★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ピエール・モントゥー指揮ウィーン・フィルのシューベルト:「ロザムンデ」から/メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」から

2022-07-28 09:49:31 | 管弦楽曲


シューベルト:劇付随音楽「ロザムンデ」から序曲/間奏曲/バレエ音楽第1番/同第2番
メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」から序曲/スケルツォ/夜想曲/結婚行進曲

指揮:ピエール・モントゥー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1980年

LP:キングレコード K15C 8016

 シューベルトの劇付随音楽「ロザムンデ」は、ヘルミーナ・フォン・シェジー夫人の4幕の戯曲「キプロスの皇女 ロザムンデ」の劇音楽をシューベルトが依頼され、5日で作曲したもので、全部で10曲からなる。初演に際しては、序曲にシューベルトがその少し前に書いた歌劇「アルフォンゾとエストレルラ」の序曲が転用されている。その後、この曲は演奏される機会がなかったが、シューベルト自身がピアノ四手用に編曲した際に、序曲を戯曲「魔法のたて琴」の序曲に変えたが、現在はそれが使われている。中でも間奏曲は有名であり、誰でも一度は耳にしたことのある名曲中の名曲。メンデルスゾーンの劇付随音楽「真夏の夜の夢」は、シェークスピアの戯曲の劇音楽として作曲したもので、全部で13曲からなるが、最初の序曲だけがピアノ四手用としてまず作曲され、それ以外の曲はその17年後に書かれた。この中の結婚行進曲は余りにも有名な曲。この2曲の劇付随音楽を指揮するピエール・モントゥーの棒は、通常の指揮者の演奏とは大きく異なり、しみじみとした情感に溢れ、劇とは独立した一般の演奏会用の管弦楽として十分通用できるレベルにまでに高められている。これはもうピエール・モントゥーの至芸を聴く盤と言える。ピエール・モントゥー(1875年―1964年)はフランス、パリ出身。パリ音楽院でヴァイオリンを学び、在学中から指揮活動を行う。パリ音楽院卒業後はパリ・オペラ=コミック座やコロンヌ管弦楽団の楽員を務めたが、1906年にコロンヌ管を指揮してデビュー。1916年、アメリカに渡り、メトロポリタン歌劇場の首席指揮者に就任。さらに、ボストン交響楽団常任指揮者・音楽監督を歴任。1929年にパリ交響楽団の創立時の常任指揮者を務める。1935年からはサンフランシスコ交響楽団の常任指揮者となり、同楽団の黄金時代を築く。1961年にはロンドン交響楽団の首席指揮者となり、死去するまでその地位にあった。このLPレコードでのモントゥーの指揮ぶりは、シューベルト:劇付随音楽「ロザムンデ」では、静謐の極みともいうべき精緻な音づくりが誠に持ってリスナーには限りなく心地良く聴こえる。これほど情感あふれた「ロザムンデ」そう滅多に聴かれるものではない。歌うべきところは歌うが、決して則を越えることはないのだ。一方、メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」では、一転して軽快な音の運びが強調される。次々に湧き起ってくるメロディーは、このまま永遠に続くかのように感じられるほど。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番

2022-07-25 09:42:31 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番

弦楽四重奏:バリリ四重奏団

          ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)
          オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
          ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)
          エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

発売:1965年

LP:キングレコード MR 5096

 バリリ四重奏団は、1954年に結成された名高い弦楽四重奏団である。このLPレコードが録音された当時のメンバーは、第1ヴァイオリンがウィーン・フィルのコンサートマスターのワルター・バリリ、第2ヴァイオリンがウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者のオットー・シュトラッサー、ヴィオラがウィーン・フィルのヴィオラ首席奏者のルドルフ・シュトレンク、そしてチェロのエマヌエル・ブラベッツであった。バリリ四重奏団の演奏の特徴は、何といってもウィーン風のスタイルにある。一度その優雅な響きを聴くともう忘れられなくなるような魅力に富んだ深みのある音色なのだ。決してリスナーに対して押し付けがましいところがなく、その表現は奥ゆかしさに包まれている。そして単に優雅であるだけでなく、芯の強さが隠されているところが、その演奏に厚みと奥行きを与えている。このLPレコードのライナーノートに、バリリ四重奏団が「現在レコードで聴かれる数多くの弦楽四重奏団の中でも最も愛好家達に親しまれているグループである」と書かれている通り、当時の人気は絶大なものがあった。そのバリリ四重奏団も既にに解散(1969年)してしまったが、彼らが遺した録音は、現在でも一部のリスナー達からは熱烈に愛され続けている。特にベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲の録音は、未だにこれを越えるものは見当たらないと言っていいほどの高みに立った演奏内容となっている。4人の息がピタリと合い、その深みのある演奏内容は、何と言ってもベートーヴェンの弦楽四重奏曲に一番よく似合うのである。このLPレコードに収められたベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番は、全部で7つの楽章からなる、ベートーヴェンが死の前年の1826年に完成した後期の傑作中の傑作の弦楽四重奏曲だ。出版されたのは、ベートーヴェンが亡くなった後で、生前には一度も演奏されることはなかったという。7つの楽章という他に例をみない形態となっているが、実際には第3曲と第6曲がそれぞれ次の楽章の序奏の意味合いをもっていることから、実質的には全部で5つの楽章からなる曲と解釈できる。全曲は、間断をを入れずに連続して演奏される。このためこの弦楽四重奏曲第14番は、単楽章からなる曲のようにも感じられる。いずれにせよ、ベートーヴェンが晩年に到達した深い精神性に基づいて書かれた曲だけに、バリリ四重奏団が持つ深みのある表現力が一層冴えわたる演奏内容となっているのだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

2022-07-21 09:48:39 | 交響曲(ベートーヴェン)


ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AB・8057

 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886年―1954年)は、ドイツの指揮者として、過去の指揮者の中でも別格的存在であり“神様”みたいな存在だ。当時、フルトヴェングラーが一度オケの練習場に姿を現せば、それだけでオケの全員がそれまでの演奏とは違うレベルの高い演奏をしたという。要するにカリスマ的存在であったわけである。我々リスナーにとってもフルトヴェングラーの存在は偉大そのものであり、私などは今でも、それまでの姿勢を正し、正座して聴かなければならいような雰囲気を感じてしまうのである。そんな“神様”のフルトヴェングラーが、ベートーヴェンの「田園」をウィーン・フィルを指揮したのがこのLPレコードである。ベートーヴェンがウィーンの郊外を散策して作曲したと言われる「田園」ではあるが、その頃からベートーヴェンの耳は聴こえなくなりつつあり、どうも我々が考える田園風景をただ単に描写した交響曲といった印象とは少々違った側面を持つ曲なようだ。このフルトヴェングラーの残した「田園」を聴くと、単なる田園描写の曲でなく、ベートヴェンが目で見て、心で感じた田園風景を五線譜に書き留めたということが、手に取るように分る類稀な演奏であることが聴き取れる。つまり、この演奏は、表面的な描写は避け、心で感じた田園を表現し、それと同時に交響曲としての骨格を充分に表現仕切っている。ベートーヴェン自身この交響曲第6番「田園」の各楽章に次のような表題を付けている。第1楽章:田園に着いた時の愉快な気分の喚起、第2楽章:小川のほとりの風景、第3楽章:田園の人々の楽しい集い、第4楽章:雷雨と嵐、第5楽章:牧歌―嵐の後の喜ばしい感謝にみちた感じ。通常の指揮は、これらの標題に相応しく演奏されるのが常であるが、フルトヴェングラーは、このLPレコードにおいて敢えてそうはしていない。普通「田園」の演奏というと、我々が常日頃感じている自然、つまり、陽気な明るさ、さわやかさ、牧歌的な表現に徹するのが普通であるが、全体の演奏スタイルはごくオーソドックスなスタイルをとってはいるものの、フルトヴェングラーの「田園」は、重々しく、どちらかというと哲学的であり、確固とした構成美の上に成り立っている。ベートーヴェンにとって自然とは、神の如く慈悲深く、偉大で、絶対的なものであった。フルトヴェングラーの演奏は、ベートーヴェンのそんな自然に対する思いを的確に表現しているのだ。やはりフルトヴェングラーは“神様”であった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇旧東独の名演奏家たちによるブラームス:ワルツ集「愛の歌」「新・愛の歌」

2022-07-18 09:54:46 | 合唱曲


ブラームス:ワルツ集「愛の歌」
 
         1.いってくれ、世にも愛らしい少女よ(四重唱)
         2.巌の上を水が流れる(四重唱)
         3.おゝ、女というものは(テノール、バス)
         4.夕べの美しいくれないのように(ソプラノ、アルト)
         5.緑のホップのつるが(四重唱)
         6.一羽の小さな、かわいい小鳥が(四重唱)
         7.とてもうまくいっていた(ソプラノ、アルト)
         8.お前の瞳がそんなにやさしく(四重唱)
         9.ドナウの岸辺に(四重唱)
         10.おゝ、なんとおだやかに(四重唱)
         11.いいや、ぼくは世間の奴らと(四重唱)
         12.錠前屋よ、起きろ(四重唱)
         13.小鳥が大気をそよがせて飛ぶ(ソプラノ、アルト)
         14.ごらん、波がなんと明るいことか(テノール、バス)
         15.夜鶯があんなに美しく歌っている(四重唱)
         16.恋は真っ暗な、深い穴だ(四重唱)
         17.歩きまわるんじゃない(テノール)
         18.繁みがふるえている(四重唱)

      ワルツ集「新・愛の歌」

         1.救助は諦めるがいい、おゝこころよ(四重唱)
         2.夜の暗黒のとばり(四重唱)
         3.両手のどの指にも(ソプラノ)
         4.お前たち、黒い瞳よ(バス)
         5.あんたの坊やを(アルト)
         6.母が私にバラをつけてくれる(ソプラノ)
         7.山から津波のように(四重唱)
         8.猟区のやわらかな草のしとねは(四重唱)
         9.私の胸を噛む(ソプラノ)
         10.ぼくは甘い囁きをかわす(テノール)
         11.みんなみんな風に吹き散る(ソプラノ)
         12.黒い森よ(四重唱)
         13.だめ、恋人よ(ソプラノ、アルト)
         14.炎のような瞳、黒い髪(四重唱)
         15.終曲(四重唱)
      
ソプラノ:バーバラ・ホエネ
アルト:ギゼラ・ポール
テノール:アルミン・ユダ
バリトン:ジークフリート・ローレンツ

ピアノ:ディーター・ツェヒリン
ピアノ:クラウス・ベスラー

指揮:ヴォルフ・ディーター・ハウシェルツ

録音:1974年3月8日~16日、ベルリンクリストス教会

LP:徳間音楽工業(エテルナレコード) ET-3063

 ブラームスの音楽は、ドイツの深い森のように深遠な曲がほとんどであり、晦渋さがその全体を覆い尽し、渋い感覚が独特の雰囲気を醸し出している作品が多い。このため、人生の奥深い迷路のような局面を表現する曲には打って付けではあるが、何か重々しく、息苦しくなる時もままある。ところが、このLPレコードの4手のピアノと4声部のために書かれたワルツ集「愛の歌」「新・愛の歌」だけは例外で、陽気で心が弾むような曲からなっている歌曲集である。特に、1869年に書かれた「愛の歌」は、ブラームスがシューベルトを思い浮かべながら書いたと言われ、ウィーンの舞曲を基に作曲したものであり、陽気で、心が浮き浮きしてくるような楽しい18曲からなる。ワルツといっても指定は“レントラーのテンポで”となっている。その4年後に書かれたのが「新・愛の歌」であり、全部で15曲からなる。こちらの方は、特にレントラーといった指定はないが3/4拍子で書かれており、「愛の歌」の続編と言えるもの。曲自体の楽しさと、それまでのブラームスのイメージを一新したという意味では、最初の「愛の歌」の方に軍配が上がろうが、曲の充実度としては「新・愛の歌」の方に軍配が上がるのではなかろうか。ここで歌っている独唱陣は旧東ドイツの歌手であるが、その完璧な歌唱技術には脱帽させられる。4手のピアノ演奏との相性も抜群に良く、この2つの曲集を聴くのには、全くもって申し分がない。「愛の歌」は、ゲオルク・フリードリヒ・ダウマーの「ポリドーラ」(ロシア、ポーランド、ハンガリー等の民族的な詩をドイツ語に翻訳したもの)という詩集によった全部で18曲からなる歌曲集。内容は文字通り“恋愛”をテーマとしたもので、男と女それぞれの心理が描かれている。1868年~69年にかけて作曲され、初演は1869年にクララ・シューマンとヘルマン・レヴィのピアノと4人の歌手によって、まず10曲のみが演奏された。全曲の初演は翌年の1870年にブラームスとクララ・シューマンのピアノと4人の歌手で行われた。1874年にブラームスは、声楽パートを省き、ピアノ・パートを部分的に変更した連弾版を作成し、これを作品52aとして出版している。その後、ブラームスは、同じくダウマーの詩によって「新・愛の歌」を作曲したが、全15曲のうち、第15曲目だけはダウマーでなく、ゲーテの「アレクシスとドーラ」という詩に作曲した。「愛の歌」と同じ趣旨だが、女声のほうが積極的な内容になっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イタリアオペラの名指揮者トゥリオ・セラフィン指揮ローマ歌劇場管弦楽団のロッシーニ序曲集

2022-07-14 09:39:57 | オペラ


~ロッシーニ序曲集~

歌劇「どろぼうかささぎ」序曲
歌劇「絹のはしご」序曲
歌劇「ウィリアム・テル」序曲
歌劇「セビリャの理髪師」序曲
歌劇「セビリャの理髪師」から「嵐の音楽」
歌劇「セミラーミデ」序曲

指揮:トゥリオ・セラフィン

管弦楽:ローマ歌劇場管弦楽団

録音:1963年10月4日~7日、ローマ、RCAスタジオ

LP:ポリドール SE 7810

 ロッシーニ(1792年―1868年)は、イタリアの作曲家であるが、ウィーンに滞在したときなどは、かのベートーヴェンを上回る人気を得ていたという。私はロッシーニの名を聞くと、もっと年代が後の作曲家というイメージがあり、ベートーヴェンの時代に活躍したと聞いてもどうもぴんとこない。その理由の一つは、今回のLPレコードでも聴ける、いかにもイタリア人らしく明るく陽気な人気歌劇を数多く作曲したことと無縁ではない。つまり、今日の日常生活の状況とあまり変わらない存在としてのロッシーニ像がそこにはあり、距離感がぐっと近く感じられるからである。生涯に40数曲のオペラを書いたというが、1830年以降、神経性の疾患を患い作曲活動から遠ざかることになり、晩年に「スターバト・マーテル」を書いたのみに留まった。ということは、今遺されているロッシーニの作品は、若い時代に作曲したものがほとんどで、ベートーヴェンみたいに中期から後期にかけての傑作の森みたいな作品群が存在しないのである。もし、ロッシーニが中期から後期にかけて作曲活動を活発に行っていたならば、作品から受ける印象は今とは大分違っていたであろう。このLPレコードで指揮をしているトゥリオ・セラフィン(1878年―1968年)は、スカラ座、ローマ国立歌劇場の音楽監督を務め、メトロポリタン歌劇場でも活躍したイタリア・オペラの名指揮者。このLPレコードでの何とも粋な指揮ぶりを聴くと、私などは、今でも“心踊り、血騒ぐ”といった塩梅で、自然と興奮状態になってしまう。かつての日本は、こんな陽気な曲がしょっちゅうラジオから流れていた、今考えると何ともいい時代だった。歌劇「どろぼうかささぎ」序曲は、長い序奏を持つソナタ形式で書かれた曲。歌劇「絹のはしご」序曲は、「ウィリアムテル」や「セビリャの理髪師」序曲ほど有名ではないが、各楽想の魅力と上品な味わいが一際際立つ。歌劇「ウィリアム・テル」は、スイスの独立運動を扱った物語で当時の人々の血を沸き立たせた。序曲は、「夜明け」「嵐」「牧歌」「スイス独立軍の行進」の4部構成の描写風音楽。歌劇「セビリャの理髪師」は、今日でもしばしば上演される。序曲は、「イギリス女王、エリザベッタ」という歌劇からの転用。歌劇「セビリャの理髪師」から「嵐の音楽」は、第2幕、第2場で奏される嵐の場面の音楽。歌劇「セミラーミデ」序曲は、ロッシーニの序曲中、最も長大で力強さが感じられる曲である。(LPC)

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