★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フィッシャー=ディースカウのシューマン:リーダークライス(op.39/op.24)

2022-10-31 09:40:12 | 歌曲(男声)


シューマン:リーダークライスop.39(アイヘンドルフ詩)

   1.見知らぬ土地で 
   2.間奏曲 
   3.森の語らい 
   4.静けさ
   5.月夜 
   6.美しい見知らぬ土地 
   7.城の上で 
   8.見知らぬ土地で 
   9.憂い 
   10.たそがれ 
   11.森の中 
   12.春の夜

シューマン:リーダークライスop.24 (ハイネ詩)

   1.わたしが朝起きると 
   2.気もそぞろ 
   3.木陰をさまよい
   4.いとしい恋人 
   5.悲しみのゆりかごよ 
   6.待て、あらくれた船乗りよ 
   7.山と城が水に映って 
   8.初めは望みもなく 
   9.ミルテとバラの花で

バリトン:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ

ピアノ:ジェラルド・ムーア/ヘルタ・クルスト

LP:東芝音楽工業 AB・7101

 シューマンの作品39の「リーダークライス」は、詩人ヨーゼフ・フォン・アイヘンドルフ(1788年―1857年)の詩に付けたリートである。ここでのアイヘンドルフの詩は、恐れを秘めた幻想的な情感であり、これこそがシューマンの求めて止まなかったロマンの香り濃厚な世界なのである。詩と一体化した、その細やかな陰影に満ちた歌曲として、音楽史にその名を残すことになる。また、作品24の「リーダークライス」は、詩人ハインリヒ・ハイネ(1797年―1856年)の詩による。シューマンは、ハイネの詩に付けたリートの傑作「詩人の恋」を作曲しているが、この「リーダークライス」では、ハイネの「歌の本」の「若い悩み」の中の「歌(Lieder)」と名付けられたものに作曲したリート。ハイネの若い頃の詩集だけに、若者特有の青春のほろ苦い感情が溢れ出している。これらの2曲の「リーダークライス」を歌っているのが往年の名バリトン歌手のディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウである。フィッシャー=ディースカウに悩み多き若者の心情を歌わせたら右に出る者はない。そのことをつくづく実感できるのがこのLPレコードである。ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925年―2012年)は、ドイツ出身のバリトン歌手。16歳からベルリンの音楽院で正式な声楽のレッスンを受け始める。しかし1943年、第二次世界大戦の兵役に召集され、歌手としての活動は一時中断される。そして終戦後の1947年、ドイツに戻り、プロ歌手としての活動が始まる。ベルリン・ドイツ・オペラのリリックバリトン歌手として採用され、オペラ・デビューを飾った。その後はイギリス、オランダ、スイス、フランス、イタリアなど各国で演奏旅行を行った。1951年にはザルツブルク音楽祭にフルトヴェングラーとの共演でマーラーのさすらう若者の歌を歌ってデビューを果たす。そして1951年、ロンドンのEMIスタジオにおいてジェラルド・ムーア(1899年―1987年)の伴奏で初めての歌曲のレコードを録音。以後ふたりは1967年のムーアの公演引退までしばしば演奏会や録音を行い、それらには高い評価が与えられた。フィッシャー=ディースカウのレパートリーは、ハイドンやベートーヴェン、シューベルト、シューマン、それにマーラー、ヴォルフ、やR.シュトラウスに至るまで他の追随を許さない広さを誇っていた。これらの作曲家の作品一つ一つが精緻を極めたフィッシャー=ディースカウの歌唱力によって新たな生命の息吹を吹き込まれたのであった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルによるチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ラフマニノフ:24の前奏曲から6曲

2022-10-27 10:02:32 | 協奏曲(ピアノ)


チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
       6つの前奏曲(24の前奏曲から第12番,第13番,第3番,第5番,
              第6番,第8番)

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

<チャイコフスキー>

指揮:ヘルベルト・カラヤン
管弦楽:ウィーン交響楽団

<ラフマニノフ>

指揮:スタニスラフ・ヴィスロツキ
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

録音:1962年9月、ウィーン、ムジークフェラインザール<チャイコフスキー>
   1959年4月、ワルシャワ・フィリハーモニー<ラフマニノフ>

LP:ドイツグラモフォン MGX 9983~4(2枚組)

 このLPレコードの第1枚目は、1962年にウィーンで録音されたものである。スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)のピアノ、カラヤン指揮ウィーン交響楽団によるチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番であるが、リヒテルもカラヤンも当時演奏者として最も油の乗った頃のもので、実に聴き応えのある演奏内容となっている。リヒテルの力強いタッチにより、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番の輪郭が一際引き立ち、そのダイナミックなピアノ演奏は、聴くものを圧倒せずには置かない。一方、カラヤンの指揮は実につぼを押さえた一部の隙もない演奏内容で、リヒテルのピアノ演奏を引き立てる。録音時期の1962年は、リヒテルが旧ソ連以外へ演奏旅行を開始した1960年直後のことであり、当時全世界の目がリヒテルの演奏に集まっていた。一方、カラヤンは当時、ミラノ・スカラ座、ベルリン・フィルそれにウィーン国立歌劇場の音楽監督という要職にあり、飛ぶ鳥を落とす指揮者として君臨していた。全盛期の巨匠2人による最高水準のチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番を聴くことができるのが、このLPレコードの特筆すべきことであり、歴史的にも貴重な録音となっている。一方、このLPレコードの第2枚目に収められているのは、スヴャトスラフ・リヒテルのピアノ、スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団よるラフマニノフピアノ協奏曲第2番である。録音時期は、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番よりも3年ほど前の1959年4月である。この協奏曲でのリヒテルのピアノ独奏は、チャイコフスキーの曲とは大きく様変わりし、繰り返し湧き起る情念の発露が、悲しくも美しいピアノの旋律に乗り、ひしひしとリスナーの心の奥底へと響き渡るようである。それらは、決して上辺だけの表現ではなく、心の奥底から響き渡る豊かなうねりを伴っている。同時に、確固たる構成力に基づくメリハリの利いた演奏内容は、他の追随を全く許さず、リヒテルでなければ到底不可能な世界を繰り広げる。スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団も、陰影に富んだ深みのある演奏でリヒテルのピアノ演奏の効果を一層高いものへと押し上げている。このLPレコードは、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番の録音の決定盤と言っても過言なかろう。最後のラフマニノフ:6つの前奏曲の演奏も、ピアノ協奏曲第2番と同様スケールの大きい、しかも情感の籠ったものに仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇「聖母の宝石」~ 楽しいオーケストラ・コンサート

2022-10-24 09:51:49 | 管弦楽曲


~「聖母の宝石」 楽しいオーケストラ・コンサート~

ヴォルフ=フェラーリ:歌劇「聖母の宝石」間奏曲第1番
ヴェルディ:歌劇「椿姫」第1幕への前奏曲
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」から「結婚行進曲」
ケテルビー:管弦楽曲「ペルシャの市場にて」
グリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」から「ソルヴェイグの歌」
ウェーバー:歌劇「魔弾に射手」から「舞踏へのお誘い」
シベリウス:交響詩「フィンランディア」
ムソログスキー:管弦楽曲「はげ山の一夜」

指揮:パウル・ワルター/アンタール・ドラティ/ウィレム・ファン・オッテルロー

管弦楽:ウィーン交響楽団ほか

発売:1974年

LP:日本フォノグラム(フォンタナレコード) FG-209

 クラシック音楽の中心をなすのは、交響曲とか協奏曲、それにピアノやヴァイオリンなどのソナタ、さらに室内楽、声楽、オペラなどが挙げられる。これらの曲には多くの名曲があり、聴く度に堪能させられるが、軽い曲や小品について、クラシック音楽界はどうも冷たい気がする。そんな日頃の鬱憤を晴らすのに最適な一枚が今回のLPレコードである。ここに収められた曲は、誰もが一度は聴いたことのある曲ではあるが、コンサートなどでそうしょっちゅう聴くことはできない。一昔前のラジオ放送は、これらの珠玉の小品をしょっちゅう流していたが、最近のFM放送からはあまり聴くことがない。つまり愛すべき小品の愛好家が、日頃のうっ憤を晴らし、満足できるのがこのLPレコードなのである。小品愛好家の一人として言わせて貰うと、今の状況は「何とも寂しい限り」ということになる。各曲の概要は次の通り。ヴォルフ=フェラーリ:歌劇「聖母の宝石」は、ナポリを舞台に若者の悲恋を描いた悲劇で、この間奏曲第1番は特に有名。ヴェルディ:歌劇「椿姫」は、デュマ・フィス(小デュマ)の同名の小説をもとにした悲劇。この前奏曲は、ヒロインの悲しい宿命を暗示するかのような感傷的な美しい旋律をもった音楽。マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、シシリーを舞台に愛欲のもつれを描いた悲劇。この間奏曲は、静かな中にも劇的な緊張感を持った美しい曲。メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」は、シェークスピの5幕からなる喜劇「真夏の夜の夢」の付随音楽。この「結婚行進曲」は、必ず結婚式で聴かれるといっていいほど有名な音楽。ケテルビー:管弦楽曲「ペルシャの市場にて」は、ペルシャ(現在のイラン)の首都テヘランの旧市街の市場を描写したもので、エキゾティックな雰囲気が印象的。グリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」は、同国の文豪イプセンの依頼で戯曲「ペール・ギュント」に23曲からなる曲を作曲したもの。「ソルヴェイグの歌」は、ペール・ギュントを待ち続ける純真な女性ソルヴェイグの愛の歌。ウェーバー:歌劇「魔弾に射手」は、ドイツ・ロマン派の始祖と位置づけられる名作。この「舞踏へのお誘い」はもともとピアノ曲であった。シベリウス:交響詩「フィンランディア」は、フィンランドの国民讃歌として今でも圧倒的な人気を誇る名曲。ムソログスキー:管弦楽曲「はげ山の一夜」は、最初はオペラの一場面として予定されていたが、最終的には管弦楽曲としてまとめられたムソルグスキーの代表的作品。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ベイヌム指揮コンセルトヘボウのブルックナー:交響曲第5番(ライヴ録音盤)/シューベルト:交響曲第6番

2022-10-20 09:39:15 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第5番(原典版)
シューベルト:交響曲第6番

指揮:エドゥアルト・ファン・ベイヌム

管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

録音:1959年3月12日(ブルックナー)/1957年5月22日、25日(シューベルト)

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) 13PC-176~77(M) (6542 126/127)

 このLPレコードは、オランダの名指揮者エドゥアルト・ファン・ベイヌム(1901年―1959年)が指揮したブルックナー:交響曲第5番のライヴ演奏に、スタジオ録音のシューベルト:交響曲第6番をカップリングしたものである。ライヴ録音の方は、1959年と今から50年ほど前のものであり、当時はまだライヴ録音は珍しく、音質も良くないのが普通であったが、このLPレコードは、少々我慢して聴けば、鑑賞には差し障りない程度の仕上がりとなっているのが嬉しい。ベイヌムの歯切れ良く、しかも奥深い表現力を持った指揮ぶりに、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団がピタリと寄り添い、一体化した類稀な名演を聴くことができる。ブルックナーの交響曲第5番について、このLPレコードのライナーノートで宇野功芳氏は「作曲者自身、この交響曲を“対位法的”と名づけたが、他にも“カトリック的”“中世風”“コラール風”“信仰告白”などの呼び名がある。敬虔で厳格な多声様式がカトリックの雰囲気を伝えるからであろうし、事実フィナーレには壮麗なコラールが対位法と密接に絡み合ってゆく」と紹介している。このLPレコードは、そんな中期を飾る大傑作であるブルックナーの交響曲第5番を、ベイヌム指揮コンセルトヘボウという歴史的名コンビのライヴ録音で聴くことがでける、またとない機会を我々リスナーに与えてくれる貴重な録音だ。一方、シューベルト:交響曲第6番は、1871年10月に書き始められ、翌年の1872年12月に完成したが、シューベルトが生きているときには演奏されることはなかったようだ。初演はシューベルトの死後1か月後の1828年12月に、ウィーン楽友協会主催の音楽会で行われた。シューベルトの初期の交響曲はというと、16歳から21歳にかけての作品に当たるが、これらの中では、第5番が飛び抜けてポピュラーであり、続いて第2番、第3番、第4番が、ときたま取り上げられ、第1番と第6番は、あまり演奏される機会はないといっていいだろう。このLPレコードでのベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏は、適度な緊張感を保ち、きびきびとした演奏内容が特に印象に残る。エドゥアルト・ファン・ベイヌムは、オランダ出身の名指揮者。第二次世界大戦後の1945年、コンセルトヘボウ管弦楽団の音楽監督兼終身指揮者に就任した。このほかロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、ロサンジェルス・フィルハーモニック音楽監督を歴任している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ケンプのシューベルト:4つの即興曲op.90/4つの即興曲op.142

2022-10-17 09:35:58 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:4つの即興曲op.90
       4つの即興曲op.142

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

録音:1965年9月1日~3日、ハノーヴァー、ベートーヴェン・ザール

LP:ポリドール(独グラモフォン) MG‐2122

 シューベルトの合計8つの即興曲は、類なき簡潔性と完成度の高さ、それに美しいメロディーとが相俟って、現在に至るまであらゆるピアノ曲でも最も人気の高い作品の一つとなっている。シューベルトの即興曲は、自筆の楽譜が存在しておらず、およそ1927年から1928年9月ごろまでに書き上げられたと考えられている。作曲の動機やいきさつについては一切明らかになっていない。しかし、それらはすべてシューベルトの偉大な天分による作品であることだけは明らかなことで、それだけに、現在に至るまで数多くの録音が残されており、これからもこの傾向は変わらないであろう。そんな中、あらゆる録音のお手本とも言えるのが、このケンプが残したLPレコードである。ここでケンプは、あたかもシューベルトの即興曲の原点に立ち返るように、何の作意もなく、さらりと弾いている。しかし、よく聴いてみると、その裏には、ケンプがシューベルトの本質に迫まろうとする、類稀な集中力が存在し、同時にあらゆる既成概念を払拭し演奏していることが、このLPレコードから聴いて取ることができる。これは正に名人芸であり、至高の高さまで到達した究極の演奏とも言えるもの。ウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)は、ドイツ出身のピアニスト、オルガニストであり、バッハ、ベートーヴェンそれにブラームスなど、ドイツ古典派、ロマン派を得意としていた。ベルリン音楽大学で作曲とピアノを学ぶ。1917年ピアノ組曲の作曲により「メンデルスゾーン賞」を受賞。つまり、ケンプは1930年代まではピアニストではなく、一般には作曲家と認識されていたのだ。1918年にアルトゥル・ニキシュ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番で協演した。一方、1924年からシュトゥットガルト音楽大学の学長を務めるなど後進の育成にも力を入れた。そして、1932年にはベルリンのプロイセン芸術協会の正会員となり、ドイツ楽壇の中心的役割を担うようになった。1933年には、十字勲章を授与されている。第二次世界大戦後は、ピアニストとして活躍。1950年代にはベートーヴェンのピアノソナタ全集をリリース。ケンプは親日家で、1936年の初来日以来、合計10回も来日した。1961年日本においてベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会を開催。さらに1970年ベートーヴェン生誕200周年記念で来日し、ピアノソナタおよびピアノ協奏曲の全曲演奏会を開催した。ケンプは、当時の日本人が最も敬愛していたピアニストの一人であった。(LPC)

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