★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ティボー&コルトーの歴史的名盤 フランク:ヴァイオリンソナタ/フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番

2024-01-11 09:43:24 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


フランク:ヴァイオリンソナタ
フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番

ヴァイオリン:ジャック・ティボー

ピアノ:アルフレッド・コルトー

LP:東芝音楽工業 ANGEL RECORD GR-25(COLH-74)

 このLPレコードは、文字通りの典型的な歴史的名盤の1枚である。録音は、フランク:ヴァイオリンソナタが1929年5月、フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番が1927年6月であり、今から90年以上前となる。いずれもSPレコードからLPレコードへと音源が移行されたものであり、現在の録音の音質レベルとは比較することはできず、現在において鑑賞に耐えうるかどうかはリスナー次第としか言いようがない。ところが、音質はともかく演奏自体は、これら2曲の古今の録音の中でも1位、2位を争う名盤中の名盤ということができる。ジャック・ティボーのしなうような微妙な弓遣いのヴァイオリンの幽玄な響き、それに、アルフレッド・コルトーの詩的で妖艶な趣を漂わせたピアノの音色が、相互に絡み合い、ある時は、互いに頷きあうように協調し、また、ある時は、それぞれの持ち味を存分に発揮し合う。要するに、室内楽として求められる全ての要素を、この二人の名手は、この録音で遺憾なく発揮しているのである。聴き始めは、その録音の古さに、少々たじろぐが、聴き進むうちに、そんな録音の古さなどは、徐々に忘れ去り、リスナーは二人の名演に、ただただ聴き惚れることになる。フランク:ヴァイオリンソナタは通常、力強く一気に演奏されることが多いが、ティボーとコルトーは、むしろこの曲の持つ移ろいやすい陽炎のような情緒を存分にリスナーに送り届けてくれる。フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番は、フォーレの曲の持つ詩的な部分はそのままに、他の演奏では、あまり聴けないような輪郭のはっきりした演奏に徹する。ジャック・ティボー(1880年―1953年)は、フランス出身のヴァイオリニスト。独奏者として活躍する傍ら、1905年、アルフレッド・コルトー、パブロ・カザルスとともに三重奏団(カザルス三重奏団)を結成。1943年には、現在、若手演奏家の登竜門として知られる「ロン=ティボー国際コンクール」をマルグリット・ロンと共同で創設した。一方、アルフレッド・コルトー(1877年―1962年)は、フランス出身のピアニスト。当初、ピアニストとして楽壇にデビューしたが、ワーグナーの作品に傾倒し、バイロイト音楽祭の助手を務めたこともある。1902年頃からは指揮者としても活動し、ワーグナーの「神々の黄昏」のフランス初演を行うなどした。ピアニストとしては、特にショパン弾きとしての名声を博した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シゲティの近代ヴァイオリンソナタ選集

2023-11-02 10:00:40 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 

~近代ヴァイオリンソナタ選集~

バルトーク:ヴァイオリンソナタ第2番
アイブス:ヴァイオリンソナタ第4番「野外集会の子供の日」
ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ
オネゲル:ヴァイオリンソナタ第1番

ヴァイオリン:ヨゼフ・シゲティ

ピアノ:ロイ・ボーガス

録音:1959年3月、ニューヨーク

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐95

 これは、ハンガリー出身の大ヴァイオリニストのヨゼフ・シゲティ(1892年―1973年)が、バルトーク、アイブス、ドビュッシー、オネゲルのヴァイオリンソナタを1曲づつ録音した記念碑的LPレコードである。シゲティは「シゲティの前にシゲティなし、シゲティの後にシゲティなし」と言われたほどのヴァイオリンの大家である。シゲティ以前のヴァイオリン演奏においては、如何にヴァイオリンの音色を美しく、浪々と奏でるかで、そのヴァイオリニストの評価されていた。これに対し、シゲティの演奏は、ヴァイオリンから美音なんて出すことは考えずに、荒々しい奏法を使ってでも、直接曲の本質に迫るという、それまでのヴァイオリン奏法と真逆な手法を取り入れたのである。このためバッハの曲でもベートーヴェンの曲でも、従来のヴァイオリニストが表現できなかった、その曲が本来持つ本質を抉り出すことに成功したのである。これは到底余人の及ぶ所でなく、“孤高の芸術家”とも評された。シゲティの奏法の特質は、それまであまり演奏されることがなかった近代作曲家の作品にも光を当てることにも繋がった。その成果の一端がこのLPレコードに収められている曲である。例えば、ドビュッシー:ヴァイオリンソナタは、今でこそ多くのヴァイオリニストがリサイタルで取り上げ広く知られているが、この曲が広く知られる前からシゲティは、リサイタルで盛んに取り上げ、そのことが後になってドビュッシーの代表的作品の一つとして定着する切っ掛けとなったのだ。このLPレコードに収められた4曲は、ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ以外は、あまり聴く機会がないが、シゲティの名演奏で聴いてみると、それぞれ、なかなか味わいのある曲であることを認識させられる。バルトーク:ヴァイオリンソナタ第2番は、1922年に作曲され、2つの楽章からなる。シゲティはこの曲を大変好んでおり、録音の機会を待ち望んでいたという。アイブス:ヴァイオリンソナタ第4番「野外集会の子供の日」は、1915年に作曲され、3つの楽章からなる。アイブスは、教会のオルガニストとして出発したが、以後、実業界に入り、趣味として作曲活動を続けた。ドビュッシー:ヴァイオリンソナタは、病苦の中で書いた3つのソナタの最後の曲で、3つの楽章からなる。初演は死の前年に行われた。オネゲル:ヴァイオリンソナタ第1番は、1918年に作曲され、3つの楽章からなる。オネゲルは、ヴァイオリンとピアノのための曲を2曲遺している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ワルター・バリリ&パウル・バドゥラ=スコダのモーツァルト:ヴァイオリンソナタ集

2023-10-12 09:40:49 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリンソナタKV376
       ヴァイオリンソナタKV402
       ヴァイオリンソナタKV481

ヴァイオリン:ワルター・バリリ

ピアノ:パウル・バドゥラ=スコダ

発売:1976年12月

LP:日本コロムビア OW‐8064‐AW

 ワルター・バリリ(1921年―2022年)は、ウィーン生まれの名ヴァイオリニスト。要するに生粋のウィーン子であり、そのヴァイオリン演奏は、素朴の中にしっとりとしたウィーン情緒を内包している。今ではウィーン情緒というと、毎年正月に来日し、華やかな宮廷音楽を演奏する演奏団体を思い浮かべるが、バリリはそれらとは正反対に、実に朴訥とした味わいに溢れ、今このLPレコードを聴き直しても、これこそが本当のウィーン情緒だとの思いに駆られる。1938年にウィーン・フィルに入団、1940年からはコンサートマスターを務めた。 さらに1945年からは有名なバリリ弦楽四重奏団を結成したが、来日を前に右肘を痛め、以後演奏活動は中止して、教育活動に専念した。このLPレコードでは、モーツァルトの3つのヴァイオリンソナタを録音している。この3曲の演奏とも表面的な華美な装いは一切排除し、曲の内面に向かって、一心に掘り下げるような演奏スタイルに徹している。このため、我々が通常モーツァルトのヴァイオリンソナタに抱いている、華麗さ、軽快さといった側面は殆ど姿を消し、代わりにモーツァルトに音楽のがっちりとした構成美が鮮やかに再現されている。そして、そんなバリリのヴァイオリン演奏を暫く聴き進むと、次第に本当のウィーン情緒は、こういうものかと納得させられるのである。バリリのヴァイオリン演奏が如何に伝統に裏打ちされた正統性を持ったものであるかを、このLPレコードは自然と教えてくれる。ピアノのパウル・バドゥラ=スコダ(1927年―2019年)もオーストラリア出身。2012年3月に来日し、85歳とは思えない演奏で、日本のファンに深い感銘を与えた。若き日のこのLPレコードでは、バリリとの息がピタリとあった名伴奏ぶりを発揮している。モーツァルトはヴァイオリンソナタを全部で35曲作曲した。ヴァイオリンソナタヘ長調KV376は、1781年にウィーンで書かれたと考えられており、優雅な趣を持った作品で3つの楽章からなる。ヴァイオリンソナタイ長調KV402は、1782年の8月から9月に書かれた3つのヴァイオリンソナタの中の1曲であるが、いずれも未完成で、この曲は2楽章しかなく、しかもその2楽章目は第三者が補筆し完成したもの。ヴァイオリンソナタ変ホ長調KV481は、1785年にウィーンで完成した抒情的なヴァイオリンソナタで、3つの楽章からなる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集

2023-08-24 09:48:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集~

マスネー:タイスの冥想曲
アレンスキー:セレナード
シューマン:トロイメライ
キュイ:オリエンタル
ドリーゴ:花火のワルツ
サラサーテ:チゴイネルワイゼン
シューベルト:アヴェ・マリア
ドヴォルザーク:ユモレスク
ゴセック:ガヴォット
ショパン:夜想曲変ホ長調
シューマン:予言鳥
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
チャイコフスキー:メロディ

ヴァイオリン:ミッシャ・エルマン

ピアノ:ジョセフ・セーガー

発売:1980年

LP:キングレコード(VANGUARD) SLL 1010

 これは、かつて“エルマントーン”と謳われ、熱烈なファンを持っていたミッシャ・エルマン(1891年―1967年)が、1958年12月10日に行われた、“エルマン・アメリカ・デビュー50周年記念コンサート”を飾るために録音・発売されたLPレコードである。ミッシャ・エルマンは、南ロシアのタルノーイェで生まれた。オデッサ王立音楽学校を経て、12歳でペテルブルグ音楽院に学ぶ。1904年にベルリンでデビューを果たし、この時“神童の出現”としてセンセーションを巻き起こした。さらに1908年には、ニューヨークへ渡る。エルマンは、小柄で、手が大きい方ではなく、指も短かったそうで、大曲をヴィルトオーソ風に弾くよりも、このLPレコードに収められているような小品を弾く方が、その本領を発揮したようである。このLPレコードからも充分に聴き取れるが、官能的でその明るいその響きは、一度聴くと耳に残って離れない。ビブラートを存分に利かせたその奏法は、独特なものであり、何かジプシーの音楽を彷彿とさせるものがある。よく演歌などで使われる「こぶし」にも似た奏法なのである。つまり音から音へ移る間に挟みこむ「節(メロディー)」を、ここぞとばかりに多用して聴衆の心をわしづかみして離さない。これが“エルマントーン”の正体なのであるが、これはミッシャ・エルマンが弾くから様になるわけであって、同じことを他のヴァイオリニストがやったら醜悪なものになりかねないだろう。ミッシャ・エルマンのヴァイオリン奏法は、純粋で、聴衆に少しも媚びることはなったからこそ、熱烈な支持を受けのだと思う。それだけ、その背景には正統的な音楽があった、ということにも繋がる。そんな“エルマントーン”を聴きながら、「エルマンの前にエルマンなし、エルマンの後にエルマンなし」というフレーズがふと脳裏をかすめる。このLPレコードの最初の曲は、マスネー:タイスの冥想曲。マスネーが1894年に発表した歌劇「タイス」の第2幕の第1場と第2場の間に演奏される間奏曲である。「宗教的瞑想曲」と題されており、ヴァイオリンにより旋律が歌われるために、独奏曲として演奏されることが多い。そして、このLPレコードの最後の曲は、チャイコフスキー:メロディ。この「メロディ」は、数少ないチャイコフスキーのヴァイオリン独奏用の曲の一つで、1878年に作曲された「なつかしき思い出」(作品82)という3曲からなるヴァイオリンのための曲集の最後の曲。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨセフ・スークのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」/第5番「春」

2023-08-03 09:41:14 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
        ヴァイオリンソナタ第5番「春」

ヴァイオリン:ヨセフ・スーク

ピアノ:ヤン・パネンカ

発売:1974年5月

LP:日本コロムビア(SUPRAPHON) OP‐7048‐S

 このLPレコードは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク(1929年―2011年)とピアノのヤン・パネンカ(1922年―1999年)の名コンビによる名演奏を聴くことができる、恰好の録音である。ヨゼフ・スークは、チェコのプラハ生まれのヴァイオリニスト。祖母はドヴォルザークの娘、祖父は同名の作曲家でヴァイオリニストのヨゼフ・スークという恵まれた音楽環境に生まれ、幼い頃から英才教育を受け天賦の才能を開花させていった。プラハ音楽院と音楽アカデミーを卒業後、ソロ、室内楽、指揮にも活躍。ボヘミア・ヴァイオリン楽派に属するヨセフ・スークのヴァイオリン演奏は、端正で、美しい音色が特徴である。決して人工的な装飾をするようなことはせずに、流れるように歌うようなそのヴァイオリン奏法は、一度聴くと強い印象をリスナーに与えずにはおかない。音色の美しいヴァイオリニストは、往々にして、演奏内容はというと希薄になりがちだが、スークに限ってはそのようなことは微塵もなく、一本筋の通った確固たる信念で曲の真髄に迫る演奏には迫力を感じる。そのヨセフ・スークも既に他界してしまい、寂しい限りである。しかし、このLPレコードを含め、多くの録音を遺してくれたことは、今となってはリスナーへのまたとない贈り物になっている。一方、ピアノのヤン・パネンカは、チェコ、プラハ生まれ。プラハ音楽院とレニングラード音楽院で学ぶ。1951年の「スメタナ国際コンクール」で第1位を獲得、注目を集めた。1972年にはベートーヴェンのピアノ協奏曲の演奏で国家賞を受賞している。ヤン・パネンカは ピアノ演奏の技巧については、超一流の腕を持っていたが、現役時代はソリストというより室内楽の一員としての存在感が強く感じられた。その意味でもヨセフ・スークとコンビを組むとその力を遺憾なく発揮し、現にこのLPレコードを聴くと、スークとの相性の良さが強く印象に残る。ヤン・パネンカは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク、チェロのヨゼフ・フッフロと3人でスーク・トリオを結成し、数多くの録音も残している。このLPレコードでのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」の演奏は、スークとパネンカの持つ特徴が遺憾なく発揮されており、聴き終わると端正な奥深さに加えて、清々しい印象を強く受ける。ヴァイオリンソナタ第5番「春」は、「クロイツェル」以上に成功した演奏内容と言ってもよく、文字通り“春”の香りが匂い立つような名演となっている。(LPC)

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