★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇スメタナ弦楽四重奏団+チェロ(ミロス・サドロ)のシューベルト:弦楽五重奏曲

2023-03-30 09:40:15 | 室内楽曲


シューベルト:弦楽五重奏曲

演奏:スメタナ弦楽四重奏団

      ヴァイオリン:イルジ・ノヴァーク
      ヴァイオリン:ルボミール・コステッキ
      ヴィオラ:ミラン・シュカンパ
      チェロ:アントニーン・コホウト

   チェロ:ミロス・サドロ

録音:1973年6月16日~21日、プラハ

LP:東芝EMI EAC-80005

 シューベルトは、生涯に3曲の五重奏曲を書いている。その1曲が有名なピアノ五重奏曲「ます」である。この「ます」は、実に明るく、伸び伸びとしたメロディーが印象的な室内楽曲であり、クラシック音楽ファンでもなくても知っている名曲だ。後の2曲は、1816年に書かれた弦楽四重奏にヴァイオリンを加えた編成のロンド、それに今回のLPレコードであるシューベルトの死の年の1828年(31歳)に書かれた弦楽五重奏曲である。この弦楽五重奏曲は1828年の8月~9月にかけて作曲されものなので、死の2~3か月前に作曲された曲ということになる。そのためか、「ます」とは正反対に、何か自分の死を予感するかのように、曲全体が暗く、重苦しい雰囲気に満ちている。このためか「ます」ほどの人気はないし、シューベルトの全作品を通してみても人気がある曲とも思われない。しかし、この曲を充実度の尺度で測れば、「ます」を凌駕するどころか、シューベルトの全作品を通してみても、優れた曲の一つであることは疑いのないところである。人間の奥の底に潜んだ情感をこれほどまでに赤裸々に表現した作品は、ベートーヴェンのいくつかの室内楽作品を除けば、このシューベルトの弦楽五重奏曲しかないとさえ思えてくるほどの傑作中の傑作の曲なのだ。そんな曲をスメタナ弦楽四重奏団+ミロス・サドロ(チェロ)は、実に緻密に演奏している。余計な感情移入は極力避け、静かにシューベルトの心情を吐露して行く。このことが逆にリスナーに強い印象を与えることに繋がっている。スメタナ弦楽四重奏団とチェロのサドロの一体感は、特筆される演奏内容に仕上がっているのである。この曲でシューベルトは、チェロを重複して使用しているが、これは、ベートーヴェンがすでに亡くなり、シューベルトはベートーヴェンを踏襲するということより、独自の道を切り開こうとする意志の表れなのであろう。この曲の曲想の暗さは、二丁のチェロが醸し出す重々しさが軸となって展開する。シューベルトは、この弦楽五重奏曲でこれまでにない新しい音の世界をつくり上げようとしたと思われる。スメタナ弦楽四重奏団は、シューベルトの作品を得意としていた。シューベルトの曲が持つ歌心を存分に発揮するが、決して押しつけがましいところは微塵も感じられない。程よい緊張感を持ったリリシズムは、他のカルテットにはない独自の世界を持っていた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルト指揮ハンブルク国立フィルのブルックナー:交響曲第9番

2023-03-27 10:19:11 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第9番(原典版)

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団

発売:1978年

 LP:キングレコード GT 9180

 このLPレコードは、ドイツの名指揮者であったヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)を偲ぶ1枚である。カイルベルトは、ドイツ人として生まれ、ウィーン近郊の地バーデンで活躍し、そしてプラハでチェコ音楽を学んだ。第二次世界大戦後のドレスデンまたベルリンにおいて、主にオペラ指揮者としてその才能を開花させ、バイロイト祝祭劇場において名声を確固なものとした。そして終焉の地は、ミュンヘンのバイエルンのオペラ劇場であった。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を振りながら、崩れるように倒れ、間もなく息を引き取ったという。カイルベルトの指揮ぶりは、派手な所がないというよりは、地味な指揮そのものである。音楽自体もごく自然に鳴り響き、奇を衒ったところは微塵も感じられない。凡庸な指揮者なら、ただそれだけで終わるのであるが、カイルベルトのつくり出す音楽は、ただ、それだけで聴くものに強烈な印象を与えるところが凄いのである。これはカイルベルトが、その曲の真髄を誰よりも深く理解していることに他ならない。つまり、ただ表面的な激情を小手先だけでつくり出すような指揮者とは最も遠い存在だったのである。心の奥底からその曲に共感し、そして、脚色することなしに自然な形でリスナーに語りかけてくる。このLPレコードのブルックナー:交響曲第9番の指揮は、このカイルベルトの特徴がよく発揮されており、聴き終わったときのリスナーの感動は、他のどの指揮者にも増して大きなものに感じるのである。これは多分、カイルベルトが、古き良き時代を生きた指揮者だったからなのではなかろうか。ブルックナーは、交響曲第9番を1889年に着手し、第1楽章を書き上げるのに3年の年月を要した。第3楽章は1894年11月に完成したが、終楽章を完成させることなく、この世を去ってしまう。ブルックナーが最後にたどり着いたのが第9交響曲であったが、ベートーヴェンの第九と同じくニ短調で書かれていた。初演は、何と死後6年後の1903年にウィーンで行われたという。ブルックナーが生きていた時代は、ブルックナーの交響曲はなかなか理解されず、演奏不能といった理由で演奏を拒否されることもあったという。ブルックナーの交響曲の真価は20世紀に入ってから次第に認識され始め、1930年以降広く演奏されるようになり、現在では、マーラーのそれと並び、ブルックナーの交響曲は、演奏会にはなくてはならない作品となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルニエ&グルダのベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

2023-03-23 09:38:05 | 室内楽曲(チェロ)


ベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

LP:ポリドール(ヘリオドールレコード) MH 5037

 ベートーヴェンのチェロソナタは全部で5曲あるが、第1番と第2番が前期、第3番が中期、第4番と第5番が後期に書かれており、ベートーヴェンの生涯にわたってつくられている。このLPレコードには、初期の作品である第1番と第2番が収められている。2曲とも初期の作品らしく、若々しく、力強い印象を受ける。この2曲は、ベートーヴェン26歳(1796年)の時に作曲されたもので、モーツァルトを思わせる古典的な雰囲気と同時に、中期以降のベートーヴェンを彷彿とさせる個性も時々顔を覗かせ、興味深い作品に仕上がっている。第1番は、全体を通してピアノのパートの活躍が目立つが、これはベートーヴェン自身が、プロイセン国王のウィルヘルム2世の前でピアノを演奏することを念頭に置いて作曲したためとも言われており、若きベートーヴェンの意欲が滲み出ている作品そのものといった感が強い作品に仕上がっている。第2番は、まだハイドンやモーツァルトの影響力があるものの、その内面には中期以降花開くベートーヴェン的な前向きな意欲が感じられる。第1番も第2番も若々しさに満ちていることには変わりはないが、第2番の方が感傷性がより強く表現されている。この2曲のチェロソナタは、緩徐楽章を持っていないので、その代りに第1楽章にかなり長大なゆるやかな序奏を置いている。演奏しているのは、往年の名手であるチェロのピエール・フルニエ(1906年―1986年)とピアノのフリードリッヒ・グルダ(1930年―2000年)である。ピエール・フルニエは、フランスのチェロ奏者で、“チェロの貴公子”のニックネームを持ち、気品に溢れた演奏で世界中に多くのファンを持っていた。1923年にパリ音楽院を一等賞で卒業後、1924年、パリでコンサート・デビュー。1937年、31歳でエコール・ノルマル音楽院教授となる。1941年から1949年までパリ音楽院教授。ヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)、アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)との三重奏、さらにウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)を加えた四重奏など室内楽でも活躍した。親日家であり、日本にも多くのファンがいたことで知られる。ピアノのフリードリッヒ・グルダは、オーストリア出身の名ピアニスト。ジャズにも造詣が深いなど、型に嵌らない演奏で聴衆を魅了した。この二人が共演した、このベートーヴェンのチェロソナタの録音は、名人同士の掛け合いが融和し、見事な演奏効果を生み出している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇チャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルのシベリウス:管弦楽秘曲集

2023-03-20 09:36:29 | 管弦楽曲


~北欧の抒情シリーズ シベリウス:管弦楽秘曲集~

シベリウス:春の歌
      ダンス・インテルメッツォ
      森の精(管弦楽のための音画)
      パンとエコー
      アンダンテ・フェスティヴォ
      ヴァルス・ロマンティク
      カンツォネッタ
      美しい組曲(フルートと弦楽のための)
      田園組曲
      ロマンス

指揮:チャールズ・グローヴズ

管弦楽:ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐30357

 シベリウスの管弦楽曲というと、交響詩「トゥオネラの白鳥」を含むレンミンカイネン組曲(4つの伝説曲)、交響詩「フィンランディア」、交響幻想曲「ポホヨラの娘」、交響詩「タピオラ」、劇音楽/組曲「ペレアスとメリザンド」、劇音楽「テンペスト(嵐)」・・・などを思い浮かべる。そして、それらの曲の内容の素晴らしさに気づかされる。これらの曲は、いずれも北欧音楽特有の美しいメロディーと透明感ある響きに満ちたもので、クラシック音楽の中でも独特の位置を占めている。特に祖国愛に溢れた交響詩「フィンランディア」などは、聴いているうちに熱い思いが胸に迫ってくる名曲中の名曲だ。そんな傑作の多い、シベリウスの管弦楽曲の中でも、「アンダンテ・フェスティヴォ」以外、現在ではあまり演奏されなくなった曲を集めたのが、今回のLPレコードである。現在ではあまり演奏されなくなったといっても、それはシベリウスのこと、それらのすべてが優れた曲であることに、少しも変わりがなく、逆に現在演奏されなくなった理由が分らないほど、それぞれの曲が優れた内容を持っている。「春の歌」は、実に愛らしい雰囲気を持った小曲で、これだけ聴いただけで、シベリウス独特の音の世界を堪能できる。「ダンス・インテルメッツォ」と「森の精」は、第3交響曲から第4交響曲の作曲時期にあたるもので、交響詩風な雰囲気を持っており、特に「森の精」は、第4交響曲を先取りした作品と言われている。現在でもしばしば演奏される「アンダンテ・フェスティヴォ」は、シベリウスの葬儀の際に演奏されたという力作である。最後に収められている「ロマンス」は、有名な交響曲第2番の前に作曲された作品で、若い頃のシベリウスの作風が垣間見えて興味深い。ここではチャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルのコンビが、北欧の自然をほうふつとさせる、いずれも説得力のある名演を聴かせる。伸びやかなオーケストラの響きがリスナーの心を和ませ、目の前に北欧の自然が広がるような錯覚を覚えるほど。指揮のチャールズ・グローヴズ(1915年―1992年)は、イギリス、ロンドン出身。BBCノーザン管弦楽団(現BBCフィルハーモニック)、ボーンマス交響楽団の首席指揮者を務めた。さらにウェールズ・ナショナル・オペラ音楽監督、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、イングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督などを歴任。(LPC)   

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◇クラシック音楽LP◇ブレンデルのシューマン:幻想曲/交響的練習曲

2023-03-16 09:46:23 | 器楽曲(ピアノ)

~ブレンデル・シューマン・アルバム~

シューマン:幻想曲
               交響的練習曲

ピアノ:アルフレッド・ブレンデル

発売:1980年

LP:キングレコード(VANGUARD) SLL 1004

 このLPレコードは、もう引退してしまったが、現役時代は名ピアニストの名をほしいままにしていた、チェコ出身のアルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)のシューマンの2曲のピアノ独奏曲を録音したものである。シューマンのピアノ独奏曲は、これまで数多くのピアニストが録音してきているが、真にシューマンの精神を表現し得た録音は意外と多くないことに気づく。それは、シューマン独特のもやがかかったようなロマンの雰囲気に加えて、一方では評論家精神に満ちたような客観性の発露が曲の奥底に隠され、この相反する2つの精神構造が一つに合わせられた時だけ、豊かなシューマンの世界が馥郁と香り出すということに他ならないからだ。ここでのアルフレッド・ブレンデルの演奏は、この難しい課題をいとも簡単にも実現させており、同時に奥深さも併せ持った、一つのシューマン像を鮮やかに描き切っていて、見事というほかない演奏に仕上げている。これほどシューマンに共感を持った演奏は、そう滅多に聴けない。ブレンデルのピアノ演奏は、中庸を得たもので、伸び伸びとして極めて健康的で、音色そのものに陰りがない。それでいてシューマン独特のロマンの世界を思う存分リスナーの前に繰り広げてくれる。幻想曲は、1836年―1838年の間に作曲された、シューマンのピアノ独奏曲の中でも傑作としてしられた曲。この曲は、ベートーヴェン没後10周年を記念して建てられることになった記念碑の建設資金のために、当初はソナタとして作曲されたという。一方、交響的練習曲は、1834年に作曲された。練習曲と変奏曲とを結び付けたような曲で、これもシューマンを代表するピアノ独奏曲として、今なお多くの人から愛されている曲。アルフレッド・ブレンデルは、チェコの北モラヴィア地方のヴィーゼンベルクの生まれ。1943年にオーストリアのグラーツに移り、グラーツ音楽院で学ぶ。1947年に音楽教員の資格を取得するためにウィーンへ行き、ウィーン音楽院で学ぶ。1970年にフィリップスと専属契約を結び、リリースしたレコードでその名声を決定づける。レパートリーは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンなど、ドイツ・オーストリア系の作品を得意とし、中でもベートーヴェンとシューベルトのピアノソナタ全集を3回にわたって録音しているほど。2008年12月のコンサートをもって引退を表明。(LPC) 

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