★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルト指揮ハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団のブラームス:交響曲第4番

2023-12-11 09:45:31 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第4番

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:ハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9176

 ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、西ドイツの名指揮者。最晩年の1965年と1966年、1968年に来日して、NHK交響楽団を客演したが、この時の録音が遺されており、CDで今でもその優れた指揮ぶりを聴くことができる。カイルベルトは、1940年、プラハのドイツ・フィルハーモニー管弦楽団(バンベルク交響楽団の前身)の指揮者に就任した後、第二次世界大戦の終戦まで、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務めた。さらに1949年にバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、亡くなるまでその任にあった。また、1959年よりバイエルン国立歌劇場の音楽総監督に任命されたが、そのバイエルン国立歌劇場において「トリスタンとイゾルデ」を指揮している最中、心臓発作を起こして急死したのだ。その死の時の様子を菅野浩和氏は、このLPレコードのライナーノートに「それは、1968年6月2日、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』を振りながら、崩れるように倒れ、間もなく息をひきとったのである。・・・主役のビルギット・ニルソン等の悲泣の中に、とうてい代理指揮者で先を続けるなどという雰囲気のものではなく・・・」と記している。このLPレコードは、そのヨゼフ・カイルベルトがハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団を指揮したブラームス:交響曲第4番である。第1楽章の出だしからして、その柔らかい演奏に心が奪われてしまう。ヨゼフ・カイルベルトの指揮ぶりは少しも奇を衒ったところはない。あくまで自然の流れに沿った演奏内容であり、その真摯な演奏態度は敬服するものがある。これだけだと、ただ単に、こじんまりと演奏しているのに過ぎないのではないか、と思われるかもしれないが、このLPレコードでもそうだが、実にコクのある、深い味わいに満ちた音楽を聴かせてくれるのだ。私はこのLPレコードを聴き終わった後、「こんなにも美しくも深い慈愛に満ちたブラームス:交響曲第4番をこれまで聴いたことがない」と思ったほどだ。菅野浩和氏も「カイルベルトは、私が全面的に心酔していた指揮者だった」とこのLPレコードのライナーノートを書き記している。来日時にN響を指揮したブラームス:交響曲第4番のライヴ盤が遺されているので、実際にヨゼフ・カイルベルトの指揮する音楽を聴いて自分の耳で確かめてもらいたい。こんなにも素晴らしい指揮者が過去にいたのだということが実感できると思う。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノー・ワルター指揮コロンビア交響楽団のブラームス:交響曲第4番/悲劇的序曲

2022-05-16 09:45:01 | 交響曲(ブラームス)


ブラームス:交響曲第4番
      悲劇的序曲

指揮:ブルーノー・ワルター

管弦楽:コロンビア交響楽団

録音:1959年2月2、4、6、9、12日(ブラームス:交響曲第4番)
   1960年1月23日(ブラームス:悲劇的序曲)

発売:1979年

LP:CBSソニー 23AC 553

 コロンビア交響楽団とは、名指揮者ブルーノー・ワルターが引退したことに対して、是非ともステレオ録音を残してほしいという要望に応えて、臨時に結成されたオーケストラの名前である。このような例は、過去に例がなく、如何にワルターが当時愛された指揮者であったかを裏付けるものである。その一連のワルター指揮コロンビア交響楽団の録音の中でも、特筆されのが今回のLPレコードである。ブラームス:交響曲第4番の録音は、実にゆっくりとしたテンポで演奏される。何かワルターが自らの心の奥にある思いを吐露したような深遠さがある。この歴史的名録音を聴いていると、ワルターがこれまで自分が辿ってきた指揮者人生を振り返えり、そして最後に辿りついた結論がそこにあるような、誠に含蓄に富んだ演奏内容になっている。こう書くと何か単に後ろ向きの演奏内容に思われるが、ワルターの指揮は曲の持つ無限の可能性をオーケストラから引き出そうとし、その結果、一段と高い精神性を持った演奏内容となっている。このLPレコードのライナーノートで門馬直美氏は「ワルターの音楽の世界 つねに微笑を忘れず」というタイトルの文章を寄せているが、同氏はその中でワルターの演奏には「柔和な微笑の感じがいつも秘められている」と書いている。文字通り、このLPレコードでワルターは、“柔和な微笑”の指揮ぶりを、我々リスナーに存分に聴かせてくれる。ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)は、ドイツ出身の20世紀を代表する指揮者の一人。ベルリンのシュテルン音楽院を卒業後、最初はピアニストとしてデビューしたが、その後、指揮者に転向。1896年ハンブルク歌劇場で、当時音楽監督の地位にあったグスタフ・マーラーに認められる。その後マーラーとともにウィーンへ転任。ウィーン宮廷歌劇場(ウィーン国立歌劇場)楽長、ミュンヘン宮廷歌劇場(バイエルン国立歌劇場)音楽監督、ベルリン市立歌劇場(ベルリン・ドイツ・オペラ)音楽監督、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団楽長などを歴任。第二次世界大戦後はヨーロッパの楽壇に復帰すると同時に、ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽顧問を務めるなど、欧米で活躍した。1960年に引退したが、CBSレコードが、ワルターの演奏をステレオで収録するために、ロスアンジェルス付近の音楽家によるコロンビア交響楽団を特別に結成し、一連の録音が行われた。ワルターは、一度も日本を訪れることなく世を去ったが、日本人が最も敬愛する指揮者であったことは間違いない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ベイヌムのブラームス:交響曲第1番/大学祝典序曲

2022-03-10 09:41:33 | 交響曲(ブラームス)


ブラームス:交響曲第1番
      大学祝典序曲

指揮:エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム

管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

録音:1952年12月

発売:1978年

LP:キングレコード MX 9072

 このLPレコードは、”ロンドン永遠の名盤シリーズ”と銘打たれた中の1枚である。その名の通り、このブラームス:交響曲第1番の演奏は、永遠に残されるべき名演中の名演なのである。私は、数あるブラームス:交響曲第1番の録音の中でも、このベイヌム盤をそのトップに挙げたい。演奏しているエドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、LPレコード全盛時代のスター的存在であり、中でもこのブラームスの交響曲第1番は、極め付きの名演として、当時のクラシック音楽リスナーの多くが賛辞を送ったものである。ベイヌムは後年フィリップスにも録音を残しているが、このロンドンに残した録音は、音はあまり芳しいとは言えないが、ベイヌムの真価が記録されていることから、LPレコード時代には多くのファンから支持されていた。このベイヌムのブラームス:交響曲第1番を聴くと、その力強く、実に堂々とした指揮ぶりにいつも圧倒される。特に求心力の強いその指揮ぶりが印象的だ。圧倒的な迫力を持つ演奏であると同時に、細部にわたり気の行き届いた表現力も素晴らしい。そして全体にどことなく気品が漂った演奏なのである。ベイヌムは、他の指揮者には求められない、何かを秘めていた名指揮者であった。これは、小手先の演奏でなく、ブラームスへの心からの共感から生み出されたものであろう。エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム (1901年―1959年) はオランダ出身の指揮者。アムステルダム音楽院で、ピアノ、ヴィオラ、作曲を学ぶ。1920年にピアニストとしてデビューしたが、まもなく指揮者に転向し、1927年にプロの指揮者としてデビュー。1938年からは、メンゲルベルク(1871年―1951年)とともにアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者として活躍した。第二次世界大戦後の1946年、メンベルベルグがナチに協力したという理由で追放されたため、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の音楽監督兼終身指揮者に就任し、聴衆から圧倒的支持を受けた。その後、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者に就任(1949年~1951年)、さらに、1956年ロサンジェルス・フィルハーモニックの終身指揮者としても迎えられた。しかし、1959年の4月13日に、アムステルダムでブラームスの交響曲第1番のリハーサルを行っていた最中に心臓発作で倒れ、そのまま死去した。まだ、58歳であり、当時、世界の多くのファンを悲しませた。ブルックナーの演奏で知られたほか、バッハからドビュッシーに至るまで幅広いレパートリーを誇っていた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ロンドン・フィルのブラームス:交響曲第2番

2021-06-28 09:43:58 | 交響曲(ブラームス)


ブラームス:交響曲第2番

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1964年

LP:キングレコード MR 5034

 フルトヴェングラー(1886年―1970年)は、ブラームス:交響曲第2番について、3種類のレコードを遺している。それらは、①ウィーン・フィル盤(1945年1月28日)②ロンドン・フィル盤(1948年3月22~25日)③ベルリン・フィル盤(1952年5月7日)であり、今回のLPレコードは、②である。このLPレコードの最大の特徴は、ロンドン・フィルを指揮したという点であろう。フルトヴェングラーがロンドン・フィルを指揮して遺したLPレコードは、あまり記憶にない。この3種類の録音で、一番の出来が良いのは③であり、その次が①で、残念ながら②は、最後に位置づけられる。しかし、そうは言ってもフルトヴェングラーらしい奥深い解釈や、徐々に曲を盛り上げていく力強さなどは、到底他の指揮者の比ではないのだが、今一つ音も冴えず、一押しとまでは言いかねる録音ではある。ブラームスの交響曲第1番を「運命交響曲」とするならば、この第2番は差し詰め「田園交響曲」といったところ。全体に和やかで、平和な気分が横溢した曲であり、人気も高い。ブラームスは、1876年に完成した交響曲第1番の成功に気を良くして、翌年、たったの4か月という短期間で完成させたのが、この交響曲第2番である。交響曲第1番を北ドイツ的とするなら、この交響曲第2番は、オーストリア的な豊饒さが特徴であり、全体を通して、柔和で伸び伸びとした印象を持った曲だ。完成の年(1877年)の12月30日、ハンス・リヒター指揮ウイーン・フィルによって初演された。このLPレコードで演奏しているフルトヴェングラーは、1922年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団およびベルリン・フィルの常任指揮者、1927年にウィーン・フィルの常任指揮者に就任し頂点を極めたが、第二次世界大戦後は、戦時中のナチ協力を疑われ、演奏禁止処分を受ける。しかし、1947年 「非ナチ化」裁判の無罪判決を受け、音楽界に復帰し、最後はベルリン・フィルの終身指揮者に就任する。改めて、フルトヴェングラーがロンドン・フィルを指揮したブラームス:交響曲第2番のこのLPレコードを聴いてみると、実に細部まで神経が行き渡っている演奏に感心させられる。逆に言うとその分、メリハリが薄くなったことは否めないかもしれないが、この交響曲の特質上、致命的欠陥とはなってないのも事実。むしろ、いつものフルトヴェングラー節より、多少リラックスした、このLPレコードでのフルトヴェングラーの指揮ぶりの方が気楽に聴けていいのかもしれない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのブラームス:交響曲第3番/ 悲劇的序曲

2021-02-15 12:21:28 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第3番
      悲劇的序曲

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9129

 ブラームスは、1877年に第2交響曲を作曲した後、その翌年からヴァイオリン協奏曲、大学祝典序曲、悲劇的序曲、ピアノ協奏曲第2番といった協奏曲、管弦楽作品を書き上げる。そして第2交響曲から6年後の1883年に、温泉地として知られるヴィースバーデンに滞在し、第3交響曲を作曲した。ブラームスの交響曲の中では演奏時間が最も短いものの、ロマン的な叙情に加えて、憂愁の要素をも加わわった優れた作品に仕上がった。初演で指揮をしたハンス・リヒターは「この曲は、ブラームスの“英雄”だ」と言ったと伝えられており、このことから、この曲は現在まで「英雄」の愛称で親しまれている。しかし、ベートーヴェンの「英雄」のように、ナポレオンをイメージさせるような闘争性をブラームス:交響曲第3番に求めるのは少々無理があろう。より抒情味やロマンが多分に加味された交響曲だと言える。このLPレコードのもう一つの曲目は、同じくブラームスの悲劇的序曲である。この曲は、1880年に大学祝典序曲と一対になって作曲された作品。大学祝典序曲は、若々しくユーモアに満ちた曲想を持つのに対し、この悲劇的序曲は、曲名の通り悲劇的要素が目いっぱい盛り込まれているのが特徴だ。これはどの題材から取ってきたのかは不明だが、多分ブラームスが日頃から関心を寄せていたギリシャ悲劇ではなかろうかと言われている。「この曲を聴くと我々は鋼鉄のように仮借のない運命と闘争する偉大な英雄を思い浮かべる」(ディータース)とも表現されているとおり、交響曲第3番より、この悲劇的序曲の方が「英雄」の名に相応しいとも感じられるほど、力強く雄大な曲である。このLPレコードでこれら2曲を演奏しているのが、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルである。7度目のカラヤンの来日を記念して発売された全部で20枚のLPレコードの中の1枚で、全て同じコンビで録音されている。このLPレコードでのカラヤンの指揮は、手兵ベルリン・フィルを指揮した時とは大きく異なり、何かウィーン・フィルに対し遠慮がちに指揮しているといった内容なのが耳につく。カラヤン独特の雄大に曲を盛り上げるところは同じなのだが、完全にオケをリードして、自分のペースに持って行けるまでには至っていないように聴こえる。このため、このLPレコードでリスナーは、少々燃焼不足に陥るかもしれない。ただ、ブラームス:交響曲第3番の第4楽章や悲劇的序曲の前半部分の力強い表現力などは、カラヤン指揮ウィーン・フィルならではの迫力があり、聴き応え充分である。(LPC) 

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