★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇シベリウス:管弦楽集(組曲「カレリア」/組曲「恋人」/交響詩「吟遊詩人」/ 劇音楽「クリスティアンⅡ世」組曲)

2020-10-29 09:47:45 | 管弦楽曲

シベリウス:カレリア序曲
      組曲「カレリア」
           間奏曲/バラード/アラ・マルチア(行進曲風に)  
      組曲「恋人」
           恋人/愛する者の小路/おやすみ・・・さよなら
      交響詩「吟遊詩人」
      劇音楽「クリスティアンⅡ世」組曲
           夜想曲/エレジー/ミュゼット/セレナード/バラード

 

<カレリア序曲/交響詩「吟遊詩人」/劇音楽「クリスティアンⅡ世」組曲>

指揮:アレグザンダー・ギブソン
管弦楽:スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

<組曲「カレリア」>

指揮:タウノ・ハイニカイネン
管弦楽:シンフォニア・オブ・ロンドン

<組曲「恋人」>

指揮:ジョン・バルビローリ
管弦楽:ハルレ管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐30355

 シベリウスの音楽というと、直ぐに交響詩「フィンランディア」や交響曲第2番を思い浮かべるが、シベリウスは数多くの管弦楽の名曲をを残している。これらの多くはそうたびたび演奏されることもないので、あまり親しみがないが、それらの曲を一度聴くと、北欧の澄んだ空気に直に触れるような新鮮味を感じ取ることができる。このLPレコードは、そんなシベリウスの管弦楽曲の中から、選りすぐりの曲を、シベリウスの演奏に最もふさわしい指揮者が指揮して録音した愛すべき盤である。まず、カレリア序曲と組曲「カレリア」である。カレリア地方とはフィンランドの東側(現在ロシア領)のことで、シベリウスが新婚旅行でカレリア地方を訪れた時の印象を基に、その自然と歴史の思いを寄せ1893年に作曲された。このカレリア序曲を演奏しているには、アレグザンダー・ギブソン指揮スコティッシュ・ナショナル管弦楽団である。指揮のアレグザンダー・ギブソン(1926年―1995年)は、スコットランドの出身で、1959年にスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者に就任した。カレリア序曲は、カレリアの民族音楽も取り入れた、シベリウスには珍しい明るく弾んだ明快な曲想となっており、理屈抜きで楽しめる曲だ。アレグザンダー・ギブソンは、伸び伸びとした指揮で曲をうまく盛り上げている。次の曲の組曲「カレリア」は、如何にもシベリウスらしいダイナミックな表現力と抒情味溢れるメロディーが印象に残る曲。演奏しているのは、タウノ・ハイニカイネン指揮シンフォニア・オブ・ロンドン。ここでのタウノ・ハイニカイネンの指揮ぶりは、シベリウスのエクスパートらしく確信に満ちた力強い演奏を聴かせる。次の曲の組曲「恋人」は、このLPレコードのハイライトともいうべき曲で、優美な内容を有した、如何にも北欧の音楽の詩的な雰囲気が横溢する秀曲である。演奏しているのは、ジョン・バルビローリ指揮ハルレ管弦楽団。ここでのバルビローリの指揮は、優美な表現を最大限に発揮し、時折見せる雄大な表現もシベリウスの音楽の核心に触れる演奏内容でり、リスナーは十分に満足させられる。次の曲は、交響詩「吟遊詩人」。演奏は、カレリア序曲と同じアレグザンダー・ギブソン指揮スコティッシュ・ナショナル管弦楽団。ギブソンの癖のない指揮がかえって効果を挙げている。最後の曲は、劇音楽「クリスティアンⅡ世」組曲。この演奏もアレグザンダー・ギブソン指揮スコティッシュ・ナショナル管弦楽団。演奏内容はシベリウスの持つ詩的で幻想的な流れを素直に表現し、好感が持てる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バルトーク夫妻のピアノ演奏によるバルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ他

2020-10-26 09:41:54 | 室内楽曲

バルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ
      10の小曲(ピアノ曲集「子供のために」より)
      トランシルヴァニアの夕べ(「10のやさしい小曲」より)
      熊踊り(「10のやさしい小曲」より)

ピアノ:ベラ・バルトーク
    ディッタ・パーストーリー・バルトーク

打楽器:ハリー・ベイカー
    エドワード・J・ラブサン

録音:ピーター・バルトーク

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OW‐7711‐VX

 これは、バルトーク夫妻がピアニストとして、バルトークの作品を録音した貴重なLPレコードである。バルトーク自身優れたピアニストであった。1940年4月13日に、ワシントンの国会図書館ホールで行われた、バルトークのピアノ伴奏によるシゲティとのヴァイオリンリサイタルの模様は、今日録音が残っている。この時の録音を聴くと、バルトークは、ピアニストとして活動しても一流のピアニストとして後世に名を残したのではなかろうかとさえ思われるほどの腕前だ。このLPレコードでは、妻のディッタ・パーストーリーのとの共演であるので、息もピタリと合い、申し分のない演奏内容だ。当時の実際の演奏会においても、この曲は、この二人のピアノで演奏されたという。さらに、この録音が夫妻の次男ですぐれた音響技師であったピーター・バルトークによってなされており、このLPレコードは、正にバルトーク一家総出演で実現した記念碑的録音だ。バルトークのアメリカでの音楽生活は、恵まれていたように思われるかもしれないが、実際はその逆で、無視されることも少なくなかったようである。このLPレコードのA面およびB面の最初のトラックに収められている「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」は、1937年8月に完成した作品で、1940年には「2台のピアノのための協奏曲」に編曲されている。全体は、緊張感漂う曲で、あたかも抽象絵画を見ているようにも感じられる。バルトークは民俗音楽の取集に全力で取り組んだことは知られているが、この曲には民俗音楽的な要素は感じられない。バルトークは、民俗音楽から吸収した音自体のエキスを一つの作品に昇華させたかのような曲だ。この作品によってバルトークが如何に音自体をを厳しく見つめていた作曲家であったかが分かる曲となっている。次の「10の小曲」は、ピアノ曲集「子供のために」から、ハンガリー民俗音楽を集めた第1巻から10曲を選んだもので、聴いていて自然に楽しくなる作品。「トランシルヴァニアの夕べ」と「熊踊り」は、「10のやさしい小曲」の第5番と第10番からの曲で、2曲ともとても親しみのもてる作品。このLPレコードの「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」の演奏は、極限の緊張感が漂う演奏で、聴いていて自然に手に汗握るほど。この曲が今から67年前に書かれた作品とは思えないほど、現代的な感覚に満ちている。そしてここでの演奏内容は、一層現代的感覚を研ぎ澄ましたようなものに進化させている。この作品およびこの演奏は、今でこそ、その真の評価ができるのではないかと感じた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハンス・リヒター=ハーザーのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/第4番

2020-10-22 09:39:21 | 協奏曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/第4番

ピアノ:ハンス・リヒター=ハーザー

指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ(第3番)
   イシュトヴァン・ケルティス(第4番)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI EAC-30064

 このLPレコードでピアノ演奏をしているのは、旧東ドイツ出身のハンス・リヒター=ハーザー(1912年―1980年)である。ドレスデンで生まれ、地元のドレスデン高等音楽学校で学んだ。 第二次世界大戦後は、デトモルト市立管弦楽団指揮者およびデトモルト音楽院ピアノ科教授に就任。しかし、その後、ハンス・リヒター=ハーザーは、ピアニストとしての道を歩むことを決意し、10年のブランクを置いてオランダでピアニストとしての再デビューを図った。聴衆は、突如円熟したピアニストの登場に驚き、その名声はたちまちの内にヨーロッパ中に広まった。1959年にはアメリカ、そして1963年には日本にも訪れ、ベートーヴェンの見事な演奏を披露した。ハンス・リヒター=ハーザーは、ドイツ的な深い感情表現を基本としており、正統的でスケールが大きい演奏が特徴だ。このため、得意としていたのはベートーヴェンやブラームスなどの曲であり、特にベートーヴェンは、当時その右に出る者なしと言われるほどの腕であった。ハンス・リヒター=ハーザーが来日した折、このLPレコードに収められたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番を「自分の一番気に入った演奏」と言っていたそうである。いわば、このLPレコードは、ハンス・リヒター=ハーザーの自薦盤ともいえる録音である。早速ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番を聴いてみよう。ここでハンス・リヒター=ハーザーは、ベートーヴェンに真正面から取り組んでいるのではあるが、そこには少しの気負いもなく、優雅さが溢れるような流麗なベートーヴェン像が現れることに驚かされる。もっとごつごつとしたベートーヴェンが描かれるのでは、と思いきや、そこにあるのは優美な面持ちのベートーヴェンなのである。これは、ベートーヴェンに挑むというよりは、ベートーヴェンを導き入れるような包容力を持った演奏内容なのである。しかし、ベートーヴェンらしい威厳が少しも失われていないのは、これが名人の演奏なのかと感心させられる。これに対して、第4番の演奏は、充分に男性的でスケールの大きいベートーヴェン像が描かれている。懐の深い演奏とでも言ったいいのであろうか。一つ一つのピアノの音の粒が揃い、音色も限りなく美しいのが驚異的でさえある。これら2曲の演奏に共通して言えるのは、表面的な凡庸なベートーヴェン演奏とは、全く無縁の演奏あるということ。ハンス・リヒター=ハーザーの演奏を聴いていると、ベートーヴェンの心の中に入り込み、あたかもベートヴェン自身がピアノを弾いているような新鮮さが滲み出ている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇デムスとバリリ四重奏団員のブラームス:ピアノ四重奏曲第2番

2020-10-19 09:37:23 | 室内楽曲

ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番

ピアノ:イエルク・デムス

弦楽:バリリ四重奏団員

発売:1971年

LP:キングレコード(Westminster) MZ5087

 ブラームスは1859年に、生まれ故郷であるハンブルクに居を構え、それまでの演奏活動を一区切りさせ、作曲に専念することになる。ここでの生活はかなり快適であったようであり、「ヘンデルの主題による変奏曲」、ピアノ四重奏曲第1番ト短調、ピアノ四重奏曲第2番イ長調、ピアノ五重奏曲、弦楽五重奏曲、女声合唱曲など、室内楽を中心に名曲を生むことになる。ブラームスは、生涯に第1番ト短調、第2番イ長調、第3番ハ短調の3曲のピアノ四重奏曲を作曲した。今回のLPレコードは、第1番のほぼ1年後の1862年に完成した第2番である。第1番が暗い情熱のような重い曲であるのに対し、第2番は明るく牧歌的で、抒情味のある曲に仕上がっている。差し詰め交響曲でいうと第1番と第2番の違いといったところか。ブラームスが生前の時は、第2番の方が人気があったようであるが、現在は、第1番の方が演奏される機会が多い。この原因として考えられるのは、第2番の演奏時間は50分ほどかかるので、忙しい生活を強いられている現代人にとっては、時間の点から第2番はどうも気軽に聴ける曲ではないことが影響しているかもしれない。今回第2番を聴いてみたが、どことなく弦楽六重奏曲第1番に似たところもある、内容の充実した曲だと見直した。ある意味では、ブラームス通にとっては必聴の曲と言えるのかもしれない。このLPレコードで、ピアノを演奏しているのは、オーストリア出身のイエルク・デムス(1928年―2019年)である。デムスは、ザルツブルク音楽院で学んだ後、1956年「ブゾーニ国際コンクール」で優勝し、一躍世界的なピアニストになる。かつて日本では、パウル・バドゥラ=スコダとフリードリヒ・グルダとともに“ウィーンの三羽烏”と呼ばれた。弦楽はバリリ四重奏団員たちによる。バリリ四重奏団はもともとウィーン情緒濃い演奏を持ち味としていたので、このLPレコードは、重厚なブラームスの曲を、ウィーン情緒たっぷりな演奏家の録音である。よく、ドイツ人作曲家の作品をフランス人の演奏家が演奏すると名演が生まれることがあるが、このLPレコードも似たようなことが言えそうだ。重厚さのある演奏なのではあるが、どことなくほのぼのとした昔懐かしい味わいがする演奏内容となっている。50分もする長い室内楽にもかかわらず、次から次に感興が湧き上がってくるような演奏内容なので、少しも飽きがこないのだ。イエルク・デムスとバリリ四重奏団員のような名人たちの手によると、このブラームス:ピアノ四重奏曲第2番の真価がよく聴き取れる。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇プーランク自身のピアノ演奏を含むプーランク:2台のピアノのための協奏曲/クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)

2020-10-15 09:55:14 | 協奏曲(ピアノ)

プーランク:2台のピアノのための協奏曲
      クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)

ピアノ:フランシス・プーランク

ピアノ:ジャック・フェヴリエ

クラヴサン:エーメ・ヴァン・ド・ヴィール

指揮:ジョルジュ・プレートル

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

録音:1957年5月、パリ、サル・ド・ラ・ミュチュアリテ

LP:東芝EMI EAC‐40122

 これはフランスの作曲家で、フランス6人組の一人でもあったプーランク(1899年―1963年)が書いた2つの協奏曲を収録したLPレコードである。「2台のピアノのための協奏曲」では、プーランク自身ピアニストとして演奏しており、プーランクはピアニストとしても一流であったことが裏付けられる録音でもある。交響曲は書かなかったようであるが、声楽をはじめとして、室内楽、宗教的楽劇、オペラ、バレエ音楽、管弦楽曲など幅広く作曲した。父の反対によりパリ音楽院には進学せず3年間の兵役につき、その後本格的に作曲を学び始める。バレエ「牝鹿」、オペラ「ティレジアスの乳房」、オペラ「カルメル派修道女の対話」などを発表し、これらにより次第に高い評価を得ていく。プーランクはフランス音楽の権化みたいに感じられるが、プーランク自身は「フォーレやルーセルは受け付けない」と言っていたという。プーランクは生粋のパリっ子の都会人で、その作風も何かシャンソンに似ているようでもある。このLPレコードのA面に収められた「2台のピアノのための協奏曲」は、プーランクの天真爛漫さが発揮された協奏曲である。リスナーは、2台のピアノとオーケストラ繰り広げる音の絵巻を楽しむといった趣の曲だ。このLPレコードでは、プーランクと幼いころからの友人であったジャック・フェヴリエの2人のピアノ演奏が絶妙に絡み合い、これにジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団の粋なオーケストラの響きがよく溶け合った演奏内容となっている。プーランクの世界は、パリの粋な雰囲気が充満し、そのことでリスナーが心の充足感が得られるような作品が多いと思うが、これはその典型例とも言える作品であり演奏だ。B面に収められた「クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)」は、クラブサン(ハープシコード)の名演奏家であったワンダ・ランドフスカに依頼によって作曲された作品。ワンダ・ランドフスカは、クラブサンを現代によみがえらせ、多くの演奏家を育て上げた。そんな人の依頼を受けたプーランクは、協奏曲というよりは、17世紀~18世紀の雰囲気に戻って、あたかも合奏協奏曲風な雰囲気を漂わす。このLPレコードでクラヴサンを演奏しているのは、ワンダ・ランドフスカに師事し、主にスイスで活躍したクラブサン奏者のエーメ・ヴァン・ド・ヴィール。この「田園協奏曲」の演奏内容は、クラブサンの繊細な響きとオーケストラのダイナミックな響きとが、意外にもうまくかみ合い、味わいのある演奏に仕上がっている。(LPC)

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