シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」
ピアノ:パウル・パドゥラ=スコダ
バリリ四重奏団員
ワルター・バリリ(ヴァイオリン)
リドルフ・シュトレング(ヴィオラ)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)
コントラバス:オットー・リューム
発売:1977年7月
LP:日本コロムビア OS‐8003‐AW
シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」ほど、日本人に愛好されているクラシック音楽はないであろう。それほどポピュラーな曲ではあるが、楽器の編成が、ピアノに加え、コントラバス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ一つずつという少々変わったものになっている。通常のピアノ五重奏曲は、ピアノに弦楽四重奏という編成となっているのが普通であるが、シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」は、これとは少々異なる。この理由として考えられているのが、この曲の作曲を依頼し、シューベルトが旅をしたときに世話になった、鉱山関係の役人であったジルヴェスター・パウムガルトナーである。この人はチェロの演奏をしばしば楽しんでいたようで、シューベルトは、このことに配慮をして、コントラバスに主に低音部を担わせ、チェロには自由に演奏できる余地をつくったのではないかと考えられている。室内楽の古今の名曲であるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を、このLPレコードで演奏しているのが、ピアノのパウル・パドゥラ=スコダ(1927年―2019年)とバリリ四重奏団員、それにコントラバスのオットー・リューム(1906-1979年)である。パウル・バドゥラ=スコダは、オーストリア出身のピアニストで、若い時には、イェルク・デームス(1928年―2019年)やフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに、いわゆる“ウィーン三羽烏”のひとりと言われていた。1945年からウィーン音楽院に学び、1947年に「オーストリア音楽コンクール」に優勝。1949年にはフルトヴェングラーやカラヤンらといった著名な指揮者と共演し、1950年代には日本を訪れた。80歳を過ぎても現役のピアニストとして活躍し、度々来日して円熟の極の演奏を披露して、日本の聴衆に深い感銘を与えたが、2019年9月25日にウイーンの自宅で死去した。このLPレコードでのパウル・パドゥラ=スコダの演奏は、ピアニストとして最も円熟の境地に達していた年齢であり、ウィーン情緒たっぷりに、優雅で歌うように演奏しており、聴いているだけで自然に心が浮き浮きしてくるような演奏を披露している。バリリ四重奏団員も、パウル・パドゥラ=スコダにぴたりと息を合わせ、持ち前のウィーン情緒をたっぷりと含んだ演奏を聴かせる。このLPレコードを聴き、久しぶりに本場のシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を聴いた思いがした。(LPC)