★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのリヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

2022-06-30 10:10:01 | 管弦楽曲


リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1980年

LP:キングレコード K15C 8026

 カラヤンの遺した録音は膨大な量に及ぶと思うが、その中で万人が賛同する演奏の一つが、このリヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」ではなかろうか。つまり、カラヤンの指揮の特質とこの曲の持つ特質とがぴたりと一致し、感動的な名演を繰り広げているからである。カラヤンの指揮の特質は、極限までオーケストラを精緻に演奏させ、曖昧さや余計な贅肉を削ぎ落とし、明快な言葉で語り尽くす、そんな感じの指揮ぶりである。そして、この計算し尽くされた演出効果を、オーケストラに最大限発揮させる“魔術”をカラヤンは備えているのである。そのため、ダイナミックな曲になればなるほど、その威力はより一層大きくなることになる。ニーチェの哲学書「ツァラトゥストラはかく語りき」は、ドイツの哲学者ニーチェが1883年~85年にかけて書き上げたもので、ツァラトゥストラ(ギリシャ語ではゾロアスター)とは、ゾロアスター教の開祖といわれる紀元前6世紀ごろのペルシャの伝説上の人物。ツァラトゥストラは山にこもって思索にふけり、悟りを得た後、山を下り、各地でその新しい思想を人々に語り聞かせた。その思想の根源は「永遠にかく生きんと欲せよ」とする“永劫回帰”であり、この思想の具現者が“超人”である。そして、この超人だけが未来を創造することができるとする。この交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」は、リヒャルト・シュトラウスがニーチェの著作を読んだ後に、深くその思想にひかれ作曲したものである。しかし、リヒャルト・シュトラウス自身が語ったところによると、この曲は哲学的な音楽でも、宗教的な音楽でもないという。つまり、この音楽の意味するところはというと、ニーチェの哲学者としての才能を褒め称える内容の音楽なのであるとしている。リヒャルト・シュトラウス自身が言うように哲学的な音楽でも、宗教的な音楽でもない音楽とは言っても、この音楽自体が、哲学的であると同時に宗教的な劇的な雰囲気を醸し出していることは、まぎれのない事実であることは、その音楽を聴けば即座に分かる。そして、出来上がった作品自体、あたかも、カラヤンの指揮を想定してリヒャルト・シュトラウスが作曲したかのような雰囲気を帯びているのである。そんな内容の曲を、カラヤン指揮ウィーン・フィルのコンビは、ダイナミックな要素をふんだんに取り入れると同時に、宗教的神秘性も併せ持った演奏にまとめげ、LPレコード史上の偉大なる1ページを飾るに相応しい名演を繰り広げることになるのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノ・レオナルド・ゲルバーのブラームス:ピアノソナタ第3番/2つのラプソディー第2番

2022-06-27 09:48:47 | 器楽曲(ピアノ)


ブラームス:ピアノソナタ第3番
      2つのラプソディー第2番

ピアノ:ブルーノ・レオナルド・ゲルバー

LP:東芝EMI EAC‐70043

 ブルーノ・レオナルド・ゲルバー(1941年生まれ)は、父親がオーストリア人で、21歳の時にアルゼンチンに来て、そのまま居ついたという。一方、母親の方はイタリアとフランスの混血という血筋。15歳でパリに留学し、マルグリット・ロンに入門し、ロン最後の弟子となる。「ロン=ティボー国際コンクール」では第3位に入賞したが、彼こそ優勝にふさわしいと物議を醸したほどの実力の持ち主。ベートーヴェンやブラームスの演奏を得意とし、フランスの音楽雑誌のディアパソン誌により「今世紀最も偉大な100人のピアニスト」の一人に選らばれていることからもこのことが裏付けられよう。1968年以来、度々来日公演を行ってきているので、日本でも御馴染みのピアニストの一人と言っても過言無かろう。2011年には“70歳記念ツアー”を日本全国11か所で開催した。ゲルバーのレコーディングはすべて世界的に高い評価を得ており、「ACCディスク大賞」を2回と「ADFディスク大賞」を受賞している。デンオンに録音したベートーヴェンのソナタのうち、最初のものは、ニューヨーク・タイムズ紙の1989年最優秀録音のひとつに選ばれている。そのブルーノ・レオナルド・ゲルバーが若き日に録音したのがこのLPレコードである。ブラームスのピアノ・ソナタ第3番は、作曲者が20歳の時に完成した全部で5つの楽章からなる曲。第2楽章と第4楽章は1853年の春ごろ、第1楽章、第3楽章、第5楽章はその年の秋に作曲された。公の場での初演は、何故か完成後10年後のこととなるが、ブラームス自身によって行われた。ただ、第2楽章と第3楽章だけは、この作品が完成した翌年にクララ・シューマンによってライプツィヒのゲヴァントハウスにおいて初演されている。全体に若々しく、激しい気概に溢れた曲で、晩年特有の渋みはまだ感じさせない特徴を持ち、ブラームスの初期を代表する作品。一方、2つのラプソディー第2番は、ブラームス36歳の時のピアノ曲で、内容の充実した作品であり、ブラームス特有の晦渋さを内に秘めている。ここでのラプソディーとは、一般に使われるのとは少々異なり、形式にとらわれずに内面的なものを自由に吐露することを指すようだ。このような対照的な2つの曲をゲルバーは、いずれも包容力のある大らかな感覚で演奏しており、時折見せる詩的な感情表現を含めて、全体にリスナーにとって聴きやすいブラームス作品に仕上がっているのはさすがだ。ゲルバーはこの時、既に大家としての顔を覗かせている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィルのシューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

2022-06-23 09:41:40 | 交響曲(シューベルト)


シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

指揮:ルドルフ・ケンペ

管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニック

録音:1968年5月22日、27日

LP:CBSソニー 13AC 956

 シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」が完成したのは、自身の死の8か月前、ベートーヴェンが死去してから約1年の後のことある。シューベルトは、ベートーヴェンを崇拝していたこともあり、何としてもベートーヴェンに比肩できる交響曲を書いておきたいと考えていた。そして完成したのが「ザ・グレート」である。それだけに自信作であったと思われるが、当時の評判は捗々しいものではなかった。唯一、メンデルスゾーン指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウスでの演奏会において評価されたぐらいだったという。しかしシューマンは、この交響曲をして「天国的長さ」という有名な言葉で表し、その真価を広く知らしめた。以後、シューベルトの代表的作品の一つとして知られている。このLPレコードは、ルドルフ・ケンペ(1910年―1976年)がミュンヘン・フィルを指揮した録音だ。ルドルフ・ケンペは、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、バイエルン国立歌劇場音楽総監督、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、BBC交響楽団首席指揮者などを歴任したドイツの名指揮者。「ザ・グレート」は、全楽章がシューベルト特有の歌うような優美な旋律で覆い尽くされた交響曲であるが、ケンペはこの録音でその長所を最大限に発揮させることに成功している。ともすると巨大さだけが強調されがちなこの曲を、ケンペは緻密で流れるように旋律を歌わせ、ケンぺとミュンヘン・フィルとが一心同体化したかのようにして曲が進む。ケンぺの手綱捌きは実に見事で、この交響曲の雄大さを余すところなく表現し尽し、さらに優雅さも兼ね備えた稀に見る名演が完成した。交響曲第9番「ザ・グレート」の録音の聴き比べ企画の記事で、このケンぺ指揮ミュンヘン・フィルの録音が抜け落ちている出版物を見かけることがある。本命中の本命の録音を抜かしてランキングを付けるのはあまりにも問題だ。現在、CD盤も発売されているようなので選者には一度聴き比べてもらいたいものだ。そして演奏の質の高さに加え、LPレコードの音質の素晴らしさについて、改めて思い知らされる一枚でもある。ちょうどコンサートホールの指揮台の位置でオーケストラの音を全身で浴びているような感じだ。LPレコード特有の柔らかい感触にに加え、奥行きの深い響きが何とも心地良い。一度でもこのLPレコードを聴くともうLPレコードの世界から離れなくなる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇名ソプラノ エリー・アーメリングが歌うシューベルト・リート・リサイタル

2022-06-20 09:54:54 | 歌曲(女声)


~シューベルト・リート・リサイタル~

シューベルト:夕映えの中で D.799
       星 op.96-1 D.939
       夜と夢 op.43-2 D.827
       愛らしい星 D.861
       ロザムンデのロマンス op.26 D.792,3b
       孤独な男 op.41 D.800
       子守歌 op.24-2 D.527
       シルヴィアに op.106-4 D.891
       少女 D.652
       愛の歌 D.429
       愛は裏切った op.23-1 D.751
       リュートに寄せて op.81-2 D.905
       花の便り D.622
       男というのは悪者よ! op.95-3 D.866
       至福 D.433

ソプラノ:エリー・アーメリング

ピアノ:ダルトン・ボールドウィン

録音:1973年8月21日~22日、アムステルダム、コンセルトヘボウ

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 18PC‐84(6500 704)

 シューベルトのリートを歌う、このLPレコードのエリー・アーメリングの透明度の高い、美しい歌声を最初に聴いた時、私はそのあまりの美しさに一瞬言葉を失ってしまった程である。シュワルツコップも美しい声の名ソプラノであったが、アーメリングの声は、透明で純粋な美しさの点では、シュワルツコップのさらに上を行くのではなかろうか。ヴィブラートをあまりかけない歌い方なので、このことが倍化してリスナーには聴こえるのである。シューベルトのリートは、何処かに翳りがあるが、アーメリングがシューベルトを歌うとそんな翳りは引っ込んでしまい、シューベルの純粋なキラキラと輝く宝石のような美しさだけが顔を覗かせる。こんなソプラノは、現在に至るまで一人も聴いたことがないし、果たしてエリー・アーメリングに比肩しうるソプラノがこれから出て来るかどうかである。アーメリングの歌うシューベルトのリートを聴いている時だけは、一瞬この世のわずらわしいことを忘れ、暫し天国的な雰囲気の中に迷い込む思いがする。エリー・アーメリングは、1933年オランダのアムステルダムに生まれている。1996年に引退した後も来日して、若い歌手達へ公開講座を開くなどの活動を続けていた。このLPレコードは、30代後半という歌手として最も脂の乗り切った頃の録音であり、実に生き生きしたリリックソプラノの声の美しさに加え、円熟期を迎えた卓越した歌唱技術が一段と冴えわたって聴こえる。このエリー・アーメリングの歌声を聴いていると、一時、古き良き時代へとタイムスリップしたかのような感覚にもとらわれる。エリー・アーメリングは、主にリート歌手としての演奏活動を続けたが、このことはヨーロッパの歌手としては珍しい存在であったであろう。ドイツ・リートがレパートリーの中心にあったが、古楽や宗教曲のほかフランスの歌曲やガーシュウィンなどの英語の歌曲も歌った。さらには山田耕筰や中田喜直などの日本人がつくった歌曲を日本語で歌うなど、そのレパートリーの広さは歌曲専門の歌手として面目躍如たるものがある。このLPレコードでピアノ伴奏しているダルトン・ボールドウィン(1931年―2019年)との息もぴたりと合っている。ダルトン・ボールドウィンは、ジェラール・スゼーなどのピアノ伴奏を担当し、その名脇役ぶりは当時一目置かれた存在であった。このLPレコードでもダルトン・ボールドウィンのピアノ伴奏によって、エリー・アーメリングの歌声の美しさが一層際立ったものに仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ペーター・マーク指揮ロンドン交響楽団のメンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」/交響曲第3番「スコットランド」

2022-06-16 09:39:18 | 交響曲


メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」
         交響曲第3番「スコットランド」
           
指揮:ペーター・マーク

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:キングレコード K15C‐8056

 1829年4月、メンデルスゾーンは、ロンドン・フィルハーモニック協会から招待を受け、ロンドンでの演奏旅行の後、スコットランドの旅を楽しんだが、このときの印象を基に作曲したのが、序曲「フィンガルの洞窟」と交響曲第3番「スコットランド」なのである。ロンドンに招かれたときにメンデルスゾーンは20歳であり、その才能は若いときから人々を魅了していたことがこのことからも分る。イギリス旅行から帰った4年後に「フィンガルの洞窟」、8年後に交響曲第3番「スコットランド」が作曲されている。2曲とも大自然が巧みなオーケストレーションによって描き込まれた作品であり、ワーグナーが「メンデルスゾーンこそは無類の音楽による風景画家」と絶賛したほどだ。しかし、2曲とも単純な表面的風景描写で終わっておらず、一旦メンデルスゾーンの心のフィルターを通して、爽やかな音楽へと昇華されているところが、現在でも人気がある最大の理由であろう。このLPレコードで指揮しているのはスイス出身の指揮者のペーター・マーク(1919年―2001年)である。当時、ペーター・マークは“モーツァルトとメンデルスゾーンのスペシャリスト”として名高かった指揮者である。そんなペーター・マークがロンドン交響楽団を指揮し、十八番のメンデルスゾーンを録音したのがこのLPレコード。2曲とも何のけれんみもなく、清々しく演奏している。あたかも真っ直ぐに伸び切った美しい花のように光り輝く指揮ぶりだ。これによってペーター・マークは、メンデルスゾーンの曲の特徴を、くっきりと浮かび上がらせることに成功している。現在、指揮者はどんな曲でも一通り指揮できなければまっとうに評価されないが、ペーター・マークが“モーツァルトとメンデルスゾーンのスペシャリスト”として評価されていたのは、その時代が古き良き時代であったからかもしれない。ペーター・マークは、スイス東北部のザンクトガレンの出身。バーゼル大学とチューリッヒ大学で哲学と神学を修め、ピアノをアルフレッド・コルトーに、また指揮をエルネスト・アンセルメとウィルヘルム・フルトヴェングラーに師事。1945年からチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団やスイス・ロマンド管弦楽団などを指揮して活躍。1947年スイス・ビールゾロトゥルン歌劇場音楽監督、1952年デュッセルドルフ市立歌劇場第1指揮者、1955年ボン市音楽監督、1964年ウィーン・フォルクスオーパー音楽監督、1984年ベルン交響楽団専任指揮者などを務めた。(LPC) 

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