★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルによるロッシーニ:弦楽のためのソナタ集

2024-06-06 09:40:33 | 管弦楽曲


ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集 第1番/第2番/第3番/第6番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年8月17日~21日、スイス、サンモリッツ、ヴィクトリア・ホール

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) SE 8006

 このLPレコードに収められたロッシーニ:弦楽のためのソナタ集は、1804年、ロッシーニが僅か12歳の時に作曲した弦楽四重奏のための作品である。弦楽四重奏曲といってもヴィオラは使われずに、ヴァイオリン2、チェロ、コントラバスという異例の楽器編成が取られた。何故このような編成となったかは謎であるが、どうも当時、芸術パトロンをしていたアマチュアのコントラバス奏者のために書いたため、というのが事の真相らしい。この弦楽四重奏曲を基に弦楽合奏用に編曲したのが、弦楽のためのソナタ集(第1番~第6番)である。全部で6曲からなるこの曲集は、全てが急・緩・急の3つの楽章からなっている。この曲集の一つでも聴いてみれば分るが、その完成度の高さから、とても12歳の少年が書いた曲とは想像もつかないのである。後年、オペラ・ブッファで名を馳せたロッシーニであるが、室内楽曲は多くはなく、この処女作ともいえる弦楽のためのソナタ集が、ロッシーニを代表する室内楽曲として現在、定着している。つまり、ロッシーニは恐るべき少年であったわけである。このLPレコードで演奏しているのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ベルリン・フィルである。このソナタ集を演奏するのは、通常の弦楽四重奏では、どうもその真価は発揮されないようである。このことを最初に指摘したのは、この曲集を校訂したアルフレド・カセルラという作曲家であり、「弦楽合奏で演奏するのが一番いい」ということを言い出した。以後、現在では、通常、弦楽合奏で演奏されている。このLPレコードは、ベルリン・フィルのメンバーによる弦楽合奏である。ここに収められた4曲の中では第3番が一番有名であるが、他の3曲もそれぞれ魅力的な曲で楽しめる。後年、オペラ・ブッファで名を馳せたロッシーニを彷彿させるように、何とも親しみやすいメロディーが現れては消え、また新しいメロディーが現れるといった塩梅であり、まるでオペラのアリア集でも聴いているかの感覚に捉われる。そんな曲をカラヤンは、比較的スローな曲の運びを見せる。カラヤンの指揮ならば、さぞや疾風怒濤の如く演奏すると思いきや、その逆で、実に細部に目が行き届いた、ゆっくりとしたテンポの演奏だ。このため、否が応でもベルリン・フィルの豊かな弦楽合奏の響きがリスナーの耳に届くことになる。カラヤンの見事な作戦勝ちといったところか。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のベートーヴェン:序曲選集

2024-04-01 09:37:18 | 管弦楽曲


ベートーヴェン:序曲選集            

             「コリオラン」            
             「フィデリオ」            
             「レオノーレ」第1番/第2番/第3番

指揮:フランツ・コンヴィチュニー

管弦楽団:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

発売:1974年

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード)

 「コリオラン」序曲は、当時ウィーンの詩人で法律家でもあったハインリヒ・コリンが、1902年11月に上演した5幕からなる戯曲「悲劇コリオラン」を基にベートーヴェンが作曲した作品。「フィデリオ」序曲は、ベートーヴェンが遺した唯一のオペラの序曲。1805年11月20日に「レオノーレ」という題名でこのオペラは初演された。しかし、この1週間前にフランス軍がウィーンを占領したため、3日間の上演で中止されてしまった。翌1806年に改作され、3月と4月に上演されたが、今度は報奨金の件でベートーヴェンは劇場側と喧嘩をしてしまい、怒ったベートーヴェンは、続演を断ってしまった。それから8年が経った1814年5月に、このオペラは徹底的に改訂され、題名も「フィデリオ」に改められて、上演され、ようやく大好評得たという。「レオノーレ」序曲第1番は、1807年のプラハにおける上演のために書かれ、そのまま破棄されたという説があり、実際のオペラの上演には使われてはいない。「レオノーレ」序曲第2番は、オペラ「レオノーレ」が1805年に初演された時に書かれたもの。「レオノーレ」序曲第3番は、1806年の改作の上演の時に作曲されたもので、序曲の名作として今日でもしばしば演奏される。フランツ・コンヴィチュニー(1901年―1962年)は、オーストリア出身で、旧東ドイツで活躍した名指揮者。ライプツィヒ音楽院で学ぶ。フルトヴェングラー時代のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でヴィオラ奏者として活動した。その後、指揮者に転向。1927年にシュトゥットガルト歌劇場の練習指揮者として指揮者活動をスタートさせ、3年後に首席指揮者に就任。1953年から1955年までシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者を務め、1955年以降はベルリン国立歌劇場の首席指揮者も務めた。1952年、東ドイツ国家賞を受賞。1949年から亡くなる1962年まで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(楽長)を務めた。このLPレコードでのコンヴィチュニーは、いつになく現代的な感覚をもって指揮をしており、今聴いても古めかしさはあまり感じない。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の重厚で燻し銀のような音色を巧みにリードして、ベートーヴェンの序曲の真髄を余すところなく聴かせてくれる。特に、レオノーレ第3番の演奏は完成度が高く、今でもこの曲の録音の最高の一つに挙げられよう。(LPC)         

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◇クラシック音楽LP◇ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団のグラズーノフ:バレエ音楽「四季」

2024-03-25 09:39:04 | 管弦楽曲

 

グラズーノフ:バレエ音楽「四季」

指揮:ボリス・ハイキン

管弦楽:モスクワ放送交響楽団

LP:ビクター音楽産業 VIC‐5057

 私は、このLPレコードに収録されているグラズーノフ:バレエ音楽「四季」が昔から好きであった。今聴いてもやはりいい。どういいのかと言われても、ちょっと返答に窮するが、曲全体が何となくほのぼのとしており、同時にバレエ音楽特有の華やかさが随所に散りばめられているところが魅力であり、そして気楽に聴けるところがいい。このことは、グラズーノフという作曲家の持つ特質と切り離しては語れまい。グラズーノフ(1865年―1936年)は、ロシア帝国末期および旧ソビエト連邦建国期の作曲家。グラズーノフの作曲家としての特徴は、民族主義と国際主義を巧みに融和させた点にある。このため一方では折衷主義という批判もあったが、誰もがその存在感を認めていたのである。グラズーノフは、帝政時代のマリンスキー劇場の華やかなバレエを見て育ったこともあり、生涯に幾つかのバレエ音楽を残している。作曲順に挙げるとそれらは、「ショピニアーナ」「バレエの情景」「ライモンダ」「恋の術策」そして「四季」である。「四季」は、一種の抽象バレエであり、いろいろな季節の風物が擬人的に扱われ、童話風の楽しさを表しているが、特に、深い情緒と暗示性を含んでいるところが魅力となっている。そして、何より円熟した管弦楽の扱いが大きな魅力となっている。このLPレコードで指揮しているボリス・ハイキン(1904年―1978年)は、旧ソ連の指揮者。帝政時代のマリンスキー劇場は、旧ソ連時代では国立キーロフ歌劇場と名称を変えたが、バレエの殿堂としての役割は一貫して持っていた。第二次世界大戦で同劇場は大きな損害を被ったが、それをものの見事に再建し、かつてのロシア音楽とロシアバレエの光栄を取り戻した貢献者の一人がボリス・ハイキンである。モスクワ放送交響楽団は、1930年に旧ソ連の全国ラジオ放送向けのオーケストラとして設立された。旧ソ連崩壊の後の1993年に、チャイコフスキーの音楽演奏について中心的な役割を果たしたとして“チャイコフスキー”の称号が与えられ、「モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団」となった。このLPレコードでのボリス・ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団の演奏は、いわゆる民俗色を強く押し出したロシア人による演奏という印象は希薄で、実に洒落ていてウイットに富んだ軽快さが耳に残り、バレエ音楽としての的確なリズム感に溢れた、優れた演奏となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇外山雄三:ラプソディー&子守唄/小山清茂:管弦楽のための木挽歌/尾高尚忠:フルート協奏曲

2024-03-11 09:41:10 | 管弦楽曲


外山雄三:ラプソディー
小山清茂:管弦楽のための木挽歌
外山雄三:子守唄
尾高尚忠:フルート協奏曲

指揮:岩城宏之

管弦楽:NHK交響楽団

フルート:吉田雅夫

録音:昭和36年1月、文京公会堂(外山雄三、小山清茂)
   昭和36年4月、文京公会堂(尾高尚忠)

発売:1980年

LP:キングレコード GT9322

 このLPレコードは、日本人による作曲、演奏をを収録したシリーズの一枚である。収録曲は、いずれも当時よくラジオから流れていた曲であり、私などは、曲目や演奏家を目にしただけで、懐かしい思いが込み上げてくる。最初の外山雄三(1931年―2023年):ラプソディーは、手まり唄(あんたとこどこさ)に始まり、ソーラン節、炭坑節、串本節、さらには信濃追分と続く。当時の日本人なら誰もが知っていた民謡に基づいた旋律が奏でられ、ただそれだけで嬉しくなってしまう。そして2部では、八木節が軽快な打楽器によって奏でられるが、特にオーケストラとの調和が見事であり、日本人なら、聴いていて自然に踊り出したくなるほど。この曲はNHK交響楽団の海外公演などでも演奏され、日本情緒たっぷりな曲に、当時の海外の聴衆を魅了したという。小山清茂(1914年―2009年):管弦楽のための木挽歌は、九州民謡の木挽唄を主題にした、一種の変奏曲となっており、全体は4つの部分からなっている。第1部は、ヴァイオリンとヴィオラが鋸の音を模倣し、チェロが主題を奏でる。第2部は、太鼓を使った盆踊り。第3部は、早い5拍子の爽やかな印象の曲。第4部は、金管楽器や打楽器が活躍する軽快な曲。外山雄三:子守唄は、五木の子守唄をベースに、たっぷりと歌うように書かれた、古の情緒の雰囲気が堪らなくいい。尾高尚忠(1911年―1951年):フルート協奏曲は、急・緩・急の3楽章からなる実に爽やかな曲であり、戦後日本の貧しくあるとも、伸び伸びとした社会状況を反映したような雰囲気が何とも好ましい。このLPレコードで演奏している吉田雅夫(1915年―2003年)のフルートの音色がこれまた絶品であり、曲、演奏ともこの曲のベストと言えよう。このLPレコードには、作曲家、演奏家とも懐かしい名前が登場しているが、ライナーノートの筆者にも、戦後のクラシック音楽界を牽引した林 光(1931年―2012年)と柴田南雄(1916年―1996年)の名前を見つけることができる。指揮の岩城宏之(1932年―2006年)は、東京都出身。東京芸術大学音楽学部器楽科打楽器部で学ぶ。1960年NHK交響楽団世界一周演奏旅行では指揮者陣のひとりとして同行、ヨーロッパ・デビューを果たす。1969年NHK交響楽団正指揮者、1987年メルボルン交響楽団終身桂冠指揮者、1988年オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)音楽監督に就任。1990年フランス芸術文化勲章を受章。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇巨匠ハンス・クナッパーツブッシュ75歳誕生記念の「ワーグナー・アルバム」

2024-02-08 09:38:20 | 管弦楽曲


ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死
      楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から前奏曲
      「ジークフリート牧歌」
      舞台神聖祭典劇「パルジファル」から前奏曲

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ

管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1976年7月

LP:日本コロムビア OW‐8034‐AW

 このLPレコードは、ワーグナーの生誕150年と、「クナ」の愛称で親しまれた指揮者のクナッパーツブッシュ(1888年―1965年)の75歳の誕生日を記念して、1962年11月に録音された「ワーグナー・アルバム」からの1枚。クナッパーツブッシュは、ドイツ・ラインラント地方の都市エルバーフェルトの生まれで、ボン大学およびケルン音楽大学で学ぶ。1922年(34歳)、ブルーノ・ワルターの後任としてミュンヘンのバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任。1936年からは、ウィーン国立歌劇場においてワーグナーの楽劇などの指揮を行う。第2次世界大戦後の1947年、バンベルク交響楽団を指揮し、本格的指揮活動を再開。1951年からはバイロイト音楽祭に出演。その後は、ドイツ国内はもとより、世界各地において演奏活動を展開した。ドイツ古典派、ロマン派の曲の演奏を得意とし、特にワーグナーの指揮にかけては当時、世界最高の指揮者として評価されていた。一見、朴訥かに見えるその指揮ぶりであるが、曲の内面に隠された本質を掴み、それを少しの虚飾もなしに表現することにより、聴衆からは圧倒的な支持を得ていた。中でも、1922年以来、43年間にわたり音楽監督務めたバイエルン国立歌劇場のあるミュンヘンにおいて、「クナッパーツブッシュはミュンヘンを“第二の故郷”と呼び、ミュンヘン市民はクナッパーツブッシュを“われらのクナ”と言って敬愛していた」と、宇野功芳氏が、このLPレコードのライナーノートで紹介している。このLPレコード収められたワーグナーの作品において、手兵のミュンヘン・フィルを指揮するクナッパーツブッシュは、持てる自己の特徴を全ての曲で遺憾なく発揮。朴訥としてはいるが、人間味のある演奏内容は、聴き続ければ続けるほど一層深まっていくのである。いずれの曲も、これ以上遅いテンポは考えられないほどのゆっくりしたテンポで始まり、何とそのテンポはそのまま延々と続いていく。そしてクライマックスになるとその持てるエネルギーを一挙に解き放つのだ。外面的な装飾はできるだけ排除して、曲の本質のみをリスナーに直接伝える。そんなクナッパーツブッシュの手に掛かると、リスナーは魔法にでも掛けられたかのように、ぐいぐい引き付けられて、もうその魔力から離れられなってしまうから不思議だ。クナッパーツブッシュが不世出のワーグナー指揮者だったことが、この録音から充分に聴き取れる。(LPC)

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