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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団のシェーンベルク:浄夜/ワーグナー:ジークフリート牧歌/ヒンデミット:ヴィオラと弦楽合奏のための葬送音楽

2025-05-05 10:02:10 | 管弦楽曲


シェーンベルク:浄夜
ワーグナー:ジークフリート牧歌
ヒンデミット:ヴィオラと弦楽合奏のための葬送音楽

指揮:ダニエル・バレンボイム

管弦楽:イギリス室内管弦楽団

ヴィオラ:セシル・アロノヴィッツ(ヒンデミット)

LP:東芝EMI EAC‐30336
 
 このLPレコードの1曲目はシェーンベルク:浄夜。この曲は、1899年、シェーンベルクが25歳の時にウィーンで作曲した弦楽六重奏曲が元の曲。リヒャルト・デーメルの、月下の男女の語らいが題材となっている同名の詩「浄夜」に基づいて作曲されている。シェーンベルクというと無調音楽や12音階音楽の創始者というイメージが強いが、この作品は後期ロマン派、とりわけワーグナーやブラームスから影響を受けた作品で、半音階や無調の要素を取り入れはいるものの、いわゆる現代音楽とは程遠い作品だ。全体はデーメルの詩に対応した5つの部分からなる、30分ほどの単一楽章からなっている。つまり、この曲は、完全に表題音楽であり、しかも室内楽曲という非常に珍しい形態の曲だ。この曲を聴くには、デーメルの詩「浄夜」をあらかじめ読んでおく必要がある。このLPレコードには、その一節が54行にわたって紹介してある(入野義朗訳)ので、鑑賞には打って付けである。シェーンベルクは、この曲を、1917年に自ら弦楽合奏用に編曲した。2曲目は、ワーグナー:ジークフリート牧歌。この曲は、室内オーケストラのための作品で、妻コジマへの誕生日の贈り物として作曲されたもの。1870年12月25日に、スイスのルツェルン湖畔の自宅のコジマの寝室の傍らの階段に陣取った15人の楽士と作曲者自身の指揮で演奏された。それを聴いた妻のコジマは大変感激したと言われている。3曲目は、ヒンデミット:ヴィオラと弦楽合奏のための葬送音楽。この曲は、8分ほどの短い曲。ちょうどヒンデミットがロンドンに滞在していた時に、国王のジョージ5世が崩御され、哀悼の曲として作曲されたもので、ヒンデミットは、徹夜をして一晩で仕上げたという。全体は、4つの部分からなるが、全楽器が弱音器をつけて演奏する終曲は、コラール「我汝の玉座の前に立つ」の旋律に基づいている。このLPレコードは、まずこれら3曲の選曲のセンスの良さが光る。それと、名ピアニストであるダニエル・バレンボイムが、指揮者としても超一流の腕を持っていることを証明した初期の頃の録音内容だ。イギリス室内管弦楽団とバレンボイムとが一体化し、芳醇な音質に加え、微妙なニュアンスの表現が一際優れている。とりわけ、シェーンベルク:浄夜では、緊迫した男女のやり取りを巧みに表現し尽して、同曲の録音の中でも最高のレベルに位置づけられよう。ワーグナー:ジークフリート牧歌では穏やかな表現力が光るし、ヒンデミット:ヴィオラと弦楽合奏のための葬送音楽では、鎮魂の思いがよく表現されている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇フリッチャイ指揮ベルリン放送響のバルトーク:管弦楽のための協奏曲

2025-04-07 09:50:17 | 管弦楽曲

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン放送交響楽団

録音:1957年4月9、10日

発売:1974年

LP:ポリドール MH 5055

 バルトークの管弦楽のための協奏曲は、1943年に作曲された5つの楽章からなる管弦楽曲で、バルトーク晩年の傑作である。バルトークの作品は、往々にして、難解であるか、あるいは民族色が濃く反映され、誰もが気楽に楽しめるといった大衆性が薄い作品が少なくない。ところが、この晩年の傑作である管弦楽のための協奏曲は、バルトーク独特のリズム感を失わず、しかも誰が聴いても親しみやすいメロディーが散りばめられ、しかもオーケストラの持つダイナミックスさを存分に発揮させるので、多くの愛好者を持っている曲なのである。この曲は、1943年当時ボストン交響楽団の音楽監督だったクーセヴィツキー(1874年―1951年)が、クーセヴィツキー財団からの委嘱としてバルトークに作曲を依頼し、完成した作品。バルトークは、1940年10月にアメリカへ亡命した。理由は、祖国ハンガリーが、ナチによって占領されたため。しかし、アメリカに渡ったバルトークを待ち受けていたのは、評論家や聴衆の自身の曲への無理解だった。収入もわずかで、そこへもってきて、白血病という不治の病に罹ってしまう。当時、バルトークは、友人に「わたしの作曲家としての生涯は、もう終わったも同然です」と手紙を出すほど切羽詰った状況に陥っていた。そんな中、突然アメリカ作曲家協会が入院費用を出すことになり、バルトークは、ニューヨーク北部のサラナック湖畔で療養生活を送ることになる。その時、クーセヴィッキーがバルトークの許を訪れ、作曲の依頼と同時に500ドルの前金を置いて行ったのだ。不幸続きだったバルトークにもようやく救いの手が差し伸べられ、バルトークも作曲意欲が復活し、ようやくアメリカ亡命の最初の作品とした完成した。初演は、1944年12月1日にボストンで行われ、成功を収めことができた。この曲が今に至るまで、人気を誇っている理由の一つは、曲想が親しみやすいのと同時に、亡命という精神的な苦痛に見舞われ、しかも白血病という大病に蝕まれた肉体を克服した、その強靭な精神性が背景を貫いていることがあろう。このLPレコードは、フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)指揮ベルリン放送交響楽団の演奏だ。強靭なリズム感に加え、華やかなオーケストラの饗宴ともいえる雰囲気を、フリチャイは巧みに演出し尽くす。特に、自己への集中力を最大限に高め、オケを統率するフリッチャイの指揮者としての力量は図抜けているとしか言いようがない。(LPC) 


◇クラシック音楽LP◇ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団のラヴェル&イベール管弦楽作品集

2025-03-03 09:45:04 | 管弦楽曲


ラヴェル:スペイン狂詩曲(夜への前奏曲/マラゲーニャ/ハバネラ/祭り)
     道化師の朝の歌
     なき王女のためのパヴァーヌ
     ラ・ヴァルス
イベール:寄港地(ローマ、パレルモ/チェニス、ネフタ/ヴァレンシア)

指揮:ポール・パレー

管弦楽:デトロイト交響楽団

録音:1962年

発売:1976年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード)
 
 このLPレコードは、ラヴェルとイベールの異国情緒たっぷりの音楽が、ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団の演奏で聴ける楽しさ溢れる録音である。デトロイト交響楽団を世界有数のオーケストラに育て上げたことで知られるポール・パレー(1886年―1979年)は、フランス人の作曲家兼指揮者。パリ音楽院で学び、世界的な作曲賞であるローマ大賞を受賞。第一次世界大戦後から本格的な指揮者活動に入り、コンセール・ラムルーなどを指揮する。この頃、このLPレコードにも収録されているイベール:寄港地を初演している。1939年に米国デビューを果たし、1951年から1962年までデトロイト交響楽団の音楽監督を務めた。ポール・パレーは、フィランス人指揮者でありながらワーグナーを盛んに取り上げるなど“反骨精神の指揮者”としても知られた。この反骨精神が第二次世界大戦中は、戦闘的なレジスタンスの一員に駆り立てた。その指揮ぶりは男性的で、既成概念に囚われず、その曲の持っている新しい側面を引き出して見せるといったところが高く評価された。フランス音楽というと繊細でサロン的印象が強いが、一面ではポール・パレーの指揮のように、男性的な力強さも同時に持ち合わせているようだ。ラヴェル:スペイン狂詩曲は、ラヴェルが書いた、たった一つの演奏会用のオリジナル管弦楽曲で、フランス人がスペインに寄せる思いが込められている。「夜への前奏曲」「マラゲーニャ」「ハバネラ」「祭り」の4曲からなる。ラヴェル:道化師の朝の歌は、ピアノ独奏曲「鏡」の第4曲目をオーケストラ用にアレンジした曲。スペイン風の情熱的なリズムが印象的。ラヴェル:なき王女のためのパヴァーヌも、ピアノ曲をオーケストラ用にアレンジした曲。パヴァーヌとは、16世紀の宮廷舞曲のこと。ラヴェル:ラ・ヴァルスは、ワルツの黄金時代を賛美するバレエ曲で「ワルツの誕生」「主要部」「終結部」の3つの部分からなる。最後のイベール:寄港地は、「ローマ、パレルモ」「チェニス、ネフタ」「ヴァレンシア」の3曲からなり、地中海を航行する船が立ち寄る港の印象が描かれ、各地の民俗音楽の要素が巧みに採り入れられている。このLPレコードでのポール・パレーの指揮は、メリハリの利いた、それでいて情感にも溢れ、活き活きした表現力を備えたものとなっている。特にラヴェル:スペイン狂詩曲とイベール:寄港地の演奏で見せる、独特なリズム感と異国情緒溢れる表現力は、今でも他の指揮者に追随を許さないものとなっている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇コレギウム・アウレウム合奏団によるモーツァルト:喜遊曲第11番/第10番

2025-02-20 09:38:44 | 管弦楽曲


モーツァルト:喜遊曲第11番/第10番

室内合奏:コレギウム・アウレウム合奏団

録音:1963年、ドイツ、キルヒハイム・フッガー城、糸杉の間

LP:テイチク(ハルモニアムンディ) ULS‐3128‐H
 
 喜遊曲(ディベルティメント)は、社交会や宴会のときに、室内で独奏楽器群により演奏される音楽で、楽しい旋律に飾られ、内容も軽妙な作風の曲のことをいう。18世紀のドイツを中心に持て囃され、ハイドンやモーツァルトなどが盛んに書いた。通常4楽章以上の構成で、第1楽章はソナタ形式で書かれ、その他の楽章はメヌエットなどの舞曲が用いられる。楽器の編成は、弦楽器が中心で、それに管楽器が加わる。18世紀半ば以降は、弦楽四重奏曲や交響曲に関心が移り、喜遊曲は表舞台から徐々に姿を消すことになる。それでも後になりバルトークなどが作曲したこともあることにはあった。このLPレコードには、A面にモーツァルト:喜遊曲第11番が、B面に第10番が収録されている。モーツァルト:喜遊曲第11番は、敬愛する姉のナンネルの誕生祝いのために、1776年7月に作曲された。ナンネルは、かつて両親や弟とパリを訪れ、ヴェルサイユ宮殿で、ルイ15世の御前演奏を弟と一緒に行ったことがあり、フランスへの愛着を一際強く持っていた。このため、モーツァルトは、この喜遊曲第11番に、全体にフランス風の軽快なリズムを持たせ、同時に和やかで美しい曲調に仕上げている。全体は6つの楽章からなる。楽器編成は、弦楽4部に2本のホルン、1本のオーボエからなるところから「ナンネル7重奏曲」とも呼ばれることがある。一方、喜遊曲第10番は、モーツァルトがザルツブルで親しくしていたロードロン伯爵家の夫人、アントニアの誕生祝いのために、1776年6月に作曲された。2つのメヌエットを持った全部で6楽章からなり、楽器編成は弦楽4部に2本のホルンが加わる。当時モーツァルトは20歳で、ハイドンの弟のミヒャエル・ハイドンの影響を受けた曲とも言われる。これら2曲を演奏しているのがコレギウム・アウレウム合奏団。コレギウム・アウレウム合奏団は、1962年、ドイツのハルモニア・ムンディの録音のために組織された古楽演奏団体で、その名の意味は“黄金の楽団”。これは主な録音会場がドイツのシュヴァーベン地方にあるフッガー城の「糸杉の間」で、そのホールの構造が黄金分割になっているところから付けられたもの。メンバーはバッハ時代のガット弦の古楽器を用いており、古楽オーケストラの草分け的存在。このLPレコードでコレギウム・アウレウム合奏団員達の演奏は、古き良き時代の雰囲気を存分に醸し出している。リスナーは、あたかも18世紀にタイムスリップしたかのような雰囲気の中で、リラックスしながら2曲のモーツァルトの喜遊曲を楽しむことができる。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのバレエ組曲「コッペリア」/「レ・シルフィード」

2025-02-17 09:45:00 | 管弦楽曲


ドリーブ:バレエ組曲「コッペリア」
ショパン(ダグラス編曲):バレエ組曲「レ・シルフィード」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) 2535 189
 
 バレエ「コッペリア」は、ホフマンの短編小説「眠りの精」を基にドリーブが作曲し、1870年5月25日にパリのオペラ座で初演された。舞台となるのは、ハンガリーとポーランドの国境地帯にあるガリヴァという街。人形つくりのコッペリウスは、コッペリアと名付けた若い娘の人形をつくって2階の窓際に置いておいたことから物語が始まる。最後には、コッペリアの身代わりになったスワニルダが人形つくりの仕事部屋をめちゃくちゃにして、恋人のフランツと逃げて行く、というのが筋書き。ドリーブ(1836年―1891年)は、バレエ音楽や歌劇で知られるフランスの作曲家で“フランス・バレエ音楽の父”とも呼ばれている。ドリーブ:バレエ組曲「コッペリア」は、全編が美しいメロディーで覆い尽くされた実に楽しい管弦楽組曲で、「前奏曲とマズルカ」「情景とスワニルダの円舞曲」「チャルダッシュ」「情景と人形の円舞曲」「バラードとスラヴ民謡の変奏曲」からなる。難しい理屈などはこの際は棚上げして、リスナーは、ただただドリーブの音楽のマジックの虜になる。一方、ショパン(ダグラス編曲):バレエ組曲「レ・シルフィード」は、もともとグラズーノフがショパンのピアノ曲を基に管弦楽に編曲した「ショピニアーナ」が下敷きとなり、これに数人の作曲家が徐々に手を加え(編曲)、「レ・シルフィード」という名称で上演され、人気バレエとして定着することになる。ここでは、ロイ・ダグラス(1907年―2015年)による編曲が使われている。「前奏曲(原曲:作品27の7の前奏曲)」「円舞曲(作品70の1の円舞曲)」「マズルカ(作品33の2のマズルカ)」「マズルカ(作品67の3のマズルカ)」「前奏曲(作品27の7の前奏曲)」「円舞曲(作品64の2の円舞曲)」「華麗なる円舞曲(作品18の1)」からなっている。管弦楽演奏で原曲であるショパンのピアノ曲を聴くことは、ショパンの別の顔を見るようで誠に興味が尽きない。この曲も、ショパンの美しくも華麗なメロディーが凝縮され、聴いているだけで夢心地に陥ること請け合いの曲である。このバレエ組曲を代表する2曲を演奏しているのが、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ベルリン・フィルである。このLPレコードを聴いてみると、曲の組み立て方が、細部にわたって実に緻密なことに驚かされる。カラヤンが思い描く音が、ベルリン・フィルに全て吸収され、混じりけのないピュアな音として再現されてるのだ。このLPレコードは“帝王カラヤン”の面目躍如そのものの録音である。(LPC)