★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ラモー:クラヴサン、フルート、チェロのためのコンセール集

2023-08-31 09:57:09 | 古楽


ラモー:クラヴサン、フルート、チェロのためのコンセール集(第1コンセール~第5コンセール)

    第1コンセール:①ラ・クゥリカン②ラ・リヴリ③ル・ヴェジネ
    第2コンセール:①ラ・ラボルド②ラ・ブーコン
             ③扇情的な女④ムニュエ(メヌエット)第1、
            ト長調―ムニュエ(メヌエット)第2、ト短調
    第3コンセール:①ラ・ラ・ポブリエール②内気な女
             ③タンブラン第1、イ長調―タンブラン第2、イ短調
    第4コンセール:①ラ・バントミム②無分別な女③ラ・ラモー
    第5コンセール:①ラ・フォルクレー②ラ・キュピス③ラ・マレ

フルート:ジャン=ピエール・ランパル

クラブサン:ロベール・ヴェイロン=ラクロワ

チェロ:ジャック・ネイ

発売:1977年8月

LP:日本コロムビア OW‐7728‐MU

 ジャン=フィリップ・ラモー(1687年―1764年)は、フランス・バロック音楽の作曲家。青年時代をイタリアやパリにすごした後に、クレルモン大聖堂の教会オルガニストに就任。その後、パリに定住し、フランスの指導的な作曲家にまで上り詰める。「イッポリットとアリシー」「優雅なインドの国々」「カストルとポリュックス」「ダルダニュス」「プラテ」「ピグマリオン」「ゾロアストロ」など、歌劇の作曲には特に力を入れ、「ナヴァールの姫君」によって「フランス王室作曲家」の称号を得ることになる。このほかの作品では「クラヴサン小曲集」や今回のLPレコードのクラヴサン、フルート、チェロのためのコンセール集(第1コンセール~第5コンセール)などを作曲している。クラヴサンとは、イタリア語でいうチェンバロのことで、英語ではハープシコード。この作品では、クラヴサン、フルート、チェロの3つの楽器が、対等の立場で合奏するスタイルをとっており、聴いていて実に安定感のある音楽を楽しむことができる。バロック時代のいわゆるトリオ・ソナタとも、古典派時代以降のピアノ三重奏曲とも異なった一種独特な楽曲のジャンルを形成しており、クラヴサンのパートが、競奏的な要素をかなり強く持っている点に特徴がある。大部分が表題を持った舞曲調の曲であり、舞曲の形式を反映して、2部形式のものが多いが、なかには幾分発展して、ソナタ形式に近づいているもの、さらにロンド一形式のものもみられるが、第5コンセール:①ラ・フォルクレーだけは、例外的にフーガ形式をとっている。バッハなどのドイツのバロック音楽とは違い、フランスのバロック音楽であるこの曲は、情緒的な雰囲気が曲全体を覆い、優雅な雰囲気が、聴いていて誠に心地良い。第1~第5の各コンセールは3つの楽章からなっており、曲にはそれぞれ固有名詞が付けられているが、それらはラモーと関係のある人名や地名、あるいはラモー自身の名さえ付けられている。また、「扇情的な女」「内気な女」「無分別な女」などの名称が付けられている楽章があるが、何か謎めいていて面白い。演奏しているフルート:ジャン=ピエール・ランパル(1922年―2000年)、クラブサン:ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(1922年―1991年)、チェロ:ジャック・ネイは、当時のフランスが誇っていた名手たちであり、その演奏内容は、実のしっかりとした構成感に加え、しっとりとした情感が何ともいえない優雅な雰囲気を醸し出している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルのマーラー:「大地の歌」

2023-08-28 09:35:18 | 交響曲


マーラー:「大地の歌」

指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

コントラルト:カスリーン・フェリアー

テノール:ユリウス・パツァーク

発売:1964年

LP:キングレコード MR 5036

 マーラーは、交響曲としては、1~10番(第10番は未完の遺作)のほかに「大地の歌」を書き遺している。本来は全部で11の交響曲となるのだが、「大地の歌」だけには交響曲としての連番が付けられていない。つまり、「大地の歌」は、交響曲か否かという疑問が残る。この「大地の歌」の楽譜の副題は「テノールとコントラルト(またはバリトン)独唱と管弦楽のための交響曲」と書かれているが、ウニヴェルザール出版社から出版されている決定版総譜には「大地の歌」とだけ記されていて、「交響曲」とは記されていない。このため現在は「大地の歌」だけの表記が一般的だ。「大地の歌」のテキストは、中国の詩集をドイツ語訳した「支那の笛」と題した本から取っている。マーラーは、それまで「さすらう若人の歌」「亡き子をしのぶ歌」「リュッケルトの詩による歌曲」など、管弦楽付きの歌曲を作曲してきた実績を持つ。では、どうして「大地の歌」も管弦楽曲付き歌曲に終わらせなかったのであろうか。多分、中国の詩人が書いた詩というエキゾチックな雰囲気に浸るうち、歌曲以上に管弦楽のパートに力が入ってしまい、気が付くと交響曲がで出来上がっていた、といった風にも取れる。このLPレコードでの指揮は、マーラーの直弟子で、ロマン的な曲を指揮させれば当時、右に出るものはいなかった指揮者のブルーノ・ワルター(1876年―1962年)。そして、管弦楽演奏は、マーラー自らが指揮したウィーン・フィルという黄金コンビ。それに加え、独唱陣がコントラルトのカスリーン・フェリアー(1912年―1953年)、テノール:ユリウス・パツァーク(1898年―1974年)と当時考えられる最高の歌手を揃えている。カスリーン・フェリアーの深く思慮深い歌声は、中国の詩人の歌を歌わせればぴったりだし、ユリウス・パツァークの明るく澄み切った歌声は、中国の詩人たちの伸びやかな詩の世界の表現にこれほどのものはなく、共に説得力は充分だ。このため、今でもこの録音は、数ある交響曲「大地の歌」の録音の中でも、ベストワンに数え上げられているほどの名演となっている。コントラルトのキャスリーン・フェリアは、イギリス、ランカシャー州出身。正式な音楽教育を受けてはいなかったが、後に本格的音楽教育を受けた。作曲家のブリテンは、彼女のために多くのパートを作曲した。テノールのユリウス・パツァークは、ウィーン出身。クレメンス・クラウスに見いだされ、ドイツやオーストリアを中心に活躍した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集

2023-08-24 09:48:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集~

マスネー:タイスの冥想曲
アレンスキー:セレナード
シューマン:トロイメライ
キュイ:オリエンタル
ドリーゴ:花火のワルツ
サラサーテ:チゴイネルワイゼン
シューベルト:アヴェ・マリア
ドヴォルザーク:ユモレスク
ゴセック:ガヴォット
ショパン:夜想曲変ホ長調
シューマン:予言鳥
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
チャイコフスキー:メロディ

ヴァイオリン:ミッシャ・エルマン

ピアノ:ジョセフ・セーガー

発売:1980年

LP:キングレコード(VANGUARD) SLL 1010

 これは、かつて“エルマントーン”と謳われ、熱烈なファンを持っていたミッシャ・エルマン(1891年―1967年)が、1958年12月10日に行われた、“エルマン・アメリカ・デビュー50周年記念コンサート”を飾るために録音・発売されたLPレコードである。ミッシャ・エルマンは、南ロシアのタルノーイェで生まれた。オデッサ王立音楽学校を経て、12歳でペテルブルグ音楽院に学ぶ。1904年にベルリンでデビューを果たし、この時“神童の出現”としてセンセーションを巻き起こした。さらに1908年には、ニューヨークへ渡る。エルマンは、小柄で、手が大きい方ではなく、指も短かったそうで、大曲をヴィルトオーソ風に弾くよりも、このLPレコードに収められているような小品を弾く方が、その本領を発揮したようである。このLPレコードからも充分に聴き取れるが、官能的でその明るいその響きは、一度聴くと耳に残って離れない。ビブラートを存分に利かせたその奏法は、独特なものであり、何かジプシーの音楽を彷彿とさせるものがある。よく演歌などで使われる「こぶし」にも似た奏法なのである。つまり音から音へ移る間に挟みこむ「節(メロディー)」を、ここぞとばかりに多用して聴衆の心をわしづかみして離さない。これが“エルマントーン”の正体なのであるが、これはミッシャ・エルマンが弾くから様になるわけであって、同じことを他のヴァイオリニストがやったら醜悪なものになりかねないだろう。ミッシャ・エルマンのヴァイオリン奏法は、純粋で、聴衆に少しも媚びることはなったからこそ、熱烈な支持を受けのだと思う。それだけ、その背景には正統的な音楽があった、ということにも繋がる。そんな“エルマントーン”を聴きながら、「エルマンの前にエルマンなし、エルマンの後にエルマンなし」というフレーズがふと脳裏をかすめる。このLPレコードの最初の曲は、マスネー:タイスの冥想曲。マスネーが1894年に発表した歌劇「タイス」の第2幕の第1場と第2場の間に演奏される間奏曲である。「宗教的瞑想曲」と題されており、ヴァイオリンにより旋律が歌われるために、独奏曲として演奏されることが多い。そして、このLPレコードの最後の曲は、チャイコフスキー:メロディ。この「メロディ」は、数少ないチャイコフスキーのヴァイオリン独奏用の曲の一つで、1878年に作曲された「なつかしき思い出」(作品82)という3曲からなるヴァイオリンのための曲集の最後の曲。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フリッチャイ指揮ベルリン・フィルのドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

2023-08-21 09:48:22 | 交響曲


ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール MH5009(SE 7211)

 ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」ほど録音の数が多い交響曲も滅多にあるまい。それだけ多くのリスナーに愛されている曲であることの証明にもなろう。ドヴォルザークはニューヨークの国民音楽院の院長の就任のため招かれ、アメリカに滞在している時に聴いたアメリカン・インディアンなどの民謡が、この交響曲作曲の切っ掛けであるという。ドヴォルザークの生まれ故郷のハンガリーやボヘミアは、優れた音楽土壌に恵まれた土地柄であり、その土壌をベースとして、当時「新世界」と言われていたアメリカの民謡とが、巧みなオーケストレーションによって、新しい交響曲として誕生したのである。このため、多くのリスナーにとって分りやすい曲想であることが人気の源となっているようだ。このようにドヴォルザークは、常に民謡など国民音楽を重視する姿勢に貫かれているが、ただ単に民謡を真似て作曲するのではなく、「一旦それを昇華させ、作曲家の独自のものとして新たな構想の下に作曲されるべきだ」という持論を持ち、自ら実践した人であり、そしてその最も成功した曲の一つが「新世界交響曲」なのである。このLPレコードでベルリン・フィルを指揮しているのが、49歳の若さで世を去ったハンガリー出身の名指揮者フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)である。ハンガリー国立交響楽団音楽監督、ヒューストン交響楽団音楽監督、ベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者 、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任。フリッチャイは、フルトヴェングラー亡き後のドイツ指揮界をカラヤンと二人で支えた実力者であり、当時の聴衆もフリッチャイの将来に大きな希望を抱いていた。その指揮ぶりは、常に躍動的であり、ダイナミックな表現力に優れ、聴く者に圧倒的なインパクトを与えずには置かないものがあった。晩年になり、その傾向はますます深まり、そのスケールの大きな指揮ぶりは、巨匠と呼ばれるに相応しいところに到達した、と皆が感じた正にその時に、白血病のため多くの人々に惜しまれつつこの世を去ってしまったのだ。このLPレコードには、晩年のフリッチャイの特徴である、スケールが大きく、陰影が濃く、そして深い精神性に支えられた、類稀なる演奏内容が収録されている。「新世界交響曲」の代表的録音として永遠の生命力を有している、と言っても過言でない。録音状態も良い。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のシューベルト:弦楽五重奏曲

2023-08-17 09:48:50 | 室内楽曲


シューベルト:弦楽五重奏曲

演奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団+第2チェロ:ギュンター・ワイス
      
      第1ヴァイオリン:アントン・カンパー
      第2ヴァイオリン:カール・ティッツェ
      ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス
      第1チェロ:フランツ・クヴァルダ
      第2チェロ:ギュンター・ワイス

発売:1962年

LP:キングレコード(ウエストミンスター) MH 5123

 シューベルトは、31歳の若さで世を去ったが、その2カ月前に作曲されたのがこの弦楽五重奏曲である。通常、弦楽五重奏曲というと、弦楽四重奏に第2ヴィオラを加えた構成をとるわけだが、このシューベルトの弦楽五重奏曲は、それとは異なり、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ2という構成となっている。これは、チェロを加えることによって、全体のバランスを整えると同時に、低音域の充実を図ろうとしたことに他ならない。このころ既にシューベルトの作品には、死の影が忍び寄ってきており、この弦楽五重奏曲も低音を充実させることによって、重苦しい雰囲気を醸し出し、これによって当時のシューベルトの感情をこの曲に反映させることに見事に成功させているのである。このLPレコードの演奏には、51分50秒を要していることからも分るとおり、室内楽としては非常に長い曲であり、あたかも交響曲のような雄大さを秘めている。全体は4楽章に分かれており、全体は流れるようなメロディーに彩られ、如何にも歌曲の王シューベルトの晩年を飾るに相応しい作品となっている。第1楽章は、重く、同時に流れるような回顧的曲想が印象的であるが、時には激情がほとばしる。第2楽章は、アダージョの神秘的なとでも言った方がいいような幻想的な楽章である。この楽章が広く知られることによって、弦楽五重奏曲自体の評価が一層高まったようである。第3楽章は、スケルツォの楽章で、活発で浮きうきする様な曲想が、曲全体にメリハリ利かす結果に繋がっている。第4楽章は、表面的には颯爽と進むが、よく聴いてみると、何か物憂げで、死の恐怖に慄いているようにも聴こえる。このLPレコードで演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団+第2チェロのギュンター・ワイス。ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団は、1934年当時ウィーン交響楽団のメンバーだったアントン・カンパー(第1ヴァイオリン)とフランツ・クヴァルダ(チェロ)を中心にカンパー=クヴァルダ四重奏団として結成され、その後、メンバー全員がウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に移籍し、1967年カンパーの引退により解散した。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、情緒的な曲を演奏させれば、当時、その右にでるカルテットは他になかったほどの実力を持っていた。ここでも、奥行きのある潤いに満ちた名演を聴かせてくれている。(LPC)

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