チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
指揮:エーリッヒ・クライバー
管弦楽:パリ音楽院管弦楽団
録音:1953年11月
発売:1975年
LP:キングレコード SOL 5013
クライバーという名前を聞けば、多くの人は指揮者のカルロス・クライバー(1930年―2004年)のことを思い浮かべるであろう。カルロス・クライバーは、 名指揮者として高い評価を受けていたから当然であるが、今回のLPレコードの指揮者のクライバーは、カルロス・クライバーの父親のエーリッヒ・クライバー(1890年―1956年)なのである。エーリッヒ・クライバーは、オーストリアのウィーン出身で、1920年代から30年代にかけての10年以上もベルリン国立歌劇場の音楽監督を務めた歴史上の大指揮者。ヤナーチェックの「イエヌーファ」やベルクの「ヴォツェック」を初演するなど、当時の現代音楽にも積極的であった。1935年のザルツブルク音楽祭出演の後、妻と当時5歳のカルロスらを伴ってアルゼンチンに移住した。1939年~1945年にテアトロ・コロンの首席指揮者を務めた。第二次世界大戦後は、再度、ベルリン国立歌劇場に招かれた後、ウィーンを中心に活躍した。同年代の指揮者と言えば、フルトヴェングラー、クレンペラー、ワルターなどの大指揮者の名を挙げることができる。これらの指揮者の録音は、現在でも発売され多くの愛好家を楽しませているが、それに比べエーリッヒ・クライバーは、過去の指揮者として忘れかけられている、と言ってもいいほどであり、誠に残念なことではある。ロンドン・レコードには、ウィーン・フィルとの名演「フィガロの結婚」「ばらの騎士」などの録音が残されているはずなのだが・・・。このLPレコードは、エーリッヒ・クライバーが唯一遺したパリ音楽院管弦楽団(現在のパリ管弦楽団の前身)とのチャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」である。今回、再度聴いてみて、エーリッヒ・クライバーという指揮者が如何に偉大な存在であったかを再認識させられた。チャイコフスキーの「悲愴」は、ムラヴィンスキーのようなロシア風土に根差した演奏か、あるいはジャン・マルティノンのような都会的に洗練された演奏のいずれかに分類されるが、エーリッヒ・クライバーの演奏は、そのいずれにも属さず、この曲に真正面から堂々と向き合い、キリリと引き締まった演奏を展開する。このため、これまでチャイコフスキーの「悲愴」の演奏からは、なかなか引き出せなかった純音楽的な像がリスナーの前に明らかになり、聴いていて興味が尽きることのない出来に仕上がっている。是非ともこの録音のCDでの発売を実現してもらいたいものである。(LPC)