★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ロンドン・フィルのブラームス:交響曲第2番

2021-06-28 09:43:58 | 交響曲(ブラームス)


ブラームス:交響曲第2番

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1964年

LP:キングレコード MR 5034

 フルトヴェングラー(1886年―1970年)は、ブラームス:交響曲第2番について、3種類のレコードを遺している。それらは、①ウィーン・フィル盤(1945年1月28日)②ロンドン・フィル盤(1948年3月22~25日)③ベルリン・フィル盤(1952年5月7日)であり、今回のLPレコードは、②である。このLPレコードの最大の特徴は、ロンドン・フィルを指揮したという点であろう。フルトヴェングラーがロンドン・フィルを指揮して遺したLPレコードは、あまり記憶にない。この3種類の録音で、一番の出来が良いのは③であり、その次が①で、残念ながら②は、最後に位置づけられる。しかし、そうは言ってもフルトヴェングラーらしい奥深い解釈や、徐々に曲を盛り上げていく力強さなどは、到底他の指揮者の比ではないのだが、今一つ音も冴えず、一押しとまでは言いかねる録音ではある。ブラームスの交響曲第1番を「運命交響曲」とするならば、この第2番は差し詰め「田園交響曲」といったところ。全体に和やかで、平和な気分が横溢した曲であり、人気も高い。ブラームスは、1876年に完成した交響曲第1番の成功に気を良くして、翌年、たったの4か月という短期間で完成させたのが、この交響曲第2番である。交響曲第1番を北ドイツ的とするなら、この交響曲第2番は、オーストリア的な豊饒さが特徴であり、全体を通して、柔和で伸び伸びとした印象を持った曲だ。完成の年(1877年)の12月30日、ハンス・リヒター指揮ウイーン・フィルによって初演された。このLPレコードで演奏しているフルトヴェングラーは、1922年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団およびベルリン・フィルの常任指揮者、1927年にウィーン・フィルの常任指揮者に就任し頂点を極めたが、第二次世界大戦後は、戦時中のナチ協力を疑われ、演奏禁止処分を受ける。しかし、1947年 「非ナチ化」裁判の無罪判決を受け、音楽界に復帰し、最後はベルリン・フィルの終身指揮者に就任する。改めて、フルトヴェングラーがロンドン・フィルを指揮したブラームス:交響曲第2番のこのLPレコードを聴いてみると、実に細部まで神経が行き渡っている演奏に感心させられる。逆に言うとその分、メリハリが薄くなったことは否めないかもしれないが、この交響曲の特質上、致命的欠陥とはなってないのも事実。むしろ、いつものフルトヴェングラー節より、多少リラックスした、このLPレコードでのフルトヴェングラーの指揮ぶりの方が気楽に聴けていいのかもしれない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのショパン:ポロネーズ集

2021-06-24 09:47:49 | 器楽曲(ピアノ)


ショパン:ポロネーズ第1番
          第2番
          第3番「軍隊ポロネーズ」
          第4番
          第5番
          第6番「英雄ポロネーズ」

ピアノ:サンソン・フランソワ

LP:東芝EMI EAC‐70038

 これは、フランスの名ピアニスト、サンソン・フランソワ(1924年―1970年)がショパンのポロネーズ6曲を収録したLPレコードである。ポロネーズとは、マズルカと並んでポーランド起源の舞曲またはそのための曲の形式をいう。もとはテンポがゆっくりな4分の3拍子のポーランドの民族舞踊であったが、その後、一つの様式となってヨーロッパで流行した。舞曲は、三拍目の最後に挨拶をして締めくくられるため、三拍目の初めの拍(弱拍)で終結する。もとは民俗的なものではなく、貴族の行進から始まったといわれ、16世紀後半にポーランド王国の宮廷で行われた。その後ヨーロッパ各国の宮廷に取り入れられ、フランス宮廷からポロネーズの名が広まり、純器楽曲としても作曲されるようになっていく。ショパンは、民族的意識に立ったマズルカやポロネーズのピアノ曲を数多く書き残しているが、マズルカが、ショパン自身の日々の心を映し出す小品であったのに対し、ポロネーズはショパン独特の芸術的な美意識を映し出した華やかな比較的大きな作品としてつくられていった。ショパンは、全部で16曲のポロネーズを作曲したが、このLPレコードでは、その内、6曲が収められている。第1番は、1834年から翌年にかけて作曲された。舞曲としての性格が薄れ、ショパン独自のスタイルが既に出来つつある作品。第2番は、第1番と同じ年につくられたが、対照的に陰鬱な感情に満ちている曲。規模も大きくなり、後の幻想ポロネーズを予感させる作品。第3番「軍隊ポロネーズ」は、1838年から39年の間にマジョルカ島でつくられた作品。第4番は、1838年にマジョルカ島で書かれた。ルビンシュテインはこの曲を「ポーランドの没落を描いたもの」と評したという。第5番は、マジョルカ島から戻った1840年に書かれた作品。第6番「英雄ポロネーズ」は、1842年、ショパンの創作意欲が旺盛な時期に書かれた作品で、ロシアの圧政に打ち克つべき勇気を奮い起こさせるヒロイズムに満ちている。LPこのレコードでのサンソン・フランソワの演奏は、フランソワ特有のテンポ・ルバートが存分に発揮され、これに加えて、他の奏者にはない独特のアクセントがリスナーを掴んで離さない。力強い表現の一方で繊細なタッチが実に有効に生かされている。この演奏を聴いていると“フランソワ・マジック”とでも言えるような世界が出現し、知らず知らずのうちにリスナーを幽玄の彼方へと誘ってくれるようだ。やはり、天才にしか許されない閃きが、その背後に隠されているとしか表現のしようがない演奏内容だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クレメンス・クラウス指揮ウィーン・フィルのヨハンシュトラウス2世名曲集

2021-06-21 09:48:10 | 管弦楽曲


ヨハンシュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲
            ワルツ「朝の新聞」
            アンネン・ポルカ
            ワルツ「芸術家の生活」
            「エジプト行進曲」
            ポルカ「ハンガリー万歳」
            バレエ音楽「チャールダーシュ」
            ワルツ「美しき青きドナウ」
            ポルカ「町といなか」

指揮:クレメンス・クラウス

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1978年

LP:キングレコード MX 9013

 これは、名指揮者クレメンス・クラウス(1893年―1954年)が、ヨハンシュトラウス2世のワルツやポルカなどを収めたLPレコードである。発売から40年近くが経つが、未だに人気が衰えないという、お化け録音でもある。クレメンス・クラウスはウィーン出身の指揮者。ウィーン音楽院で学び、各地の歌劇場で研鑽を積んだ後、1929年ウィーン国立歌劇場の音楽監督就任。また翌年の1930年フルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任する。しかし、クラウスが取り上げた作品が当時あまりにも革新的であったことなどのため、反発を受け、この結果クラウスはウィーンを去ることになる。そして1935年にはエーリッヒ・クライバーの後任として、ベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任する。さらにハンス・クナッパーツブッシュの後任として1937年バイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任。これらに加え、ナチスにより1941年ザルツブルク音楽祭の総監督に任命される。ところがこれらのことが、第二次世界大戦後、ナチスに協力したという容疑で連合軍により演奏活動の停止を命ぜられてしまうのである。その後、非ナチ化裁判において無罪となり、活動を再開。ウィーンを中心にヨーロッパや中南米で活躍した。メキシコへ演奏旅行中、演奏会直後に心臓発作のため急逝した。クラウスの演奏スタイルは、高貴で優雅ではあるが、テンポを速めに取った個性的なもので、当時、ウィーンでの人気は絶大なものであったと伝えられている。リヒアルト・シュトラウスの歌劇などの名録音を残しているが、フルトヴェングラーやベーム、クナッパーツブシュなどに比べて、今では話題に上ることも少なくなってしまった。しかし、唯一例外なのが、ヨハンシュトラウス2世のワルツやポルカなどを収めたこの録音なのである。ヨハンシュトラウス2世の作品は、現在に至るまで無数と言っていいほどの録音が存在しているが、それらの中で、今でも燦然と光り輝いているのがこのクレメンス・クラウス盤なのである。クラウスの中に息づいているウィーン気質が、自然な形で表現されているのがこのレコードの最大の特徴である。「小股の切れ上がったような」という表現があるが、ここでのクラウスの指揮ぶりは、この表現がぴたりと当て嵌まる。テンポを速めに取り、あくまで軽快に、優雅に音楽を進行させていく。一見、一昔前の情緒を引きずっているかに見えて、実は、今の世代でも通用しそうな現代感覚に溢れているところがクレメンス・クラウスの偉大なところと言えそうだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルのベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」/第12番「葬送」

2021-06-17 10:07:48 | 器楽曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」
        ピアノソナタ第12番「葬送」

ピアノ:スビャトスラフ・リヒテル

発売:1980年

LP:RVC RCL-1058

 ベートーヴェンは、ピアノソナタを生涯にわたり作曲し、その芸術上の変遷をピアノの鍵盤上に刻み込んだ。そして自らの精神史とでもいうべき貴重な32のピアノソナタとして遺し、現在の我々に深い感銘を与え続けている。それらのベートヴェンのピアノソナタは、第1期が第1番~第11番、第2期が第12番~第27番、第3期が第28番~第32番で、それぞれ初期、中期、後期と分類されている。初期の作品は、古典ソナタの慣習に従い、ソナタ形式による主題の展開に力点が置かれる。中期の作品に入るとベートーヴェンは、自由な表現のために、大胆な手法を数多く取り入れ、ロマンティック色合いを強く反映させた作品を生み出していく。そして晩年の後期の作品で、ベートヴェンは耳が不自由になったこともあり、当時のピアノでは限界に近い表現を駆使し、より精神性の強い作品を作曲した。このLPレコードでは、スビャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)の演奏により、中期の傑作である第23番「熱情」および第12番「葬送」が収録されている。このLPレコードでの「熱情」におけるリヒテル演奏内容は、「熱情」の名前がぴたりとあてはまるような、男性的で力強い演奏に終始する。地の底から這い上がるような、火山が爆発するかのような、すざまじいピアノタッチに圧倒される。録音も優れており、リヒテルがピアノの弦を力いっぱい叩き付ける様が目の前いっぱいに広がり、思わず息を飲むほどだ。ピアノをこれほど打楽器的に自在に弾きこなすピアニストを私は知らない。しかし、決して単に力強いばかりでなく、その第2楽章なのでは、一転して、静かに、あくまで奥深い精神性に溢れた世界を存分に表現し尽くす。第1楽章の時の同じピアニストの演奏とは到底思えないほどデリカシーに富んだ世界を見事に構成してみせる。そして第3楽章に入ると、また第1楽章の時の力強い演奏に立ち返る。しかし、そこにはより微妙なニュアンスを含んだものとして昇華された姿が現れ、その存在感に圧倒される。この鬼気迫るほどの演奏の中に、リヒテルの真骨頂を覗き見る思いがした。一方、B面に収められた ピアノソナタ第12番「葬送」は、交響曲第1番、七重奏曲、作品18の弦楽四重奏曲と同時期に作曲された作品。第3楽章に葬送行進曲取り入られているため「葬送」ソナタと名付けられている。ここでの、リヒテルの演奏は、あたかも演奏自体を楽しんでいるかのように、あくまで素直に弾き進む。そこにあるのはただ“名人の至芸”そのものなどである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団のモーツァルト:ピアノ協奏曲第24番/第18番

2021-06-14 09:39:14 | 協奏曲(ピアノ)


モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番/第18番

ピアノ・指揮:ダニエル・バレンボイム

管弦楽:イギリス室内管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐70235

 モーツァルトのピアノ協奏曲第24番は、1786年に作曲された短調のピアノ協奏曲であり、短調のピアノ協奏曲は、ほかに第20番とこの曲の2曲だけである。悲劇性を持った情熱的な作品で、ベートーヴェン的な作品と称される場合もある。一方、ピアノ協奏曲第18番は、1784年に作曲された曲。1785年にモーツァルト自身がこのピアノ協奏曲を演奏し、この演奏会には、息子の様子を見にウィーンに来ていた父レオポルトに加え、皇帝ヨーゼフ2世も臨席しており、その出来栄えを絶賛したという。このLPレコードで、ピアノ独奏および指揮を行っているのがアルゼンチン出身でその後イスラエルに移住したダニエル・バレンボイム(1942年生まれ)である。1952年に、バレンボイムはピアニストとして、ウィーンとローマにおいてヨーロッパ・デビューを果たす。その後世界各地でピアノ演奏会を開催し注目を浴びる。ピアニストとしての名声を確固たるものとした後に、1966年からイギリス室内管弦楽団とモーツァルトの交響曲録音を開始し、指揮者デビューを果たす。1970年代からは、指揮者としての本格的な活動を開始し、1975年から1989年まではパリ管弦楽団音楽監督として活動する。1991年より2006年までシカゴ交響楽団音楽監督を務めた。1981年にはバイロイト音楽祭に初めて招かれ、以後継続的にバイロイトで指揮を執った。2012年からは、スカラ座の音楽監督を務めている。このLPレコードのモーツァルト:ピアノ協奏曲第24番でのダニエル・バレンボイムのピアノ演奏および指揮は、如何にもバレンボイムらしい、丸みを持った優雅な雰囲気を醸し出した演奏内容に大きな特徴を持つ。この曲は、短調であるため、他の多くの演奏が悲劇的な要素をことさら強調する。バレンボイムは、そのようなことに一向に構わず、ゆったりとマイペースで厳かに曲を進行させていく。ピアノタッチは粒が揃い、限りなく美しい。それらがいずれも力強く、男性的美感が全体を覆い尽くす。この結果、一般的言われるこの協奏曲の悲劇性が陰をひそめ、代わりにいつものモーツァルト特有な快活な雰囲気が顔を覗かせる。全体としては、がっちりとした構成感が実に見事であり、聴き応えは十分。一方、モーツァルト:ピアノ協奏曲第18番の演奏は、感性にぴたりと合うのか、実に生き生きと演奏している印象が非常に強く残る。バレンボイムのピアノは、相変わらず粒がそろって美しいが、それに加えイギリス室内管弦楽団の伸び伸びとした演奏が見事であり、理想的なモーツァルトのピアノ協奏曲の世界を描き切っている。(LPC)


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