★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ホルンの名手アラン・シヴィルのモーツァルト:ホルン協奏曲全集/ホルンのためのコンサートロンド変ホ長調K.371

2024-07-25 09:41:43 | 協奏曲


モーツァルト:ホルン協奏曲全集

         ホルン協奏曲ニ長調K.412              
         ホルン協奏曲変ホ長調K.447              
         ホルン協奏曲変ホ長調K.417              
         ホルン協奏曲変ホ長調K.495 

       ホルンのためのコンサートロンド変ホ長調K.371

ホルン:アラン・シヴィル

指揮:ルドルフ・ケンペ

管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1975年

LP:RVC GGC‐1129

 このLPレコードは、モーツァルトの有名な4つのホルン協奏曲とホルンのためのコンサートロンドを、ホルンの名手であったアラン・シヴィル(1929年―1989年)が、名指揮者ルドルフ・ケンペ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の伴奏で録音した、記念すべき一枚である。アラン・シヴィルは、イギリス出身のホルン奏者。指揮者のトーマス・ビーチャムによって、デニス・ブレイン(1921年―1957年)の次席奏者としてロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団に入団。そしてデニス・ブレインがフィルハーモニア管弦楽団に移籍すると、首席奏者を引き継いだ。1955年に、シヴィル自身もフィルハーモニア管に異動するのだが、1957年にブレインが自動車事故で死去すると、今度はその後を継いで首席ホルン奏者に就任した。デニス・ブレインは、天才的ホルン奏者として伝説的な存在であったが、このようにアラン・シヴィルは、天才デニス・ブレインと深い関係によって結び付けられていたことについては、デニス・ブレインのファンである私にとっては考え深いものがある。そしてアラン・シヴィルは、1966年には、BBC交響楽団の首席ホルン奏者に就任し、1988年に引退するまでその座にあった。1985年には、大英帝国勲章を授与されるなど、現役時代、アラン・シヴィルは、ホルン奏者の第一人者として、その名を広く世界に轟かせた。このように、このLPレコードは、登場プレイヤーが全て一流なので、聴く前から胸が時めく。最初のニ長調K.412のホルン協奏曲の演奏が始まると、この期待が現実のものとなって耳に飛び込んでくる。優雅なオーケストラ伴奏に乗って、アラン・シヴィルの演奏する、愛らしくも軽快で、しかも奥行きのある色彩感溢れるホルンの響きが、何とも心地良い。ホルン協奏曲はモーツァルトに限らず、一般的に牧歌的で清々しいものであるが、モーツァルトが書くと、それに加え、こんなにも芸術的に格調が高くなるものかと感心する。このLPレコードを聴き、久しぶりにホルンの伸びやかな音色を存分に味わうことができ、至福の一時を過ごすことができた。なお、指揮のルドルフ・ケンペ(1910年―1976年)は、ロイヤル・フィル首席指揮者、ミュンヘン・フィル首席指揮者、BBC交響楽団常任指揮者などを歴任したドイツの名指揮者。それにしてもホルンの持つふくよかな音色は、何といってもLPレコードで聴くのが一番だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇閨秀ハーピスト アニー・シャフランによるドビュッシー/ラヴェル/ピエルネ/フォーレのフランス音楽ハープ名曲集

2024-07-04 09:38:33 | 協奏曲

 

ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲
ラヴェル:序奏とアレグロ
ピエルネ:ハープ小協奏曲
フォーレ:即興曲Op86

ハープ:アニー・シャフラン

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

ヴァイオリン:ティッシュ&シモン
ヴィオラ:レキャン
チェロ:ベクス
フルート:カラシェ
クラリネット:ブータール

録音:1965年11月

LP:東芝EMI EAC‐40110

 このLPレコードは、フランス音楽の中でも極上のハープの音色思う存分味わえる一枚である。豊穣な香りのワインにも似て、ハープの響きは、この世ので聴く天上の音楽とでも言ったらいいのであろうか。ところでハープという楽器は我々にとって親しみのある楽器ではあるのだが、いつ頃から今の形のハープが定着したのであろうか。その辺を、このLPレコードのライナーノートで、三浦淳史氏が解説しているので紹介しよう。19世紀の終わりの頃から、フランスのハープ界は、急速な飛躍を遂げたようで、“ハープはフランス”という名声を高めたが、それは、新しいハープの開発が行われたからだという。エラール社が近代のペダル・ハープの形を確立し、一方、プレイエル社は、半音階ハープを試作した。プレイエル社は、1903年の初頭、ブリュッセル音楽院のコンクール曲として、ドビュッシーに半音階ハープのための作品を委嘱し、その結果生まれたのが「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」。一方、エラール社も負けてはならじと、ラヴェルにペダル・ハープ用の曲を委嘱し、その結果生まれたのが「序奏とアレグロ」。その後、半音階ハープは、改良されたペダル・ハープに座を明け渡すことになった。このLPレコードの最初の2曲は、フランスのハープの歴史そのものであるドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」と、ラヴェルの「序奏とアレグロ」が収録されている。フランスのハープ奏者というと直ぐに思いつくのは、当時一世を風靡した閨秀ハーピストのリリー・ラスキーヌ(1893年―1988年)だ。そのリリー・ラスキーヌの高弟が、このLPレコードで演奏している女流ハーピストのアニー・シャフラン(1940年生まれ)なのである。アニー・シャフランは、16歳でパリ音楽院のハープ科を首席で卒業。翌年、コロンヌ管弦楽団の首席奏者となり、ヨーロッパ各地での演奏旅行によってその名がヨーロッパ中で知られるようになった。このLPレコードの演奏でも、アニー・シャフランのハープ演奏は、如何にもフランス音楽の精髄を極めたような、精緻で、しかも麗しい雰囲気が横溢したものになっており、ハープの持つ独特の優雅で、馥郁たる余韻を持った音楽を存分に味わうことができる。アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)指揮パリ音楽院管弦楽団の伴奏が、これまた幻想的で素晴らしい演奏を聴かせてくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇仏のクラリネットの名手エティエンヌのモーツァルト:クラリネット協奏曲/クラリネット五重奏曲

2023-02-13 09:40:53 | 協奏曲


モーツァルト:クラリネット協奏曲
       クラリネット五重奏曲

クラリネット:フランソワ・エティエンヌ

指揮:モーリス・エウィット

管弦楽:エウィット室内管弦楽団

弦楽四重奏:ヴェーグ弦楽四重奏団

録音:1941年(クラリネット協奏曲)/1952年(クラリネット五重奏曲)

発売:1969年

LP:東芝音楽工業 AB‐8089

 クラリネットは、その音色が何か人々の郷愁を呼び覚まし、一度聴き始めるとなかなか忘れがたい印象をリスナーに与える管楽器だ。モーツアルトは交響曲でもクラリネットを巧みに取り入れ、効果を上げているが、クラリネットを使った協奏曲や室内楽でも傑作を残している(とは言え、モーツァルト自身はあまりクラリネットは好きではなかったという)。それが今回のLPレコードのクラリネット協奏曲とクラリネット五重奏曲であり、現在に至るまで、それぞれを代表する名曲として、現在でもコンサートなどでもしばしば取り上げられている。そして、これまでこの2曲は数多く録音されてきたが、その原点とも言うべきものが、LPレコード初期に発売された、このフランスのクラリネットの名演奏家フランソワ・エティエンヌが遺した録音であった。録音は、クラリネット協奏曲が1941年(SPレコード)、クラリネット五重奏曲が1952年と第二次世界大戦を跨いだ時期に当る。このためクラリネット協奏曲の音質は良いとは言えないものの、今聴いても鑑賞には差し支えはない。それより、演奏内容が極上の出来であり、聴いている間中、音質などは気にならない。ジャック・ランスローなど、フランスはこれまで優れたクラリネット奏者を輩出してきたが、フランソワ・エティエンヌは、それらの元祖というか、象徴的存在であった。聴いてみると、クラリネットをいとも軽快に演奏することに唖然とさせられる。クラリネット協奏曲はモーツァルトが死の2カ月前に作曲した曲だけに内容が深く、しかも諦観に満ちている。そんな曲を、エティエンヌのクラリネットは、七色の音色を巧みに使い分け、奥深い曲想を、明快にリスナーの前に提示してくれる。モーツァルト:クラリネット協奏曲で、今もって、このエティエンヌの演奏を越える演奏は、あまり見当たらない。クラリネット協奏曲の指揮のモーリス・エウィットは、有名なカペエ弦楽四重奏団草創期からのメンバーで、エウィット室内管弦楽団を組織した。一方、クラリネット五重奏曲は、1789年に作曲された曲で、モーツァルトの室内楽の中でも傑作として知られる作品。ここでもエティエンヌの演奏は、溌剌としていて、清々しい感情が前面に出ている演奏を繰り広げ、聴いていて思わずうっとりとさせられるほどの出来栄えとなっている。ヴェーグ弦楽四重奏団は、ブタペスト音楽院の出身者たちによって結成され、1946年「ジュネーヴ国際コンクール」で優勝し、世界的に知られたカルテットであった。主宰者のシャーンドル・ヴェーグ(1912年―1997年)は、ハンガリー生まれのフランスのヴァイオリニスト。1924年リスト音楽院に入学。1930年に同音楽院を卒業後ソリストとして活動すると同時に、1935年にはハンガリー四重奏団を結成したが、1940年リスト音楽院の教授に就任すると共に、自身の名を冠したヴェーグ四重奏団を結成した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハインツ・ホリガーのモーツァルト:オーボエ協奏曲/R.シュトラウス:オーボエ協奏曲

2022-04-21 09:59:17 | 協奏曲


モーツァルト:オーボエ協奏曲
R.シュトラウス:オーボエ協奏曲

オーボエ:ハインツ・ホリガー

指揮:エド・デ・ワールト

管弦楽:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

発売:1979年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) 18PC-12(6500 174)

 オーボエは、人の声に最も近い楽器とも言われ、特にその高音域の音の調べが、例えようもないほどの甘美さを備えている木管楽器である。哀愁のあるその牧歌的な音色を聴いていると、とても人間味溢れる楽器であることを思い知らされる。そんなこともあってか日本では、演歌などでも使われることも少なくないようだ。しかし、演奏するにはなかなか難しい楽器であるということもあってか、フルートやトランペットなどに比べて、何となくマイナーな楽器の座に甘んじることが多いように思われる。そんな魅力的ではあるがいつもは地味な存在の楽器に、一躍、主役を演じさせるのがオーボエ協奏曲の存在なのである。このLPレコードは、かつてオーボエ奏者として一世を風靡した、スイス出身のハインツ・ホリガー(1939年生れ)が、全盛時代にモーツァルトとR.シュトラウスのオーボエ協奏曲を録音したもの。ハインツ・ホリガーは、オーボエ奏者としてのほか、指揮者さらには現代音楽の作曲家としても活躍。ベルン音楽院とバーゼル音楽院、さらにパリ音楽院で学んだが、オーボエは名オーボエ奏者のピエール・ピエルロ(1921年―2007年)に師事したという。オーボエのソリストとしては、1959年「ジュネーヴ国際音楽コンクール」や1961年「ミュンヘン国際音楽コンクール」で第1位を獲得し、国際的に名声を得ることになる。ホリガー木管アンサンブルを自ら主宰して、主にバロック音楽を録音。また指揮者としては、ヨーロッパ室内管弦楽団を指揮してシェーンベルク作品集の録音も残している。作曲家としては、初期の作品はブーレーズからの直接の影響を受けた「魔法の踊り手」や「七つの歌」のような1960年代の前衛音楽の秀作から、16年の歳月をかけて作曲した代表作「スカルダネッリ・ツィクルス(ヘルダーリンの詩による、ソロ・フルートと小管弦楽、混声合唱とテープのための)」などの作品がある。このLPレコードに収められているモーツァルト:オーボエ協奏曲とR.シュトラウス:オーボエ協奏曲の2曲のオーボエ協奏曲の演奏とも、ホリガーのオーボエの演奏は、完璧な演奏技法に裏づけされたものだけに、リスナーは思う存分その曲の持ち味を味わうことができる。モーツァルトの典雅さの極みともいえる雰囲気のオーボエ協奏曲、さらにはR.シュトラウスが音楽人生の後半生に行き着いた、安定した曲づくりが心地よい新古典派的なオーボエ協奏曲の真髄を、それぞれ存分に楽しむことができる貴重なLPレコードとなっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのヘンデル:合奏協奏曲op.6

2022-04-18 09:39:53 | 協奏曲


ヘンデル:合奏協奏曲op.6

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年8月21日~22日、スイス・サンモリッツ、ヴィクトリア・ザール

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGX7072~75(全4枚)

 ヘンデルの12曲からなる「合奏協奏曲op.6」は、いつ聴いても音楽が泉の如く湧き出してくるような、無限の力のようなものを感ずる。普通なら、全12曲というような長い曲集を聴き通そうとすると、相当な忍耐力を必要とするが、ヘンデルの「合奏協奏曲op.6」だけは例外である。聴いていて実に楽しいし、不思議なことに飽きが全く来ない。正にヘンデルの天才のなせる業とでも言ったらよいのであろうか。作曲したのがヘンデル55歳の時で、たった1カ月で12曲を書き上げたというから凄いの一言に尽きる。ヴィヴァルディの急ー緩ー急の形式を踏襲しつつ、コレルリの作品に範を求めて完成させたと言われている。1740年4月に出版された時のタイトルは、「4つのヴァイオリン、テノール(ビオラ)、チェロ、チェンバロの通奏低音の7声部からなる12曲の大協奏曲集」と付けられており、初演は、1739年から1740年3月にかけて、ヘンデル自身の指揮で行われたらしい。もともとドイツ人であったヘンデルだが、1711年以降はロンドンで主にオペラを中心に活躍した。作曲のほか、指揮者、演出家、さらには興行主としてもエネルギッシュに活動したわけであるが、実際はというと平穏な活動ではなかったらしく、ヘンデルを保護する国王派に反目する貴族たちが、ヘンデルの仕事を妨害するのに抗して活動するといった塩梅であった。そんなこともあってか、1737年にヘンデルは病に倒れてしまう。それにも屈せずヘンデルは不屈の闘志で立ち上がるが、貴族たちの妨害は相変わらず止まなかった。そんな厳しい環境下に生まれたのが「合奏協奏曲op.6」なのである。このヘンデルの名作を、巨匠カラヤンがベルリン・フィルを指揮してLPレコード4枚に収録した。この演奏内容は、カラヤンが録音した中でベスワンに挙げたいほど、完成度が高く仕上がっている。バロック・アンサンブルではなく、近代のオーケストラによるこの演奏は、その厚みのある弦の響きで聴くものを圧倒する。カラヤンの指揮は、巧みにしっとりとした情感をベルリン・フィルから全てを引き出す。やや押さえ気味の指揮ぶりが、かえってヘンデルのこの名作の真の姿をくっきりと浮かび上がらせるのだ。包容力のある演奏とでも言ったらよいのであろうか。いずれにせよカラヤンの見事な統率力に脱帽せざるを得ない。どんなアンチ・カラヤン派でもこの演奏だけは、カラヤンの力を認めざる得ないと思う。LPレコード特有のあふれんばかりの奥行きの深い伸びやかな音質を聴いてこそ、カラヤンの真の名指揮ぶりを聴き取ることができるのである。(LPC)

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