★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カール・ベーム指揮ウィーン・フィルのモーツァルト:レクイエム

2022-04-28 10:05:47 | 宗教曲


モーツァルト:レクイエム

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

独唱:エディット・マティス(ソプラノ)
   ユリア・ハマリ(アルト)
   ヴィエスワフ・オフマン(テノール)
   カール・リーダーブッシュ(バス)

合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ

合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団

オルガン:ハンス・ハーゼルベッダ

録音:1971年4月14日、ウィーン、ムジークフェライン大ホール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MG 2299

 このLPレコードでモーツァルト:レクイエムを指揮しているカール・ベーム(1894年―1981年)は、オーストリア生まれ。グラーツ大学で法律を学んだという、指揮者としては珍しい経歴を持っている。1934年~43年ドレスデン国立歌劇場総監督、そして1943年~45年と1954年~1956年ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務め、文字通り世界の指揮界の頂点を極めた指揮者の一人である。その後は、自由の立場で世界各地の歌劇場や管弦楽団を指揮し、日本へも1963年、75年、77年、80年に来日していることもあり、日本においてのカール・ベームの人気には当時絶大なものがあった。モーツァルトは、この「レクイエム」を自らの筆で完成させることができず、弟子のフランツ・サヴァー・ジュスマイヤーの補完によって、現在演奏される形を整えたことは、よく知られていることである。つまりモーツァルトの直筆は「ラクリモーサ」までなのである。だからといって、この作品の価値は少しも損なわれることはない。その理由は、ジュスマイヤーが病床のモーツァルトから作品の完成について指示を受けていたという事実があることが挙げられる。そして、ジュスマイヤーがモーツァルトからスケッチを手渡されたという話も伝わっている。実際に完成した「レクイエム」を聴いてみると、どこまでがモーツァルトの直筆で、どこからが弟子のジュスマイヤーの作品なのかは判然としない。逆に言えば、それだけモーツァルトの指示が、完成した作品に十二分に反映されているということを意味するわけである。このLPにおいてベームは、このモーツァルト:レクイエムを、単に激情に溺れることなく、ゆっくりと一つ一つの音を確かめるかのように丁寧に指揮する。あくまで客観的に、しかも、大きなスケールの演奏を聴かせるのである。その結果、モーツァルト:レクイエムの持つ優美さと厳粛な側面を、リスナーに強烈に印象づけることに、ものの見事に成功している。独唱陣と合唱陣も、そんなベームの指揮に歩調を合わせるかのように、清楚できりりと締まった雰囲気を醸し出している。スイス出身のソプラノ歌手のエディット・マティスをはじめとした独唱陣と合唱団の美しい声の調和も聴きどころだ。このLPレコードは、私がこれまで聴いたモーツァルト:レクイエムの中で一番心に沁みる演奏であり、こんなにも美しいモーツァルト:レクイエムの演奏の録音は、正に空前絶後といっても間違いではなかろう。(LPC)
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◇クラシック音楽LP◇ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルのチャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

2022-04-25 09:47:23 | 交響曲(チャイコフスキー)


チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

指揮:エフゲニー・ムラヴィンスキー

管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1960年11月7日~9日、ウィーン、ムジークフェライン・ザール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) 2535 237

 指揮者のエフゲニー・ムラヴィンスキー(1903年―1988年)は、1924年レニングラード音楽院に入り、作曲と指揮を学ぶ。1931年レニングラード音楽院を卒業し、マリインスキー劇場(当時の名称はレニングラード・バレエ・アカデミー・オペラ劇場)で指揮者デビューを果たし、以後1938年までこの職にとどまる。1934年からレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団で定期的に客演指揮活動を開始する。1937年ショスタコーヴィチの第5交響曲を初演。1938年「全ソ指揮者コンクール」に優勝した後、すぐにレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。以後、50年間にわたりレニングラード・フィルに君臨し、その名声を世界に轟かすことになる。スターリン賞(1946年)、人民芸術家(1954年)、レーニン賞(1961年)、社会主義労働英雄(1973年)と、その受賞歴を見れば旧ソ連の英雄であったことが自ずと分る。日本へも4回来ている。そのムラヴィンスキーとレニングラード・フィルが、全盛時代にオーストリアに渡り、ウィーン楽友協会ホールで録音したのが、歴史的録音として名高い、このLPレコードなのだ。チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」は、19世紀後半の代表的交響曲の一つとして高く評価され、現在でも最も人気のある交響曲の一つに数えられている。チャイコフスキー自身も「この曲は、私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と語るほどの自信作だった。しかし、「悲愴」の初演のわずか9日後、チャイコフスキーはコレラに加え肺水腫が原因で急死し、この曲は彼の最後の大作となった。このLPレコードでのムラヴィンスキーの指揮ぶりは、厳格な上にも厳格を極めていると言ってもいいくらい禁欲的な精神に貫かれている。ムラヴィンスキーの写真で見るしかつめらしい顔つきは、正に演奏そのものの反映と言ってもいいほど。このLPレコードは、そんなムラヴィンスキーが、自身の特徴を遺憾なく発揮した白眉の1枚なのだ。そこには、甘い感傷などの入り込む余地など微塵もない。そして壮大な建築物を一部の隙もなくつくり上げるような、雄大な構成力が厳然としてそこには存在している。リスナーが気楽な気持ちで「悲愴交響曲」を聴こうとすると、ムラヴィンスキーから拒否されかねないのが、この録音なのである。かといってコチコチのチャイコフスキーとは異なり、あたかも一遍の小説を読むような、ドラマチックな展開がその背後には確かに存在しているんがムラヴィンスキーの魅力なのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハインツ・ホリガーのモーツァルト:オーボエ協奏曲/R.シュトラウス:オーボエ協奏曲

2022-04-21 09:59:17 | 協奏曲


モーツァルト:オーボエ協奏曲
R.シュトラウス:オーボエ協奏曲

オーボエ:ハインツ・ホリガー

指揮:エド・デ・ワールト

管弦楽:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

発売:1979年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) 18PC-12(6500 174)

 オーボエは、人の声に最も近い楽器とも言われ、特にその高音域の音の調べが、例えようもないほどの甘美さを備えている木管楽器である。哀愁のあるその牧歌的な音色を聴いていると、とても人間味溢れる楽器であることを思い知らされる。そんなこともあってか日本では、演歌などでも使われることも少なくないようだ。しかし、演奏するにはなかなか難しい楽器であるということもあってか、フルートやトランペットなどに比べて、何となくマイナーな楽器の座に甘んじることが多いように思われる。そんな魅力的ではあるがいつもは地味な存在の楽器に、一躍、主役を演じさせるのがオーボエ協奏曲の存在なのである。このLPレコードは、かつてオーボエ奏者として一世を風靡した、スイス出身のハインツ・ホリガー(1939年生れ)が、全盛時代にモーツァルトとR.シュトラウスのオーボエ協奏曲を録音したもの。ハインツ・ホリガーは、オーボエ奏者としてのほか、指揮者さらには現代音楽の作曲家としても活躍。ベルン音楽院とバーゼル音楽院、さらにパリ音楽院で学んだが、オーボエは名オーボエ奏者のピエール・ピエルロ(1921年―2007年)に師事したという。オーボエのソリストとしては、1959年「ジュネーヴ国際音楽コンクール」や1961年「ミュンヘン国際音楽コンクール」で第1位を獲得し、国際的に名声を得ることになる。ホリガー木管アンサンブルを自ら主宰して、主にバロック音楽を録音。また指揮者としては、ヨーロッパ室内管弦楽団を指揮してシェーンベルク作品集の録音も残している。作曲家としては、初期の作品はブーレーズからの直接の影響を受けた「魔法の踊り手」や「七つの歌」のような1960年代の前衛音楽の秀作から、16年の歳月をかけて作曲した代表作「スカルダネッリ・ツィクルス(ヘルダーリンの詩による、ソロ・フルートと小管弦楽、混声合唱とテープのための)」などの作品がある。このLPレコードに収められているモーツァルト:オーボエ協奏曲とR.シュトラウス:オーボエ協奏曲の2曲のオーボエ協奏曲の演奏とも、ホリガーのオーボエの演奏は、完璧な演奏技法に裏づけされたものだけに、リスナーは思う存分その曲の持ち味を味わうことができる。モーツァルトの典雅さの極みともいえる雰囲気のオーボエ協奏曲、さらにはR.シュトラウスが音楽人生の後半生に行き着いた、安定した曲づくりが心地よい新古典派的なオーボエ協奏曲の真髄を、それぞれ存分に楽しむことができる貴重なLPレコードとなっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのヘンデル:合奏協奏曲op.6

2022-04-18 09:39:53 | 協奏曲


ヘンデル:合奏協奏曲op.6

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1968年8月21日~22日、スイス・サンモリッツ、ヴィクトリア・ザール

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGX7072~75(全4枚)

 ヘンデルの12曲からなる「合奏協奏曲op.6」は、いつ聴いても音楽が泉の如く湧き出してくるような、無限の力のようなものを感ずる。普通なら、全12曲というような長い曲集を聴き通そうとすると、相当な忍耐力を必要とするが、ヘンデルの「合奏協奏曲op.6」だけは例外である。聴いていて実に楽しいし、不思議なことに飽きが全く来ない。正にヘンデルの天才のなせる業とでも言ったらよいのであろうか。作曲したのがヘンデル55歳の時で、たった1カ月で12曲を書き上げたというから凄いの一言に尽きる。ヴィヴァルディの急ー緩ー急の形式を踏襲しつつ、コレルリの作品に範を求めて完成させたと言われている。1740年4月に出版された時のタイトルは、「4つのヴァイオリン、テノール(ビオラ)、チェロ、チェンバロの通奏低音の7声部からなる12曲の大協奏曲集」と付けられており、初演は、1739年から1740年3月にかけて、ヘンデル自身の指揮で行われたらしい。もともとドイツ人であったヘンデルだが、1711年以降はロンドンで主にオペラを中心に活躍した。作曲のほか、指揮者、演出家、さらには興行主としてもエネルギッシュに活動したわけであるが、実際はというと平穏な活動ではなかったらしく、ヘンデルを保護する国王派に反目する貴族たちが、ヘンデルの仕事を妨害するのに抗して活動するといった塩梅であった。そんなこともあってか、1737年にヘンデルは病に倒れてしまう。それにも屈せずヘンデルは不屈の闘志で立ち上がるが、貴族たちの妨害は相変わらず止まなかった。そんな厳しい環境下に生まれたのが「合奏協奏曲op.6」なのである。このヘンデルの名作を、巨匠カラヤンがベルリン・フィルを指揮してLPレコード4枚に収録した。この演奏内容は、カラヤンが録音した中でベスワンに挙げたいほど、完成度が高く仕上がっている。バロック・アンサンブルではなく、近代のオーケストラによるこの演奏は、その厚みのある弦の響きで聴くものを圧倒する。カラヤンの指揮は、巧みにしっとりとした情感をベルリン・フィルから全てを引き出す。やや押さえ気味の指揮ぶりが、かえってヘンデルのこの名作の真の姿をくっきりと浮かび上がらせるのだ。包容力のある演奏とでも言ったらよいのであろうか。いずれにせよカラヤンの見事な統率力に脱帽せざるを得ない。どんなアンチ・カラヤン派でもこの演奏だけは、カラヤンの力を認めざる得ないと思う。LPレコード特有のあふれんばかりの奥行きの深い伸びやかな音質を聴いてこそ、カラヤンの真の名指揮ぶりを聴き取ることができるのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ゲザ・アンダのシューマン:交響的練習曲/幻想曲

2022-04-14 09:41:43 | 器楽曲(ピアノ)


シューマン:交響的練習曲
      幻想曲

ピアノ:ゲザ・アンダ

録音:1963年5月14日~17日、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE 7810(ドイツ・グラモフォン MGW 5225)

 ピアノのゲザ・アンダ(1921年―1976年)は、ハンガリーのピアニストであり、その全盛時代には圧倒的支持を受けていたので、年配のリスナーにとっては、きっと忘れることのできないピアニストの一人であろう。このLPレコードを改めて聴いてみるとその自然な音の運びと、美しいピアノの音色に思わずうっとりとしてしまうほどなのだ。このくらいピアノの持つ魅力的な音と、リズム感とを的確にリスナーに聴かせることのできるピアニストは、そうざらにいるものではない。決して大上段に振りかざしてピアノ演奏をするわけではないのだが、その圧倒的な存在感は聴くもの全てを魅了するといっても過言ではないほど。このLPレコードでは、シューマンの若い時期のピアノ曲の傑作である「交響的練習曲」と「幻想曲」とが収録されている。2曲とも言ってみれば派手な曲ではないが、如何にもシューマンらしいロマンの香りが濃く漂う秀作である。「交響的練習曲」は、シューマンの才能が今花開いたといった感じの若々しい変奏曲集である。このLPレコードを聴き終わった時の爽快感は、ピアノの音がむせ返るようであり、他に例えようもないほど。曲は、1837年の初版のほか、1852年の改訂版、さらに1835年1月15日と記されたオリジナル版があるが、現在は1837年の初版で演奏されることが多い。ゲザ・アンダのキラリと光るピアノ演奏が強く印象に強く残る録音だ。一方、「幻想曲」は、当初ピアノソナタとして書き始められ、最終的に幻想曲として完成された作品であり、このため、この「幻想曲」はピアノソナタといってもいいほどの力作で、リスナーは、より一層深遠なロマンの香りに酔いしれることができる。深い深い森の奥でピアノを聴いているようでもある。ここでのゲザ・アンダのピアノは、シューマン特有のロマンの世界をリスナーの前に繰り広げると同時に、劇的な展開でも充分な説得力を持つ。2曲とも正に名演。ゲザ・アンダは、ハンガリー・ブタペスト出身のピアニスト。王立ブダペスト音楽院で学び、19歳でリスト・フェレンツ賞を受賞。第二次世界大戦中はベルリンに留学するが、1943年にスイスに亡命(後にスイス国籍を取得)。ベートーヴェンやシューマン、ショパン、リスト、ブラームスを得意とし、特に同胞であるバルトークの作品には力を注いだ。なお、ゲザ・アンダは、国際的なピアニストを輩出することで知られる「ゲザ・アンダ国際ピアノ・コンクール」として、その名が遺されていることからも分る通り、これからも人々の記憶から忘れ去られることはないであろう。(LPC)

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