★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団のバッハ:「クリスマス・オラトリオ」BWV248(抜粋)

2022-12-29 10:49:03 | 宗教曲

バッハ:「クリスマス・オラトリオ」BWV248(抜粋)

        「歓呼の声を放て、喜び踊れ!」(第1曲、合唱)
        「大いなる主、おお強き王」(第8曲、バス・アリア)
        「ああ、わが心より尊びまつる嬰児イエスよ」(第9曲、コラール)
        「シンフォニア」(第10曲)「さし出でよ、おお美わしき朝の光よ」
                     (第12曲、コラール)
        「喜べる羊飼いらよ、急げ」(第15曲、テノール・アリア)
        「眠りたまえ、わが愛しまつるもの」(第19曲、アルト・アリア)
        「いと高きところには栄光、神にあれ」(第21曲、合唱)
        「ひれ伏せ、感謝もて」(36曲、合唱)
        「インマヌエル,おお甘きことばよ!」(第38曲、バス・レスタティーヴォと
                          ソプラノ・コラール)
        「答えたまえ、わが救いよ」(第39曲、ソプラノ・アリア)
        「いまや汝らの神の報復は」(第64曲、コラール)

指揮:カール・リヒター

管弦楽:ミュンヘン・バッハ管弦楽団

独唱:グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
   クリスタ・ルートヴィッヒ(アルト)
   フリッツ・ヴンダーリッヒ(テノール)
   フランス・クラス(バス)

合唱:ミュンヘン・バッハ合唱団

録音:1965年2月6~15日、2月25日~3月4日、6月8~9日、6月14~15日、
   ミュンヘン、ヘルクレスザール

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGX7095

 キリスト教会においては、12月25日のクリスマスから1月6日の主顕節まで間は、聖節として降誕を祝う期間に当る。つまり多くの日本人が、12日25日のクリスマスの後は日本の伝統行事の年末、そして新年の松の内を迎える、といった感覚とは大いに異なる。バッハは、これらの祝日に向けたカンタータを何曲も作曲しているが、その中で、1734年の暮れに、カンタータの連作として作曲したのが、この全64曲からなる「クリスマス・オラトリオ」なのである。このため個々の曲は独立した曲として完結している。同じくバッハの大曲「マタイ受難曲」や「ヨハネ受難曲」がストーリーを持ったドラマだとすると、この「クリスマス・オラトリオ」は、散文詩とでも言ったらよいのであろうか。短い曲から成っているために、キリスト教信者でなくても、純音楽的に気楽に聴くことができるというところが何よりもうれしいことと言える。さらに、このLPレコードは、バッハ音楽の権威者のカール・リヒターの指揮で、ミュンヘン・バッハ管弦楽団・合唱団が演奏しており、信仰への熱い思いとバッハへ対する深い畏敬の念とが滲み出た、最上の演奏を聴かせてくれているのである。ちなみに、このバッハ:「クリスマス・オラトリオ」BWV248の第1曲 合唱の歌詞を紹介してみよう。「歓呼しなさい。喜び躍れ、さあ、この日々をほめ讃えなさい。いと高きところにいますかたが、今日なしてくださったことを讃えなさい。ためらいを捨てなさい、嘆きを追い出しなさい。輝かしい合唱をもっていと高きところにいます方につかえなさい、さあ、みんな世を統べ治すかたの名をあがめよう」。このLPレコードで指揮をしているカール・リヒター(1926年―1981年)は、ドイツ出身の指揮者でオルガン・チェンバロ奏者でもあった。11歳のときドレスデン聖十字架教会付属学校に入り、同聖歌隊のメンバーになる。ここで最初の音楽教育を受け、バッハやシュッツの合唱曲に親しむ。1951年聖マルコ教会(ミュンヘン)のオルガニストに就任。第二次世界大戦後は、新たに設立されたハインリヒ・シュッツ合唱団の指揮を任され、主にバッハのカンタータを演奏したが、これを後にミュンヘン・バッハ合唱団と改称し、さらに1953年にはミュンヘン・バッハ管弦楽団を設立。1958年にバッハの「マタイ受難曲」を録音したが、これは現在でも同曲を代表する名盤として知られている。1969年にはミュンヘン・バッハ管弦楽団および同合唱団を率いて来日した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のピリス、東京での録音 モーツァルト:ピアノソナタ第11番/幻想曲ニ短調/ピアノソナタ第16番/ロンドイ短調

2022-12-26 09:43:43 | 器楽曲(ピアノ)


モーツァルト:ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」K.331
       幻想曲ニ短調K.397
       ピアノソナタ第16番K.545
       ロンドイ短調K.511

ピアノ:マリオ・ジョアオ・ピリス

録音:1974年1月~2月、東京、イイノホール

LP:日本コロムビア OX‐7010‐N

 ある時、世界のピアニストの頂点を極めた一人となり、現在では第一線を引退したピリス(正しくはピレッシュ)のコンサートを聴く機会得た。その演奏は、力強く、説得力を持った、そして何よりも年輪を感じさせるそのピアノ演奏に接し、昔、LPレコードで聴いた耳にとっては、何とも懐かしさが込み上げてきてしょうがなかった。このLPレコードもその一つであるのであるが、私は、ピリスの録音したLPレコード、CDを聴いて初めて、真のピアノ演奏の美しさに触れることができたのだと思う。今から40年以上前、東京で録音されたこのLPレコードのピリスの演奏は、若々しく、一貫して優美さに貫かれたものになっており、同時に、一つのタッチも曖昧さがなく、明快さそのものなのである。でも機械的な雰囲気は微塵も感じられない。そして、何か物悲しく、憂いを含んだような表現は、ピリスしか表現することが不可能とさえ言ってもいいのではないか。マリア・ジョアン・ピリスは、1944年にポルトガルのリスボンで生まれる。7歳でモーツァルトの協奏曲を公開演奏したという。1953年から1960年までリスボン大学、その後、西ドイツにのミュンヘン音楽アカデミーで学ぶ。1970年ブリュッセルで開かれたベートーヴェン生誕200周年記念コンクールで優勝。1970年代には、デンオンと契約してモーツァルトのピアノソナタ全集を録音している。室内楽演奏にも積極的で、1989年よりフランス人ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイと組んで演奏会や録音を現在に至るまで続ける。1989年ドイツ・グラモフォンの専属アーティストとしてモーツァルトのピアノソナタ集の録音を行い、1990年「国際ディスク・グランプリ大賞」のCD部門賞を受賞する。現役は引退したものの、現在、世界各地でマスタークラスを主宰し、後進の指導にも大いに力を入れている。日本へは1970年以来度々訪れており、親日家で日本でのファンも多い。このLPレコードのピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」の演奏は、快活で歯切れの良さに特に引き付けられる。幻想曲ニ短調は、一転して、ほの暗い曲の持つ特徴を最大限に表現し切ったピリスしか弾けない名演だ。間の取り方の何と絶妙なことか。ピアノソナタ第16番の演奏は、何とも爽快で、その胸のすくような爽やかさに、身も心も天国に居るような錯覚に捉われてしまうほどである。最後のロンドイ短調は、ゆっくりと過去のことを思い出すかのように、ピリスは無心に弾き続ける。あたかも曲の終わりがないかのように・・・。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フリッツ・ライナー指揮ウィーン・フィルのブラームス:ハンガリー舞曲集/ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集

2022-12-22 10:02:37 | 管弦楽曲


ブラームス:ハンガリー舞曲集(第5、6、7、12、13、19、21、1番)
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集(第1、3、8、2、1番)

指揮:フリッツ・ライナー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1975年

LP:キングレコード GT 9038

 このLPレコードには、ブラームスが大衆的な人気を得た作品であるハンガリー舞曲集と、ブラームスがその才能を高く評価し、何かと支援を続けたドヴォルザークのスラヴ舞曲集の2つの舞曲集が収められている。そして、そのメリハリのある指揮ぶりで一世を風靡した名指揮者フリッツ・ライナー(1888年―1963年)が、名門ウィーン・フィルを指揮したという、ある意味では贅沢極まりない録音なのである。ブラームスの作風は、その多くが大衆的な人気とは遠く離れたところにあるわけであるが、このハンガリー舞曲集だけは別で、発表すると同時に人気が急上昇し、ブラームス自身も思わぬ反響に喜んだようだ。ただ、民謡を素材とした曲だけに、著作権問題が発生するという予期せぬトラブルにも巻き込まれたが、もともと著作権自体の発生が曖昧な分野だけに最終的には一件落着となったようだ。最初は4手のためのピアノ曲として発表し(当時はこの形式がごく一般的)、後にドヴォルザークも加わり管弦楽用に編曲され、今日我々が聴くハンガリー舞曲集が完成したのである。一方、ドヴォルザークのスラヴ舞曲集は、ブラームスの強い勧めで作曲されたもので、最初は4手のためのピアノ曲として作曲され、途中からは管弦楽用として作曲された。ブラームス:ハンガリー舞曲集に似て軽快で親しみやすい作品に仕上がっており、現在でもしばしば演奏される。この2つの舞曲集を、名指揮者フリッツ・ライナーが華麗に、しかも優美さも失わず指揮している。フリッツ・ライナーは、オーケストラを思うがままに引っ張ってゆく豪腕で知られた指揮者であったが、今聴いてみると、実にリズム感溢れた颯爽とした指揮なのだが、同時に全体がゆったりとした豊かな情感に包まれた演奏であることにに気付かされる。フリッツ・ライナーは、ハンガリー、ブタペスト出身。リスト音楽院でバルトーク、コダーイに師事。1910年ライバッハ歌劇場でビゼーのオペラ「カルメン」で指揮者デビューを果たす。1914年ドレスデン国立歌劇場指揮者、1922年渡米してシンシナティ交響楽団音楽監督、1938年ピッツバーグ交響楽団音楽監督、1948年メトロポリタン歌劇場指揮者をそれぞれ歴任。そして1953年シカゴ交響楽団の音楽監督に就任するが、死去までの10年間に同楽団の黄金時代を築き上げる。1963年11月15日、メトロポリタン歌劇場でのワーグナーの楽劇「神々の黄昏」の公演準備中にニューヨークで帰らぬ人となった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇デ・ロス・アンヘルスが歌う珠玉の歌曲小品集

2022-12-19 09:43:17 | 歌曲(女声)


~デ・ロス・アンヘルス 歌の世界~

メンデルスゾーン:歌の翼
グリーク:汝を愛す
ブラームス:子守歌
ドヴォルザーク:わが母の教え給いし歌(「ジプシーの歌」より)
マルティーニ:愛の歓び
アーン:恋する乙女
ドリーブ:カディスの娘
古謡:アイルランドの子守歌
サデロ:シチリアの子守歌
イラディエール:ラ・パロマ
オヴァーレ:青い鳥
ルーナ:スペインからやってきた娘(サルスエラ「ユダヤの若者」より)
チャピ:カルセレラス(サルスエラ「セベテの娘」より)

ソプラノ:ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス

指揮:ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス

管弦楽:シンフォニア・オブ・ロンドン

LP:東芝EMI EAC‐30187

 ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス(1923年―2005年)は、スペイン・バルセロナ出身の名ソプラノ歌手。1947年のジュネーヴ国際音楽コンクールで優勝して一躍脚光を浴びる。その後、ザルツブルク音楽祭、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場など国際舞台で活躍し、名声を得る。1992年、バルセロナオリンピックの閉会式ではカタルーニャ民謡「鳥の歌」を歌った。その歌声は、透明感があり、美しく気品に溢れ、その上暖かさを持った表現は実に見事なものである。このLPレコードの第1面は、歌曲の珠玉の小品を収めてあるが、そんな彼女の歌声の特質が存分に発揮されている。例えば、第1曲のメンデルスゾーン:歌の翼を聴くと、その伸びやかで気品のある歌声にうっとりと聴き惚れてしまい、暫し間、時の経つのも忘れてしまいそう。第2面は、民謡をベースとした歌が多く集められているが、やはりスペインものになると、その説得力は一層輝きを増すようである。伴奏オーケストラの指揮は、同じくスペイン出身のラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス(1933年―2014年)。ウィーン交響楽団およびモントリオール交響楽団の音楽監督のほか、スペイン国立管弦楽団の音楽監督も長く務めた。2004年からはドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者を務め、さらにベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、ベルリン放送交響楽団首席指揮者などを歴任。2012年からは、デンマーク国立交響楽団の首席指揮者を務めていたが、病気のため引退することになる。ここでのラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスの指揮は、伴奏という枠を越えて、デ・ロス・アンヘルスとの共感に溢れた演奏を聴かせている。特にスペインものの歌曲では、2人の呼吸はピタリと合い、極上の香りがする音楽を送り届けてくれる。このLPレコードのB面には、「ラ・パロマ」のほかは、普段あまり聴くことのない曲が収められている。「アイルランドの子守歌」はチャールズ・スタンフォードがアイルランドの民謡を採譜・編曲した曲。「シチリアの子守歌」は、ジェニ・サデロがシチリア民謡から採譜・作曲した曲。「青い鳥」は、ハイメ・オヴァーレがハンディラの詩に作曲したブラジルの民謡風の曲。「スペインからやってきた娘」は、パブロ・ルーナのサルスエラ(スペイン独自の軽歌劇)「ユダヤの若者 EI Nino Judio」のヒロインが歌う歌。「カルセレラス」は、ルペルト・チャピのサルスエラ「セベデの娘」の中で歌われるアリア。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バックハウスとカンテルリ指揮ニューヨーク・フィルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番(ライヴ録音)

2022-12-15 10:06:29 | 協奏曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

ピアノ:ヴィルヘルム・バックハウス

指揮:グィード・カンテルリ

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

録音:1956年3月18日、ニューヨーク(ライヴ録音)

発売:1980年

LP:キングレコード(Cetra) SLM5012

 ヴィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)は、ドイツ生まれの大ピアニスト。ニックネームは“鍵盤の獅子王”。この名の通り卓越した演奏技法と堂々としたスケールの大きなピアノ演奏は、当時一世を風靡した。ベートーヴェンなどドイツ・オーストリア系の作曲家の作品では、圧倒的名演を聴かせる反面、武骨ともいえるその演奏スタイルが功を奏しない曲もあった。指揮のグィード・カンテルリ(1920年―1956年)は、36歳で飛行機事故で亡くなったイタリア出身の天才指揮者。あのトスカニーニをして「自分と同じような指揮をする」と評さしめたことは有名な話。その類まれなる才気活発な指揮ぶりは、このLPレコードからも聴き取れる。これは、そんな2人が共演したベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番をライヴ録音したLPレコードである。この曲は、ベートーヴェンの協奏曲には珍しく、優雅で、内省的な曲想が特徴で、逆にそれがために根強い人気を誇る作品。バックハウスは、この曲の特徴を最大限に発揮させており、内面から滲み出るような力強いピアノ演奏を聴かせてくれる。宇野功芳氏はこのLPレコードのライナーノートに「彼(ヴィルヘルム・バックハウス)は、ステレオとモノーラルに、それぞれハンス・シュミット=イッセルシュテット、クレメンス・クラウスと組んで同曲をスタジオ録音しているが、今回はライヴだけに、力強い緊迫感や覇気、大ぶりな感情表現や雄々しい羽ばたきといったものが聴かれ、やはり実演は良いなと思う。少なくともぼくはスタジオ録音の2枚よりも、この方を好む」と書いている。ピアノのヴィルヘルム・バックハウスは、ドイツ、ライプツィヒの出身。ライプツィヒ音楽院で学ぶ。1905年「ルビンシュタイン音楽コンクール」ピアノ部門で優勝。1930年スイスのルガーノに移住する。第二次世界大戦後の1954年にアメリカそして日本での演奏会を開催した。一方、指揮者のグィード・カンテルリは、イタリア、ミラノ近郊の街ノヴァラの出身。ミラノ音楽院で学び、23歳で地元ノヴァラの歌劇場の芸術監督に任命される。第二次世界大戦後の1945年、スカラ座で指揮するなど活躍し、当時の指揮界の長老トスカニーニの後継者と目されていた。しかし、1956年11月24日、パリのオルリー空港からニューヨーク行きの航空機が離陸に失敗、カンテルリは帰らぬ人となった。そのカンテルリは、「グィード・カンテルリ国際指揮者コンクール」として今にその名を残す。(LPC)

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