★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アリシア・デ・ラローチャのグラナドス:スペイン舞曲集全曲

2023-06-29 10:40:32 | 器楽曲(ピアノ)



グラナドス:スペイン舞曲集全曲
         
         第1番
         第2番「オリエンタル」
         第3番
         第4番「ビリャネスカ」
         第5番「アンダルーサ」
         第6番「アラゴネーサ」
         第7番「バレンシアーナ」
         第8番
         第9番
         第10番
         第11番
         第12番

ピアノ:アリシア・デ・ラローチャ

発売:1981年

LP:ビクター音楽産業 VIC‐5263

 エンリケ・グラナドス(1867年―1916年)はスペインを代表する作曲家である。20歳代の中頃、このスペイン舞曲集を作曲した。代表作であるオペラ「ゴイェスカス」の初演に立ち会うため、1916年にニューヨークに行ったが、その帰りに乗った英国船がドイツ海軍の潜水艦による魚雷攻撃を受け、帰らぬ人となってしまった。49歳という作曲家として正に脂の乗り切った時に命を落としたことは誠に残念なことではあった。グラナドスは“スペインのショパン”とか“スペインのシューベルト”などと言われることがあるが、出世作となったこのスペイン舞曲集を聴くと、微妙なリズム感と陰影のあるメロディーとが交差して、誰も真似できない独特の世界を創造していることが聴いて取れる。第1曲 ミュート(メヌエット)、第2曲 オリエンタル(4分の3拍子で書かれた作品)、第3曲 サラバンダ(サラバンド:3拍子による荘重な舞曲)、第4曲 ビリャネスカ(田園的気分の鄙唄)、第5曲 アンダルーサ(アンダルシア舞曲)第6曲 ホタ(スペイン北部の民俗舞踊および民謡)、第7曲 バレンシアーナ(またはカレセーラ:粋な優雅さが溢れた曲)、第8曲 アストゥリアーナ(アストゥリアス舞曲:4分の3拍子のコーダの付いた3部形式)、第9曲 マスルカ(マズルカ)、第10曲 ダンサ・トリステ(悲しい舞曲)、第11曲 サンブラ(イスラム文化の名残りを濃く引き継ぐ舞曲)、第12曲 アラベスカ(アラビア風舞曲)。ここで演奏しているのがスペインの宝とでも言うべき名ピアニストであったアリシア・デ・ラローチャ(1923年―2009年)である。バルセロナに生まれ、グラナドスの愛弟子であったフランク・マーシャルに師事し、5歳で初舞台を踏んでいる。アルベニスやグラナドス、ファリャ、モンポウといった、19世紀から20世紀のスペインのピアノ曲の専門家として有名であったが、モーツァルトとかシューベルト、シューマンなどを弾かせても、当時彼女の右に出るものはいなかった。独特のリズム感に貫かれた冴えたそのタッチは、今聴いても誰も達し得なかった高みに達していたことを窺わせる。そのアリシア・デ・ラローチャが母国スペインを代表する作曲家グラナドスのスペイン舞曲集を弾いたこのLPレコードは、記念碑的録音であり、永久保存盤とでも言っもいいものだ。ここでもラローチャは、冴えたタッチと独特のリズム感でグラナドスの世界をものの見事に描き切っている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのラロ:スペイン交響曲/ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

2023-06-26 09:41:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ラロ:スペイン交響曲
ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

LP:CBS/SONY 18AC 768

 アイザック・スターン(1920年―2001年)は、ウクライナに生まれ。生後間もなくアメリカに渡る。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番をモントゥ指揮のサンフランシスコ交響楽団と共演して、デビューを果たす。初演後、演奏されることのなかったバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番を初演者の依頼によって再演奏し、その存在を世界に知らしめた。また、新進演奏家の擁護者でもあり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンはスターンの秘蔵っ子たちだ。アイザック・スターンは、日本とも縁が深い。宮崎国際音楽祭では、初代音楽監督を務め、2002年には宮崎県より県民栄誉賞を贈られる。宮崎国際音楽祭での功労を称えて、宮崎県立芸術劇場コンサートホールは、宮崎県立芸術劇場アイザックスターンホールと改称された。2000年には80歳で来日し、日本で来日記念アルバムも発売された。 さらに日本国から「勲三等旭日中綬章」を授与されている。私にとってアイザック・スターンを印象強いものにしているのが、映画「ミュージック・オブ・ハート」である。この映画は、実話を基にしており、主人公(メリル・ストリープ)が荒れた小学校の臨時教師となり、音楽による子供たちとの交流によりお互いに成長していく姿を描いた作品。この映画の最後のカーネギーホールの場面でアイザック・スターンが登場し、主役のメリル・ストリープと会話を交わし、合奏の一員としてヴァイオリンを弾く。その醸し出す雰囲気は如何にも好々爺ふうで親しみやすい。1960年に、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際には、救済活動に立ち上がった。そのため現在、カーネギー・ホールのメイン・オーディトリアムはスターンの名がつけられている。このLPレコードは、その巨匠アイザック・スターンが、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団とラロ:スペイン交響曲、それにヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番を演奏した貴重な録音。ヴァイオリンの音色は輝かしく、活き活きとしていて、しかも力強く、骨太で男性的だ。そして、アイザック・スターンのヴァイオリンは、歌うときは思いっきり歌う。この2曲はいずれも、そんなアイザック・スターンのヴァイオリン演奏の優れた点を思いっきり発揮できる作品だ。今聴いても、この2曲の決定盤と言ってもいいほど、完成度の高い録音になっている。録音状態も頗るよい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フランスの名ピアニスト ペルルミュテールの“ショパン名曲集”

2023-06-22 09:40:00 | 器楽曲(ピアノ)


ショパン:幻想曲
     タランテラ
     スケルッツォ第2番
     舟唱
     子守唄
     エチュード第12番「革命」
     バラード第2番

ピアノ:ヴラド・ペルルミュテール

録音:1960年9月、ジュネーヴ

発売:1981年

LP:日本コロムビア OW‐7875‐PK

 ヴラド・ペルルミュテール(1904年―2002年)は、ラヴェルに直接指導を受けたこともあるというフランスの名ピアニストであった。ロシア帝国(現リトニア)に生まれ。10歳でフランスに渡り、15歳でパリ音楽院に入った。21歳の時フランス国籍を取得している。ペルルミュテールは、ラヴェルから直接教えを受けたことにより当時“ラヴェル弾き”とよく言われていた。2度にわたり、ラヴェルの全ピアノ曲をレコーディングもしている。ラヴェルのほかショパンさらにはフォーレやドビュッシーなども得意とした。1950年にはローザンヌ音楽院、1951年にはパリ音楽院の教授に就任するなど、当時フランス楽壇の重鎮として大いに活躍していた。1966年には初来日している。このLPレコードは、ペルルミュテールがショパンの名曲を録音したものであり、発売当時、フランスで1962年度の「ACCディスク大賞」に輝いた名盤。「幻想曲」は、ショパン自身が名付けた作品。創作力の頂点に達していた頃の曲だけに「ショパンの最高傑作」と評価する向きもあり、魅惑的な楽想と深い情感を湛えた傑作。「タランテラ」は、早い調子のナポリの民族舞踊で、ショパンはこの1曲だけ作曲した。「スケルッツォ第2番」は、1837年に作曲された。4曲あるスケルッツォの中でも最もよく弾かれる。「舟唱」は、ヴェネツィアのゴンドラの船頭が歌う歌に由来するが、特定の形式によるものではない。「子守唄」は、1843年から44年にかけてつくられた曲で、しみじみと心に訴えかけてくる名作。「エチュード第12番『革命』」は、作品10の最後を飾る曲で、激烈な力強い作品で知られる。「バラード第2番」は、4曲あるバラードの1曲。1836年から39年にかけてつくられた作品で、シューマンに献呈された。内容は、ミツキエヴィッチの詩「ヴィリス湖」を題材にしたと考えられており、ロシアの流民から逃れるために、水底に沈んで水草に化身した若い娘の物語。これらのショパンの名曲を弾くペルルミュテールは、“鍵盤の詩人”とも評されていた通り、今聴いてみても「こんなにもショパンを美しく演奏できるピアニストは後にも先にもペルルミュテールのほかいない」と思えるほどで、ピアノタッチが宝石の如く美しく、詩的でロマンの香りが馥郁と漂う名演奏の内容となっている。これは一見(一聴)すると情緒的演奏なのではあるが、聴き終わった後の感じは、スケールの大きい構成力のはっきりした、歯切れの良い演奏に聴こえてくるから不思議ではある。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジョン・バルビローリのチャイコフスキー:弦楽セレナーデ/マルコム・サージェントのドヴォルザーク:弦楽セレナーデ

2023-06-19 11:22:03 | 管弦楽曲


チャイコフスキー:弦楽セレナーデ

  指揮:ジョン・バルビローリ

  管弦楽:ロンドン交響楽団

ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ

  指揮:マルコム・サージェント

  管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30198

 この2つのセレナードは、よく1枚のLPレコードにカップリングされることが多い。ちょうど2曲ともLPレコードの片面にピタリと収まるし、互いの相性もいい。チャイコフスキー:弦楽セレナーデは、1880年(40歳)から翌年にかけて作曲された。チャイコフスキーの創作意欲が次第に燃え始めてきた第2期(1878年~85年)の作品だ。初演は成功だったようで、毒舌家で知られるニコライ・ルービンシュタインも、このセレナーデを高く評価したという。曲は、全部で4つの楽章からなっており、ロシア音楽独特の郷土色に溢れた演奏が行われることが少なくない。一方、ドヴォルザークは、生涯で2曲のセレナーデを作曲した。一つは、このLPレコードに収録されている弦楽合奏のためのセレナード(弦楽セレナード)作品22、もう一つは、木管楽器とチェロ、ダブルベースのためのセレナード(管楽セレナード)作品44である。ドヴォルザークの弦楽セレナーデもチャイコフスキーと同様民俗色を濃厚含んだ演奏、つまりボヘミアの郷土色いっぱいの演奏に接するケースが多い。このように、この2曲には常に民族色の衣がついて回る。ところが、このLPレコードでのジョン・バルビローリ指揮ロンドン交響楽団、マルコム・サージェント指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏ともに、都会的に洗練された演奏内容を披露している。ロンドン生まれのジョン・バルビローリ(1899年―1970年)は、チェリストとして音楽活動を開始。1936年ニューヨーク・フィルの首席指揮者に30歳の若さで抜擢され、以後ハレ管弦楽団、ヒューストン交響楽団の音楽監督を務めた。指揮内容は、如何にもイギリス出身の指揮者らしく温厚で堅実であり、都会的で洗練された持ち味で人気があった。一方、マルコム・サージェント(1895年―1967年)もイギリス出身の指揮者。オルガニストからスタートし、1928年からロイヤル・コーラル・ソサエティの合唱指揮者に就任し、死ぬまでその職にあった。リヴァプール・フィル(現ロイヤル・リヴァプール・フィル)やBBC交響楽団の常任指揮者としても活躍した。指揮ぶりもバルビローリと同様、温厚で堅実、都会的な洗練さが持ち味。このように、このLPレコードは民族色を強く求めるリスナーにとっては少々物足りない感じがしないでもないが、その分伸びやかで、しかも都会的に洗練された味が、他の録音にない魅力となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スーク・トリオのベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番/ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番

2023-06-15 09:42:33 | 室内楽曲


ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番
ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番

ピアノ三重奏:スーク・トリオ

        ヴァイオリン:ヨセフ・スーク
        チェロ:ヨセフ・フッフロ
        ピアノ:ヤン・パネンカ

発売:1987年6月

LP:日本コロムビア(スープラフォン) OC‐7182‐S

 このLPレコードは、往年の名トリオのスーク・トリオ(ヨセフ・スーク:ヴァイオリン/ヨセフ・フッフロ:チェロ/ヤン・パネンカ:ピアノ)の名演を偲ぶ一枚である。録音状態も良く、若きベートーヴェンの意欲作と円熟期に入ったブラームスの作品の2曲のピアノ三重奏曲を聴くのには、これ以上の演奏条件で聴くことはなかなか難しい。この2つの曲は、名作が多いベートーヴェンとブラームスの作品群の中では、そう目立つ存在ではないが、ともに内容が充実した作品であり、聴き応えは十分である。チェコ出身のヨセフ・スーク(1929年―2011年)は、亡くなるまで、その美しいヴァイオリンの音色で聴衆を魅了してきたボヘミア・ヴァイオリン楽派を代表するヴァイオリニスト。チェロのヨセフ・フッフロ(1931年生まれ)は、1959年のカザルス国際チェロ・コンクールの優勝者であり、抜群の安定感のある演奏には定評がある。ヤン・パネンカ(1922年―1999年)は、チェコ出身のピアニストで、溌剌とした演奏振りはスーク・トリオに躍動感を与え、このLPレコードでの活き活きとした演奏が特に印象的。ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第3番は、作品1の3曲のピアノ三重奏曲の3番目に書かれた作品。ハイドンが列席してリヒノフスキー公の前でこれらの3曲が演奏され、ハイドンはベートーヴェンの素質を高く評価したと言われるが、ハイドンはこの第3番だけは、評価しなかったという。これは当時あまりに革新的な曲でハイドンには馴染めなかったためと言われている。ベートーヴェン自身は3曲のうちでは一番の自信作であった曲。ハイドンやモーツァルトなどの先輩たち影響を受けているものの、既に後のベートーヴェンの作風を想わせるものを多く持つ作品である。一方、ブラームスは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロという編成の三重奏曲を4曲残している。そのうちの3曲は作品番号のついた曲(第1番op.8、第2番op.87、第3番op.101)で、あと1曲は、1924年に発見されたイ長調の曲である。ピアノ三重奏曲第3番は、ブラームス53歳の時の作品で、スイスの雄大な風景に囲まれたトウンの町で書いた。ブラームス特有の晦渋さに覆われているものの、円熟の境地にあった作品だけに、雄大で内容の濃い作品に仕上がっている。スーク・トリオは、この2曲のピアノ三重奏曲を、一本筋の入った強靭さに加え、優雅な美しさも加味した名演を披露している。(LPC)

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