★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ “バレエ音楽のスペシャリスト” クルツのチャイコフスキー:三大バレエ音楽

2020-07-30 09:38:07 | 管弦楽曲

チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」抜粋
         バレエ音楽「眠れる森の美女」抜粋
         バレエ音楽「くるみ割り人形」抜粋

指揮:エフレム・クルツ

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC-30029

 このLPレコードは、チャイコフスキーの三大バレエ曲「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」からの抜粋を、エフレム・クルツ指揮フィルハーモニア管弦楽団が演奏したもの。第1曲目の「白鳥の湖」は、モスクワのボリショイ劇場からの依頼により作曲した4幕の作品で、初演は1877年。①第2幕から情景:月光を浴びた夜の湖畔、このバレエの中で最も美しい場面で、白鳥のテーマをオーボエが奏でる。②ワルツ:ワルツを踊って王子の成年式を祝う。③グラン・パ・ド・ドゥ:白鳥の王女と王子の踊り④4羽の白鳥たちの踊り:オーボエ二重奏の調べに合せて、白鳥の侍女4人が腕を組んで踊る。次の第2曲目の「眠れる森の美女」は、ロシア帝室劇場の依頼で、17世紀のフランスの童話作家シャルル・ペローの童話「眠れる森の美女」を基にして書いた3幕・4場の曲。①序奏ーリラの精:リラの精は、オーロラ姫の眠りを覚まさせる役。②パ・ダクシオン:バラのアダージョとヴァリアシオンの踊り。③ヴァルス:オーロラ姫の16歳を祝って集まった村人のワルツ。そして第3曲目の「くるみ割り人形」は、ホフマンの童話を基に、1892年に作曲された2幕・3場の作品で、毎年、クリスマスの季節に上演されることが多い曲。①小序曲②行進曲③金平糖の精の踊り④チョコレートの精の踊り⑤アラビア・コーヒーの精の踊り⑥お茶の精の踊り⑦葦笛の踊り、と楽しい踊りが続き、最後に華やかな⑧花のワルツで締めくくられる。これらのチャイコフスキーの三大バレエ音楽を指揮するが“バレエ音楽のスペシャリスト”と言われたエフレム・クルツ(1900年―1995年)。クルツは、ロシアのサンクトペテルブルクに生まれ、ペテルスブルグ音楽学校およびドイツのベルリン音楽学校で学んだ。1932年から10年間、モンテカルロ・ロシア・バレエ団の常任指揮者として欧米各地で演奏旅行を行った。1944年にアメリカの市民権を取得。カンザスシティ・フィルハーモニー管弦楽団やヒューストン交響楽団で指揮した。その後、イギリスにわたりロイヤル・バレエ団の指揮者としても活躍。日本にも三度来演している。このLPレコードでのクルツの指揮は、“バレエ音楽のスペシャリスト”らしく、全曲を通して軽快な踊りの軽やかさが響き渡る。この軽快さは、交響曲や管弦楽曲を得意とる指揮者では、到底出すことが不可能な領域まで達している。これは、やはり、エフレム・クルツは“バレエ音楽のスペシャリスト”だったことを再認識させられるLPレコードだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブッシュ兄弟&ゼルキンのシューベルト:ピアノ三重奏曲第2番/ ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」

2020-07-27 09:50:18 | 室内楽曲

 

シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」

ピアノ:ルドルフ・ゼルキン

ヴァイオリン:アドルフ・ブッシュ

チェロ:ヘルマン・ブッシュ

録音:1948年1月7日(ベートーヴェン)

LP:CBS/SONY SOCU 15

 このLPレコードは、“CBS不滅の1500”ブッシュ選集Vol.4と名づけられた1枚。ブッシュとは、ドイツの名ヴァイオリニストであったアドルフ・ブッシュ(1891年ー 1951年)のこと。ケルン音楽院で学び、1912年、ソリストとしてデビュー果たした。同年ウイーン楽友協会オーケストラのコンサートマスターに就任し、翌年ウイーン楽友協会弦楽四重奏団を結成。1918年には同弦楽四重奏団を改編して、ブッシュ弦楽四重奏団を新たに結成した。その後、名ピアニストのルドルフ・ゼルキンと親交を結ぶ。しかしその後、ルドルフ・ゼルキンはナチスに追われスイスに移住する。ブッシュはその後を追って、1935年、スイスに亡命することになる。その後、イギリスを経て、1933年にアメリカへ移り、定住する。アメリカでは、ゼルキンとのデュオ、弟のチェリストのヘルマン・ブッシュを加えたトリオの演奏会を各地で開いた。このLPレコードは、そのような環境にあった時に録音されたもの。ブッシュの演奏スタイルは、伝統的なドイツ音楽をベースにしたもので、武骨なほど厳格な形式美に基づいている。一方、ロマンの香りも漂わせ、聴いていて古き良き時代を思い起こさせるような演奏内容だ。また、ヴァイオリニストとして以外に、ブッシュは作曲の道も目指し、生涯で交響曲、ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンソナタなど、約180曲を作曲した。このLPレコードは、ピアノのルドルフ・ゼルキンと、弟であるチェロのヘルマン・ブッシュと共演したものであり、気心の知りあった者同士の理想的なメンバーの録音だ。演奏作品もブッシュが得意とするシューベルトとベートーヴェンなので申し分ない。シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番は、華やかな第1番の陰に隠れ、地味な存在ながら、内容の充実したピアノ三重奏曲。一方、ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番は、第2楽章が持つ、沈んだ情緒と神秘的な雰囲気から「幽霊」と名付けられているが、全体によく整ったピアノ三重奏作品に仕上がっている。2曲とも録音内容は、今のレベルからすると伸びやかさに欠け、いわば“歴史的名盤”の範疇に入るものかもしれないが、鑑賞に支障はない。2曲の演奏とも三人の息がぴたりと合い、なにしろその語り口が抜群にうまい。それぞれの曲の真髄を、ずばりと言い当てた演奏である。音質を別とすれば、これら2曲のベスト録音だと思う。何しろ、3人とも演奏技術が極めて高い上、表現力が抜群だからだ。この録音も将来、歴史の彼方に忘れ去られるのかと思うと、何とも寂しい限りだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ギドン・クレーメルのパガニーニ(ヴィルヘルミ編):ヴァイオリン協奏曲第1番/シューマン(クライスラー編):幻想曲/クプコヴィチ:「狂詩曲」より「思い出」

2020-07-23 09:44:04 | 協奏曲(ヴァイオリン)

パガニーニ(ヴィルヘルミ編):ヴァイオリン協奏曲第1番(第1楽章)
シューマン(クライスラー編):幻想曲(ヴァイオリンと管弦楽のための)
クプコヴィチ:「狂詩曲」より「思い出」

ヴァイオリン:ギドン・クレメール

指揮:ハインツ・ワルベルク

管弦楽:ウィーン交響楽団

発売:1979年

LP:キングレコード K15C-9115

 パガニーニ(1782年―1840年)は、イタリアのジェノヴァ生まれで、7歳の時にヴァイオリンを手にしたが、その1年後には協奏曲を演奏し、ソナタも作曲したという。異様な風采と悪魔のようなヴィルトオーゾ的演奏は、行く先々でセンセーションを巻き起こしたようである。そのような演奏家が作曲をしたらどうなるのか。天才的閃きが込められた作品になるのと同時に、どこかおさまりの悪さを残してしまうのが常。1811年に完成したパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番は、そんな作品だった。そこで、この曲の編曲が試みられるが、その中の1曲が、このLPレコードに収録されている、名ヴァイオリニストであったアウグスト・ヴィルヘルミの手により、1883年に完成した編曲作品だ。第2楽章と第3楽章を削除し、第1楽章だけを採用し、ヴァイオリンのパートにはあまり手を付けず、主に管弦楽のパートを重厚に書き換えた。完成したこの編曲は、重厚なヴァイオリン協奏曲へと変身を遂げた。このため、軽快な如何にもパガニーニ的な要素を求めるリスナーにとっては、少々戸惑うことは避けられない。このLPレコードでヴァイオリンの独奏をしているのが、お馴染みのラトビア出身のギドン・クレーメル(1947年生まれ )だ。ギドン・クレーメルは、モスクワ音楽院へ進学し、この間、1967年「エリザベート王妃国際音楽コンクール」3位、1969年「パガニーニ国際コンクール」優勝、さらに1970年モスクワで開かれた「チャイコフスキー国際コンクール」でも優勝という快挙を成し遂げた。1980年にはドイツに移住し、以後はドイツを活動拠点に世界的な演奏活動を展開している。このLPレコードでの演奏は、完璧なテクニックの冴えを存分に発揮しており、パガニーニの華麗な世界をリスナーに思う存分披露する。ただ、この編曲は、オーケストラのパートを重厚に書き直したたため、オーケストラの音が前面に出て、技巧的なヴァイオリンの音を期待する向きには不満も残ろう。B面に収められたシューマン(クライスラー編):幻想曲(ヴァイオリンと管弦楽のための)は、シューマンとヴァイオリンの名手ヨーゼフ・ヨアヒムとの交友関係から1853年に書かれた作品。シューマンのヴァイオリン協奏曲を評価しなかったヨアヒムも、この曲は評価したという。ただ、この頃シューマンは精神的障害を発症しており、この欠点を名ヴァイオリニストのクライスラーが1936年に編曲し、補った。ギドン・クレーメルの演奏は、パガニーニの時と同様、技術的な完璧さを見せ、全体の構成力も申し分なく仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のイエルク・デムスとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のブラームス:ピアノ五重奏曲

2020-07-20 09:49:46 | 室内楽曲

ブラームス:ピアノ五重奏曲

ピアノ:イエルク・デムス

弦楽四重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
            
        アントン・カンパー(第1ヴァイオリン)
        マリア・ティッツェ(第2ヴァイオリン)
        エーリッヒ・ヴァイス(ヴィオラ)
        フランツ・クヴァルダ(チェロ)

発売:1976年9月

LP:日本コロムビア OW-8049-AW

 このLPレコードに収録されているブラームス:ピアノ五重奏曲は、古今のピアノ五重奏曲の中でも最も優れた作品の一つとして高く評価されている。ブラームスが最初の円熟期を迎えた頃の代表作でもある。その意味では、最もブラームスらしい作品であるとも言える。緻密で強固な構築美に貫かれ、厳格で重々しい感じが濃厚に立ち込め、晦渋な作品であることは否定できない事実であろう。ブラームスの室内楽にはクラリネット五重奏曲や弦楽六重奏曲などのように、比較的親しみ易い作品もあるが、このピアノ五重奏曲は、親しみ易いというより、ブラームスの深遠な精神性を襟を正して聴くような雰囲気を漂わす。どちらかというと3曲ある弦楽四重奏曲に近い感じがする。ブラームスは、最初この曲を弦楽五重奏曲として作曲したが、到底弦だけでは、起伏に富んだ曲想を表現することはできないということで、2台のピアノ用に編曲してしまう。ところが今度は、弦の優美な響きがなくては、作品が生きないということで、最後は現在のピアノ五重奏曲の形に落ち着いたという。如何に慎重なブラームスらしい話ではある。このLPレコードでピアノ演奏しているのは、日本人にもお馴染みのイエルク・デムス(1928年―2019年)だ。ウィーン音楽アカデミーで学び、15歳でウィーン楽団にデビュー。その後は、グルダ、パドゥラ=スコダと並んで“ウィーンの三羽烏”として活発な演奏および録音活動を展開する。しばしば来日公演を行ってきたが、2019年4月16日に90歳没。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、1934年、当時ウィーン交響楽団のメンバーだったアントン・カンパー(Vn1)とフランツ・クヴァルダ(Vc)を中心にカンパー=クヴァルダ四重奏団を結成。1937~38年にメンバー全員がウィーン・フィルに移籍し、ウィーン・コンツェルトハウスの中ホールであるモーツァルトザールで演奏会を継続。1957年にチェロがルートヴィヒ・バインルに、1959年に第2ヴァイオリンがヴァルター・ヴェラーに交代。1960年と62年に来日したが、1967年にカンパー引退により解散した。このLPレコードは、設立当初のメンバーによる演奏。このLPレコードでのイエルク・デムスのピアノ演奏は、いつものウィーン情緒は姿を消し去り、その代り気難しそうなブラームスの世界を力強く厳格に演奏している。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団も、そんなイエルク・デムスの力強さにぴたりと息を合わせるところは、さすが一流のカルテットだなと改めて思わせる演奏内容である。この曲の録音の最右翼盤。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団のドビッシー:交響詩「海」/管弦楽曲「牧神の午後への前奏曲」/管弦楽曲「夜想曲」

2020-07-16 09:52:06 | 管弦楽曲

ドヴュッシー:交響詩「海」
       管弦楽曲「牧神の午後への前奏曲」
       管弦楽曲「夜想曲」

指揮:ポール・パレー

管弦楽:デトロイト交響楽団

発売:1976年

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード)

 このドヴュッシーの管弦楽曲3曲を収めたLPレコードのジャケットには、葛飾北斎の浮世絵である富嶽三十六景「神奈川沖波裏」が採用されている。これはドヴュッシー:交響詩「海」が1905年に出版された時、スコアの表紙に「神奈川沖浪裏」が使用されたことに倣ったものであろう。作曲の時、ドビュッシーは海の見えないブルゴーニュ地方にいたのだが、これまでの海の記憶を頼りに作曲を開始したのだという。曲は、「海の夜明けから真昼まで」「波の戯れ」「風と海との対話」というタイトルが付けられた3つの部分からなる。初演時には、賛否両論が起こり、必ずしも成功とは言えなかったようであるが、数年経った後からは、高い評価が与えられるようになって行く。2曲目の「牧神の午後への前奏曲」は、1892年から1894年にかけて作曲された管弦楽曲であり、詩人マラルメ の「牧神の午後」に感銘を受けて書かれた作品である。牧神の象徴である「パンの笛」をイメージする楽器のフルートが重要な役割を担っている。3曲目の「夜想曲」は、1897年から1899年にかけて作されたた管弦楽曲。「雲」「祭」「シレーヌ」の3曲からなる。これらドビュッシーの管弦楽曲3曲を演奏しているのは、ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団。フランス出身の作曲家兼指揮者であったポール・パレー(1886年―1979年)は、このLPレコードで演奏しているデトロイト交響楽団を世界有数のオーケストラに育て上げたことで知られる。パリ音楽院で学び、当初は、作曲家として頭角を現し、ローマ大賞を獲得している。第一次世界大戦後に指揮者としての活動も行うようになる。モンテカルロ・フィル、コンセール・コロンヌ、イスラエル・フィルの音楽監督などを歴任後、1962年からデトロイト交響楽団音楽監督・首席指揮者に就任し、同楽団を世界有数のオーケストラに育て上げた。このLPレコードでのポール・パレー指揮デトロイト交響楽団は、指揮者と楽団員とが一体化し、固く結ばれた信頼感に基づいて演奏していることが、手に取るように分かる。指揮者と楽団員とがこんなにも一体感で結ばれた演奏を私はほかに知らない。演奏内容は、3曲ともフランス的なセンスに溢れた名演だ。アメリカのオーケストラがここまでフランス的な演奏をするとは驚きだ。印象主義の絵画を見ているような、茫洋とした音楽表現に、しばし、夢の中を彷徨する思いがする。数ある、これら3曲の録音の中でも白眉と言っても言い過ぎではない録音となっている。(LPC)

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