★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇キリル・コンドラシン指揮ソビェト国立交響楽団/モスクワ・フィルのチャイコフスキー:「弦楽セレナード」「ロメオとジュリエット」

2021-09-30 09:36:44 | 管弦楽曲


チャイコフスキー:弦楽セレナード
         幻想序曲「ロメオとジュリエット」

指揮:キリル・コンドラシン

管弦楽:ソビェト国立交響楽団(弦楽セレナード)
    モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団(幻想序曲「ロメオとジュリエット」)

LP:ビクター音楽産業 VIC‐5053

 チャイコフスキーの弦楽セレナードは、初演当初から評価が高かった。チャイコフスキー自身も「これは名曲だ」と思っていたそうで、それだけ自信作なのだ。私もこれまでこの曲を何度聴いたか分からないほど数多く聴いてきたが、今でもこの曲を聴く度に「クラシック音楽っていいな」とつくづく思い知らされる名曲中の名曲だ。その情緒たっぷりの雰囲気は極上の味がする。そんなお馴染みの曲を、旧ソ連の名匠であるキリル・コンドラシン(1914年―1981年)が指揮したのがこのレコードだ。要するに本場もの”の演奏ではあるが、コンドラシンは、ロシア情緒たっぷりというより、基本に忠実な、きりっと引き締まった指揮を行い、リスナーを魅了して止まない。さらに幻想序曲「ロメオとジュリエット」では、弦楽セレナード以上にスケールの大きな、劇的な効果を挙げることに成功している。チャイコフスキーは、1879年から翌年の春にかけて、パリからローマへと南ヨーロッパの旅をしたが、その帰りにはすぐにはモスクワには向かわず、妹の嫁ぎ先のウクライナのカメンカに滞在した。このカメンカはチャイコフスキーのお気に入りの場所だったようで、弦楽セレナードは、大序曲「1812年」と一緒に、この時書かれた。一方、幻想序曲「ロメオとジュリエット」は、バラキエフの勧めでチャイコフスキーが書いた曲。シェイクスピアの書いた「ロメオとジュリエット」は、多くの作曲家たちの霊感を呼び起こしたが、チャイコフスキーもその中の一人。1870年に初演された時は、弦楽セレナードほどの評判は得られなかったらしい。その後、チャイコフスキーはこの曲を改定し、さらに10年後の1881年に再度手直しがされた。このことを見ても、いかにチャイコフスキーが幻想序曲「ロメオとジュリエット」拘っていたかが分かる。今、この曲を聴くと、若き日のチャイコフスキーの情熱がひしひしと伝わってくる。このレコードで指揮しているキリル・コンドラシンは、1960年モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任し、ショスタコーヴィチの交響曲第4番と第13番の初演を行っている。1978年アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任客演指揮者に就任。日本へは2度来日し、NHK交響楽団も指揮した。指揮者の岩城宏之は「コンドラシンが指揮したオーケストラへ行くと、オーケストラがすっかりきれいに掃除されている」と言っていたという。要するに、コンドラシンは、オーケストラの洗練された音づくりの名人であったのだ(LPC)。 

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◇クラシック音楽LP◇ハインツ・ホリガー&イ・ムジチ合奏団のアルビノーニ:オーボエ協奏曲Op.9

2021-09-27 09:38:12 | 協奏曲


アルビノーニ:オーボエ協奏曲Op.9の2、11、5、8

オーボエ:ハインツ・ホリガー

ハープシコード:マリア・テレサ・ガラッティ

管弦楽:イ・ムジチ合奏団

LP:日本フォノグラム(PHILIPS) SFX-7964

 オーケストラが演奏の前、音合わせ(チューニング)をするとき、オーボエが最初に吹き、それに続いて第一ヴァイオリン、さらに他の楽器が続く。そんなオーボエが主役を演じる協奏曲の中でも白眉とも言えるのが、一連のアルビノーニのオーボエ協奏曲だ。このLPの最初の曲である作品9の2を聴くと、流麗この上ないホリガーのオーボエの音色に忽ち引きつけられ、聴き惚れる。そんな魅力的なオーボエの音こそLPレコードで聴いてほしいものだ。その人間的な音が目の前に迫ってくるようだ。アルビノーニ(1671年―1750年)は、ヴィヴァルディより7年早く、ヴェネチアで生まれた。育った家が裕福であったため、当初は音楽で生計を立てる必要はなかったようである。しかし、その後、職業的なヴァイオリニストとして生計を立てるようになる。アルビノーニは、多作家で、約50曲のオペラをはじめ、数多くのカンタータ、アリアを書き残しており、当時は、オペラ作曲家として、その名が通っていたという。しかし、音楽史上では、器楽曲の作曲家としての方が大きな役割を演じ、ヴィヴァルディの作風にも大きな影響を与えたほど。作品9の「五声のためのコンチェルト」は、1722年に出版された最後の作品集。ソロ楽器と弦楽4部のコンチェルト12曲からなる。全体は、ソロ楽器として、①ヴァイオリンによるもの②オーボエによるもの③2本のオーボエによるもの―の4曲づつ3つのグループに分けられる。このレコードには、そのうち、オーボエのソロ・コンチェルトの4曲が収められている。アルビノーニは、管楽器の中では、特にオーボエに興味があったらしく、生前出版された42曲のコンチェルトのうち、16曲にオーボエを用いている。このレコードでオーボエを演奏しているのは、スイス出身のオーボエ奏者・指揮者、作曲家であるハインツ・ホリガー(1939年生まれ)である。ベルン音楽院、バーゼル音楽院、パリ音楽院で学ぶ。オーボエのソリストとしては、1959年ジュネーヴ国際音楽コンクール優勝、1961年ミュンヘン国際音楽コンクール優勝の受賞歴を誇り、国際的に名声あるオーボエ演奏家である。生前カザルスは、ホリガーを「偉大な芸術家、信じられない程のヴィルトゥオーゾ」と絶賛したという。ホリガーは、オーボエの演奏技法と流麗な響きの可能性を切り開き、18世紀において重要な役割を演じていたオーボエを、再び現代に蘇らせた、偉大なオーボエ奏者である。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ツェラー&サバレタのモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲/ライネッケ:ハープ協奏曲

2021-09-23 09:37:24 | 協奏曲


モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299
ライネッケ:ハープ協奏曲ホ短調op.182

フルート:カールハインツ・ツェラー

ハープ:ニカノール・サバレタ

指揮:エルンスト・メルツェンドルファー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5121 

録音:1962年10月22、23日(モーツァルト)
   1962年18日ベルリンUFAスタジオ(ライネッケ)

 モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲は、1778年にモーツァルトが一挙にフルートの曲を書いた年に作曲された。内容は、誠に典雅な雰囲気に満ち溢れた曲であり、幸福なモーツァルトそのものといった趣の曲だ。そんなモーツァルトを、フルートのカールハインツ・ツェラー(1928年―2005年)とハープのニカノール・サバレタ(1907年―1993年)が、互いに親密な会話をしているように、限りなく美しく演奏している。リスナーは、あたかも馥郁と香り立つ花が部屋いっぱいに咲き乱れている中にいるような雰囲気に包まれるようだ。そんな曲を聴くには、絶対にCDよりはLPレコードがの方が良いのである。モーツァルトは、7~8歳の時、神童としてヨーロッパ中を演奏旅行した。今のように鉄道も飛行機もなく、馬車の旅であったわけで、子供のモーツァルトにとってさぞ体力的にきつい旅であったろうことが想像できる。このとき、モーツァルトはパリに立ち寄っているが、1778年、22歳時にも、ふたたびパリに立ち寄っている。しかし、この時、母を失うなど、恵まれた旅とはいえなかったが、作曲の面では、充実した作品を遺している。交響曲第31番「パリ」、7曲のヴァイオリンソナタ、そして4曲のピアノソナタなどが挙げられる。それに加え、フルートの作品をほぼこの1年の間に書き上げている。その中の1曲がフルートとハープのための協奏曲である。この曲は、アマチュアのフルート奏者のギネス公の依頼によって書かれた。フルートとハープという珍しい楽器の組み合わせの作品を書いたのは、ギネス公とその娘が、それぞれの楽器の名手であったという事情によったもの。モーツァルトは、フルートもハープも、マンハイム-パリ滞在中以外はほとんど書いていない。これは、当時、これらの楽器が十分な機能がなかったためと言われている。一方、ライネッケ:ハープ協奏曲は、名ピアノストでもあったライネッケ(1823年―1910年)がライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督を務めたいた時代の作品。作曲者としてのライネッケは、メンデルスゾーンの影響を深く受けた合計200あまりの作品を遺している。ハープのニカノール・サバレタは、スペインの出身で、マドリード音楽院で学ぶ。自分で考案した8つのペダル付きのハープの多彩な表現で人気を集めた。フルートのカールハインツ・ツェラーは、ドイツ出身で、1960年~1969年の間、ベルリン・フィルの首席奏者を務めた後に独奏者として活躍した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチ、コーガン、ギレリスによるベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

2021-09-20 09:45:37 | 室内楽曲


ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

チェロ:ムスチスラフ・ロストロポーヴィッチ
ヴァイオリン:レオニード・コーガン
ピアノ:エミール・ギレリス

LP:ビクター音楽産業(メロディア) VIC-1015 

発売:1979年

 ベートーヴェンのピアノ三重奏第7番「大公」は、あらゆるピアノ三重奏曲の頂点に君臨する曲であり、聴くたびにリスナーを雄大な気分にしてくれる名曲である。それだけに3人の奏者がどのように「大公」を解釈し、そして演奏するかに全神経が集中する。今回のLPレコードは、ロストロポーヴィッチ、コーガン、ギレリスという旧ソ連のクラシック音楽界に君臨した3人が演奏したものだけに、巨匠風の演奏内容を連想するが、実際に聴いてみると、実に若々しく、緻密な「大公」を演奏しており、逆にその点で感銘を受ける。録音は1960年頃のようであり、3人ともまだ若かったのだ。ベートーヴェンは、ごく初期からピアノ三重奏曲に手を染めている。第1番~第3番のピアノ三重奏曲は、作品1として出版されている。その後、10年ほどの間、ピアノ三重奏曲の創作から離れたが、1895年に作品11、1808年に作品70の2曲のピアノ三重奏曲を書いていている。それから2年余、1811年に第7番「大公」を作曲した。この後、同じ形式で「カカドゥ変奏曲」を書いているが、ピアノ三重奏曲としては、第7番が最後の曲となった。第7番はベートーヴェン40歳の時の作品で、全7曲のピアノ三重奏曲中もっとも規模が大きく、古今のあらゆるピアノトリオの頂点を極めた傑作として君臨している。スケールが大きく、ピアノを軸とした協奏曲風の絢爛さに満ちている。さらに豊かな旋律や美しい和声の響きなどを備えた、風格と気品に溢れた名作といえる。良きベートーヴェンの理解者であり、支援を惜しまなかったルドルフ大公に献呈されたため「大公」という愛称で呼ばれている。ルドルフ大公は、ベートーヴェンよりずっと若かったが2人は馬が合い、ベートーヴェンは、第4と第5のピアノ協奏曲、ハンマークラヴィアソナタ、荘厳ミサ曲などをルドルフ大公に献呈している。このLPレコードで演奏しているピアノのエミール・ギレリス(1916年―1985年)、ヴァイオリンのレオニード・コーガン(1924年―1982年)、チェロのムスチスラフ・ロストロポーヴィチ(1927年―2007年)は、旧ソ連が誇った演奏家たちで、オイストラフ、オボーリン、クヌシェヴィッキーの次の世代に旧ソ連の楽界を背負った逸材達であった。3人は1950年代末にしばしば来日した。このLPレコードでの3人の演奏は、完璧な技術に加え、隅々まで磨かれた美しい音色が印象的であり、知的な演奏が統一感を持って十全に表現されている。ただ、惜しむらくは音質が今一つ冴えないのは残念。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のヘンデル:組曲「王宮の花火の音楽」/「水上の音楽」

2021-09-16 09:43:22 | 管弦楽曲


ヘンデル:組曲「王宮の花火の音楽」/「水上の音楽」

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)

LP:キングレコード(ロンドン) K18C-9205 

発売:1972年

 このLPレコードは、ネヴィル・マリナー(1924年―2016年)が、手兵のアカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)を指揮した録音である。同楽団は、マリナーにより1961年に正式に発足した。まだマリナーも若々しく、そしてその演奏内容は実に瑞瑞しく、壮麗優美の一言に尽きる。重厚な弦の響きに、管楽器の流麗な響きが交差する演奏内容は、ヘンデルのこの有名な2つの組曲の決定盤といっても過言がないほど。このLPレコードにおいてマリナーは、特に「水上の音楽」の演奏に当たり、ケンブリッジのペンデルバリ図書館のチャールズ・カドワーズの協力を得て、いくつかの古い版を検討した結果、オーボエ、ホルン、トランペット各2本に弦楽合奏という編成を用い、ティンパニーは除外した。また、全体をト長調、ニ長調、ヘ長調の3つの組曲に分けた。一方、組曲「王宮の花火の音楽」は、国王の要望に反して、当初から弦楽を加えることを意図していたと言われるヘンデルの意志を尊重してか、オーケストラ版が用いられている。組曲「王宮の花火の音楽」は、イギリス国王ジョージⅡ世の命によって計画されたもので、8年続いたオーストリア継承戦争の戦勝を祝うための記念行事のために書かれた。1749年4月27日の祝賀会当日は、序曲の演奏の後、花火が打ち上げられ、その火が木造家屋に燃え移るというハプニングがあったが、大きな成功を収めたという。一方、「水上の音楽」は、ジョージⅠ世のテームズ河での舟遊びに際して演奏されたが、ヘンデルの完全な自筆原稿が遺されておらず、その演奏の形には定説はない。ここでは3つの組曲に分けて演奏されているいるが、これらは、別々に作曲されたという説もある。指揮のネヴィル・マリナーは、イングランドのリンカン出身。王立音楽大学に学んだ後、パリ音楽院に留学。1959年にアカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)を結成し、長年その指揮者を務めた。さらに1979年から1986年までミネソタ管弦楽団、1983年から1989年までシュトゥットガルト放送交響楽団の音楽監督を務めた。レパートリーは幅広く、バロック音楽から古典派音楽に始まり、チャイコフスキー、レスピーギやバルトークも指揮・録音している。映画「アマデウス」のサウンドトラックには、マリナー指揮のアカデミー室内管弦楽団による演奏が用いられた。1985年にはナイト号を授与された。1972年にアカデミー室内管弦楽団と初来日して以後、単独でしばしば来日していた。(LPC)

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