★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノンのボロディン:交響曲第2番 他

2020-02-27 10:07:13 | 交響曲

 ボロディン:交響曲第2番
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
            歌劇「サルタン皇帝の物語」から行進曲

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:キングレコード GT 9351

 このレコードでロンドン交響楽団を指揮しているのが、フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910年―1976年)である。マルティノンは、リヨンに生まれ、パリ音楽院でヴァイオリン、作曲、指揮を学ぶ。パリ音楽院管弦楽団、ボルドー交響楽団などの首席指揮者などを歴任した後、シカゴ交響楽団音楽監督を経て、1968年からはフランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任する。しかし、これからという66歳で世を去ってしまう。マルティノンは、何と言ってもフランス音楽を振らせたら、右に出る者はいないと言われたぐらいフランス音楽との相性が抜群にいい指揮者であった。中庸を得た明快な指揮ぶりと、知的でセンスのある繊細な音づくりには定評があった。そんな特徴を持つマルティノンにロシア音楽を振らせたらどういうことになるのか?既に紹介したチャイコフスキーの「悲愴交響曲」では、幾多あるこの曲の録音の中でも、今もって上位にランクされるほどの名演奏を聴かせてくれた。さて、このレコードのボロディンとリムスキー=コルサコフの二人のロシア作曲家の曲をマルティノンはどう指揮するのであろうか・・・。ボロディンとリムスキー=コルサコフは、19世紀後半に活躍した“ロシア五人組”のメンバーである(あとの3人は、バラキレフ、キュイそれにムソルグスキー)。その中の一人、ボロディンは、大学教授と作曲家の二足の草鞋を履いた生活を送ったため、作品の数はそう多くはないが、歌劇「イーゴリ公」やこのレコードの交響曲第2番などの名曲を今に残している。交響曲第2番は、古典的な交響曲の手法に基づきながら、スラブ的な民族色を打ち出した曲として今でも多くのリスナーから愛好されている曲。一方、リムスキー=コルサコフは、若い頃海軍士官の経歴を持ち、後に作曲家に転じ、晩年は、音楽院の院長として後輩の育成にも貢献した。このレコードでのマルティノンの指揮ぶりは、ボロディン:交響曲第2番では、実にメリハリに利いた明快な表現力が実に魅力的だ。30年以上前の録音とは思えないほど、現在でも通用するような表現力の驚かされる。リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲は、マルティノンのセンスのいい指揮振りが一際印象に残る。リズム感に溢れたその演奏は、自身が持つ資質を存分に発揮した演奏と言えよう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のアシュケナージのシューベルト:ピアノソナタ第18番「幻想」

2020-02-24 09:18:28 | 器楽曲(ピアノ)

シューベルト:ピアノソナタ第18番「幻想」D.894(Op.78)

ピアノ:ウラディーミル・アシュケナージ

録音:1970年、ロンドン・オペラ・センター

発売:1977年

LP:キングレコード SLA 1131
 
 シューベルトのピアノソナタ第18番は、初版譜に“幻想曲”と書かれていたことから「幻想ソナタ」と呼ばれている。この曲はシューベルトのピアノソナタの中でも、内容的に優雅で、完成度も高い曲である。しかし一方、「冗長度が高く、演奏効果を出し難いピアノソナタ」という評価を下す向きもあることも事実。このLPレコードは、そんなシューベルトのピアノソナタを、ピアニスト時代の若き日のウラディーミル・アシュケナージ(1937年生まれ)が弾いた録音である。アシュケナージは、旧ソ連出身のピアニスト兼指揮者である。1956年に「エリザベート王妃国際音楽コンクール」に出場して優勝を果たし、一躍その名を世界に知らしめ、その後の欧米各国での演奏旅行で、その実力が認められるに至った。1962年には「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝。しかし、1963年に、ソヴィエト連邦を出国し、ロンドンへ移住し、以後実質的な亡命生活を送ることになる。1970年頃からは指揮活動にも取り組み始め、現在では指揮者としての活動が中心となっている。現在、スイスのルツェルン湖畔に居を構え、ここを拠点として、シドニー交響楽団およびEUユース管弦楽団の音楽監督として世界的な活動を展開している。2004年から2007年までNHK交響楽団の音楽監督を務め、2007年からは桂冠指揮者を務めているので、今やアシュケナージの名を聞くとピアニストとしてより指揮者のイメージの方が定着している。このLPレコードの録音は、1970年、ロンドン・オペラ・センターで行われたので、アシュケナージ33歳の時のピアノ演奏ということになる。アシュケナージのピアノ演奏は、超人的な演奏技能により、よりどんな難曲でも難なく弾きこなす凄さに加え、抒情的な表現でも並外れた才能を発揮する。このLPレコードではそんなアシュケナージの抒情的な演奏の冴えを存分に味合うことができる。シューベルトのピアノソナタは、ベートーヴェンのそれとは異なり、多くの曲が歌曲のように美しいメロディーに埋め尽くされているが、そんなシューベルトのピアノソナタの特徴が、もっとも多く盛り込まれたピアノソナタが、この第18番「幻想」なのである。特に、第1楽章に、この曲の持つ叙情性と歌曲性とが集約されているわけであるが、アシュケナージは、ものの見事にこの二つの側面を表現しており、改めてピアニストとしてのアシュケナージの実力の高さに、眼を見張らされる思いがした。何か、アシュケナージの指から、こんこんと音楽が湧き出してくるような、不思議な体験をさせられたLPレコードである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇セラフィン指揮ローマ国立歌劇場管弦楽団とロス・アンヘルスらのヴェルディ:歌劇「椿姫」ハイライト

2020-02-20 09:40:38 | オペラ

ヴェルディ:歌劇「椿姫」ハイライト
        
        前奏曲
        乾杯の歌
        想い出の日から
        ああ、そはかの人か~花から花へ
        燃える心を
        天使のように清らかな娘が
        お命じのとおり~死ぬほかに
        プロヴァンスの海と陸
        闘牛士の合唱「マドリードから来た闘牛士」
        過ぎし日よさらば
        パリを離れて
        もし、清らかな娘さんが

指揮:トゥリオ・セラフィン

管弦楽:ローマ国立歌劇場管弦楽団

独唱:ヴィオレッタ=ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス(ソプラノ)
   アルフレード=カルロ・デル・モンテ(テノール)
   ジェルモン=マリオ・セレーニ(バリトン)
   ガストーネ子爵=セルジオ・テデスコ(テノール)

合唱:ローマ国立歌劇場合唱団

LP:東芝EMI EAC‐30069
 
 ヴェルディの初期のオペラの傑作「椿姫」(オペラ本来の題名は「ラ・トラヴィアータ(道を踏みはずした女)」であるという)の物語の原作は、フランスの小説家のアレクサンドル・デュマ。アレクサンドル・デュマと言っても、「モンテ・クリスト伯」などの名作で知られる、あの文豪アレクサンドル・デュマのことではなく、同名の息子のことだそうだ。1848年に発表されたこの小説「椿の花をつけた女」を読んだヴェルディは、オペラ化することを思い立ち、3ヶ月という短時間で完成させ、1853年3月に初演された。初演当時の評判は芳しくなかったようであるが、その後、徐々に評価が高まり、現在では最も人気のあるオペラの一つとして世界中で愛好されている。このLPレコードのライナーノートに大木正純氏は「厳しい目で見れば、ドラマとしての迫力や構成の密度の点で、また音楽的充実度の点でも、このオペラがヴェルディの他の名作を凌駕しているとは言いがたい。にもかかわらず、こうした抜群の人気を保っているは、この感傷的なドラマと、それにふさわしい甘美な音楽、華やかな舞台のたまものと言っていいだろう」と書いている。正にこの文章に尽きている。一旦、「椿姫」のオペラの世界に入り込めば、多くのリスナーは「もう理屈などはどうでもいい」という思いに浸るほど魅力に富んだオペラなのだ。このLPレコードでヴィオレッタを歌っているヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス(1923年―2005年)は、スペイン出身の名ソプラノ歌手。1945年、リセオ歌劇場でオペラ歌手としてデビューし、1947年の「ジュネーヴ国際音楽コンクール」で優勝し、以後世界的な脚光を浴びる。指揮のトゥリオ・セラフィン(1878年―1968年)は、イタリア出身の指揮者。1909年、トスカニーニの後任として、スカラ座の音楽監督に就任。1924年~1934年、米国メトロポリタン歌劇場の指揮者を務めた。1934年に帰国し、ローマ歌劇場の音楽監督に就任、同歌劇場の黄金時代を築く。この経歴から分かる通り、セラフィンは当時、イタリア・オペラの最高の指揮者として高く評価されていた。LPこのレコードでのヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルスは、実に気品のある歌声を聴かせており、ヴィオレッタの一生をものの見事に表現し尽くしている。また、トゥリオ・セラフィンの指揮は、このオペラの物語を劇的に盛り上げており、その見事な棒捌きにリスナーは、ただただイタリア・オペラの魅力の虜になるばかりだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴァイオリンの名手ヘンリック・シェリングのヴァイオリン・リサイタル

2020-02-17 09:44:48 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

~シェリング・ヴァイオリン・リサイタル~

ルクレール:ソナタニ長調
グルック:メロディー
ヴィタリ:シャコンヌ
ロカテルリ:ラビリンス
バルトーク:ルーマニア民族舞曲
ドビュッシー:レントより遅く
ノヴァチェック:常動曲
ブラームス:ハンガリー舞曲第17番
マロキン:メキシコの子守歌
リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

ピアノ:チャールズ・ライナー

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(PHILIPS) PC‐1518(SR‐90367)
 
 このLPレコードは、“シェリング・ヴァイオリン・リサイタル”と題されたヘンリク・シェリング(1919年―1988年)のヴァイオリン独奏によるアルバムである。ヘンリク・シェリングは、ポーランドの首都ワルシャワで生まれ、同国の世界的ヴァイオリンの大家フーベルマン()1882年―1947年)に見い出され、ベルリンに留学。さらにファランスに渡りフランス音楽をマスターした。これにより、シェリングは、スラヴ系、ドイツ系、さらにはフランス系を一体化した奏法を完成させ、真に国際的感覚を備えたヴァイオリニストであった。1933年にソリストとしてデビュー。第二次世界大戦中は、連合国軍のために慰問活動を行ったが、メキシコシティにおける慰問演奏を行った際に、同地の大学で教職を得ると同時に、1946年にはメキシコ市民権も得た。そして暫くは教育活動に専念したが、1954年、ニューヨークにおけるデビュー演奏が高い評価を得て、それ以後、活発な国際的な演奏活動を展開した。このLPレコードのライナーノートで藁科雅美氏が「ヘンリック・シェリングはヴァイオリンの大家で、現在この人と比べられる名手は、アメリカのアイザック・スターン、チェコのヨゼフ・スーク、ベルギーのアルテュール・グリュミオーぐらいなものです」と書いているように、当時の人気は絶大なものがあった。このLPレコードでは、シェリングは10曲の小品を録音している。ただ、A面の最初の曲、ルクレール:ソナタニ長調だけは小品というにはもったいない本格的ヴァイオリンソナタである。ルクレール(1697年―1764年)は、後期バロックのフランスのヴァイオリニスト兼作曲家。最初は舞踏家としてデビューし、最後は暗殺されるという数奇な人生を送った。作曲家としては、フランスのヴァイオリン音楽に多大な影響を与えたソナタや協奏曲を残している。このニ長調のソナタは、全12曲からなる「通奏低音つき独奏ヴァイオリンのためのソナタ・第4集」(作品9)の中の第3曲で、4つの楽章からなり、終楽章の「タンブーラン」は、しばしばそれだけでも単独で演奏されることがある。このLPレコードでのシェリングの演奏は、実に丁寧に1曲、1曲を愛情をもって弾いていることが、リスナーにひしひしと伝わってくる。シェリングのヴァイオリン演奏の偉大さは、単にスラヴ系、ドイツ系、フランス系という枠を越えて、真摯な態度で真の音楽の追究に身を捧げたことにると思う。これは、そんなシェリングの演奏のエッセンスが、ふんだんに込められたLPレコードなのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団のルーセル:交響曲第3番/第4番

2020-02-13 09:45:56 | 交響曲

ルーセル:交響曲第3番/第4番

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AA‐7595
 
 アルベール・ルーセル(1869年―1937年)は、最初は印象主義の作風から始まり、その後新古典主義の作品を作曲するに至ったフランスの作曲家。当時、ラヴェルとともにフランス楽壇の重鎮として活躍した。ルーセルは、海軍に入り軍艦の経験を積む。1894年に海軍を退くと、パリで音楽の道を志し、ダンディなどに師事。ルーセルの作風は、初期作品は印象主義音楽に影響を受けたが、もともとは古典主義者であった。同時代のドビュッシーやラヴェル、サティの作風とルーセルとの作風の違いは、その強烈なリズム感と重厚なオーケストレーションにある。ラヴェルと同じようにルーセルもジャズにも興味があったようで、「夜のジャズ」という歌曲を残している。日本においては、同時代のフランスを代表する作曲家のフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルに比べ、ルーセルの認知度は必ずしも高いとはいえない。これは、強固な構成と形式美を追い求めるルーセルの音楽は、フランス音楽独特得の雰囲気とは少々異なるところに原因があるのではないかと推察される。フランス音楽は、繊細さを追究する反面で、強烈な主張を持った音楽も存在する。つまり、フランスにおいてはルーセルの音楽もまた、フランス音楽そのものなのだ。このLPレコードには、交響曲第3番/第4番が収録されている。第3番は、ダイナミックで強烈なリズムを持った交響曲であり、そのエネルギッシュさが特に印象に残る。第4番も基本的には第3番と似たような作風の曲であるが、第3番には無かった平穏さも持ち合わせ、一回り大きな印象を受ける。これら2曲の交響曲は、現在ではフランクやサンーサーンスの交響曲と並び、フランスを代表する交響曲に位置づけられている。さらに、このルーセルの2曲の交響曲は、この後につづくオネゲル、ミヨー、リヴィエ、デュティユーなどに大きな影響を与えたといわれているほど、重要な作品と言える。このLPレコードでは、フランス出身の名指揮者アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)とパリ音楽院管弦楽団(パリ管弦楽団の前身)の演奏で、ルーセル独特の世界が思う存分繰り広げられる。第3番の演奏は、激しいリズムと奥深いオーケストラの音色が巧みに取り込まれ演出され、そのエネルギッシュさに圧倒される思いがする。第4番は、第3番とは異なり、優美な側面を間に挟みながら曲が展開される。このため、第3番ほど強烈な印象は与えないが、深みのあるオーケストレーションが、よりスケールの大きな交響曲としている。(LPC)

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