★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇パブロ・カザルスのバッハ:無伴奏チェロ組曲全曲(第1番~第6番)

2021-08-26 09:48:35 | 器楽曲(チェロ)


バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番(録音:1938年6月)
             第2番(録音:1936年11月)
             第3番(録音:1936年11月)
             第4番(録音:1939年6月)
             第5番(録音:1939年6月)
             第6番(録音:1938年6月)

チェロ:パブロ・カザルス

LP:東芝EMI GR‐2317~19

 バッハの無伴奏チェロ組曲(第1番~第6番)は、アンハルト・ケーテン公レオポルドに奉職していた時代、いわゆるケーテン時代に書かれた作品である。このケーテン時代には、多くの世俗的器楽作品の傑作が生まれた。何故、教会音楽でなく世俗的作品が書かれたのであろうか?その理由は、ケーテンの宮廷はカルヴァン派であったため、教会音楽は必要としなかったためである。バッハは、1708年、23歳の時にワイマールのウィルヘルム・エルンスト公の宮廷に宮廷付きオルガニスト兼楽師として奉職した。1716年、楽師長が亡くなって、バッハは楽師長の職にありつけると考えたが、実際にはほかのものが楽師を引き継いだ。自分の能力を無視されたバッハは、ワイマールを去ることを決意する。辞表を書いて提出したが、正当な理由ではないとして受理されなかった。それでも辞表を出し続けたため、裁判所に拘束される羽目となってしまい、最後は、免職扱いとなってしまった。そんなトラブルを経て、自分の能力を認めてくれるレオポルド公の下で、バッハは伸び伸びと世俗曲の作曲と室内オーケストラの指揮者としての役職に励んだわけだ。ただ、この間、愛妻のマリア・バルバラを亡くすという不幸もあったが、翌年、マリア・マグダレーナと再婚する。ところで、このLPレコードは、チェロの神様のパブロ・カザルスがSPレコードに録音したものを、LPレコード化したものであり、バッハの無伴奏チェロ組曲の演奏の基準となる録音として、多くのファンを魅了し続けている名盤だ。それもそのはず、カザルスこそ、それまで埋もれていたバッハ:無伴奏チェロ組曲を“発見”し、その真価を蘇らせたチェリストであったのだ。“発見”の経緯とは、次のようなことであったようだ。カザルスが13歳の時、父と連れ立って、バルセロナの楽器店を歩き回って、チェロの良い作品はないだろうかと探していた時、偶然にバッハの「6つの無伴奏チェロ組曲」を見つけたという。要するに、当時楽譜として残ってはいたが、誰もが単なる練習曲のようなものと、見向きもしなかった中で、カザルスは、この楽譜を見た途端、一瞬でその芸術性の高さを看破してしまったのだ。カザルスがさらに凄いのは、その後12年間、この曲を徹底的に研究してから世に問うたことだ。以降、バッハの無伴奏チェロ組曲は、古今のチェロ曲の名曲として君臨することになる。演奏内容は、実に奥深く、チェロという楽器の魅力を最大限に発揮している。これほどバッハを愛し、チェロを愛し、包容力豊かな演奏は、ほかでは到底味わうことはできない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロ・ポーヴィッチのプロコフィエフ/ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

2021-01-07 09:38:35 | 器楽曲(チェロ)

プロコフィエフ:チェロソナタ
ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

チェロ:ムスチスラフ・ロストロポーヴィチ

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル(プロコフィエフ)
    ドミトリー・ショスタコーヴィチ(ショスタコーヴィッチ)

発売:1979年

LP:ビクター音楽産業 VICX‐1013

 プロコフィエフ:チェロソナタは、1949年に書かれたプロコフィエフ最晩年の作品。最晩年の作品と聞くと、何やら深淵な曲想を連想するが、この曲はそれと逆で、分かりやすく、明快な曲想に基づいている。旧ソビエト政府は、プロコフィエフの作品に対し「難解で労働者階級の音楽ではない」と批判的であったが、そのころ既にプロコフィエフは世界的な名声を得ていたために、旧ソビエト政府といえどもプロコフィエフだけには手を出せなかったというのが真相であった。このためプロコフィエフは自由に海外にも行けたし、自由に作曲もできた。ところが、1948年に「ジュダーノフ旋風」が巻き起こり、ショスタコーヴィチやハチャトリアンなどに加え、プロコフィエフも批判の対象となってしまう。「彼らは西欧的な形式主義を信奉して、社会主義リアリズムを忘れている」というのがその批判である。プロコフィエフといえども、今回ばかりは旧ソビエト政府の意向の沿う曲を作曲せねばならなくなり、生まれたのが「労働者階級に密接に結び付いた曲」であるチェロソナタであった。一方、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタは、「ジュダーノフ旋風」が巻き起こる前の1934年に書かれている。初期の実験的な作品群から中期への過渡期に位置するこの作品は、3年後に書かれる第5交響曲を予告するような内容で、古典的な構成と現代的な感覚が融合されていると同時に、悲劇的感情と抒情味が渾然と一体化された、20世紀のチェロ作品を代表する名曲となっている。このLPレコードでのロストロポーヴィチのチェロ演奏は、祖国を同じくする作曲家への深い愛着を込めたもので、一音一音を丁寧に弾きこむ。プロコフィエフの曲では、明快さを強調したメリハリのある演奏を披露する。リヒテルのピアノもロストロポーヴィチの演奏にぴたりと寄り添い、一体感ある演奏にまで高めているところは流石というほかない。一方、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタの演奏では、ロストロポーヴィチは、暗い情熱と豊かな抒情性とを巧みに組み合わせた、ダイナミックな演奏手腕を見せ、当時世界一と言われた実力をいかんなく発揮していることが聴き取れる。ショスタコーヴィチのピアノ演奏も本職裸足の見事なもの。それにしても「ジュダーノフ旋風」が、これらのロシア人作曲家に及ぼした影響は甚大なものであったが、それを逆手に取って作品を生み出した、当時のロシア人作曲家の強靭な精神には、頭が下がる思いがする。(LPC) 

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