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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのバルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

2025-03-06 09:37:50 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

ピアノ:アレキサンダー・ザーキン

録音:1967年3月22日(第1番)、1968年11月27日(第2番)、ニューヨーク

LP:CBS/SONY 18AC 774
 
 名ヴァイオリニストであったアイザック・スターン(1920年―2001年)は、生まれはウクライナであるが、生後間もなく家族と共にサンフランシスコに移住したので、アメリカのヴァイオリニストとして知られている。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年にデビューを果たす。以後、アメリカを代表するヴァイオリニストとして国際的に活躍。一方では、スターンは、教育者としても実績があり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンなどを育てた。1960年には、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際、救済活動に立ち上がったり、映画「ミュージック・オブ・ハート」などに出演したりと、幅広い活動でも知られていた。わが国でも数多くのファンに恵まれ、日本国政府より勲三等旭日中綬章を授与されている。このLPレコードは、バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番を収録したもの。バルトークは、ヴァイオリンソナタ第1番を1921年(40歳)、翌1922年(41歳)に第2番を書いた。バルトークは、最初、民俗音楽へ深く傾斜して作曲活動をスタートさせたことはよく知られているが、そんなバルトークが新境地開拓を目指して作曲したのがこの2曲のヴァイオリンソナタなのである。つまり、民俗音楽から、抽象的な絶対音楽へと自らを昇華させた、その始まりの曲の一つと言える。当時のクラシック音楽の潮流は、マーラーやリヒアルト・シュトラウスなど調性音楽を巨大化させた流れと、シェーンベルクに代表される12音音楽や無調性音楽の二つの流れが存在していたが、バルトークは12音音楽への傾斜を見せていた。つまり、バルトークは2つのヴァイオリンソナタを、新境地開拓というチャレンジ精神で作曲したことになる。さらに、この2曲のヴァイオリンソナタは、ピアノがヴァイオリンの伴奏に徹するのではなく、ヴァイオリンとピアノが対等な立場で演奏されるという、新しい試みの曲でもあった。このため、この2曲は、ベートーヴェンなどのヴァイオリンソナタの印象とは大きくかけ離れ、現代音楽そのものを聴くような感覚に捉われる。そのためどちらかというと一般的には“難解”な曲の部類に入るかもしれない。そんな曲をヴァイオリンのアイザック・スターンとピアノのアレキサンダー・ザーキンは、実に丁寧に心を込めて弾きこなし、この2曲からバルトーク独特の音楽性を引き出すことに成功している。2曲とも何回か聴くうちに、バルトーク特有の美意識が徐々に理解できてくる、不思議な美しさを持ったヴァイオリンソナタだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴァイオリンの名手ヘンリック・シェリングのヴァイオリン・リサイタル

2024-12-30 09:40:40 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~シェリング・ヴァイオリン・リサイタル~

ルクレール:ソナタニ長調
グルック:メロディー
ヴィタリ:シャコンヌ
ロカテルリ:ラビリンス
バルトーク:ルーマニア民族舞曲
ドビュッシー:レントより遅く
ノヴァチェック:常動曲
ブラームス:ハンガリー舞曲第17番
マロキン:メキシコの子守歌
リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

ピアノ:チャールズ・ライナー

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(PHILIPS) PC‐1518(SR‐90367)
 
 このLPレコードは、“シェリング・ヴァイオリン・リサイタル”と題されたヘンリク・シェリング(1919年―1988年)のヴァイオリン独奏によるアルバムである。ヘンリク・シェリングは、ポーランドの首都ワルシャワで生まれ、同国の世界的ヴァイオリンの大家フーベルマン(1882年―1947年)に見い出され、ベルリンに留学。さらにファランスに渡りフランス音楽をマスターした。これにより、シェリングは、スラヴ系、ドイツ系、さらにはフランス系を一体化した奏法を完成させ、真に国際的感覚を備えたヴァイオリニストであった。1933年にソリストとしてデビュー。第二次世界大戦中は、連合国軍のために慰問活動を行ったが、メキシコシティにおける慰問演奏を行った際に、同地の大学で教職を得ると同時に、1946年にはメキシコ市民権も得た。そして暫くは教育活動に専念したが、1954年、ニューヨークにおけるデビュー演奏が高い評価を得て、それ以後、活発な国際的な演奏活動を展開した。このLPレコードのライナーノートで藁科雅美氏が「ヘンリック・シェリングはヴァイオリンの大家で、現在この人と比べられる名手は、アメリカのアイザック・スターン、チェコのヨゼフ・スーク、ベルギーのアルテュール・グリュミオーぐらいなものです」と書いているように、当時の人気は絶大なものがあった。このLPレコードでは、シェリングは10曲の小品を録音している。ただ、A面の最初の曲、ルクレール:ソナタニ長調だけは小品というにはもったいない本格的ヴァイオリンソナタである。ルクレール(1697年―1764年)は、後期バロックのフランスのヴァイオリニスト兼作曲家。最初は舞踏家としてデビューし、最後は暗殺されるという数奇な人生を送った。作曲家としては、フランスのヴァイオリン音楽に多大な影響を与えたソナタや協奏曲を残している。このニ長調のソナタは、全12曲からなる「通奏低音つき独奏ヴァイオリンのためのソナタ・第4集」(作品9)の中の第3曲で、4つの楽章からなり、終楽章の「タンブーラン」は、しばしばそれだけでも単独で演奏されることがある。このLPレコードでのシェリングの演奏は、実に丁寧に1曲、1曲を愛情をもって弾いていることが、リスナーにひしひしと伝わってくる。シェリングのヴァイオリン演奏の偉大さは、単にスラヴ系、ドイツ系、フランス系という枠を越えて、真摯な態度で真の音楽の追究に身を捧げたことにると思う。これは、そんなシェリングの演奏のエッセンスが、ふんだんに込められたLPレコードなのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇プーランクのヴァイオリンソナタ/2つのクラリネットのためのソナタ/チェロソナタ

2024-10-28 09:46:18 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 

プーランク:ヴァイオリンソナタ       
      2つのクラリネットのためのソナタ       
      チェロソナタ

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

ピアノ:ジャック・フェヴェリエ

クラリネット:ミシェル・ポルタル        
                モーリス・ギャベー

チェロ:ピエール・フルニエ

録音:1972年11月22日、25日(ヴァイオリンソナタ)    
   1972年3月1日(2つのクラリネットのためのソナタ)    
   1971年11月3日、29日(チェロソナタ)

LP:東芝EMI EAC‐40135

 主にドイツ・オーストリア系音楽の作曲家の作品を中心に聴いているリスナーにとっては、プーランク(1899年―1963年)の作品は、少々”奇妙な”印象の音楽に聴こえるはずである。フランス音楽の典型のようなプーランクの音楽は、モーツァルトやベートーヴェン、ブラームスの作品を愛好する人々にとっては、鬼門とも言える音楽なのだ。しかし、これは、明治維新以来、日本の政府が取ってきたドイツ・オーストリア系音楽教育重視の結果に過ぎず、本質的にフランス音楽と日本人が疎遠な関係にあるわけではない。それどころか、日本の古来の詩歌管弦の世界は、むしろフランス音楽のようなニュアンスを漂わせてすらいる。ということで今回は、普段あまり聴く機会に恵まれないプーランクの室内楽を3曲収めたLPレコードえある。まず、第1曲目は、1943年に作曲(1949年に改訂版)されたヴァイオリンソナタである。このソナタは、1936年にファシストのために銃殺されたスペインの偉大な詩人フェデリコ・ガルシーア・ロルカ(1898年―1936年)を追悼するために書かれ、その霊に捧げられた曲。当時、ロルカの死は、西欧の知識人に深甚な衝撃を与えた。このため、プーランクによるこのヴァイオリンソナタも、曲全体のわたって悲壮感が漂い、聴くものの心に重く響く。このLPレコードでは、プーランクとも交友があったというユーディ・メニューイン(1916年―1999年)のヴァイオリン、ラヴェルから高い評価を得ていたジャック・フェヴェリエ(1900年―1979年)のピアノで演奏されている。各楽章の感情の起伏が明快にリスナーに伝わり、聴き応えのある仕上がりとなっている。次の2つのクラリネットのためのソナタは、プーランクが19歳の時の短い作品。プーランクがフランスの楽壇に登場した時に書かれた作品で、作曲者の意欲が感じられると同時に、フランス音楽の静寂さがリスナーに切々と伝わってくるようだ。最期のチェロソナタは、1948年4~9月に書かれ、このLPレコードで演奏している、当時”チェロのプリンス”と謳われたピエール・フルニエ(1906年―1986年)に献呈されており、初演もピエール・フルニエのチェロで行われた。作曲者から献呈を受けたピエール・フルニエの演奏は、流石にこの曲の本質をずばりと突いた名演を聴かせる。これら3曲は、プーランクを聴かず嫌いなリスナーには、是非一度は聴いてほしい曲だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジノ・フランチェスカッティのクライスラー名曲集

2024-10-21 09:38:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 

~クライスラー名曲集~

クライスラー:愛の喜び        
       愛の悲しみ        
       レシタティーヴォとスケルツォ・カプリース
       ウィーン綺想曲        
          中国の太鼓        
          美しきロスマリン        
          プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ        
          ボッケリーニのスタイルによるアレグロ        
          ロンディーノ        
          ボルポラのスタイルによるメヌエット        
          ロンドンデリーの歌

ヴァイオリン:ジノ・フランチェスカッティ

ピアノ:アルトゥール・バルサム

LP:CBS/SONY SOCU 59

 このクライスラー名曲集のLPレコードで演奏しているヴァイオリストのジノ・フランチェスカッティ(1905年―1991年)は、日本でも数多くのファン(ただし、一度も来日歴は無い)を持った、名ヴァイオリニストであった。フランス人とイタリア人の血を引いているためか、イタリア的な明るさと、フランス的な優雅さとが混ざり合って、独特な雰囲気を醸し出していたヴァイオリニストであった。両親がマルセイユ歌劇場のヴァイオリン奏者を務めたいた関係もあり、3歳から父親の手ほどきを受け、5歳の時に公開の演奏会を開いたというから、早熟であったようだ。10歳でオーケストラと共演してベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏している。パリに出て、当初は、オーケストラの一員として活動したが、1931年からソリストとして独立。1939年には、アメリカでデビューを果たし、その名を世界に轟かすことになる。父親は、ジノ・フランチェスカッティに対し「何も沢山のヴァイオリニストの演奏を聴く必要は少しもない。クライスラーただ一人を聴けばいい」と言ったそうである。このためか、ジノ・フランチェスカッティにとって、クライスラーは陰の師というべき存在でもあったようである。このLPレコードに収められた全部で11曲のクライスラーの名曲を、ジノ・フランチェスカッティは、実に洒落た感覚で演奏しており、何回聴き直しても少しも飽きが来ないのはさすがというべきだろう。最初に書いたようにジノ・フランチェスカッティの血には、イタリア人の血とフランス人の血とが混ざっており、これによって、クライスラー独特の世界を、チャーミングな感覚で弾きこなすことに成功しているのである。クライスラーの曲は、ヴァイオリニストの力を試す試金石としてはこれ以上のものはない。ホントの実力が無ければ、クライスラーの曲の演奏で、リスナーを心から引き付けることは到底不可能だ。このLPレコードでのジノ・フランチェスカッティの演奏は、華やかさの裏に哀愁を含んだものとなっており、ジノ・フランチェスカッティが「クライスラーはこんな風に弾けばいいんだよ」とでも言っているように私には聴こえるのである。このLPレコードでピアノ伴奏をしているアルトゥール・バルサム(1906年―1994年)は、ポーランド・ワルシャワ出身。2人のコンビは1938年に始まっただけあって、十分に息の合った伴奏ぶりを披露している。(LPC)    

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◇クラシック音楽LP◇オイストラフ&オボーリンの名コンビによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

2024-09-09 09:47:53 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

ヴァイオリン:ダヴィド・オイストラフ

ピアノ:レフ・オボーリン

録音:1957年、パリ

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) X‐5690

 ヴァイオリンのダヴィド・オイストラフ(1908年―1974年)は、ロシアのオデッサ生まれ。オデッサ音楽院で学び、同音楽院を1926年に卒業後、直ぐに演奏活動を開始。1935年「ヴィエニアスキ国際コンクール」第2位、そして1937年には、「イザイ国際コンクール(現エリーザベト王妃国際音楽コンクール)」に優勝して、世界的にその名を知られることになる。1938年にはモスクワ音楽院の教授に就任。1949年までは旧ソ連内での活動に留まっていたが、1950年以降になると西欧各国での演奏活動を積極的に展開するようになる。その優れた技巧と音色、そしてスケールの大きな演奏により、西欧でも名声を不同なものとして行く。1974年10月に客演先のアムステルダムのホテルで逝去した。享年66歳。一方、ピアノのレフ・オボーリン(1907年―1974年)は、モスクワ生まれ。モスクワ音楽院で学び、1927年に同音楽院を卒業した翌年の1928年、第1回「ショパン国際ピアノコンクール」に優勝。以後西欧各国から招かれ、その第一級の腕を高く評価された。1935年にモスクワ音楽院教授に就任。ピアニストで今は指揮者として活躍しているアシュケナージも教え子の一人という。1938年からはオイストラフとコンビを組み二重奏の演奏を開始。さらにチェロのクヌシェヴィッキーを加えたトリオの演奏でも高い評価を得た。1974年1月にモスクワで死去。この2人のコンビでベートーヴェンのヴァイオリン全集が録音されたが、その中から3曲を収めたのが今回のLPレコードである。ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番は、中期を前にした曲で、明るくまとまりの良いヴァイオリンソナタとして知られる。第2番は、初期の作品であり、モーツァルトの影響も見られ、内容の充実度というよりは、新鮮な内容が特徴。第4番は、ベートーヴェン独自の個性が発揮され始めた頃の作品。2人によるこれら3曲の演奏内容は、いずれも緻密な計算の上に立ち、高い技巧で表現されているのが特徴。一部の隙のない演奏ではあるが、人間味のある暖かみがベースとなっているので、聴いていて自然に心が和んでくる。完成度の高さは極限まで追究している一方で、音楽の心は決して忘れてはいない。やはり、2人は不世出の名コンビだったということを、改めて思い知らされたLPレコードであった。(LPC)

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