★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001~1006

2021-08-23 09:34:54 | 器楽曲(ヴァイオリン)


バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001~1006

      ソナタ    第1番~第3番
      パルティータ 第1番~第3番

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

録音:1967年7月8日~20日、スイス、Vevey劇場

発売:1975年8月1日

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MG 8037~9

 これは、名ヴァイオリニストであったヘンリック・シェリング(1918年―1988年)が遺したバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータのLPレコードである。同曲の録音のベスト盤のリストの中で、今でも1位か2位を占める名録音盤なのである。そもそもバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータとは、いかなる曲なのであろうか。当時、バッハは、ワイマール宮廷の楽長に就任することを望んでいたが、残念ながらその願いは受け入れられず、それどころか領主の身内争いに巻き込まれる羽目に陥ってしまった。そこでバッハは新天地を求めてワイマールを去ることを決意する。その新天地とは、ワイマールの北に位置するケーテンである。領主は若いレーオポルト侯で、バッハは、ここで二代目の宮廷楽長の職を得る。レーオポルト侯自ら演奏にも堪能な音楽好きであった。ここでのバッハの仕事は、17人からなるオーケストラの指揮を執ること。そして、このケーテン時代に作曲されたのが、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」である。それまでバッハの作曲のベースにあったのはオルガンであった。対位法を駆使して多声的に曲想を展開するバッハにとって、オルガンは理想的な楽器であった。ところが、ケーテンでの楽長の主な役割は、ヴァイオリンやチェロなどが主役を演じるオーケストラの指揮者である。ヴァイオリンやチェロは、原則的に一つの音しか出せない楽器なのである。つまり、ヴァイオリンやチェロは、和声的な表現には向かない。この矛盾を解決させるため、バッハは、弦楽器奏者にアルペジオを弾かせ、聴く者の想像力の中で和声的に響かせるということを思いついた。そして作曲されたのが「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」であったのだ。ただし、優れた作曲技法を駆使した、これらの2曲の真価が発揮されるのは、演奏する側の卓越した技術があって初めて可能となる話なのである。そのため、この「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の演奏者にはヴァイオリンの名手が欠かせない要件となる。その意味で、このLPレコードで演奏しているヘンリック・シェリングほど、この曲の奏者に相応しいヴァイオリニストはいない。このLPレコードでのシェリングの演奏は、極めて求心的であると同時に、ヴァイオリンの持つ美しい音色を全面的に押し出しており、全6曲を一気に弾き抜ける。テンポは中庸を得たもので、リスナーは落ち着いて聴き通すことができる。そのバランスの良い演奏には、誰もが脱帽せざるを得ない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シゲティのバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

2021-01-14 09:48:34 | 器楽曲(ヴァイオリン)

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

      ソナタ第1番 BWV1001/パルティータ第1番 BWV1002
      ソナタ第2番 BWV1003/パルティータ第2番 BWV1004
      ソナタ第3番 BWV1005/パルティータ第3番 BWV1006

ヴァイオリン:ヨーゼフ・シゲティ

発売:1978年

LP:キングレコード(VANGUARD) MX 9031~3

 バッハは、無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番~第3番とパルティータ第1番~第3番からなる全6曲を、1717年から23年の間に作曲した。バッハのケーテン時代のことである。バッハは、1714年にワイマールの宮廷楽団の楽師長に就任している。これはバッハのワイマール時代と言われている。楽師長とは、言ってみればコンサートマスターのことであり、時折指揮者の役目も果たす。また、月1曲づつカンタータの作曲も義務付けられ、このときバッハは、今日に残る偉大なカンタータの作品を数多く書いている。家庭も円満で、内外ともに順調に運ぶかと思っていた矢先、ワイマールの宮廷内で内紛が巻き起こり、バッハはこの内紛に巻き込まれてしまう。この結果、宮廷楽団の楽長のドレーゼが死去しても、楽長にバッハが選ばれることはなかった。そこでバッハは、ワイマールを去る決断をした。丁度そんな時、アンハルト=ケーテン公から「宮廷楽団の楽長にならないか」という誘いをバッハは受ける。しかし、ワイマールを去ることが認められず、すったもんだの末、バッハの辞職は認められ、晴れてケーテンの宮廷楽団の楽長に就くことができた。ワイマール時代のオルガンは、対位法を駆使して多声的に曲をつくるバッハとしては、欠かせぬ楽器であった。ところが、ケーテンでの楽器は、バイオリンやチェロといった楽器に限定されてしまった。バッハは、ここでこれまでの宗教音楽とは一線を隔し、世俗音楽へとその方向性を変更したのである。ただし、このことは、バッハにとっては本質的なことではなかったようである。つまり宗教音楽でも世俗音楽でも、神に対する賛美に違いはないのだ、と。対位法を駆使して多声的に曲をつくることができなくなったバッハは、ある方法を考えついた。つまり、奏者に、和音をひとつひとつ弾いていくアルペジオを弾かせ、聴く者の想像力を使って和声的に響かせるという妙案である。そんな苦肉の策として作曲されたひとつが、今回のLPレコードのバッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータなのである。ここでのヴァイオリン独奏は、ヨーゼフ・シゲティ(1892年―1973年)である。シゲティは、ブダペストの出身。ヨーロッパ各地で演奏し名声を高め、米国にも進出し、1931年には初来日を果たしている。このLPレコードでのシゲティの演奏は、高い精神性に貫かれ、曲の本質にぐいぐいと迫るその迫力に、リスナーは圧倒される思いがする。決して美音ではないが、人間味に溢れたその力強い弓捌きは、今でもこの曲のベストワンの録音だと断言できる。(LPC) 

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