★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アンドレ・プレヴィン指揮シカゴ交響楽団のショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

2024-01-29 09:39:26 | 交響曲


ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」

指揮:アンドレ・プレヴィン

管弦楽:シカゴ交響楽団

録音:1977年1月25日、シカゴ

LP:東芝EMI EAC 80405

 このLPレコードは、ショスタコーヴィッチの最も有名な交響曲である第5番「革命」を、アンドレ・プレヴィン(1929年―2019年)指揮シカゴ交響楽団が遺した優れた録音である。ショスタコーヴィッチは、この第5交響曲を、1937年(31歳)の時に作曲した。その前年にショスタコーヴィッチは、オペラとバレエを作曲したが、これが当時、旧ソ連の当局に激しく批判され、それを受けて作曲したのがこの曲なのである。初演は、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルによって1937年10月21日に行われた。この曲がソヴィエト革命20周年に捧げられたこともあり、前年の批判を吹き飛ばす圧倒的な成功を収めることになる。曲は、全部で4楽章からなり、ベートーヴェンの第5交響曲にも似て、苦悩から歓喜と勝利へという、大変分りやすい形をとり、高貴な精神の表現が聴くものを奮い立たせるかのようでもある。しかし、どうもショスタコーヴィッチは、旧ソ連政府の圧力に全面的に屈服したのではない、という説が昔から囁かれている。それは、第4楽章に、虐げられた芸術の真価が時と共に蘇るという内容のプーシキンの詩が引用され、コーダ近くのハープをともなう旋律が静かな抵抗とも取れるというのである。指揮のアンドレ・プレヴィンは、ベルリンのユダヤ系ロシア人の音楽家の家庭に生まれ、1943年にアメリカ合衆国市民権を獲得。当初、ポピュラー音楽を手掛けていたが、その後クラシック音楽に転向したという経歴を持つ。これまで、ヒューストン響音楽監督、ロンドン響首席指揮者、ピッツバーグ響音楽監督、ロサンジェルス・フィル音楽監督、ロイヤル・フィル音楽監督、オスロ・フィル首席指揮者、NHK響首席客演指揮者を務めるなど、指揮者としての経歴は華やかだ。このLPレコードでは、黄金時代のシカゴ交響楽団の能力をフルに発揮させた颯爽とした指揮ぶりに、リスナーは聴いていて爽快感を身を持って感じることができる。ショスタコーヴィッチ:交響曲第5番「革命」を“純音楽的”に楽しめる希有な録音として、現在でもその価値はいささかも失っていない。NHK交響楽団は、アンドレ・プレヴィンの死去の報を受け、2019年3月1日付で「2009年9月、首席客演指揮者に就任したが、東日本大震災直後の2011年3月のN響北米ツアーでは、自らバッハ“G線上のアリア”を演奏することを提案し、日本への痛切な思いを現地の聴衆に音楽を通じて届けた」と哀悼の意を発表した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シュナイダーハン&クリーンのシューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ集

2024-01-25 09:42:50 | 室内楽曲


シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番/第3番/第2番

ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン

ピアノ:ワルター・クリーン

録音:1965年1月4日~6日、ウィーン、ムジークフェライン 大ホール

LP:ポリドール SE 8010

 このLPレコードに収められたシューベルトの3つのソナチネは、1816年、シューベルト19歳の時の作品である。そのころ行われていたシューベルトの家での家庭コンサートのために作曲されたものと考えられている。シューベルト自身は、この3つのソナチネを「ヴァイオリンの伴奏をともなえるピアノ・フォルテのソナタ」と名付けていた。基本的には古典的な曲ということができるが、各所に如何にもシューベルトらしさが顔を覗かせており、3曲とも実に愛すべき作品に仕上がっている。特に第2番と第3番ではヴァイオリンが重視され、進歩の跡が窺える。シューベルトは、若い頃、「自分自身をモノにしようと、私はひそかに望んでいた。しかし、ベートーヴェンの後、誰が自分自身をモノにすることができるのであろうか?」と述懐していたという。これら3曲は、何の苦労もなく完成したかのように思われるが、実態は違っていた。このようなウィーンにおける家庭的な曲では、演奏家の素質が演奏の内容をを大きく左右することになる。その点、このLPレコードで共演しているヴォルフガング・シュナイダーハンとワルター・クリーンは、この曲を演奏するには、これ以上の適役はいないと言っても過言でないほど。ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)は、ウィーンでヴァイオリンを学んだ典型的なウィーンっ子。5歳で演奏会を開いて神童と騒がれたという。1933年から1937年までウィーン交響楽団のコンサートマスターを務め、1937年からはウィーン・フィルのコンサートマスターを務めた。1956年には、ルドルフ・バウムガルトナーとともにルツェルン音楽祭弦楽合奏団を創設している。一方、ワルター・クリーン(1928年―1991年)は、オーストリア・グラーツ出身のピアニスト。ウィーン音楽アカデミーでアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに師事。1951年と1952年のブゾーニ国際ピアノコンクールおよび1953年のロン=ティボー国際コンクールに入賞している。ウィーンの典型的ピアニストであり、ウィーンの伝統様式を新鮮な感覚で生かした演奏は、モーツァルトをはじめとして高い評価を得ている。このLPレコードにおける2人の演奏は、流麗で、しかも輝かしい光を放ち、ある時は憂いを帯びた陰影のある優美さに溢れている。一言で言えば、古きよき時代の名演奏とでも言ったらよいのであろうか。残念ながら、今ではもう、このような優美な演奏を聴くことはできなくなってしまった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ナタン・ミルシテインのグラズノフ&ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲

2024-01-22 09:42:05 | 協奏曲(ヴァイオリン)


グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲
ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ナタン・ミルシテイン

指揮:フリューベック・デ・ブルゴス

管弦楽:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI (SERAPHIM)EAC-30341
 
 ナタン・ミルシテイン(1903年―1992年)は、ウクライナ出身の名ヴァイオリニスト。11歳のとき名教師と謳われたレオポルト・アウアーの指導でペテルブルク音楽院に入学。ロシア革命後、キエフに戻り、ウラジミール・ホロヴィッツと知り合い、しばしば共演する。1929年にアメリカ・デビューし、ニューヨークに居を構える。1975年、グラミー賞受賞、1968年、レジオン・ドヌール勲章を受章。傑出した超絶技巧の持ち主ではあったにも関わらず、フランコ・ベルギー楽派の優美な演奏スタイルで知られ、“ヴァイオリンの貴公子”と称された。1942年にはアメリカ合衆国の市民権を取得している。大の飛行機嫌いだったせいもあり、来日をせず、日本での知名度は今一つであった。全盛時代には、ハイフェッツ、フランチェスカッティ、オイストラフに継ぐ巨匠として高い評価を得ていた。ナタン・ミルシテインは、グラズノフとドボルザークのヴァイオリン協奏曲を3度録音しており、これは3度目の録音。グラズノフとドボルザークのヴァイオリン協奏曲が今知られているのは、ナタン・ミルシテインが積極的に取り上げてきたためとさえ言われているほど。このLPレコードのライターズノートに浅里公三氏は「このフリューベック・デ・ブルゴスとの3度目の録音が、あらゆる点で最も優れており、ミルシテインの極め付きの最良のレコードとなっている」と評価している。この2曲のヴァイオリン協奏曲は、そうしばしば演奏されるわけではないが、内容の充実した聴き応え十分のヴァイオリン協奏曲である。グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲は、ミルシテインの師であるアウアーにより初演され、ハイフェッツやミルシテインなどアウワー門下によって、これまで弾き続けられてきた、鮮やかな名技性と華麗な管弦楽法によって構成される魅力的な作品で、ロシア国民楽派の作風を受け継いだスラヴ的な曲。一方、ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲は、ドボルザーク唯一のヴァイオリン協奏曲であり、スラヴを代表するヴァイオリン協奏曲。作曲に関してはヨアヒムから様々な助言を受け、彼に「深い尊敬をこめて」献呈された。このLPレコードでのナタン・ミルシテインの演奏は、グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲おいては、端正な中にロマンの香り豊かな演奏を聴かせる。一方、ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲では、スラヴ的な情熱を内に秘めた構成力の強固な演奏で、リスナーを魅了する。(LPC)
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◇クラシック音楽LP◇グルダのベートーヴェン:ピアノソナタ第4番/第5番/第6番

2024-01-18 09:38:01 | 器楽曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノソナタ第4番/第5番/第6番

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

発売:1976年

LP:キングレコード SOL2014

 ベートーヴェンは、生涯にわたってピアノソナタを作曲し、その数は32曲。中には「悲愴」「月光」「熱情」など、お馴染みの曲も含まれているが、一方、第30番、第31番、第32番など、ピアノ独奏曲の極限に挑戦するかのような、難解で哲学的な色合いが濃い作品も含まれている。言ってみれば、ベートーヴェンにとって、交響曲は“人生の応援歌”、弦楽四重奏曲は“内省的な独白”であるのに対して、ピアノソナタは、差し詰めその折々の“人生の散文詩”であるように私には感じられる。このLPレコードには、初期のピアノソナタの第4番、第5番、第6番が収められている。第4番は、「恋をしている女」とも言われることがある曲であり、情感が籠った曲。1796年か97年につくられたとされる。第5番は、作品10の3の1として書かれた初期の名作の一つ。作品10の3曲は1796年から98年に書かれたと考えられる。そして第6番は、明るく、陽気でエネルギッシュな曲。どことなくハイドンを思わせるが、エネルギッシュなところはやはりベートーヴェンそのものと言えよう。演奏しているフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)は、ウィーン生まれのピアニスト。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの演奏などを得意としていた。ウィーン音楽アカデミーで学ぶ。1946年、ジュネーブ国際音楽コンクールで優勝。1946年11月にウィーンの楽友教会ホールでデビュー・リサイタルを行い大成功を勝ち得た。1947年にはプラハの春音楽祭に出演したほか世界各地で演奏会を行い絶賛を博する。1950年にニューヨークで米国デヴューを飾り、以後その名は世界に知れ渡る。1970年頃、ジャズに傾倒し、本人はジャズ演奏家に転向を志すが周囲の反対で断念(あまりうまいジャズ演奏ではなかったという評もあった?)。これはグルダの音楽への関心がジャンルを問わなかったことを示す逸話。最も得意にしていたのはベートーヴェンであり、バックハウス、ケンプに続く、20世紀を代表する巨匠ピアニストの一人であった。1967年、1969年、1993年の3度来日しており、日本においても高い評価を得ていた。このLPレコードでは、グルダのごく若い頃の演奏様式を聴くことができる。ここでのグルダの演奏は、実に丹精であり、一音一音を丁寧に、正確に弾きこなしている。だからといって、少しもぎすぎすしたところはなく、ベートーヴェンの初期のピアノソナタの持つ、快活でかつ優雅な側面を、ものの見事に再現することに成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・モーツァルト合奏団のモーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

2024-01-15 11:05:56 | 管弦楽曲


モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

指揮:ウィリー・ボスコフスキー

管弦楽:ウィーン・モーツァルト合奏団

ポストホルン:アドルフ・ホラー

発売:1973年

LP:ロンドンレコード L18C5066

 このLPレコードは、モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」。この曲は、いろいろな意味で、リスナーの注目を集める曲である。その中の一つが、モーツァルトがポストホルンをどうしてセレナードに採り入れたのかということだ。ポストホルンとは、郵便馬車のラッパのことを指す。通常なら音楽の楽器には到底使われることのないはずである。そこで、推理されたのは、当時、ラッパ吹きの名人が居て、モーツァルトが、この名人に一度ポストホルンを吹かしてみたらどう吹きこなすか、聴いてみたいという、モーツァルト一流の茶目っ気から採用したという説。もう一つは、この頃モーツァルトは、大司教との折り合いが悪くなっており、ザルツブルクを去りたいという自分の思いを伝えようとして、当時唯一の交通機関であった馬車を象徴するポストホルンを採用したという説だ。また、第5楽章がニ短調であることに象徴されるように、どことなく全体的に憂愁の感情が打ち出され、華やかなセレナードからすると違和感が残る。これにも、モーツァルトはザルツブルクを去って行く知人への思いを託したからである、という説もある。しかし、いずれも真相は闇の中ということで未だ持って解明には至っていない。いずれにせよ、このセレナードは、マンハイムとパリへの旅行でモーツァルトが得た経験が巧みに取り入れられている名曲として人気のあることだけは確かで、今でもコンサートでよく演奏される。このLPレコードでは、ウィーン生まれ、ウィーン育ちの生粋のウィーン子であるウィリー・ボスコフスキーの指揮の下、ウィーン・モーツァルト合奏団が名演奏を繰り広げている。ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)は、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めたかたわら、指揮活動も行ったことで知られる。ウィーン国立音楽アカデミーに9歳で入学、「フリッツ・クライスラー賞」を受賞。学生時代から各地でソロ活動を行う。卒業後は、1932年ウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団。翌年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に入団。ヴァイオリニストとしての奏法は、ウィーン流派として、当時彼の右に出るものはないと言われるほど完璧なものであった。このLPレコードでは、ヴァイオリニストとしてではなく、指揮者の立場でウィーン流派としての真髄を聴かせてくれている。ここでの演奏内容の何と雅であることか。“古き良き時代”という言葉が、思わず頭をよぎる名録音だ。(LPC)

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