★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フルニエ&バックハウスのブラームス:チェロソナタ第1番/第2番

2021-01-28 09:40:51 | 室内楽曲(チェロ)

 

ブラームス:チェロソナタ第1番/第2番

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

発売:1974年

LP:キングレコード MZ5119

 ブラームスは生涯で2曲のチェロソナタを作曲した。これらのチェロソナタは渋く、とっつきにくい印象を持たれがちだが、曲の仔細を聴き進むと、リスナーは、これらの2曲が豊かな情感と確固たる構成美を持ったチェロソナタの傑作であることに気付かされる。2曲とも聴き終わった後の充実感は、ブラームスの他の室内楽作品に決して引けを取らない。第1番は1865年の夏に完成された作品。この曲は、ブラームスの友人のヨーゼフ・ゲンスバッヒャーに捧げられ、1865年にゲンスバッヒャーのチェロ、ブラームスのピアノで初演された。第2番は、この20年後の1886年の夏に作曲された。晩年のブラームスの室内楽作品らしく、渋く、重いが、第1番がチェロの低音が強調されているのに対し、この第2番は、チェロは低音から高音までの旋律を活発に奏でる。第1番より簡潔に書かれているが、演奏には第1番以上の技巧を要する曲であることが聴き取れる。このLPレコードでのチェロを演奏しているのは、フランスの名チェリストのピエール・フルニエ(1906年―1986年)である。如何にもフランス人演奏家らしく、気品のある格調の高い表現力で、その当時「チェロの貴公子」と呼ばれ、日本でも多くのファンを有していた。このLPレコードでピアノを演奏しているのがドイツ出身の名ピアニストのウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)である。バックハウスは、1905年、パリで開かれたルビンシュタイン音楽コンクールのピアノ部門で優勝。1946年にはスイスに帰化している。若い頃は「鍵盤の師子王」とまで言われたほどの技巧派であったが、歳を取るにつれて、深い精神性を持つピアニストとして、多くの人の尊敬を集めていた。初来日は、フルニエと同じ1954年。このLPレコードでのピエール・フルニエのチェロ演奏は、実に優雅で美しい響きを存分に聴かせてくれる。ブラームス:チェロソナタというと、その渋さがことさら強調されがちだが、ここでのフルニエのチェロ演奏は、それらとは一線を隔するように演奏自体に滑らかさがあり、決してごつごつした武骨な印象をリスナーに与えない。何か、フォーレとかサン=サーンスのチェロの演奏を聴いているみたいに、穏やかであり、深い静かさが辺りに宿っている演奏内容である。一方、バックハウスのピアノ演奏は、伝統的なドイツ音楽のがっしりとした構成美に貫かれたものとなっている。一見するとこれら二人の演奏は馴染まないかに思われがちだが、実際にこのLPレコードを聴いてみると、実にしっくりと溶け合い、少しの不自然さも感じさせない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リパッティのショパン:ピアノ協奏曲第1番/練習曲op.25-5/練習曲op.10-5「黒鍵」/ピアノソナタ第3番(ライヴ録音)

2021-01-25 09:36:03 | 協奏曲(ピアノ)

 

ショパン:ピアノ協奏曲第1番
     練習曲op.25-5
     練習曲op.10-5「黒鍵」
     ピアノソナタ第3番

ピアノ:ディヌ・リパッティ

指揮:オットー・アッカーマン

管弦楽:チューリッヒ・トンハレ管弦楽団

録音:1950年2月7日、チューリッヒ、トンハレ(ライヴ録音)

LP:東芝EMI EMI‐60193

 今回のLPレコードであるディヌ・リパッティ(1917年―1950年)のピアノ独奏によるショパン:ピアノ協奏曲第1番のライブ録音盤の発売の背景には、いわく因縁がある。きっかけは、あるイギリスのラジオ番組へ次のような投書が寄せられたこと。その投書には「ルーマニアのヴィルトオーゾであった故ディヌ・リパッティの稀な録音の一つとして、10年以上にもわったって発売されているショパンのピアノ協奏曲第1番のレコードは、ポーランドのピアニストのハリーナ・チェルニー=ステファンスカの同じ曲のレコードとまったく同じです」と綴られていたのだ。そのラジオ番組で2つのレコードを聴き比べてみると、まったく同じ録音だということが判明した。リパッティのLPレコードは、1965年にEMIから発売され、一方、チェルニー=ステファンスカのLPレコードの発売は、1950年代のはじめだった。ここまでなら、録音の差し違えということで話は終わってしまうが、事実はそれで終わらなかった。今度は同じ曲のリパッティの新発見の録音テープが出てきたというのだ。この録音テープは、1950年2月7日にスイス放送によって録られたもので、これは同じ日のコンサートでリパッティが弾いた練習曲op.25-5、同練習曲op.10-5「黒鍵」、ピアノソナタ第3番の録音があることから本物と認定され、リパッティ夫人も本物であることを認めたという。リパッティが世を去るのが1950年12月2日(33歳)なので、このLPレコードは最後のライブ録音となった貴重なもの。リパッティのピアノ演奏は、崇高で格調が高く、純粋な美しさに彩られたもので、多くのファンから支持された伝説のピアニスト。その録音は、現在でも多くのリスナーから支持されており、その名は今後も忘れ去られることはないだろうとさえ思われる。この新発見のLPレコードは、リパッティのピアノの音だけは、奇跡ともいえるほど鮮明に録られており、今でもその存在価値は少しも失われないと言っていい。ピアノ協奏曲第1番第1楽章の出だしから、リパッティのピアノタッチは力強く、この10か月後にこの世を去るピアニストの演奏とは到底思えない強靭さを秘めている。流れるようなメロディーを弾くときのリパッティの演奏は、あたかも歌を歌うかのように柔らかな演奏に終始し、ショパン:ピアノ協奏曲第1番の魅力を最大限に引き出すことにものの見事に成功している。特に驚かされるのは、ピアノタッチの透明感ある正確さであり、その一音一音がこぼれんばかりに生命力を秘めていることである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ワルター・ギーゼキングのモーツァルト:ピアノソナタ第12番/8つの変奏曲K.460/ピアノソナタ第15番/12の変奏曲K.354/幻想曲K.396

2021-01-21 09:41:55 | 器楽曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノソナタ第12番K.332
       8つの変奏曲K.460
       ピアノソナタ第15番K.545
       12の変奏曲K.354
       幻想曲K.396

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

LP:日本コロムビア OL-3119、

 これは、ドイツ出身の名ピアニストのワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)がモーツァルトの2つのピアノソナタと2つの変奏曲、それに一つの幻想曲を収録したLPレコード。ドイツ出身と言っても生まれはフランスで、16歳の時に母の故郷であるドイツ・ハノーヴァーに移り住んだ。このことがギーゼキングのピアノ演奏の特徴を形成する源になった。ギーゼキングは、楽譜に忠実に演奏するスタイルを確立し、ピアノ演奏を近代的なものに生まれ変わらせた第一人者だ。楽譜に忠実にと言っても、ギーゼキングの場合は、教科書的で堅苦しい演奏とは無縁で、聴けば聴くほどピアノ演奏の楽しさを実感させてくれるのだ。しかもそれが、インターナショナル的な普遍性に貫かれている。これは、ギーゼキングがドイツとフランスの両方の影響を受けてきたことが大きく反映された結果だと思う。ドビュッシーを弾く時も、バッハを弾く時も、そしてこのLPレコードのようにモーツァルトを弾く時も、その弾く姿勢は全く同じなのだが、出てくる音楽は、ドビュッシー、バッハ、そしてモーツァルトそれぞれの音楽の本質に迫るものが盛り込まれている。つまり、ギーゼキングの場合は、ドイツ音楽だ、フランス音楽だ、などという区分は存在しない。そこにあるのは、純粋な音楽そのものなのである。だからギーゼキングの遺した録音を今聴いても少しも古めかしさは感じない。このLPレコードに収録されたモーツァルト:ピアノソナタ第12番K.332は、モーツァルトが母親と6か月にわたりパリに滞在した時に書かれた5曲のピアノソナタの第4曲目の作品。モーツァルトはイタリア旅行で“ギャラント・スタイル”の音楽に惹かれ、それがパリで開花し、5曲からなる“パリソナタ”を生み出したと考えられている。ピアノソナタ第12番K.332はポピュラリティこそ低いが、これらの中でも特に内容が充実した作品。8つの変奏曲K.460 は、当時のオペラの大作曲家サルティ(1729年―1802年)の曲をもとにした変奏曲。ピアノソナタ第15番K.545は、モーツァルトが借金に追われていた頃書かれた曲でありながら、天真爛漫な明るさに満ちた作品。12の変奏曲K.354 は、「セビリアの理髪師」の原作者のポーマルシェが書いたとされる曲をもとにした変奏曲。幻想曲K.396は、1782年に書いたヴァイオリンソナタの第1楽章をシュタットラーが幻想曲に編曲した曲。これらいずれの曲に対しても平等に、ギーゼキングは全力投球で演奏していることがよく聴き取れる。小さな曲でも、すべて大曲みたいな感じが漂う力演集。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」/第36番「リンツ」/6つのドイツ舞曲集

2021-01-18 09:50:36 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
       セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」
       交響曲第36番「リンツ」
       6つのドイツ舞曲集

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルク交響楽団

発売:1978年

LP:キングレコード(テレフンケンレコード) GT 9166

 このLPレコードは、“ヨゼフ・カイルベルトの芸術”と銘打った15枚からなるシリーズの中の1枚。ヨーゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、ドイツの指揮者。第二次世界大戦以前は、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務め、戦後は、チェコスロヴァキアを脱出したドイツ人演奏家が主体となって結成されたバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、終生その地位にあった。さらにベルリン国立歌劇場音楽総監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを務め、戦後のドイツを代表する指揮者の一人であった。その指揮ぶりは、実に正統的なもので、少しの誇張のない、重厚な響きが特徴。派手なところはないが、音楽を歌わせるところは存分に歌わせ、その解釈は玄人を唸らせるほど内容が深いものがあった。このLPレコードは、そんなカイルベルトがモーツァルトの作品4曲を手兵のバンベルク交響楽団を指揮した録音。交響曲第35番「ハフナー」は、最初から実に堂々とした指揮でスタートする。細部まで目が行き届いた指揮ぶりに感心させられる。奇を衒うところは寸分もなく、あくまで正攻法なのだが、聴き進めていくと、リスナーの耳には豊かな音の響きが心地よく届き、モーツァルトの音楽の面白みがひしひしと伝わってくる。バンベルク交響楽団の演奏は、カイルベルトが手塩にかけて育てただけあって、実に緻密で颯爽とした演奏を披露する。音楽が、川の流れの如く、自然に流れす進むのだ。これは簡単のようだが、実際には難しい奥義ような技術であり、精神的にも一段と高い位置にある演奏家達でなければ到底表現することが難しい技であろう。バンベルク交響楽団の団員達は、カイルベルトの指揮に、全員が心を一つにして、一心不乱に演奏している様が、録音を通してリスナーに熱く伝わってくる。次の交響曲第36番「リンツ」は、モーツァルトがたった数日間で書き上げたという交響曲だが、内容は充実したものに仕上がっており、改めてモーツァルトの才能の凄さを見せつけられる作品。ここでのカイルベルトは、モーツァルトの音楽が持つ形式美を最高の高さまで押し上げ、格調ある指揮ぶりに徹していることが強く印象づけられた。少しも押しつけがましいところがないのだが、その奏でる響きはリスナーの耳の奥まで入り込み、モーツァルトの音楽の真髄を味あわせてくれる。「現在、これほどまで、モーツァルトの豊かな響きを奏でられる指揮者がいるか」と問われればその返答に窮してしまうほどカイルベルトの指揮するモーツァルトの音の響きは豊かであり、何よりも暖かい温もりがする。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シゲティのバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

2021-01-14 09:48:34 | 器楽曲(ヴァイオリン)

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

      ソナタ第1番 BWV1001/パルティータ第1番 BWV1002
      ソナタ第2番 BWV1003/パルティータ第2番 BWV1004
      ソナタ第3番 BWV1005/パルティータ第3番 BWV1006

ヴァイオリン:ヨーゼフ・シゲティ

発売:1978年

LP:キングレコード(VANGUARD) MX 9031~3

 バッハは、無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番~第3番とパルティータ第1番~第3番からなる全6曲を、1717年から23年の間に作曲した。バッハのケーテン時代のことである。バッハは、1714年にワイマールの宮廷楽団の楽師長に就任している。これはバッハのワイマール時代と言われている。楽師長とは、言ってみればコンサートマスターのことであり、時折指揮者の役目も果たす。また、月1曲づつカンタータの作曲も義務付けられ、このときバッハは、今日に残る偉大なカンタータの作品を数多く書いている。家庭も円満で、内外ともに順調に運ぶかと思っていた矢先、ワイマールの宮廷内で内紛が巻き起こり、バッハはこの内紛に巻き込まれてしまう。この結果、宮廷楽団の楽長のドレーゼが死去しても、楽長にバッハが選ばれることはなかった。そこでバッハは、ワイマールを去る決断をした。丁度そんな時、アンハルト=ケーテン公から「宮廷楽団の楽長にならないか」という誘いをバッハは受ける。しかし、ワイマールを去ることが認められず、すったもんだの末、バッハの辞職は認められ、晴れてケーテンの宮廷楽団の楽長に就くことができた。ワイマール時代のオルガンは、対位法を駆使して多声的に曲をつくるバッハとしては、欠かせぬ楽器であった。ところが、ケーテンでの楽器は、バイオリンやチェロといった楽器に限定されてしまった。バッハは、ここでこれまでの宗教音楽とは一線を隔し、世俗音楽へとその方向性を変更したのである。ただし、このことは、バッハにとっては本質的なことではなかったようである。つまり宗教音楽でも世俗音楽でも、神に対する賛美に違いはないのだ、と。対位法を駆使して多声的に曲をつくることができなくなったバッハは、ある方法を考えついた。つまり、奏者に、和音をひとつひとつ弾いていくアルペジオを弾かせ、聴く者の想像力を使って和声的に響かせるという妙案である。そんな苦肉の策として作曲されたひとつが、今回のLPレコードのバッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータなのである。ここでのヴァイオリン独奏は、ヨーゼフ・シゲティ(1892年―1973年)である。シゲティは、ブダペストの出身。ヨーロッパ各地で演奏し名声を高め、米国にも進出し、1931年には初来日を果たしている。このLPレコードでのシゲティの演奏は、高い精神性に貫かれ、曲の本質にぐいぐいと迫るその迫力に、リスナーは圧倒される思いがする。決して美音ではないが、人間味に溢れたその力強い弓捌きは、今でもこの曲のベストワンの録音だと断言できる。(LPC) 

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