★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ピエール・フルニエのドヴォルザーク:チェロ協奏曲

2023-06-12 09:37:18 | 協奏曲(チェロ)


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲

チェロ:ピエール・フルニエ

指揮:ジョージ・セル

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1962年6月1日~3日、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン 2544 057)SE 7810

 ドヴォルザークのチェロ協奏曲は、交響曲「新世界」、弦楽四重奏曲「アメリカ」と並びアメリカに滞在中に作曲された曲だ。1892年、51歳の時、ドヴォルザークがアメリカのニューヨークに新たに設立された国民音楽学校の校長として招かれた時である。ふるさとのボヘミアの自然を思い出しながら作曲したと言われているだけに、曲全体が豊かな自然の中から生まれでたような安らぎを覚える。特に旋律が限りなく美しく、それらを聴いているだけでうっとりとしてしまうほど。それも、ただ美しい旋律と言うだけでなく、アメリカでの生活の孤独感がそこはかとなく滲み出ており、その上に故郷のボヘミアへの郷愁が加わり、聴くものの心に、ひしひしと伝わってくる。よく考えてみると、同じことは交響曲「新世界」、弦楽四重奏曲「アメリカ」にも言えることであり、いずれも名曲として現在でも聴衆から絶大な人気を得ていることは、ドヴォルザークの作曲家としての力量が並外れたものであったことが裏付けられる。ブラームスは、このドヴォルザーク:チェロ協奏曲を聴いた感想として「こんなすばらしいチェロ協奏曲が書けるのなら、私も、とっくに書いているであろう」と語ったという。このLPレコードでチェロを弾いているのがフランスの“チェロの貴公子”の愛称で知られたピエール・フルニエ(1906年―1986年)である。ピエール・フルニエは、フランス、パリ出身。1923年パリ音楽院を一等賞で卒業した翌年、パリでデビューを果たす。独奏者として優れていただけでなく、世界的な名手たちとの室内楽を多く手がけた。1942年にヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)、アルトゥール・シュナーベル(ピアノ)との三重奏、さらにウィリアム・プリムローズ(ヴィオラ)を加えた四重奏で活動。また、1945年、カザルス三重奏団からパブロ・カザルスが抜けた後、ジャック・ティボー(ヴァイオリン)、アルフレッド・コルトー(ピアノ)とトリオを組む。1954年初来日し、ピアノのヴィルヘルム・ケンプとジョイントリサイタルは、当時の多くのファンを湧かせた。ピエール・フルニエは、このLPレコードでも実に気品のある演奏を聴かせており、あたかもドヴォルザークが、故郷のボヘミアを偲んで弾いているかのようなしみじみとした感覚がよく出ている演奏内容。ジョージ・セル指揮ベルリン・フィルの演奏は、伴奏というより独立した管弦楽曲を聴くように堂々としているが、同時にピエール・フルニエの演奏も充分に引き立てている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチ&カラヤン指揮ベルリン・フィルのドヴォルザーク:チェロ協奏曲/チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲

2022-11-17 09:41:35 | 協奏曲(チェロ)


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年9月21、23、24日、ベルリン、イエス・キリスト教会

 ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)は、旧ソ連のアゼルバイジャン共和国の出身で、カザルスと並び20世紀を代表するチェリストとして名高い。モスクワ音楽院で学び、全ソビエト音楽コンクール金賞、バッハの無伴奏チェロ組曲の演奏でスターリン賞を受賞するなどの輝かしい受賞歴を有し、一演奏家として以上の評価を与えられた大演奏家である。その後米国に渡り、指揮者活動などするうち、ソ連政府より国籍を剥奪されてしまうが、それも1990年には国籍を回復するという波乱万丈の人生を歩んだ。ロストロポーヴィチは、モスクワ音楽院で学んだ後、チェリストとして活躍する一方、1961年には指揮者としてもデビュー。1963年「レーニン賞」受賞。しかし、1970年社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことによりソビエト当局から”反体制”とみなされ、以降、国内演奏活動を停止させられる。1977年アメリカ合衆国へ渡り、ワシントン・ナショナル交響楽団音楽監督兼首席常任指揮者に就任。その後、1990年にはワシントン・ナショナル交響楽団を率いて、ロシア(旧ソ連)において16年ぶりに凱旋公演を行い、国籍を回復。2007年ロシア政府より勲1等祖国功労章を授与された。ロストロポーヴィチは、芸術や言論の自由を擁護する立場から、さまざまな活動を繰り広げた。これらの経歴により、世界文化賞、ドイツ勲功十字賞、イギリスの最高位勲爵士、フランスのレジオンドヌール勲章、アメリカの大統領自由勲章など、30ヶ国を超える国々から130以上もの賞を授与された。このLPレコードは、ドヴォルザーク:チェロ協奏曲を愛して止まなかったロストロポーヴィッチが、5度目となる録音を、カラヤン指揮ベルリン・フィルと行ったものである。ロストロポーヴィッチの演奏は、男性的な豪快な側面と繊細な側面とを併せ持っていると言われるが、このLPレコードは、正にこのことを裏付けるかのようなスケールの大きく、しかも情緒に富んだ、如何にもドヴォルザークらしさを表現した、見事な演奏を繰り広げており、この録音によってドヴォルザーク:チェロ協奏曲の真髄を余す所なく我々に伝えてくれている。カラヤン指揮ベルリン・フィルの伴奏もまた素晴らしく、ロストロポーヴィッチの名演と相俟って、聴くものに感動を与えずにはおかない。このLPレコードの録音は、名盤がひしめくドヴォルザーク:チェロ協奏曲の録音の中でも、飛び切り傑出した一枚と言って間違いはないであろう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カザルスをも凌駕すると言われたフォイアマンのドヴォルザーク:チェロ協奏曲

2020-04-30 09:58:59 | 協奏曲(チェロ)

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲

チェロ:エマヌエル・フォイアマン

指揮:ミハエル・タウベ

管弦楽:ベルリン国立歌劇場管弦楽団

録音:1927年、ベルリン

LP:キャニオン・レコード(ARTICO RECORDS) YD‐3010

 その全盛時代には、カザルスおも凌駕するとまで言われたエマヌエル・フォイアマン(1902年―1942年)は、ロシア出身のオーストリアおよびアメリカで活躍した名チェリスト。フォイアマンが5歳の時の1907年に一家でウィーンへと移り住み、1914年11歳の時にフェリックス・ワインガルトナー指揮ウィーン・フィルと共演しデビューを飾る。1917年、フォイアマンはライプツィヒの高等音楽院で学び、その後、ギュルツェニヒ管弦楽団首席チェリストに就任。1920年にベルリンにおいてフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルとドヴォルザークのチェロ協奏曲を共演したが、これによって名声を確立させたという。現在、サイトウ・キネン・オーケストラにその名を残す齋藤秀雄(1902年―1974年)は、この時フォイアマンに師事している。フォイアマンはユダヤ系であったため、ナチスが台頭した1933年にロンドンに移住し、さらに米国へとその活動拠点を移すこととなる。この間、来日も果たしている。米国での活動が本格化する中、ハイフェッツ、ルービンシュタインと有名な“100万ドル・トリオ”を結成。しかし、1942年に米国籍を取得した直後、腹膜炎でこの世を去った。この時まだ38歳という若さであった。当時のチェリストとしてまず名前が挙がるのがカザルスであるが、フォイアマンはカザルスに匹敵する、人によってはそれを凌駕するチェリストとして、高い評価を受けていた。チェリストのダニイル・シャフランなどは「カザルスは神様だが、フォイアマンはそれ以上だ」と賞賛したという。しかし現在、カザルスは”チェロの神様”として名を残すが、現在、フォイアマンの名は忘れ去られつつある。これは、38年という短い生涯からきていることは疑いがない。フォイアマンがあと20年~30年生きていたとしたら、多くの録音を行い、現在でも多くの人々がその名を忘れなかったろう。このLPレコードの録音は、1927年、ベルリンで行われた。今から80年以上前の録音であるので、歴史的名盤の範疇に入る。オーケストラの音は今の録音からすると、貧弱な音で鑑賞には不向きだが、幸いにもフォイアマンのチェロの音は、鮮明とは言えないまでも、鑑賞に充分に耐えられる程度に収録されている。ここでのフォイアマンは、実に格調高く、正統的で力強いチェロの演奏を聴かす。演奏技術の高さは圧倒的で、あたかもヴァイオリンの演奏の如く軽々とチェロを弾くのには驚かされる。もし、録音の質がもうちょっと良かったなら、現在でもドヴォルザーク:チェロ協奏曲の名録音の1枚に数えられていただろう。(LPC)

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