★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

2019-11-21 09:40:51 | 交響曲

ドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9131

 ドヴォルザークは、有名な交響曲第9番「新世界から」を書く4年前に、着手から僅か3カ月で完成させたのが、今回のLPレコードの交響曲第8番「イギリス」である。ドヴォルザークの研究家として名高い評論家のショウレック氏は、その著書「ドヴォルザークの生涯と作品」の中で「この曲は、男性的表現を持ち、直接にボヘミアの自然とチェコの民族から発生したものであるかのように素直に表現されている。彼の生命力と芸術的な円熟のみならず、彼の人格的および国民的特性の円熟を確証する最も典型的な作品である」と高く評価している。全9曲あるドヴォルザークの交響曲の中でも最もスラブ色濃い作品であり、特に第3楽章の哀愁を秘めたメロディーを一度でも聴けば、誰もがこの曲に愛着を持つようになること請け合いだ。全体は、古典的な交響曲の様式を踏襲しながらも、各楽章とも自由な形式によって書かれていることが、人気の秘密なのかもしれない。そして、全体に自然との触れ合いが感じられ、それが詩的な処理がされているため、素直に曲に入っていけるが嬉しい。ところでこの交響曲には「イギリス」という副題が付けられているので、何か英国と関わりの基に作曲されたたかのように感じられるが、実は、この曲の総譜が1892年にロンドンの出版社ノヴェロ社から出版されたから、というのが正解らしい。もしそうだとしたら、これからでも遅くないから、「ボヘミア」とでも副題を変更したらどうであろう。これならこの曲の持つイメージにぴたりと合う副題になると思うのだが・・・。このLPレコードで演奏しているのがヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。ここでのカラヤンの指揮ぶりは、その特徴である一糸乱れぬ端正な構成能力を遺憾なく見せつける。この曲は、古典的な性格に加えて、豊かな自然を思わせる豊饒さを備えた曲であるが、これらがカラヤンの本来持つ特性にうまく溶けあい、数あるこの曲の録音の中でも、名録音の一つに数えられるほどの仕上がりを見せている。そして、何と言ってもウィーン・フィルの伸びやかでピュアな響きがなんとも心地良い。これに加え、LPレコードが本来持つ音質の柔らかさが加味され、あたかも目の前に豊かな自然が浮かび上がって来るような錯覚にすら捉われてしまう。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇ジャン=ジャック・カントロフ&ジャック・ルヴィエによるドヴュッシー/ラヴェル:ヴァイオリンソナタ他

2019-11-18 09:50:38 | 室内楽曲

ラヴェル:ヴァイオリンソナタ      
      フォーレの名による子守唄
ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ

ピアノ:ジャック・ルヴィエ

発売:1977年

LP:RVC(仏コスタラ出版社) ERX‐2317

 このLPレコードには、フランスの大作曲家のドヴュッシーとラヴェルのヴァイオリンとピアノのために書かれた全ての作品が収められている。意外に少ないと感じられるかもしれないが、2人ともロマン派の作曲家が得意としたヴァイオリンとピアノのための作品を、晩年に至るまで、あまり快くは思ってなかったようである。ところがこのLPレコードに収められた4曲の作品はいずれも優れたもので、特にドヴュッシー:ヴァイオリンソナタは、このLPレコードのライナーノートに「ドヴュッシーが彼の才能の頂点に立っていることを示している。彼の霊感がこれほど灼熱のほとばしりをみせ、これほど豊かな幻想と多様性をみせたことがかつてあったろうか」(ハリー・ハルブレイチ氏)と書かれているとおり、内容の充実した作品に仕上がっている。作曲は第一次世界大戦中の1916年から1917年にかけて行われ、重病をおして最後の力を振り絞り、2年前にスケッチしてあった作品を完成させたものだという。このヴァイオリンソナタは、ドビュッシーの全作品の最期となった作品。ドビュッシーは晩年になり、チェロソナタ、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ、それにこのヴァイオリンソナタの3曲を作曲した。一方、ラヴェル:ヴァイオリンソナタは、1927年のはじめ、4年前の完成に至らなかったヴァイオリン協奏曲を基にして完成させた作品。初演は1927年に、伝説のヴァイオリニストのジョルジュ・エネスコとラヴェル自身のピアノによって行われた。これは、丁度、ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタの10年後に当る。第2楽章のブルースで、ラヴェルは後の2つの協奏曲と同様にジャズの要素を取り入れている。この曲は、ラヴェルの室内楽曲の最後の作品となった。このLPレコードでは、フランス出身のヴァイオリニストで、後に指揮者に転向したジャン=ジャック・カントロフ(1945年生まれ)が演奏している。ピアノはフランス出身のジャック・ルヴィ(1947年生まれ)で、1970年にジャン=ジャック・カントロフとフィリップ・ミュレとともにピアノ三重奏団を結成している。このLPレコードでの演奏内容は、フランス音楽の精緻さを強く感じさせるもので、まるで宝石箱から溢れ出る光のように、きらびやかであると同時に、どこまでも広がる透明感が何ともいえない優雅な雰囲気を、辺り一面に醸し出す。フランスの室内楽の醍醐味を存分に味わえるLPレコードだ。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇ロリン・マゼールのベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

2019-11-14 09:53:48 | 交響曲

ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

指揮:ロリン・マゼール

管弦楽:クリーブランド管弦楽団

ヴィオラ:ロバート・ヴァーノン

録音:1977年10月2日

発売:1978年

LP:キングレコード SLA1168

 ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」には、如何にもベルリオーズらしい作曲の経緯がある。ベルリオーズの有名な「幻想交響曲」は、1830年12月に初演されたが、当時大きな話題を集め、その話を聞きつけて「幻想交響曲」を聴き、いたく感激した一人に、超人的技巧で名を馳せていた大ヴァイオリニストのパガニーニがいた。当時パガニーニは、ストディヴァリウスのヴィオラの銘器を入手したが、これといったヴィオラ用の協奏曲がなかったため、ベルリオーズに新しいヴィオラ協奏曲の作曲を依頼したのであった。ところが出来上がった第1楽章の楽譜を見て、当初期待していたようなヴィオラが華やかに活躍する協奏曲とはなっておらず、このためパガニーニは作曲の依頼から降りてしまう。そうなると、後はベルリオーズの意図のみで作曲が進められることになる。テーマとしては、バイロンのメランコリックな夢想者の物語を内容とした長篇詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」が取り上げられ、さらにベルリオーズがイタリアに留学中の想い出の地、アブルッチを回想して「イタリアのハロルド」と命名された。曲は1834年に完成し、初演で大成功を収めたという。各楽章には標題が付けられている。第1楽章「山におけるハロルド、憂鬱、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷をうたう巡礼の行進」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナーデ」、第4楽章「山賊の饗宴、前景の追想」。ハロルド役はヴィオラの演奏。固定楽想を奏し、嘆いたり、取り乱したりするが、やがてハロルド自らが求めて山賊の洞窟に踏み入れ、そして、凶暴な山賊によって、昇天するという、如何にもベルリオーズ好みの怪奇的ストーリーとなっている。そんな内容の交響曲「イタリアのハロルド」を、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団は、各楽章に付けられた標題を、リスナーが思い浮かべられるかのように、実に丁寧に、しかも明快に劇的に演奏する。ロバート・ヴァーノンのヴィオラは、ベルリオーズの構想どおりオーケストラと一体化して、決して協奏曲的な表現は取らない。このレコードは、ロリン・マゼール(1930年生まれ)がクリーヴランド管弦楽団の音楽監督時代の録音。当時、ロリン・マゼールはまだ47歳であり、如何にも颯爽とした雰囲気の指揮ぶりに加え、既に巨匠の片鱗を覗かせており興味深い。この後1982年にはウィーン国立歌劇場の総監督に就任し、ロリン・マゼールは世界の頂点に立つことになる。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇若き日のパウル・パドゥラ=スコラのシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

2019-11-11 09:34:55 | 室内楽曲

シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

ピアノ:パウル・パドゥラ=スコラ

バリリ四重奏団員           

     ワルター・バリリ(ヴァイオリン)      
     リドルフ・シュトレング(ヴィオラ)      
     エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

コントラバス:オットー・リューム

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OS‐8003‐AW

 シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」ほど、日本人に愛好されているクラシック音楽はないであろう。それほどポピュラーな曲ではあるが、楽器の編成が、ピアノに加え、コントラバス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ一つずつという少々変わったものになっている。通常のピアノ五重奏曲は、ピアノに弦楽四重奏という編成となっているのが普通であるが、シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」は、これとは少々異なる。この理由として考えられているのが、この曲の作曲を依頼し、シューベルトが旅をしたときに世話になった、鉱山関係の役人であったジルヴェスター・パウムガルトナーである。この人はチェロの演奏をしばしば楽しんでいたようで、シューベルトは、このことに配慮をして、コントラバスに主に低音部を担わせ、チェロには自由に演奏できる余地をつくったのではないかと考えられている。室内楽の古今の名曲であるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を、このLPレコードで演奏しているのが、ピアノのパウル・パドゥラ=スコラとバリリ四重奏団員、それにコントラバスのオットー・リュームである。パウル・バドゥラ=スコダ(1927年―2019年)は、オーストリア出身のピアニストで、若い時には、イェルク・デームス(1928年―2019年)やフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに、いわゆる“ウィーン三羽烏”のひとりと言われていた。1945年からウィーン音楽院に学び、1947年に「オーストリア音楽コンクール」に優勝。1949年にはフルトヴェングラーやカラヤンらといった著名な指揮者と共演し、1950年代には日本を訪れた。80歳を過ぎても現役のピアニストとして活躍し、度々来日して円熟の極の演奏を披露して、日本の聴衆に深い感銘を与えたが、2019年9月25日にウイーンの自宅で死去した。 このLPレコードでのパウル・パドゥラ=スコラの演奏は、ピアニストとして最も円熟の境地に達していた年齢であり、ウィーン情緒たっぷりに、優雅で歌うように演奏しており、聴いているだけで自然に心がうきうきしてくるような演奏を披露している。バリリ四重奏団員も、パウル・パドゥラ=スコラにぴたりと息を合わせ、持ち前のウィーン情緒をたっぷりと含んだ演奏を聴かせる。このLPレコードを聴き、久しぶりに本場のシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を聴いた思いがした。(LPC) 

コメント

◇クラシック音楽LP◇ジョージ・ウェルドン指揮によるグリーグの北欧の自然を反映した4つの管弦楽曲

2019-11-07 09:57:11 | 管弦楽曲

グリーク:ホルベルク組曲(ホルベルク時代から)
      二つの悲しき旋律
      ノルウェー舞曲
      抒情組曲

指揮:ジョージ・ウェルドン

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団(ホルベルク組曲/二つの悲しき旋律)
      ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(ノルウェー舞曲/抒情組曲)

LP:東芝EMI EAC‐30166

 これは、グリークの管弦楽曲を収録したレコードであるが、どの曲もグリークの魅力的な旋律が存分に込められた曲であり、グリークという北欧の大作曲家の素顔を知ることができる。「ホルベルク組曲」のホルベルクとは、デンマークの文学の父と呼ばれたルードヴィ・ホルベア男爵を指す。グリークと同郷のノルウェーのベルゲン出身で、コペンハーゲン大学の教授を務め、デンマークの古典文学を興し、高めたことで知られる。その頃、ノルウェーは、独立しておらず、デンマークおよびスウェーデンに支配されていたため「デンマークのモリエール」などと呼ばれていた。グリークは、ホルベアの生誕200年を記念して、1884年にピアノ独奏用の「ホルベルクの時代から」を作曲し、翌年にこれを管弦楽用に編曲した。全5曲からなり、北欧風ロココ趣味的内容となっている。「二つの悲しき旋律」は、1880年に作曲された「六つの歌」第1巻から第2曲目「過ぎた春」と第3曲目「胸のいたで」を基に管弦楽用に編曲したものだが、この時、第2曲目と第3曲目を入れ替えているが、2曲とも悲愁に満ちた美しい抒情曲となっている。ノルウェーには素朴な舞曲が数多く存在するが、グリークは「ノルウェー舞曲」Op.35と「交響的舞曲」Op.64の2つの管弦楽曲を残している。「ノルウェー舞曲」は、1881年頃に作曲された作品。「抒情組曲」は、全10巻わたるピアノ独奏曲「抒情小曲集」を基に管弦楽用に編曲した作品。1891年に発表された「抒情小曲集」第5集の6曲のうち4曲を「抒情組曲」として管弦楽用編曲したもの。このレコードでは、1943年から1951年までバーミンガム市交響楽団の首席指揮者を務めたイギリス出身のジョージ・ウェルドン(1906年―1963年)が指揮をしている。北欧の自然の素朴な美しさを優しく包み込んだようなグリークの管弦楽曲は、ウェルドンのように、心のこもった演奏をする指揮者が一番よく似合う。どの曲もしみじみとした雰囲気を湛えた演奏となっており、じっくりと聴くのにはこの上ない演奏内容となっている。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇ルービンシュタイン&ガルネリ弦楽四重奏団のシューマン:ピアノ五重奏曲

2019-11-04 09:28:36 | 室内楽曲

シューマン:ピアノ五重奏曲

ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン

弦楽四重奏:ガルネリ弦楽四重奏団                              

             アーノルド・スタインハート(第1ヴァイオリン)             
             ジョン・ダリー(第2ヴァイオリン)             
             マイケル・トリー(ヴィオラ)             
             デヴィッド・ソイヤー(チェロ)

発売:1969年

LP:日本ビクター SRA-2523

 このLPレコードは、シューマンの室内楽の名品「ピアノ五重奏曲」をアルトゥール・ルービンシュタイン(1887年―1982年)とガルネリ弦楽四重奏団が演奏している。この曲は、シューマンの代表的な室内楽作品で、ピアノと弦楽四重奏のために書かれている。この作品は、1842年の9月から10月にかけてのわずか数週間のうちに作曲され、妻のクララ・シューマンに献呈された。同年中に3曲の弦楽四重奏曲とピアノ四重奏曲を作曲しており、シューマンの“室内楽の年”として知られる。 このLPレコードのライナーノートで上野一郎氏は「これは、今年82歳になる老大家のルービンシュタインと、30代の若手メンバーで組織された新進のガルネリ弦楽四重奏団が合奏しているところに新鮮な魅力を見い出すことのできるレコードである」と指摘している。この中で上野氏は「ルービンシュタインのレコード歴は50年に近い年月に及んでおり、室内楽もハイフェッツ、フォイアーマン、ピアテゴルスキーと組んだ”百万ドル・トリオ”で知られているが、弦楽四重奏団と合奏した室内楽のレコードは意外に少ない」と書いている通り、ルービンシュタインの残した録音の中でも貴重な一枚と言っていいであろう。アルトゥール・ルービンシュタインは、ポーランド出身のピアニスト。20世紀の代表的なピアニストの1人で、特にショパンの演奏では当時最も優れたピアニストと目されていた。前半生はヨーロッパで、第二次世界大戦中・後半はアメリカで活躍。1910年、第5回「アントン・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール」で優勝した。ガルネリ弦楽四重奏団は、1965年にニューヨークでデビューし、その1年後には、辛口評で知られたニューヨーク・タイムズ紙のハロルド・C・ショーンバーグが「ガルネリ弦楽四重奏団は、世界最高のクァルテットの一つである」と賛辞を掲げたほど、当時実力を持った弦楽四重奏団であったが、2009年に活動を中止してしまった。このLPレコードでのルービンシュタインのピアノ演奏は、ルービンシュタイン特有の中庸を得た特徴に加え、伸びと穏やかさを持った安定感のある演奏を存分に聴かせる。ガルネリ弦楽四重奏団もルービンシュタインのピアノ演奏にぴたりと寄り添い、シューマンの独特なロマンの世界を、繊細さと優雅さたっぷりに聴かせてくれている。この録音は、”健康的なシューマン”の秀演とでも表現できようか。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇クララ・ハスキルのモーツァルト:ピアノ協奏曲第13番/ピアノソナタ第2番/「キラキラ星」の主題による変奏曲

2019-10-31 10:02:52 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第13番        
         ピアノソナタ第2番        
                「キラキラ星」の主題による変奏曲

ピアノ:クララ・ハスキル

指揮:ルドルフ・パウムガルトナー

管弦楽:ルツェルン祝祭弦楽合奏団

録音:1960年5月5日~6日、ルツェルン、ルカ教会、ゲマインデザール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MGW5263

 クララ・ハスキル(1895年―1960年)は、ルーマニア出身の名ピアニスト。15歳でパリ音楽院を最優秀賞を得て卒業し、ヨーロッパ各地で演奏活動を展開するが、1913年に脊柱側湾の徴候を発症し、以後、死に至るまで病苦に苦しめられることになる。このために当初は正統な評価を受けることは少なかった。しかし、第二次世界大戦後の1950年を境に一躍脚光を浴び始め、カラヤンなど著名な指揮者や演奏家に支持されると同時に、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国での演奏活動において、熱狂的な聴衆に支持され、その名声は世界的に広まるようになる。得意としたレパートリーは、古典派と初期ロマン派で、とりわけモーツァルトの演奏には定評があった。室内楽奏者としても活躍し、アルテュール・グリュミオーの共演者として高い評価を受けることになる。しかし、演奏会へ向かうブリュッセルの駅で転落した際に負った怪我がもとで死に至る。現在、その偉業を偲び「クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール」が開催されていることはご存じの通り。そんなクララ・ハスキルが、このLPレコードにおいて、お得意のモーツァルトの初期の作品を演奏している。ピアノ協奏曲第13番は、第11番、第12番とともに、1783年にウィーンで作曲された曲。3曲のうち第13番だけ、管弦楽にトランペットとティンパニを加え、華やかさを備えている。ピアノソナタ第2番 ヘ長調 K.280は、ハイドンの影響が強い、最初期のピアノソナタの1つであるが、モーツァルトならではの個性がいち早く現れている作品。「キラキラ星」の主題による変奏曲は、1778年に作曲したピアノ曲で、当時フランスで流行していた恋の歌「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」 を基にした変奏曲。このLPレコードでのクララ・ハスキルの演奏は、これらモーツァルトの初期の作品を、誠に愛らしく、純粋に弾いている。クララ・ハスキル自身が、若き日のモーツァルトに同化したかのような演奏内容となっている。そこにあるのは、ただ一途に、音楽だけに奉仕するような、限りなく純粋な愉悦の世界が深く広がっている。これは、クララ・ハスキルが不世出のピアニストであったことが実感できるLPレコードであり、そして何よりモーツァルト弾きとしての真骨頂を存分に発揮していることを、聴いて取ることができるのである。(LPC)

コメント (2)

◇クラシック音楽LP◇ショーソン:「果てしない歌」/「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

2019-10-28 09:43:15 | 室内楽曲

ショーソン:「果てしない歌」       
       「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

ピアノ:ピエール・バルビゼ

ヴァイオリン:クリスチャン・フェラス

弦楽四重奏:パレナン弦楽四重奏団           

            ジャック・パレナン(第一ヴァイオリン)             
            マルセル・シャルパンティエ(第二ヴァイオリン)             
            ドゥネス・マルトン(ヴィオラ)             
            ピエール・ペナスウ(チェロ)

ソプラノ:アンドレエ・エストポジート

LP:東芝EMI EAC‐40125 

 フランスの作曲家であるエルネスト・ショーソン(1855年―1899年)は、我々日本人にとっては、フォーレほどは馴染はないのかもしれないが、「詩曲」の作曲家と言えば、「あの曲の作曲家なのか」と誰もが頷くことになる。それは「詩曲」を一度聴けば、その繊細で、夢の中を歩いているかのような、文字通り“詩的”な音楽との出会いに、誰もが一度は感激したことを思い出すからであろう。ショーソンは、24歳でパリ音楽院に入り、マスネ、フランクなどに作曲を学んだ後に、バイロイトでワーグナーの影響を強く受けたりもした。44歳で亡くなるまで、交響曲、室内楽、歌曲、歌劇など幅広い分野での作曲を手がける。その中でも、1896年(41歳)のときに作曲したヴァイオリンと管弦楽のための「詩曲 」が有名である。そのほか、交響曲 変ロ長調 や「愛と海の詩」などの曲で知られる。このLPレコードには、ソプラノの独唱にピアノと弦楽四重奏団が伴奏をする「果てしない歌」と「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」が収められている。この2曲は、「詩曲 」ほど有名ではないが、その内容の充実度からすると、「詩曲 」に比肩し、むしろフランス音楽的な詩情に関しては、一層濃密さを湛えた、隠れた名曲という位置づけがされても少しもおかしくない優れた作品だ。「果てしない歌」は、シャルル・クロスの、失われた愛に対する切々たる心情を吐露した詩によるもので、ソプラノのアンドレエ・エスポジートの澄んだ歌声が実に印象的であり、その繊細極まりない伸びやかな歌声を、ピアノのピエール・バルビゼとパレナン弦楽四重奏団が巧みにエスコートする様は、聴いていて、自然にため息が出てくるほど詩的情緒が溢れ出すといった演奏内容となっている。一方、「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」は、協奏曲という名称が付けられてはいるが、実質的には、室内楽の「六重奏曲」に相当する曲。全体は4つの楽章からなり、ピアノとヴァイオリンがリードしながら、6つの楽器全体が巧みに融合された、優れた室内楽作品に仕上がっている。ピエール・バルビゼのピアノ、クリスチャン・フェラスのヴァイオリン、それにパレナン弦楽四重奏の、デリケートなリリシズムに貫かれた演奏内容にリスナーは酔い痴れる。このようなフランス音楽の室内楽を静かに味わうにはLPレコードほど適したものはない。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのブラームス:ヴァイオリン協奏曲

2019-10-24 09:35:45 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:アンタル・ドラティ

管弦楽:ロンドン交響楽団

録音:1962年、ロンドン

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐267(6570 304)

 幾多の名盤がひしめくブラームス:ヴァイオリン協奏曲の中でも、このLPレコードは、今でも一際、その大きな存在感を示している名盤中の名盤と言っていいだろう。ヴァイオリンのヘンリック・シェリング(1918年―1988年)と指揮のアンタル・ドラティ(1906年―1988年)のコンビによる演奏は、ドイツ音楽の正統派の頂点に立つ存在と言って過言でない。このLPレコード聴いていると、最近の演奏が如何にこじんまりと纏まり過ぎているかを痛感せずにはいられない。このLPレコードでの悠揚迫らざる態度で演奏する様を聴いていると、このヴァイオリン協奏曲の奥に潜んだ、原石の持つ魅力を最大限に表現しようとする情熱を痛切に感じないわけには行かない。小手先の技巧には決して走らず、曲の持つ奥深さやスケールの大きさを最大限に表現して余り無い。第1楽章の全体にわたる実にゆったりとした表現は、ヘンリック・シェリングのヴァイオリンの美しい音色を聴かせるには丁度よいテンポだ。アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団の伴奏は、決して表面に立つことはせずに、ヘンリック・シェリングのヴァイオリンの演奏のサポート役に徹しているわけであるが、さりとて単なる裏方ではなく、引き締めるところはきちっと引き締め、ヴァイオリン演奏を巧みに盛り上げて、見事の一言に尽きる。ヘンリック・シェリングのヴァイオリン演奏は、シゲティの後継者とも言われていたように、表面的な表現より、曲の核心をぐいっと掴み取る表現力の凄みのようなものが感じられ、印象に強く焼き付く。第2楽章に入ると、この傾向がさらに深まる。そして何より考え抜かれた叙情的表現の美しさは例えようもない。知的な叙情味とでも言ったらいいのであろうか。テンポも第1楽章よりさらにゆっくりと運んでいるようにも感じられる。時折点滅するような、陰影感をたっぷりと含んだ表現力がリスナーに対して堪らない魅力を発散する。第3楽章は、一転して心地良いテンポに一挙に様変わりる。そして、ブラームスの曲特有の分厚く、しかも重々しい響きが辺り一面を覆い尽くす。しかもヘンリック・シェリングのヴァイオリン演奏は、最期まで恣意的な解釈を排して、曲の核心から離れることは一切ない。正統的てあるのに加えて、温かみのあるその演奏内容は、多くのファンの心を掴んで離さない。(LPC)

コメント

◇クラシック音楽LP◇オイストラフ&オボーリンの名コンビによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

2019-10-21 09:41:45 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

ヴァイオリン:ダヴィド・オイストラフ

ピアノ:レフ・オボーリン

録音:1957年、パリ

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) X‐5690

 ヴァイオリンのダヴィド・オイストラフ(1908年―1974年)は、ロシアのオデッサ生まれ。オデッサ音楽院で学び、同音楽院を1926年に卒業後、直ぐに演奏活動を開始。1935年「ヴィエニアスキ国際コンクール」第2位、そして1937年には、「イザイ国際コンクール(現エリーザベト王妃国際音楽コンクール)」に優勝して、世界的にその名を知られることになる。1938年にはモスクワ音楽院の教授に就任。1949年までは旧ソ連内での活動に留まっていたが、1950年以降になると西欧各国での演奏活動を積極的に展開するようになる。その優れた技巧と音色、そしてスケールの大きな演奏により、西欧でも名声を不同なものとして行く。1974年10月に客演先のアムステルダムのホテルで逝去した。享年66歳。一方、ピアノのレフ・オボーリン(1907年―1974年)は、モスクワ生まれ。モスクワ音楽院で学び、1927年に同音楽院を卒業した翌年の1928年、第1回「ショパン国際ピアノコンクール」に優勝。以後西欧各国から招かれ、その第一級の腕を高く評価された。1935年にモスクワ音楽院教授に就任。ピアニストで今は指揮者として活躍しているアシュケナージも教え子の一人という。1938年からはオイストラフとコンビを組み二重奏の演奏を開始。さらにチェロのクヌシェヴィッキーを加えたトリオの演奏でも高い評価を得た。1974年1月にモスクワで死去。この2人のコンビでベートーヴェンのヴァイオリン全集が録音されたが、その中から3曲を収めたのが今回のLPレコードである。ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番は、中期を前にした曲で、明るくまとまりの良いヴァイオリンソナタとして知られる。第2番は、初期の作品であり、モーツァルトの影響も見られ、内容の充実度というよりは、新鮮な内容が特徴。第4番は、ベートーヴェン独自の個性が発揮され始めた頃の作品。2人によるこれら3曲の演奏内容は、いずれも緻密な計算の上に立ち、高い技巧で表現されているのが特徴。一部の隙のない演奏ではあるが、人間味のある暖かみがベースとなっているので、聴いていて自然に心が和んでくる。完成度の高さは極限まで追究している一方で、音楽の心は決して忘れてはいない。やはり、2人は不世出の名コンビだったということを、改めて思い知らされた1枚のLPレコードであった。(LPC)

コメント