★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ポール・トルトゥリエのフォーレ:チェロソナタ第1番/第2番&エレジー

2024-03-21 10:28:57 | 室内楽曲(チェロ)

 

フォーレ:チェロソナタ第1番/第2番       
     エレジー

チェロ:ポール・トルトゥリエ

ピアノ:ジャン・ユボー

LP:RVC(ΣRATO) ERX‐2021(STU‐70101)

 フォーレがチェロを愛していたことは、このLPレコードを聴けば即座に納得できる。特に、このLPレコードのB面に収められた有名なエレジー(悲歌)を聴けば誰もが納得するに相違ない。これは、チェロという楽器の持つ、物悲しくも、奥行きのある音色を、最大限に発揮させたチェロの小品の古今の名曲である。フォーレは、ピアノ伴奏付き独奏曲を全部で13曲作曲しているが、そのうち8曲がチェロとピアノの曲ということからも、フォーレのチェロ好きが偲ばれよう。チェロとピアノの組み合わせは、実に相性がいい。チェロの内省的な篭った響きに、ピアノの歯切れのよい引き締まった音が絶妙な味わいを醸し出す。フォーレは、1917年にヴァイオリンソナタ第2番を作曲しているが、その後に作曲したのが2曲のチェロソナタである。この2曲とも、とても70歳を超えた作曲家が書いた作品とは思われないような瑞々しさに溢れた最晩年の佳曲である。チェロソナタ第1番の第1楽章アレグロは、力強く、流れるようなドラマティックな展開がリスナーに充実感を与える。第2楽章アンダンテは、フォーレの持ち味を存分に発揮させた叙情的で、内省的なメロディーが印象に残る。もうこれは、チェロとピアノが奏でる詩そのものと言ってもいいほど。一方、チェロソナタ第2番は、何と言っても第2楽章アンダンテの雰囲気が如何にもフォーレらしい内省的な音楽を形作っており、何とも印象的だ。かつて「葬送歌」として作曲したメロディーをテーマに展開される。終楽章は、とてもこの2年後に亡くなった人の作品とは思えないほど、華やいだ雰囲気に満ち溢れ、リスナーはチェロの醍醐味を存分に味わい尽くすことができる。チェロを弾いているのはフランスの名チェリストであったポール・トルトゥリエ(1914年―1990年)である。パリに生まれ、6歳の時からチェロを学び、16歳でパリ音楽院を首席で卒業。その後、カザルスに師事。モンテ・カルロ交響楽団、ボストン交響楽団、パリ音楽院管弦楽団の首席チェロ奏者を務め、独奏者としても人気があった。このLPレコードでの演奏は、完全にフォーレに同化した名人芸を披露している。ジャン・ユボー(1917年―1992年)は、フランスのピアニストで数多くの録音を今に遺している。このLPレコードでは、ポール・トルトゥリエとの息もぴたりと合い、室内楽演奏の醍醐味を存分に味あわせてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルニエ&グルダによるベートーヴェン:チェロソナタ第5番/「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲 /「魔笛」の主題による12の変奏曲

2023-08-10 09:37:06 | 室内楽曲(チェロ)


ベートーヴェン:チェロソナタ第5番
        「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲
        「魔笛」の主題による12の変奏曲

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

録音:1959年6月17日~28日、ウィーン、ムジークフェラインザール

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) MGW 5174(2544 120)

 ベートーヴェンは、全部で5曲のチェロソナタを遺しているが、それらは初期、中期、後期の全生涯を通して書かれている。今回のLPレコードは、ベートーヴェン後期の作品で、最後のチェロソナタとなった第5番である。作曲されたのは1815年で、第4番と連作となっている。全部で3つの楽章からなっているが、第3楽章目には、4声のフーガが用いられているところが、いかにもベートーベンの後期の作品の雰囲気であることを漂わす。曲全体の印象は、簡潔に、透明感をもって書かれており、明快さと深い精神性とを併せ持った作品。「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲は、1796年の作と推定されている。比較的ピアノに重点が置かれ、チェロは、旋律を大きく歌わせるとか和声の支持をさせるとかの役目を与えられている。「魔笛」の主題による12の変奏曲は、1798年に書かれた初期の作品と考えられている。その主題は、「魔笛」の第2幕第23場で、パパゲーノが歌う有名な軽妙なアリア「かわいい娘か女房か」によるもので、原曲ではアンダンテだが、ベートーヴェンではアレグレットにされている。この3曲を弾いているが、かつて“チェロのプリンス”としてわが国でも多くのファンを有していたフランスのチェロの名手のピエール・フルニエ(1906年―1986年)である。最初はピアニストを目指したが、小児麻痺のためチェロに転じた。1923年、パリ音楽院を首席で卒業後、その存在感を世界に知らしめることになる。演奏法は、大変優雅で、その美しいチェロの音色を一度でも聴くと、もう演奏内容がどうのこうの言うこと自体が無意味なようにも感じてしまうほどの腕前。ピアノの伴奏はフリードリッヒ・グルダ(1930年―2000年)。ウィーンに生まれ、16歳の時、「ジュネーブ国際コンクール」で優勝して一躍世界的に注目を浴びた。ジャズ演奏にも興味を示すなど、従来の枠に捉われない演奏法は、当時、常に聴衆に新鮮な話題を提供していた。ただ、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなどの作品を演奏する際は、決して奇を衒わず、伝統に依拠したオーソドックスな様式に基づいていた。このLPレコードでも優雅で伝統的な演奏に基づく、フルニエのチェロ演奏にピタリと歩調を合わせ、見事な伴奏の腕前を披露している。この2人の名手の手に掛かると、優雅さと同時に音楽的な面白さに溢れた曲であることを、改めて味あわさせてくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇”チェロの神様”カザルス、全盛時代のチェロ名演集

2023-07-13 09:37:08 | 室内楽曲(チェロ)


~赤盤復刻シリーズ カザルス名演集~

バッハ:アダージョ(トッカータハ長調より、シロティ編~カザルス改編)                
       <1927年2月28日録音>
ルービンシュタイン:へ調のメロディー(ポッパー編)                            
       <1926年1月20日録音>
シューベルト:楽興の時第3番(ベッカー編)                                 
       <1926年1月4日録音>
ショパン:夜想曲変ホ長調Op.9‐2(ポッパー編)                              
       <1926年1月20日録音>
フォーレ:夢の後に(カザルス編)                                       
       <1926年1月5日録音>
ゴダール:ジョスランの子守歌                                         
       <1926年1月20日録音>
グラナドス:歌劇「ゴエスカス」間奏曲(カサド編)                              
       <1927年2月28日録音>
サン=サーンス:白鳥(組曲「動物の謝肉祭」より)                             
       <1926年1月20日録音>
ショパン:前奏曲変ニ長調Op.28‐15「雨だれ」(ジーヴェキング編)                  
       <1926年1月19日録音>
ワーグナー:優勝の歌(楽劇「ニュールンベルクのマイスタージンガー」より、ウィルヘルミ編)   
      <1926年1月19日録音>
ワーグナー:夕星の歌(歌劇「タンホイザー」より)                              
       <1926年1月4日録音>
イルマッシュ:やさしきガボット                                          
       <1926年1月4日録音>

チェロ:パブロ・カザルス

ピアノ:ニコライ・メトニコフ

発売:1979年

LP:RVC(RCA) RVC‐1563(M)

 このLPレコードは、”チェロの神様”といわれたパブロ・カザルス(1876年―1973年)が赤盤(著名演奏家に特化した録音盤)のSPレコードに遺した録音を、LPレコードに復刻したものである。この録音は1926年~1927年であり、カザルス50歳前後の油の乗り切った時代(カザルスは96歳と長命であった)にSPレコードに録音したものだけに、音質は現在の録音レベルとは比較にはならないが、しっかりとした安定感ある録音状態で、今となっては誠に貴重な録音と言える。カザルスはスペインのカタルーニャ地方に生まれた。チェロの近代的奏法を確立し、その深い精神性を感じさせる演奏において20世紀最大のチェリストと言われている。同時にカザルスは、平和活動家としても有名で、音楽を通じて世界平和のため積極的に行動したことでも知られる。 1971年10月24日の「国連の日」、カザルス94歳の時に、ニューヨーク国連本部にて演奏会が行われ(その時の録音は世界中で聴かれ当時大きな話題となった)、同時に「国連平和賞」がカザルスに授与されている。1961年には、弟子のチェリストの平井丈一朗(1937年生まれ)のために来日し、リサイタルのほか東京交響楽団、京都市交響楽団を指揮した。このLPレコードのライナーノートは、カザルスの高弟であった平井丈一朗が執筆しており、「先生(カザルス)は、真の意味での理想的な技巧の持ち主であり、千変万化の技巧は全く他の追随を許さないものである。にもかかわらず、先生の演奏を聴いていると技巧というものを感じさせない。それは、先生の技巧が常に音楽と一体になったものであり、芸術の深い内容を表現するための極めて自然な手段と化しているからだと言えよう。先生は、19世紀末までは常識となっていた旧式なテクニックを一掃し、最も新しい合理的なチェロの奏法を完成し、チェロ音楽を芸術的に比類のない最高のものにまで引き上げた」とカザルスの偉業を、感動的な文章で綴っている。このLPレコードにおけるカザルスの演奏は、実に堂々とチェロと向き合い、骨格のしっかりとした音楽を形づくっている。同時にチェロがヴァイオリンのように軽やかに鳴る様に驚くばかり。そしていつもは何気なく聴いているポピュラーな曲でも、一旦カザルスの手に掛かると奥の深い、格調の高い曲に聴こえてくるのは、実に不思議な体験ではある。なお、このLPレコード・ジャケットは、SPレコード時代の雰囲気をデザインしたもの。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇モーリス・ジャンドロンのシューベルト:アルペジオーネ・ソナタ/ドビュッシー:チェロソナタ/ ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲

2023-04-06 09:36:53 | 室内楽曲(チェロ)

シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ
ドビュッシー:チェロソナタ
ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲

チェロ:モーリス・ジャンドロン

ピアノ:ジャン・フランセ

録音:1966年11月

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PC‐1565

 モーリス・ジャンドロン(1920年―1990年)は、フランス、ニース出身の名チェリスト兼指揮者。ニース音楽院で学んだ後、パリ音楽院でパブロ・カザルスの薫陶も受けた。1940年代半ばからは、シェルヘンやメンゲルベルクらから指揮法を教わっている。第二次世界大戦後の1947年にプロコフィエフのチェロ協奏曲のヨーロッパ初演を行い、名声を高めた。モーリス・ジャンドロンは、教育にも熱心で、1954年からザールブリュッケン音楽大学のチェロ科教授となり、1970年からはパリ音楽院のチェロ科主任教授に就任している。1960年にチェリストとして来日した後、1972年に指揮者として来日し、東京都交響楽団を指揮した。その後も1980年代には草津夏季国際音楽アカデミー&フェスティヴァルでは、チェロや室内楽、オーケストラの指導にも当った。このLPレコードでのモーリス・ジャンドンのチェロの演奏は、知的で抑制力があり、実にキメ細かく、そして美しい音色を存分に披露しており、聴いていて楽しめる。特にLPレコード特有の音質感とモーリス・ジャンドロンのチェロの音色が誠にうまくマッチし、LPレコードの存在感を一層際立たせる録音になっている。アルペジオーネ・ソナタは、シューベルト27歳の1824年に作曲された曲。アルペジオーネとは、この前年に発明され、その後10年ほどですたれたチェロに似た楽器。この曲をチェロで演奏するには高度な技巧がいるが、シューベルト独特の歌い心がたっぷりと味わえるためか、現在でもよく演奏される人気の曲となっている。シューベルトがエスターハージー家の音楽教師として、ハンガリーの田舎で夏を過ごした時の作品だけに、ハンガリーの民謡音楽をの影響を受け、エキゾティックな魅力を湛えている。シューベルト特有の透明感のあるこの曲を、モーリス・ジャンドロンは、軽快に颯爽と弾きこなす。ドビュッシー:チェロソナタは、ドビュッシーの死の3年前53歳の時の作品。印象派であった頃の作風とは異なり、古典的な作風の曲。モーリス・ジャンドロンは、この曲を手堅く、たっぷりと弾き込み聴き応えがある。ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲は、ベートーヴェン30歳頃の作品で、比較的演奏効果が発揮できる曲で、モーリス・ジャンドロンは、軽快にメリハリよく弾きこなし、鮮やかである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルニエ&グルダのベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

2023-03-23 09:38:05 | 室内楽曲(チェロ)


ベートーヴェン:チェロソナタ第1番/第2番

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

LP:ポリドール(ヘリオドールレコード) MH 5037

 ベートーヴェンのチェロソナタは全部で5曲あるが、第1番と第2番が前期、第3番が中期、第4番と第5番が後期に書かれており、ベートーヴェンの生涯にわたってつくられている。このLPレコードには、初期の作品である第1番と第2番が収められている。2曲とも初期の作品らしく、若々しく、力強い印象を受ける。この2曲は、ベートーヴェン26歳(1796年)の時に作曲されたもので、モーツァルトを思わせる古典的な雰囲気と同時に、中期以降のベートーヴェンを彷彿とさせる個性も時々顔を覗かせ、興味深い作品に仕上がっている。第1番は、全体を通してピアノのパートの活躍が目立つが、これはベートーヴェン自身が、プロイセン国王のウィルヘルム2世の前でピアノを演奏することを念頭に置いて作曲したためとも言われており、若きベートーヴェンの意欲が滲み出ている作品そのものといった感が強い作品に仕上がっている。第2番は、まだハイドンやモーツァルトの影響力があるものの、その内面には中期以降花開くベートーヴェン的な前向きな意欲が感じられる。第1番も第2番も若々しさに満ちていることには変わりはないが、第2番の方が感傷性がより強く表現されている。この2曲のチェロソナタは、緩徐楽章を持っていないので、その代りに第1楽章にかなり長大なゆるやかな序奏を置いている。演奏しているのは、往年の名手であるチェロのピエール・フルニエ(1906年―1986年)とピアノのフリードリッヒ・グルダ(1930年―2000年)である。ピエール・フルニエは、フランスのチェロ奏者で、“チェロの貴公子”のニックネームを持ち、気品に溢れた演奏で世界中に多くのファンを持っていた。1923年にパリ音楽院を一等賞で卒業後、1924年、パリでコンサート・デビュー。1937年、31歳でエコール・ノルマル音楽院教授となる。1941年から1949年までパリ音楽院教授。ヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)、アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)との三重奏、さらにウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)を加えた四重奏など室内楽でも活躍した。親日家であり、日本にも多くのファンがいたことで知られる。ピアノのフリードリッヒ・グルダは、オーストリア出身の名ピアニスト。ジャズにも造詣が深いなど、型に嵌らない演奏で聴衆を魅了した。この二人が共演した、このベートーヴェンのチェロソナタの録音は、名人同士の掛け合いが融和し、見事な演奏効果を生み出している。(LPC)

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