★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジノ・フランチェスカッティのクライスラー名曲集

2024-10-21 09:38:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 

~クライスラー名曲集~

クライスラー:愛の喜び        
       愛の悲しみ        
       レシタティーヴォとスケルツォ・カプリース
       ウィーン綺想曲        
          中国の太鼓        
          美しきロスマリン        
          プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ        
          ボッケリーニのスタイルによるアレグロ        
          ロンディーノ        
          ボルポラのスタイルによるメヌエット        
          ロンドンデリーの歌

ヴァイオリン:ジノ・フランチェスカッティ

ピアノ:アルトゥール・バルサム

LP:CBS/SONY SOCU 59

 このクライスラー名曲集のLPレコードで演奏しているヴァイオリストのジノ・フランチェスカッティ(1905年―1991年)は、日本でも数多くのファン(ただし、一度も来日歴は無い)を持った、名ヴァイオリニストであった。フランス人とイタリア人の血を引いているためか、イタリア的な明るさと、フランス的な優雅さとが混ざり合って、独特な雰囲気を醸し出していたヴァイオリニストであった。両親がマルセイユ歌劇場のヴァイオリン奏者を務めたいた関係もあり、3歳から父親の手ほどきを受け、5歳の時に公開の演奏会を開いたというから、早熟であったようだ。10歳でオーケストラと共演してベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏している。パリに出て、当初は、オーケストラの一員として活動したが、1931年からソリストとして独立。1939年には、アメリカでデビューを果たし、その名を世界に轟かすことになる。父親は、ジノ・フランチェスカッティに対し「何も沢山のヴァイオリニストの演奏を聴く必要は少しもない。クライスラーただ一人を聴けばいい」と言ったそうである。このためか、ジノ・フランチェスカッティにとって、クライスラーは陰の師というべき存在でもあったようである。このLPレコードに収められた全部で11曲のクライスラーの名曲を、ジノ・フランチェスカッティは、実に洒落た感覚で演奏しており、何回聴き直しても少しも飽きが来ないのはさすがというべきだろう。最初に書いたようにジノ・フランチェスカッティの血には、イタリア人の血とフランス人の血とが混ざっており、これによって、クライスラー独特の世界を、チャーミングな感覚で弾きこなすことに成功しているのである。クライスラーの曲は、ヴァイオリニストの力を試す試金石としてはこれ以上のものはない。ホントの実力が無ければ、クライスラーの曲の演奏で、リスナーを心から引き付けることは到底不可能だ。このLPレコードでのジノ・フランチェスカッティの演奏は、華やかさの裏に哀愁を含んだものとなっており、ジノ・フランチェスカッティが「クライスラーはこんな風に弾けばいいんだよ」とでも言っているように私には聴こえるのである。このLPレコードでピアノ伴奏をしているアルトゥール・バルサム(1906年―1994年)は、ポーランド・ワルシャワ出身。2人のコンビは1938年に始まっただけあって、十分に息の合った伴奏ぶりを披露している。(LPC)    

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◇クラシック音楽LP◇チェコの巨匠 ヴァツラフ・ノイマン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のグリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」

2024-10-17 09:38:52 | 管弦楽曲


グリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」

       ①ノルウェーの婚礼の行列(第1幕)        
       ②序曲、花嫁の略奪とイングリッドの嘆き(第2幕)
       ③山の魔王の殿堂にて(第2幕)        
       ④オーゼの死(第3幕)        
       ⑤序曲、朝の気分(第4幕)        
       ⑥アラビアの踊り(第4幕)        
       ⑦アニトラの踊り(第4幕)        
       ⑧ソルヴェーグの歌(第4幕)        
       ⑨序曲、ペール・ギュントの帰郷(第5幕)        
       ⑩ソルヴェーグの子守歌(第5幕)

指揮:ヴァツラフ・ノイマン

管弦楽:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

発売:1974年

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード) FG‐259

 ノルウェーの作曲家グリーグは、同じくノルウェーの劇作家のイプセンから、自作の詩劇「ペール・ギュント」の付帯音楽を作曲して欲しいという申し出に応え、苦心の末、5幕38場の戯曲に23曲の付帯音楽を書いた(1874年~75年)。ノルウェーの古い伝説によったイプセンのこの劇そのものは、1876年に初演されたが、主人公のペールによって引き起こされる騒動が、ノルウェー人の弱点を見せ付けられるようだということで、観客の反感をかってしまったと言われる。しかし、グリーグが付けた音楽は非常な好評を得たため、その後、グリーグは4曲づつの組曲を2つ作曲した。これが劇音楽「ペール・ギュント第1組曲/第2組曲」として、現在でもしばしば演奏されている。今回のLPレコードでは、この2つの組曲の8曲を、劇の進行順に配列し直し、さらに2つの組曲には含まれていない「ノルウェーの婚礼の行列」と「ソルヴェーグの子守歌」を添え、新たな一つの組曲として演奏している。指揮のヴァツラフ・ノイマン(1920年―1995年)は、プラハで生まれた。1945年、ヴィオラ奏者としてチェコ・フィルハーモニー管弦楽団に加わると同時に、1943年から1947年まで、スメタナ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者としても活動した。さらに、1948年から1950年まで、チェコ・フィルの常任指揮者を務めた。1961年からは、ドレスデン国立歌劇場とライプチヒ歌劇場で定期的に指揮活動を行い、さらに1962年にはプラハ室内管弦楽団を創立。1963年には、カレル・アンチェルと共同でチェコ・フィルの常任指揮者に復帰。そして、1964年からはコンヴィチュニーの後を受けて、ライプチヒ歌劇場とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽総監督という重責を担うことになる。ヴァツラフ・ノイマンは、チェコ音楽、特にヤナーチェックの歌劇を得意としていたが、グルック、ベートーヴェン、マーラーなどドイツ・オーストリア系音楽にも定評があった。このLPレコードで、ヴァツラフ・ノイマンの指揮は、北欧の郷土色をたっぷりと沁み込ませ、情緒のある表現力を存分に発揮している。単に表面的な華やかさを狙うのではなく、一つ一つの曲の持つ特徴を、心からの共感を持って演奏しているところが、他の指揮者とは一味も二味も異なるところである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇名テナー ムンテアヌーのシューマン:歌曲集「ミルテの花」全曲

2024-10-14 09:45:45 | 歌曲(男声)


シューマン:歌曲集「ミルテの花」全曲

          1. きみにささぐ
          2. 自由な心
          3. くるみの木
          4. だれかが
          5. 西東詩編「酌亭の書」から―ただひとりいて
          6. 西東詩編「酌亭の書」から―手あらく置くな
          7. はすの花
          8. お守り
          9. ズライカの歌
          10. ハイランドのやもめ
          11. 花嫁の歌「おかあさま、おかあさま」
          12. 花嫁の歌「あの人の胸に」
          13. ハイランドの人々の別れ
          14. ハイランドの人々のこもり歌
          15. ヘブライの歌から「心は重く」
          16. なぞ
          17. ヴェネチアの歌「静かに船を」
          18. ヴェネチアの歌「広場を風が」
          19. 大尉の妻
          20. 遠く、遠く
          21. ひとり残る涙
          22. だれも
          23. 西の国で
          24. あなたは花のように
          25. 東の国のばら
          26. 終りに

テノール:ペトレ・ムンテアヌー

ピアノ:フランツ・ホレチェック

発売:1978年8月

LP:日本コロムビア OC‐8021‐AW

 シューマンとクララ・ヴィークの結婚式は、1840年9月12日にライプチッヒ郊外のシェーネフェルトの教会で行われた。シューマンは、その前夜、「わが愛する花嫁に」という献呈の文字をミルテの花で飾った一冊の歌曲集をクララの許へと届けていた。これがシューマン:歌曲集「ミルテの花」なのである。何故、ミルテの花かというと、北欧では花嫁のヴェールにミルテの花をつけ、その白い花の香りの高さによって、花嫁の純潔と美とを象徴する習慣があるからである。つまり、この歌曲集「ミルテの花」の1曲、1曲が、クララに対する愛情がこもった内容となっており、シューマンにとっては、長い間の苦悩と忍従を通して、やっと結婚が成就できたという思い出が込められた歌曲集なのである。シューマンは、当初、ピアニストを目指すが、指を痛め断念し、作曲と評論の道へと進む。このことにより、恩師の娘でピアニストのクララへの愛が、ピアノ曲の作曲へと向かわせることになる。しかし、クララの父の反対で結婚への道のりは簡単なものではなかったのだ。そんな中、シューマンは、ハイネ、バイロン、リュッケルト、ゲーテらの詩集から自ら詩を選び、そして作曲し、一つの歌曲集としてまとめ上げた。これが歌曲集「ミルテの花」として結実したのである。シューマンは、文学の素養を充分に持っていたため、詩の選択には誰もが一目を置く存在であった。このことが、ドイツ・ロマン派の味わい深い歌曲を完成させることに繋がったのだ。1840年は、この「ミルテの花」のほか「リーダークライス」「詩人の恋」など全部で180曲もの歌曲を書き続ける。このことから、この年は、後世”シューマンの歌の年”と呼ばれることになる。このLPレコードではテノールのペトレ・ムンテアヌー(1916年―1988年)が歌っている。ペトレ・ムンテアヌは、ルーマニア生まれ。ブカレスト国立歌劇場でデビューした後、ベルリンに留学。その後、イタリアに渡り、1947年にスカラ座にデビュー。ドイツリートでは日本でも熱狂的なファンがいた。このLPレコードでも少々くぐもったような音質が、シューマン独特のロマンの世界を表現することに成功しているといえよう。ドイツ・ロマン派の音楽、特に歌曲においては、詩的で幻想的な個人の内面の世界が、その歌声に込められていなくてはならない。その点から見ると、ムンテアヌーはこの曲集の最適な歌手の一人であったと言うことができる。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

2024-10-10 09:40:12 | 交響曲


ドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9131

 ドヴォルザークは、有名な交響曲第9番「新世界から」を書く4年前に、着手から僅か3カ月で完成させたのが、今回のLPレコードの交響曲第8番「イギリス」である。ドヴォルザークの研究家として名高い評論家のショウレック氏は、その著書「ドヴォルザークの生涯と作品」の中で「この曲は、男性的表現を持ち、直接にボヘミアの自然とチェコの民族から発生したものであるかのように素直に表現されている。彼の生命力と芸術的な円熟のみならず、彼の人格的および国民的特性の円熟を確証する最も典型的な作品である」と高く評価している。全9曲あるドヴォルザークの交響曲の中でも最もスラブ色濃い作品であり、特に第3楽章の哀愁を秘めたメロディーを一度でも聴けば、誰もがこの曲に愛着を持つようになること請け合いだ。全体は、古典的な交響曲の様式を踏襲しながらも、各楽章とも自由な形式によって書かれていることが、人気の秘密なのかもしれない。そして、全体に自然との触れ合いが感じられ、それが詩的な処理がされているため、素直に曲に入っていけるが嬉しい。ところでこの交響曲には「イギリス」という副題が付けられているので、何か英国と関わりの基に作曲されたたかのように感じられるが、実は、この曲の総譜が1892年にロンドンの出版社ノヴェロ社から出版されたから、というのが正解らしい。もしそうだとしたら、これからでも遅くないから、「ボヘミア」とでも副題を変更したらどうであろう。これならこの曲の持つイメージにぴたりと合う副題になると思うのだが・・・。このLPレコードで演奏しているのがヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。ここでのカラヤンの指揮ぶりは、その特徴である一糸乱れぬ端正な構成能力を遺憾なく見せつける。この曲は、古典的な性格に加えて、豊かな自然を思わせる豊饒さを備えた曲であるが、これらがカラヤンの本来持つ特性にうまく溶けあい、数あるこの曲の録音の中でも、名録音の一つに数えられるほどの仕上がりを見せている。そして、何と言ってもウィーン・フィルの伸びやかでピュアな響きがなんとも心地良い。これに加え、LPレコードが本来持つ音質の柔らかさが加味され、あたかも目の前に豊かな自然が浮かび上がって来るような錯覚にすら捉われてしまう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン=ジャック・カントロフ&ジャック・ルヴィエによるドヴュッシー/ラヴェル:ヴァイオリンソナタほか

2024-10-07 09:46:18 | 室内楽曲


ラヴェル:ヴァイオリンソナタ      
     フォーレの名による子守唄
ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ

ピアノ:ジャック・ルヴィエ

発売:1977年

LP:RVC(仏コスタラ出版社) ERX‐2317

 このLPレコードには、フランスの大作曲家のドヴュッシーとラヴェルのヴァイオリンとピアノのために書かれた全ての作品が収められている。意外に少ないと感じられるかもしれないが、2人ともロマン派の作曲家が得意としたヴァイオリンとピアノのための作品を、晩年に至るまで、あまり快くは思ってなかったようである。ところがこのLPレコードに収められた4曲の作品はいずれも優れたもので、特にドヴュッシー:ヴァイオリンソナタは、このLPレコードのライナーノートに「ドヴュッシーが彼の才能の頂点に立っていることを示している。彼の霊感がこれほど灼熱のほとばしりをみせ、これほど豊かな幻想と多様性をみせたことがかつてあったろうか」(ハリー・ハルブレイチ氏)と書かれているとおり、内容の充実した作品に仕上がっている。作曲は第一次世界大戦中の1916年から1917年にかけて行われ、重病をおして最後の力を振り絞り、2年前にスケッチしてあった作品を完成させたものだという。このヴァイオリンソナタは、ドビュッシーの全作品の最期となった作品。ドビュッシーは晩年になり、チェロソナタ、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ、それにこのヴァイオリンソナタの3曲を作曲した。一方、ラヴェル:ヴァイオリンソナタは、1927年のはじめ、4年前の完成に至らなかったヴァイオリン協奏曲を基にして完成させた作品。初演は1927年に、伝説のヴァイオリニストのジョルジュ・エネスコとラヴェル自身のピアノによって行われた。これは、丁度、ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタの10年後に当る。第2楽章のブルースで、ラヴェルは後の2つの協奏曲と同様にジャズの要素を取り入れている。この曲は、ラヴェルの室内楽曲の最後の作品となった。このLPレコードでは、フランス出身のヴァイオリニストで、後に指揮者に転向したジャン=ジャック・カントロフ(1945年生まれ)が演奏している。ピアノはフランス出身のジャック・ルヴィエ(1947年生まれ)で、1970年にジャン=ジャック・カントロフとフィリップ・ミュレとともにピアノ三重奏団を結成している。このLPレコードでの演奏内容は、フランス音楽の精緻さを強く感じさせるもので、まるで宝石箱から溢れ出る光のように、きらびやかであると同時に、どこまでも広がる透明感が何ともいえない優雅な雰囲気を、辺り一面に醸し出す。フランスの室内楽の醍醐味を存分に味わえるLPレコードだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団のベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

2024-10-03 09:38:52 | 交響曲


ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

指揮:ロリン・マゼール

管弦楽:クリーブランド管弦楽団

ヴィオラ:ロバート・ヴァーノン

録音:1977年10月2日

発売:1978年

LP:キングレコード SLA1168

 ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」には、如何にもベルリオーズらしい作曲の経緯がある。ベルリオーズの有名な「幻想交響曲」は、1830年12月に初演されたが、当時大きな話題を集め、その話を聞きつけて「幻想交響曲」を聴き、いたく感激した一人に、超人的技巧で名を馳せていた大ヴァイオリニストのパガニーニがいた。当時パガニーニは、ストラディバリウスのヴィオラの銘器を入手したが、これといったヴィオラ用の協奏曲がなかったため、ベルリオーズに新しいヴィオラ協奏曲の作曲を依頼したのであった。ところが出来上がった第1楽章の楽譜を見て、当初期待していたようなヴィオラが華やかに活躍する協奏曲とはなっておらず、このためパガニーニは作曲の依頼から降りてしまう。そうなると、後はベルリオーズの意図のみで作曲が進められることになる。テーマとしては、バイロンのメランコリックな夢想者の物語を内容とした長篇詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」が取り上げられ、さらにベルリオーズがイタリアに留学中の想い出の地、アブルッチを回想して「イタリアのハロルド」と命名された。曲は1834年に完成し、初演で大成功を収めたという。各楽章には標題が付けられている。第1楽章「山におけるハロルド、憂鬱、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷をうたう巡礼の行進」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナーデ」、第4楽章「山賊の饗宴、前景の追想」。ハロルド役はヴィオラの演奏。固定楽想を奏し、嘆いたり、取り乱したりするが、やがてハロルド自らが求めて山賊の洞窟に踏み入れ、そして、凶暴な山賊によって、昇天するという、如何にもベルリオーズ好みの怪奇的ストーリーとなっている。そんな内容の交響曲「イタリアのハロルド」を、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団は、各楽章に付けられた標題を、リスナーが思い浮かべられるかのように、実に丁寧に、しかも明快に劇的に演奏する。ロバート・ヴァーノンのヴィオラは、ベルリオーズの構想どおりオーケストラと一体化して、決して協奏曲的な表現は取らない。このLPレコードは、ロリン・マゼール(1930年―2014年)がクリーヴランド管弦楽団の音楽監督時代の録音。当時、ロリン・マゼールはまだ47歳であり、如何にも颯爽とした雰囲気の指揮ぶりに加え、既に巨匠の片鱗を覗かせており興味深い。この後の1982年にはウィーン国立歌劇場の総監督に就任し、ロリン・マゼールは世界の頂点に立つことになる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のパウル・パドゥラ=スコダとバリリ四重奏団員らによるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

2024-09-30 09:40:21 | 室内楽曲


シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」

ピアノ:パウル・パドゥラ=スコダ

バリリ四重奏団員           

     ワルター・バリリ(ヴァイオリン)      
     リドルフ・シュトレング(ヴィオラ)      
     エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

コントラバス:オットー・リューム

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OS‐8003‐AW

 シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」ほど、日本人に愛好されているクラシック音楽はないであろう。それほどポピュラーな曲ではあるが、楽器の編成が、ピアノに加え、コントラバス、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ一つずつという少々変わったものになっている。通常のピアノ五重奏曲は、ピアノに弦楽四重奏という編成となっているのが普通であるが、シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」は、これとは少々異なる。この理由として考えられているのが、この曲の作曲を依頼し、シューベルトが旅をしたときに世話になった、鉱山関係の役人であったジルヴェスター・パウムガルトナーである。この人はチェロの演奏をしばしば楽しんでいたようで、シューベルトは、このことに配慮をして、コントラバスに主に低音部を担わせ、チェロには自由に演奏できる余地をつくったのではないかと考えられている。室内楽の古今の名曲であるシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を、このLPレコードで演奏しているのが、ピアノのパウル・パドゥラ=スコダ(1927年―2019年)とバリリ四重奏団員、それにコントラバスのオットー・リューム(1906-1979年)である。パウル・バドゥラ=スコダは、オーストリア出身のピアニストで、若い時には、イェルク・デームス(1928年―2019年)やフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに、いわゆる“ウィーン三羽烏”のひとりと言われていた。1945年からウィーン音楽院に学び、1947年に「オーストリア音楽コンクール」に優勝。1949年にはフルトヴェングラーやカラヤンらといった著名な指揮者と共演し、1950年代には日本を訪れた。80歳を過ぎても現役のピアニストとして活躍し、度々来日して円熟の極の演奏を披露して、日本の聴衆に深い感銘を与えたが、2019年9月25日にウイーンの自宅で死去した。このLPレコードでのパウル・パドゥラ=スコダの演奏は、ピアニストとして最も円熟の境地に達していた年齢であり、ウィーン情緒たっぷりに、優雅で歌うように演奏しており、聴いているだけで自然に心が浮き浮きしてくるような演奏を披露している。バリリ四重奏団員も、パウル・パドゥラ=スコダにぴたりと息を合わせ、持ち前のウィーン情緒をたっぷりと含んだ演奏を聴かせる。このLPレコードを聴き、久しぶりに本場のシューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」を聴いた思いがした。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジョージ・ウェルドン指揮によるグリーグ:ホルベルク組曲(ホルベルク時代から) /二つの悲しき旋律 /ノルウェー舞曲 /抒情組曲

2024-09-26 09:47:17 | 管弦楽曲


グリーク:ホルベルク組曲(ホルベルク時代から)
     二つの悲しき旋律
     ノルウェー舞曲
     抒情組曲

指揮:ジョージ・ウェルドン

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団(ホルベルク組曲/二つの悲しき旋律)
    ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(ノルウェー舞曲/抒情組曲)

LP:東芝EMI EAC‐30166

 これは、グリークの管弦楽曲を収録したLPレコードであるが、どの曲もグリークの魅力的な旋律が存分に込められた曲であり、グリークという北欧の大作曲家の素顔を知ることができる。「ホルベルク組曲」のホルベルクとは、デンマークの文学の父と呼ばれたルードヴィ・ホルベア男爵を指す。グリークと同郷のノルウェーのベルゲン出身で、コペンハーゲン大学の教授を務め、デンマークの古典文学を興し、高めたことで知られる。その頃、ノルウェーは、独立しておらず、デンマークおよびスウェーデンに支配されていたため「デンマークのモリエール」などと呼ばれていた。グリークは、ホルベアの生誕200年を記念して、1884年にピアノ独奏用の「ホルベルクの時代から」を作曲し、翌年にこれを管弦楽用に編曲した。全5曲からなり、北欧風ロココ趣味的内容となっている。「二つの悲しき旋律」は、1880年に作曲された「六つの歌」第1巻から第2曲目「過ぎた春」と第3曲目「胸のいたで」を基に管弦楽用に編曲したものだが、この時、第2曲目と第3曲目を入れ替えているが、2曲とも悲愁に満ちた美しい抒情曲となっている。ノルウェーには素朴な舞曲が数多く存在するが、グリークは「ノルウェー舞曲」Op.35と「交響的舞曲」Op.64の2つの管弦楽曲を遺している。「ノルウェー舞曲」は、1881年頃に作曲された作品。「抒情組曲」は、全10巻わたるピアノ独奏曲「抒情小曲集」を基に管弦楽用に編曲した作品。1891年に発表された「抒情小曲集」第5集の6曲のうち4曲を「抒情組曲」として管弦楽用編曲したもの。このLPレコードでは、1943年から1951年までバーミンガム市交響楽団の首席指揮者を務めたイギリス出身のジョージ・ウェルドン(1906年―1963年)が指揮をしている。北欧の自然の素朴な美しさを優しく包み込んだようなグリークの管弦楽曲は、ウェルドンのように、心のこもった演奏をする指揮者が一番よく似合う。どの曲もしみじみとした雰囲気を湛えた演奏となっており、じっくりと聴くのにはこの上ない演奏内容となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クララ・ハスキルのモーツァルト:ピアノ協奏曲第13番/ピアノソナタ第2番/「キラキラ星」の主題による変奏曲

2024-09-23 09:59:11 | 協奏曲(ピアノ)


モーツァルト:ピアノ協奏曲第13番
       ピアノソナタ第2番
       「キラキラ星」の主題による変奏曲

ピアノ:クララ・ハスキル

指揮:ルドルフ・パウムガルトナー

管弦楽:ルツェルン祝祭弦楽合奏団

録音:1960年5月5日~6日、ルツェルン、ルカ教会、ゲマインデザール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MGW5263

 クララ・ハスキル(1895年―1960年)は、ルーマニア出身の名ピアニスト。15歳でパリ音楽院を最優秀賞を得て卒業し、ヨーロッパ各地で演奏活動を展開するが、1913年に脊柱側湾の徴候を発症し、以後、死に至るまで病苦に苦しめられることになる。このために当初は正統な評価を受けることは少なかった。しかし、第二次世界大戦後の1950年を境に一躍脚光を浴び始め、カラヤンなど著名な指揮者や演奏家に支持されると同時に、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国での演奏活動において、熱狂的な聴衆に支持され、その名声は世界的に広まるようになる。得意としたレパートリーは、古典派と初期ロマン派で、とりわけモーツァルトの演奏には定評があった。室内楽奏者としても活躍し、アルテュール・グリュミオーの共演者として高い評価を受けることになる。しかし、演奏会へ向かうブリュッセルの駅で転落した際に負った怪我がもとで死に至る。現在、その偉業を偲び「クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール」が開催されていることはご存じの通り。そんなクララ・ハスキルが、このLPレコードにおいて、お得意のモーツァルトの初期の作品を演奏している。ピアノ協奏曲第13番は、第11番、第12番とともに、1783年にウィーンで作曲された曲。3曲のうち第13番だけ、管弦楽にトランペットとティンパニーを加え、華やかさを備えている。ピアノソナタ第2番 ヘ長調 K.280は、ハイドンの影響が強い、最初期のピアノソナタの1つであるが、モーツァルトならではの個性がいち早く現れている作品。「キラキラ星」の主題による変奏曲は、1778年に作曲したピアノ曲で、当時フランスで流行していた恋の歌「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」 を基にした変奏曲。このLPレコードでのクララ・ハスキルの演奏は、これらモーツァルトの初期の作品を、誠に愛らしく、純粋に弾いている。クララ・ハスキル自身が、若き日のモーツァルトに同化したかのような演奏内容となっている。そこにあるのは、ただ一途に、音楽だけに奉仕するような、限りなく純粋な愉悦の世界が深く広がっている。これは、クララ・ハスキルが不世出のピアニストであったことが実感できるLPレコードであり、そして何よりモーツァルト弾きとしての真骨頂を存分に発揮していることを、聴いて取ることができるのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ピエール・バルビゼ 、クリスチャン・フェラス 、パレナン弦楽四重奏団のショーソン:「果てしない歌」/「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

2024-09-19 10:02:04 | 室内楽曲


ショーソン:「果てしない歌」       
      「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」

ピアノ:ピエール・バルビゼ

ヴァイオリン:クリスチャン・フェラス

弦楽四重奏:パレナン弦楽四重奏団           

        ジャック・パレナン(第一ヴァイオリン)         マルセル・シャルパンティエ(第二ヴァイオリン)         ドゥネス・マルトン(ヴィオラ)             
        ピエール・ペナスウ(チェロ)

ソプラノ:アンドレエ・エストポジート

LP:東芝EMI EAC‐40125 

 フランスの作曲家であるエルネスト・ショーソン(1855年―1899年)は、我々日本人にとっては、フォーレほどは馴染はないのかもしれないが、「詩曲」の作曲家と言えば、「あの曲の作曲家なのか」と誰もが頷くことになる。それは「詩曲」を一度聴けば、その繊細で、夢の中を歩いているかのような、文字通り“詩的”な音楽との出会いに、誰もが一度は感激したことを思い出すからであろう。ショーソンは、24歳でパリ音楽院に入り、マスネ、フランクなどに作曲を学んだ後に、バイロイトでワーグナーの影響を強く受けたりもした。44歳で亡くなるまで、交響曲、室内楽、歌曲、歌劇など幅広い分野での作曲を手がける。その中でも、1896年(41歳)のときに作曲したヴァイオリンと管弦楽のための「詩曲 」が有名である。そのほか、交響曲 変ロ長調 や「愛と海の詩」などの曲で知られる。このLPレコードには、ソプラノの独唱にピアノと弦楽四重奏団が伴奏をする「果てしない歌」と「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」が収められている。この2曲は、「詩曲 」ほど有名ではないが、その内容の充実度からすると、「詩曲 」に比肩し、むしろフランス音楽的な詩情に関しては、一層濃密さを湛えた、隠れた名曲という位置づけがされても少しもおかしくない優れた作品だ。「果てしない歌」は、シャルル・クロスの、失われた愛に対する切々たる心情を吐露した詩によるもので、ソプラノのアンドレエ・エスポジートの澄んだ歌声が実に印象的であり、その繊細極まりない伸びやかな歌声を、ピアノのピエール・バルビゼとパレナン弦楽四重奏団が巧みにエスコートする様は、聴いていて、自然にため息が出てくるほど詩的情緒が溢れ出すといった演奏内容となっている。一方、「ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」は、協奏曲という名称が付けられてはいるが、実質的には、室内楽の「六重奏曲」に相当する曲。全体は4つの楽章からなり、ピアノとヴァイオリンがリードしながら、6つの楽器全体が巧みに融合された、優れた室内楽作品に仕上がっている。ピエール・バルビゼのピアノ、クリスチャン・フェラスのヴァイオリン、それにパレナン弦楽四重奏の、デリケートなリリシズムに貫かれた演奏内容にリスナーは酔い痴れる。このようなフランス音楽の室内楽を静かに味わうにはLPレコードほど適したものはない。(LPC)

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