★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇不世出の天才ピアニスト ディヌ・リパッティのモーツァルト:ピアノ協奏曲第21番、ピアノソナタ第8番/バッハ:パルティータ第1番

2020-05-28 09:37:46 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
          ピアノソナタ第8番
バッハ:パルティータ第1番

ピアノ:ディヌ・リパッティ

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ルツェルン音楽祭管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AB‐8048
 
 これは、僅か33歳でこの世を去った天才ピアニストのディヌ・リパッティ(1917年―1950年)を偲ぶLPレコードである。リパッティの特徴である、演奏が純粋な美しさに溢れ、あたかも天上の音楽を奏でるが如く、しかも、それらが常に背筋をぴーんと伸ばしたような構成美に貫かれた演奏を聴いていると、“不世出の天才ピアニスト”という言葉が自然と脳裏に浮かび上がる。もうこんなピアニストは出現しないのかもしれない。その意味でリパッティの残した録音は、“人類の宝”と言っても決して言いすぎでないほど価値のあるものだ。リパッティは、ルーマニアのブカレストで、両親がともに音楽家という家庭に生まれた。名付け親は、あの世界的なヴァイオリニストであったジョルジュ・エネスコであったというから、生まれながらにその将来が約束されていたのかもしれない。1934年、16歳になったリパッティは、ウィーンで開催された国際ピアノコンクールに出場し第2位に入賞したが、この時審査員をしていたコルトーはリパッティが首位でないことに抗議をし、審査員の座を下りてしまった。その後、コルトーはパリにリパッティを呼び、直接指導することとなる。さらに、リパッティは、有名なナディア・ブーランジェ女史に師事。そして、19歳になった時、コンサート・ピアニストとしての活躍を始め、ヨーロッパ各国で高い評価を得るようになるのである。しかし、第二次世界大戦の戦火が激しくなり、スイスのジュネーブへと旅立つことになる。以後、リパッティの名声は世界的なものとなって行く。しかし、この頃、白血病の病魔がリパッティを襲い始め、1950年9月のブサンソン音楽祭で行ったの最後の演奏会となり、同年の12月2日にこの世を去ってしまう。プーランクはリパッティのことを「神のような精神を持った芸術家」と評したという。このLpレコードは、そんなリパッティにぴったりの3曲が1枚に収録されている。モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番では、天衣無縫のモーツァルトの世界を鮮やかなテクニックで弾きこなす。カラヤン指揮ルツェルン音楽祭管弦楽団も、奥深い伴奏でリパッティを盛り上げている。モーツァルト:ピアノソナタ第8番では、モーツァルトの悲しみの疾走を、ものの見事に再現する。技巧的に優れているが、決して技巧だけに終わらずに、深い精神性を備えた演奏を聴かせてくれる。最後のバッハ:パルティータ第1番は、リパッティのバッハへの深い敬愛が滲み出た演奏内容であり、何か信仰にも似た雰囲気を漂わす。いずれも、これらの曲の代表的名演と言える。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのショパン:24の前奏曲/ 4つの即興曲集

2020-05-25 09:36:28 | 器楽曲(ピアノ)

ショパン:24の前奏曲
     4つの即興曲集

ピアノ:サンソン・フランソワ

発売:1971年

LP:東芝音楽工業 AA‐8047

 ショパンが作曲した前奏曲は、「24曲の前奏曲」からなる作品に加え、独立曲2曲を合わせた合計26曲ある。このLPレコードに収録されているのは、「24の前奏曲」作品28である。これら24の作品は、いずれも小さな曲で、24の長短調すべてに対応する曲が含まれている。これは、バッハの平均律クラヴィーア曲集にある前奏曲に基ずいたものと言われている。この24曲の前奏曲は、1839年1月にマジョルカ島で完成している。24曲全曲を通して聴いても少しの飽きが来ないのは、ショパンの天才の成せる業であろう。抒情的な曲や愛らしい曲に挟まれ、ショパンの激情が一挙にほとばしる曲もある。“ショパンのピアノ曲は花束の陰に大砲が潜んでいる”と言われることがあるが、この「24の前奏曲」を聴くと、「なるほど」と納得させられる。一方、B面に収められた4つの即興曲は、即興的に浮かんだ楽想をもとに作られたピアノ独奏曲用の曲である。ショパンは全部で4曲の即興曲を残している。ショパンには、バラード、スケルツォ、ノクターン、ワルツなどの作品があるがこれらに比べ、4つの即興曲の芸術的評価は必ずしも高くはない。しかし、よく聴くと、ショパンの才能が随所にほとばしり、4曲ともなかなか味わいのある小品であることが分る。1曲ごとにアンコールピースとして弾かれることが多く、4曲を続けて演奏される機会は意外に少ない。このLPレコードでこれらの曲を弾いているのは、第二次世界大戦後のフランスを代表的なピアニストの一人、サンソン・フランソワ(1924年―1970年)である。1938年にはパリ音楽院に入学後はマルグリット・ロン、イヴォンヌ・ルフェビュールに師事。1940年に音楽院を首席で卒業し、1943年に第1回「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝。以後、世界各国で演奏活動を展開し、世界的名声を得る。特に、当時“ショパンを弾かせたらフランソワの右に出る者はいない”とまで言われていた。このLPレコードでのフランソワの演奏は、正に“詩人”の成せる演奏とでも言えようか。24の前奏曲の1曲1曲に魂が宿り、リスナーは、あたかも詩の朗読を聴いているごとき気分を味わえる。もう、こうなると、リスナーはピアノの演奏が巧いとか、どうとかいう範疇を遥かにはるかに超え、フランソワの高い芸術性に、ただただ胸を打たれるばかりだ。現在、改めてこのLPレコードを聞き直して見ると、現在のピアニストには欠けている、個性的な演奏内容に感銘を受ける。4つの即興曲集の演奏にも同じことが言えるし、フランソワの語り口の巧さが一段と光り輝く。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フリッチャイ指揮ベルリン放送響のバルトーク:管弦楽のための協奏曲

2020-05-21 09:40:18 | 管弦楽曲

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン放送交響楽団

録音:1957年4月9、10日

発売:1974年

LP:ポリドール MH 5055

 バルトークの管弦楽のための協奏曲は、1943年に作曲された5つの楽章からなる管弦楽曲で、バルトーク晩年の傑作である。バルトークの作品は、往々にして、難解であるか、あるいは民族色が濃く反映され、誰もが気楽に楽しめるといった大衆性が薄い作品が少なくない。ところが、この晩年の傑作である管弦楽のための協奏曲は、バルトーク独特のリズム感を失わず、しかも誰が聴いても親しみやすいメロディーが散りばめられ、しかもオーケストラの持つダイナミックスさを存分に発揮させるので、多くの愛好者を持っている曲なのである。この曲は、1943年当時ボストン交響楽団の音楽監督だったクーセヴィツキー(1874年―1951年)が、クーセヴィツキー財団からの委嘱としてバルトークに作曲を依頼し、完成した作品。バルトークは、1940年10月にアメリカへ亡命した。理由は、祖国ハンガリーが、ナチによって占領されたため。しかし、アメリカに渡ったバルトークを待ち受けていたのは、評論家や聴衆の自身の曲への無理解だった。収入もわずかで、そこへもってきて、白血病という不治の病に罹ってしまう。当時、バルトークは、友人に「わたしの作曲家としての生涯は、もう終わったも同然です」と手紙を出すほど切羽詰った状況に陥っていた。そんな中、突然アメリカ作曲家協会が入院費用を出すことになり、バルトークは、ニューヨーク北部のサラナック湖畔で療養生活を送ることになる。その時、クーセヴィッキーがバルトークの許を訪れ、作曲の依頼と同時に500ドルの前金を置いて行ったのだ。不幸続きだったバルトークにもようやく救いの手が差し伸べられ、バルトークも作曲意欲が復活し、ようやくアメリカ亡命の最初の作品とした完成した。初演は、1944年12月1日にボストンで行われ、成功を収めことができた。この曲が今に至るまで、人気を誇っている理由の一つは、曲想が親しみやすいのと同時に、亡命という精神的な苦痛に見舞われ、しかも白血病という大病に蝕まれた肉体を克服した、その強靭な精神性が背景を貫いていることがあろう。このレコードは、フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)指揮ベルリン放送交響楽団の演奏だ。強靭なリズム感に加え、華やかなオーケストラの饗宴ともいえる雰囲気を、フリチャイは巧みに演出し尽くす。特に、自己への集中力を最大限に高め、オケを統率するフリッチャイの指揮者としての力量は図抜けているとしか言いようがない。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇グリュミオー・トリオ&マクサンス・ラリューのベートーヴェン:セレナード(作品8/作品25)

2020-05-18 09:53:13 | 室内楽曲

ベートーヴェン:セレナード 作品8(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)
        セレナード 作品25(フルート、ヴァイオリン、ヴィオラのための)

弦楽三重奏:グリュミオー・トリオ
         
        アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)
        ゲオルク・ヤンツェル(ヴィオラ)
        エヴァ・ツァコ(チェロ)

フルート:マクサンス・ラリュー

録音:1968年9月13日、15日

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐46
 
 ベートーヴェンは、バガテルや民謡のような小品も数多く作曲している。それらの作品は、滅多に演奏会では採り上げられないし、録音も少ないので、一般のクラシック音楽ファンは聴くチャンスに恵まれない。今回のLPレコードのセレナードも、それらの小品と同じとは言わないが、あまり聴くチャンスがない曲であろう。このLPレコードのライナーノートで藁科雅美氏がベートーヴェンのセレナードを解説しているので、これを参考に紹介しよう。ベートーヴェンは、20歳半ばの彼のウィーン時代の初期に、三重奏のための「セレナード」2曲を作曲した。作品8がヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽三重奏曲であるのに対し、作品25では、チェロの代わりにフルートが用いられている。2曲ともセレナードの様式に則った、モーツァルト風な優美さが特徴。しかし、そこには幾分なりともベートーヴェンの個性が含まれ、モーツァルトのセレナードとはいささか趣が異なっているのである。そこがこの2曲のセレナードにユニークな美感を与えている。作品25は、「フルートとピアノのためのソナタ(セレナード)」作品41としても出版されているが、ベートーヴェン自身による二重奏への編曲でないことが定説となっている。セレナード ニ長調 作品8は、セレナードの定型どおり、楽師たちの登場するマーチで始まり、同じくマーチ調で結ばれる5つの楽章からなっている。一方、セレナード ニ長調 作品25は、作品8と似た曲想ではあるが、全7楽章は、フルートの繊細で透明な音が独特の彩を添えている作品。この2曲のセレナードは、あまり知られていない曲とはいえ、それぞれの第1楽章を聴くと、以前聴いたことのある曲だなと思うリスナーも少なくないであろう。この2曲をこのLPレコードに録音したグリュミオー・トリオのヴァイオリン奏者のアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)は、フランコ=ベルギー楽派の流れを汲み、そのヴァイオリンの音は限りなく美しく、構成がきちっと整った正統派の演奏スタイルに特徴があり、わが国でも多くのファンを有していた。このLPレコードでのグリュミオー・トリオの演奏は、互いの息がぴたりと合い、特に緩徐楽章の美しさは、この世のものとも思えないほど。フルートのマクサンス・ラリュー(1934年生まれ)は、南フランス、マルセイユの出身。1954年ジュネーヴ コンクール第2位入賞したフルートの名手。マクサンス・ラリューとグリュミオーとヤンツェルの3人の演奏は、フルートの音色が輝かしく鳴りわたり、暫し室内楽の愉悦に浸れる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇モーツァルト:フェレンツ・フリッチャイ指揮ウィーン交響楽団のモーツァルト:交響曲第29番/第39番

2020-05-14 09:55:26 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第29番/第39番

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ウィーン交響楽団

録音:1961年3月13、23、25日、ウィーン、ムジークフェラインザール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MGW 5177
 
 モーツァルトの交響曲第29番は、1773年の暮れからから翌年の春にかけて作曲された9曲の交響曲の中の一曲。5曲目までがイタリア風序曲の形式であるのに対し、残りの4曲はウィーン風の4楽章で構成され、第29番はこの3番目の曲として、ザルツブルクで作曲された。当時、この地にいたハイドンの5歳年下の弟のヨハン・ミヒャエル・ハイドン(1737年―1806年)の影響を強く受けた作品と言われている。ヨハン・ミヒャエル・ハイドンは、宮廷及び大聖堂オルガニストを務め、交響曲もモーツァルトと同じく40曲あまり遺している。交響曲第29番は、若きモーツァルトの傑作交響曲と目され、将来のモーツァルト像を予見することができる作品として、現在でもしばしば演奏されている。一方、1788年に作曲された交響曲第39番は、明るくおおらかな交響曲として、この曲も現在でもしばしば演奏される名曲。当時モーツァルトは、極端な貧困に陥っていたことを忘れるほど、ウィーン情緒満点の優美さを備えた交響曲ではあるが、時折、明るさのかげに暗いかげが忍び寄っていることも聴き取れる。このモーツァルトの2曲の傑作交響曲を演奏するのが、フェレンツ・フリッチャイ指揮ウィーン交響楽団。フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)は、第二次世界大戦後を代表する指揮者の一人。ハンガリーのブタペストに生まれ、ブタペスト音楽院でコダーイとバルトークに師事する。1949年からベルリンの市立歌劇場とRIAS交響楽団の首席指揮者を務める。1961年からはベルリン・ドイツ・オペラの総監督に就任するが、これから円熟期に入ろうとする1963年2月20日に48歳という若さで亡くなってしまう。フリッチャイの指揮ぶりは、求心力があり、力強くてスケールの大きい構成力が身上であるが、このLPレコードの交響曲第29番の指揮では、従来のフリッチャイのイメージを一新させるように、優雅で軽々と軽快なテンポで演奏している。特にオーケストラの自主性に期待しているかのような指揮のため、第29番特有の楽しさがリスナーにストレートに伝わってくる。一方、交響曲第39番の演奏は、従来のフリッチャイの特徴に戻り、スケールを大きく構え、集中力を高めた演奏となっており、聴き終わった後、リスナーは大きな満足感に浸ることができる。それでも、ここでのフリッチャイの指揮は、いつもよりは抑え気味に進行させているように私には聴こえる。このことが結果的に、第39番の持つウィーン情緒を色濃く前面に出すことに成功しているようだ。この2曲の代表的名盤であり、録音状態も素晴らしい。(LPC)

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