となる。1935年「ルイ・ディエメ賞」受賞。ソリストとしても室内楽奏者としても著名なピアニストであった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇プーランクの室内楽曲集

2024-02-15 09:46:55 | 室内楽曲

 

プーランク:ピアノと管楽五重奏のための六重奏曲                      
        ジャック・フェヴリエ(ピアノ)                      
        パリ管楽五重奏団                          
           ジャック・カスタニエ(フルート)
           ロベール・カジェ(オーボエ)
           アンドレ・ブータール(クラリネット)
           ジェラール・フザンディエ(バスーン)
           ミシェル・べルジェ(ホルン)

     :クラリネットとバスーンのためのソナタ                       
        ミシェル・ポルタル(クラリネット)            
        アモリー・ヴァレ(バスーン)

     :ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ                       
        ロベール・カジェ(オーボエ)            
        ジェラール・フザンディエ(バスーン)

     :ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ                       
        アラン・シヴィル(ホルン)            
        ジョン・ウィルブラハム(トランペット)         
        ジョン・アイヴソン(トロンボーン)

録音:1964年1月20日(ピアノと管楽五重奏のための六重奏曲)     
   1972年3月3日(クラリネットとバスーンのためのソナタ/
          ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ)     
   1971年11月(ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ)

発売:1979年

LP:東芝EMI EAC-40137

 普段、ドイツ・オーストリア系の作曲家の音楽に馴れ親しんでいるリスナーが、フランス6人組(デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリック)の作曲家であるフランシス・プーランク(1899年―1963年)の曲を聴くと一瞬戸惑う。どうも耳に馴染まないのだ。そんなわけで、私はプーランクの曲には、これまであまり興味が湧かなかったというのが実情であった。今回、昔買っておいたプーランクのLPレコードを引っ張り出して聴きな直してみた。最初の内は、昔感じた通り、どうもしっくりとこなかった。しかし、このLPレコードに収められた室内楽の一部にハッとするような美しさを発見し、繰り返し、繰り返し聴いてみた。すると、何ということであろうか、今まで考えてもみなかったような、まったく新しい音楽の世界が目の前に現れたではないか。その結果、私は、今回初めてプーランクの曲が持つ、軽快、洒脱さ、そしてユーモアとアイロニー、そさらに知性もほどほどに盛り込まれた独特の感性にすっかり魅了されてしまったのである。ドイツ・オーストリア系の曲の多くが、何か思索的で、哲学的なのに比べ、プーランクを含んだフランス6人組の音楽は、感覚的で、情緒を大切にした音楽だと言えると思う。このため、プーランクの曲を聴く時は、皮ふ感覚で聴くに限る。つまり、その音楽と肌合いが合わなくては、どうも具合が悪いのだ。ところが、食わず嫌いと言う言葉があるように、プーランクの曲をほとんど聴かずに、嫌いだというリスナーが日本には多くいるように思う。このLPレコードのB面に収められた「ピアノ、オーボエとバスーンのためのソナタ」と「ホルン、トロンボーンとトランペットのためのソナタ」の2曲は、プーランクを初めて聴くリスナーにも聴きやすい曲であり、“プーランク初心者”には打って付けの曲と言える。このLPレコードに収められた全ての曲の演奏内容は、当時のフランスの最高峰の演奏家によるものだけに、いずれも聴き応え十分であり、満足が行く。プーランクは、パリで生まれ、15歳からスペイン出身の名ピアニスト、リカルド・ビニェスにピアノを師事。3年間の兵役の後、本格的に作曲を学ぶ。1920年に「コメディア」誌上に批評家のアンリ・コレが掲載した論文「ロシア5人組、フランス6人組、そしてエリック・サティ 」によって「6人組」の名が広まった。「6人組」は、声楽曲、室内楽曲、宗教音楽、オペラ、バレエ音楽、オーケストラなどあらゆる音楽ジャンルの楽曲を作曲した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シュナイダーハン&クリーンのシューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ集

2024-01-25 09:42:50 | 室内楽曲


シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番/第3番/第2番

ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン

ピアノ:ワルター・クリーン

録音:1965年1月4日~6日、ウィーン、ムジークフェライン 大ホール

LP:ポリドール SE 8010

 このLPレコードに収められたシューベルトの3つのソナチネは、1816年、シューベルト19歳の時の作品である。そのころ行われていたシューベルトの家での家庭コンサートのために作曲されたものと考えられている。シューベルト自身は、この3つのソナチネを「ヴァイオリンの伴奏をともなえるピアノ・フォルテのソナタ」と名付けていた。基本的には古典的な曲ということができるが、各所に如何にもシューベルトらしさが顔を覗かせており、3曲とも実に愛すべき作品に仕上がっている。特に第2番と第3番ではヴァイオリンが重視され、進歩の跡が窺える。シューベルトは、若い頃、「自分自身をモノにしようと、私はひそかに望んでいた。しかし、ベートーヴェンの後、誰が自分自身をモノにすることができるのであろうか?」と述懐していたという。これら3曲は、何の苦労もなく完成したかのように思われるが、実態は違っていた。このようなウィーンにおける家庭的な曲では、演奏家の素質が演奏の内容をを大きく左右することになる。その点、このLPレコードで共演しているヴォルフガング・シュナイダーハンとワルター・クリーンは、この曲を演奏するには、これ以上の適役はいないと言っても過言でないほど。ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)は、ウィーンでヴァイオリンを学んだ典型的なウィーンっ子。5歳で演奏会を開いて神童と騒がれたという。1933年から1937年までウィーン交響楽団のコンサートマスターを務め、1937年からはウィーン・フィルのコンサートマスターを務めた。1956年には、ルドルフ・バウムガルトナーとともにルツェルン音楽祭弦楽合奏団を創設している。一方、ワルター・クリーン(1928年―1991年)は、オーストリア・グラーツ出身のピアニスト。ウィーン音楽アカデミーでアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに師事。1951年と1952年のブゾーニ国際ピアノコンクールおよび1953年のロン=ティボー国際コンクールに入賞している。ウィーンの典型的ピアニストであり、ウィーンの伝統様式を新鮮な感覚で生かした演奏は、モーツァルトをはじめとして高い評価を得ている。このLPレコードにおける2人の演奏は、流麗で、しかも輝かしい光を放ち、ある時は憂いを帯びた陰影のある優美さに溢れている。一言で言えば、古きよき時代の名演奏とでも言ったらよいのであろうか。残念ながら、今ではもう、このような優美な演奏を聴くことはできなくなってしまった。(LPC)

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