★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

2024-08-15 09:40:50 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番        
         ピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

ヴァイオリン:ズザンネ・ラウテンバッハー

ピアノ:マルティーン・ガリング

指揮:C.A.ビュンテ

管弦楽:ベルリン交響楽団

発売:1970年7月

LP:日本コロムビア MS‐1087‐VX

 こののLPレコードは、18世紀末に南イタリア出身の名ヴァイオリニストとして名を馳せたジョヴァンニ・バティスタ・ヴィオッティ(1758年―1824年)が作曲したヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンとオーケストラによる二重協奏曲である。昔は、ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番は、ラジオ放送されるケースがちょくちょくあり、ちょっとした有名な曲であった。ヴィオッティは、優れたヴァイオリニストとしてのほか有能な教育者でもあり、彼の門下生からは数多くの優秀なヴァイオリニストが育った。ベートーヴェンのソナタに名を遺すクロイツェルも彼の門下生だったという。それらの優れた門下生達によって“フランコ・ベルギー楽派”の基礎が築かれて行った。ヴィオッティ自身の演奏はというと、甘い、メランコリックなカンタービレで当時の人々を魅了したようである。1782年にパリでデビューを行った後、10年ほど同地に留まり、マリー・アントワネットに認められて、宮廷音楽家としての契約を結んだこともあるが、最期はロンドンで一生を終えている。作曲家としてのヴィオッティは、ヴァイオリン協奏曲を29曲、弦楽四重奏曲を21曲、三重奏曲を21曲、ヴァイオリンソナタを18曲作曲するなど、かなり膨大な数の作品をを作曲した。ベートーヴェンもヴィオッティのヴァイオリン協奏曲を熟知して影響も受けており、ブラームス自身も、このヴァイオリン協奏曲第22番を大変好んでいたようだ。このLPレコードで演奏しているヴァイオリンのラウテンバッハー(1932年生まれ)は、ドイツ出身で、ケルン合奏団のメンバー以外にソリストとしても活躍した人。また、ピアノのガリング(1935年生まれ)は、ドイツ出身で、ハープシコードの演奏家でもあり、当時のヨーロッパでは広く名を知られたピアニスト。このヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番は、甘く、美しいメロディーが全楽章に散りばめられたヴァイオリン協奏曲の佳品であるが、このLPレコードでのラウテンバッハーのヴァイオリン演奏は、古き良き時代のロマンの香りがたっぷりと閉じ込められ、この曲を鑑賞するのにはぴたりと合った演奏スタイルで、リスナーが十二分に満足できる仕上がりを見せている。一方、二重協奏曲の方は、あたかも若い時代のモーツァルトのピアノ協奏曲を彷彿とさせるような優雅さが漂う曲で、ガリングの宝石のような美しいピアノ演奏に思わず聴き惚れてしまう。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アルテュール・グリュミオーのショーソン:詩曲/サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ、 ハバネラ/ ラヴェル:ツィガーヌ        

2024-07-18 09:37:46 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ショーソン:詩曲
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
        ハバネラ
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

指揮:マニュエル・ロザンタール

管弦楽:コンセール・ラムルー管弦楽団

録音:1966年3月(ショーソン/ラヴェル)、1963年4月(サン=サーンス)、フランス、パリ

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐242

 このLPレコードは、フランコ・ベルギー楽派の泰斗アルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が、ショーソン、サン=サーンス、ラヴェルのヴァイオリンとオーケストラのための名曲を収録した一枚。グリュミオーは、ベルギーに生まれ、ブリュッセル王立音楽院で学ぶ。その後、パリに留学してジョルジュ・エネスコに入門。デュボアとエネスコに学んだグリュミオーは、正統的フランコ・ベルギー派のスタイルを後世に遺したことで知られる。第二次世界大戦中は、ナチス・ドイツ占領下のベルギーにおいて独奏会や室内楽の演奏旅行を行った。第二次世界大戦後は、ピアニストのクララ・ハスキルをパートナーとした演奏活動などを展開し、”黄金のデュオ”と評され数々の名盤を遺した。そして、ソリストとして世界的な名声を得ることになる。グリュミオーは音楽界への貢献が認められ、1973年に国王ボードゥアン1世により男爵に叙爵された。1961年には来日も果たしている。グリュミオーは、録音を数多く遺しているが、それらが全て気品のある艶やかな美音で貫かれており、ヴァイオリンの持つ特性を最大限に表現しきった名人芸は、現在でも、多くのファンを魅了して止まない。特にモーツァルトの演奏には定評があったが、ドイツ・オーストリア系の作曲家の演奏においてもその力量は、遺憾なく発揮された。だが、やはりその特徴を最大限に表現したのは、このLPレコードに収容されたショーソン、サン=サーンス、ラヴェルなどのフランス系の作曲家の作品であろう。その意味からこのLPレコードは、グリュミオーの真価を知るには最適な一枚ということができる。歌うところは存分に歌い、しかも、その余韻を含んだ表現力は、ヴァイオリンの持つ特性を余すところなく発揮させている。ここでの音楽は、外部との戦いでもなく、心の葛藤でもない。あくまで何よりも詩的な情緒を大切にし、微妙で自由な振る舞いの音楽の中に身を預け、そして陶酔の一時を過ごす・・・。グリュミオーのヴァイオリン演奏は、そんな夢ごこちの心境に、リスナーを知らず知らずに導き入れてくれるかのようだ。マニュエル・ロザンタール指揮コンセール・ラムルー管弦楽団の伴奏は、グリュミオーのあくまでも詩的で優雅な演奏を、一層引き立て、その効果を倍増させることに見事に成功している。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシックLP◇シュナイダーハンのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番

2024-07-11 09:37:20 | 協奏曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番「トルコ風」

ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン

指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(第4番)
    北ドイツ放送交響楽団(第5番)

LP:ポリドール KI 7306

 このLPレコードは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番と第5番を、ウィーンの名ヴァイオリニストであったヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)が演奏した録音である。モーツァルトは、ヴァイオリン協奏曲の作曲を若い時に集中し、以後、死に至るまでヴァイオリン協奏曲は作曲せず、ピアノ協奏曲を作曲することになる。ピアノ協奏曲の質の高さと量の多さを考えると、後年になってからもヴァイオリン協奏曲にも執着して欲しかったようにも思えてくる。ヴァイオリン協奏曲第1番~第5番は、ザルツブルクで作曲されたので一般に“ザルツブルク協奏曲”と言われている。第4番は、ハイドンの弟であるミハエル・ハイドンの影響を受けた曲と言われ、内容に深みがある曲というより、気楽に楽しく聴くのに相応しい曲となっている。そのためか専門家の評価は芳しいものではないが、そう肩肘張って聴かなくていいじゃないの、という考え方もあろう。何かむしゃくしゃした気持ちの時に、この第4番を聴くと気分がすかっとするから不思議だ。だから、一般に名曲と評価されている第5番に劣らず、私にとっては大好きな曲となのだ。シュナイダーハンは、そのことをよく理解しているかようにように、優雅にさらっと演奏する。普通だとそのような演奏は一度聴くと飽きるが、シュナイダーハンの場合は、一味違う。何か宮殿の中で舞踏が行われているかのような雰囲気を醸し出しており、さらに、いつもなら無骨な指揮ぶりが特徴のハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900年―1973年)も、この時ばかりは、オシャレな指揮に終止しているのは、なんとなく微笑ましい。第5番は、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲の中でも傑作とされる曲。シュナイダーハンもイッセルシュテットも、第4番の優雅さとは打って変わり、ピリッとした感覚で弾き進む。ただこの第5番も、フランス風の洒落た趣が濃厚な曲想は、第4番とあまり変わることはないが、より一層モーツァルトらしさが込められた曲ということが出来よう。第3楽章にトルコ行進曲風のリズムが出てくるため、「トルコ風」と呼ばれる。シュナイダーハンは、ウィーンで生まれ、ウィーンでヴァイオリンを学んだ生粋のウィーン子の名ヴァイオリニスト。1937年からウィーン・フィルのコンサートマスターを務め、1949年以降、ソリストとして活躍した。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのシベリウス:ヴァイオリン協奏曲/ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番

2024-04-15 09:50:23 | 協奏曲(ヴァイオリン)

 

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィアデルフィア管弦楽団

LP:CBS・ソニーレコード SOCL 48

 シベリウスのヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47は、1903年に作曲されたが、1905年に改訂され、これが現行版となっている。この曲は、難技巧を随所に取り入れており、演奏は容易ではない。一方、ブルッフのヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26は、ブルッフの代表作。この2曲のヴァイオリン協奏曲を弾いているのが名ヴァイオリニストのアイザック・スターン(1920年―2001年)。アイザック・スターンの名を見つけると、私は必ず映画「ミュージック・オブ・ハート」を思い出す。メリル・ストリープ演じる女性の音楽教師が、スラム街の学校に通う子供達に悪戦苦闘しながらヴァイオリンを教え込み、最後には地域の支持を獲得することに成功、お別れの発表会をカーネギー・ホールで行うという実話に基づいたストーリーである。このカーネギー・ホールのシーンでアイザック・スターン自身が登場し、子供達と一緒に演奏をするのである。暖かい人柄が滲み出て、何回見ても飽きない。そのアイザック・スターンがシベリウスとブルッフのヴァイオリン協奏曲を弾いたのがこのLPレコードである。両曲の演奏とも、ヴァイオリンの音色が限りなく豊かなことに驚かされる。決して気負うことなく、大きな広がりの中でヴァイオリンが伸び伸びと動き回り、訴えるように演奏する。演奏内容自体に深みがあり、リスナーはその中に身も心も吸い込まれそうに感じる。包容力のある演奏とでも言ったらよいのであろうか。現在、アイザック・スターンのようにスケールの大きく、同時にロマンの心を持ったヴァイオリニストはいるだろうか。いや、いまい。これはアイザック・スターンだけが成し得た至芸といっても過言でなかろう。ユージン・オーマンディ指揮フィアデルフィア管弦楽団の伴奏もスケールが大きく申し分ない。ヴァイオリンのアイザック・スターンは、ウクライナ出身。その後米国へ移住。1936年モントゥー指揮のサンフランシスコ交響楽団と共演して、デビュー。第二次大戦後、度々日本を訪れ、小澤征爾など日本の演奏家とも親交を持つ。新進演奏家の擁護者としても知られ、イツァーク・パールマン、ピンカス・ズーカーマン、シュロモ・ミンツなどと共演を重ねた。1960年には、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際、救済活動に立ち上がった。1996年第1回「宮崎国際音楽祭」では、初代音楽監督に就任。これらの貢献により日本国政府より勲三等旭日中綬章が授与された。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇グリュミオーのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番/第7番

2024-03-18 09:36:35 | 協奏曲(ヴァイオリン)

 

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番/第7番

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

指揮:ベルンハルト・パウムガルトナー

管弦楽:ウィーン交響楽団

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード)  13PC‐249(A 00313L)

 このLPレコードは、名ヴァイオリニストであったアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が、モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲の第1番と第7番を録音したもの。モーツァルトは、1775年4月から12月にかけて故郷ザルツブルクでヴァイオリン協奏曲を5曲まとめて作曲した。いわゆる“ザルツブルク協奏曲”と呼ばれる第1番から第5番までのヴァイオリン協奏曲である。この時、モーツァルト19歳であり、“ザルツブルク協奏曲”は、モーツァルトがまだ若い頃の作品となる。これらのヴァイオリン協奏曲の中では、第3番から第5番がしばしば演奏される。特に、第5番が最も演奏される回数が多いようである。このLPレコードにおいては、第1番と第7番とが取り上げられている。第1番はともあれ、問題は第7番である。この第7番は、第6番と同様に、昔から偽作ではなかという疑惑が掛けられている作品である。このうち、第7番については、モーツァルトの自筆原稿が失われているものの、自筆原稿からの写しといわれるものが、パリの私的コレクションとして保存され、ベルリンの図書館に現存するという。そこには、「モーツァルトのヴァイオリン協奏曲、ザルツブルク、1777年7月16日」と書かれているために、モーツァルトの作品に違いないとされる根拠とされている。このように、昔から第7番の真贋論争が盛んに行われてきたが、現在では、モーツァルトの作ではないとする見方がある一方で、他人による加筆がある作品ともされ、結果として、新モーツァルト全集においては偽作扱いされている。しかし、録音当時、グリュミオーは、第6番は偽作としたが、第7番については、モーツァルトの作品という結論に至ったため、この曲の録音に踏み切ったという。このLPレコードにおいて、第1番について、アルテュール・グリュミオーは、敢えてこの協奏曲に深遠さを吹き込むように配慮した演奏をしているように感じられる。若書きとも思える曲想だが、活気のある協奏曲という印象をリスナーに植え付けると同時に、来るべき名曲の森への道しるべのような作品といった位置づけをグリュミオーはしているようにも聴こえる。一方、第7番は、グリュミオーの大きく振幅するヴァイオリンの弓使いに、リスナーは釘づけとなる。あたかも名優が最高の演技を披露しているようにも聴こえるのだ。第7番の真贋論争などは、グリュミオーのこの名演の前では無力となる。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする