★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのシューマン:子供の情景/蝶々

2020-11-30 09:35:29 | 器楽曲(ピアノ)

シューマン:子供の情景
      蝶々
      アラベスケ

ピアノ:サンソン・フランソワ(子供の情景/蝶々)
    ジャン=ベルナール・ポミエ(アラベスケ)

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30039

  シューマンのピアノ独奏曲「子供の情景」は、1838年2月から4月にかけて作曲された。これは、シューマンの9歳年上の妻クララから「時々、あなたは子供に思えます」という手紙に触発されて書かれたと言われている。全部で30曲ほどつくった中から、12曲を選び出し、さらに出版時に1曲を加えた全部で13曲からなり、これらに「子供の情景」という名前を付けたもの。「子供の情景」という名から、子供のための音楽と思われるが、「子供の心を描いた、大人のための曲」というのが正解。次の曲のシューマン:「蝶々」も、序曲と12の小曲からなるピアノ独奏曲。ジャン・パウルの小説「なまいき盛り」の終わり近くに出てくる“仮面舞踏会”にヒントを得て書いたと言われている。もともとシューマンは「人々は皆仮面舞踏会の人物のように、本体は深く内に秘め、外見ははかない仮の衣装を着て生きているに過ぎない」という考えを持っており、しばしば仮面舞踏会を扱った作品を作曲しているが、この曲もそれらの一つ。曲名の「パピオン」は、「蝶々」という意味のほか、「ひらひら舞う紙切れ」という意味があるが、シューマンはこの両方の意味を込め、この題を付けた。3つ目の曲のシューマン:「アラベスケ」は、1838年、シューマン29歳の時の作品。妻のクララは、この曲をことのほか愛し、コンサートでしばしば演奏したという。ところで、このLPレコードのライナーノートは、藤田晴子(1918年―2001年)が書いている。藤田晴子は、ピアニストのほか、音楽評論家、法学者としても活躍し、音楽関係の単行本のほか、「レコード芸術」誌の月評を手掛けていた。その生前の功績を讃え、岩手県八幡平市に「藤田晴子記念館」が開設されている。ところで、このLPレコードは、「子供の情景」と「蝶々」をサンソン・フランソワ(1924年―1970年)、「アラベスケ」をジャン=ベルナール・ポミエ(1944年生まれ)と、フランスを代表する2人のピアニストが録音している。サンソン・フランソワの「子供の情景」と「蝶々」の演奏は、いつものフランソワとは少々異なり、内に向かう志向の強い演奏であり、安定感のある、同時に温かみが一段と光る演奏内容である。フランソワにもこんな穏やかな一面があったのか、と思わず感じ入って聴いてしまった。一方、ジャン=ベルナール・ポミエの「アラベスケ」は、如何にも若き日の演奏に相応しく、躍動感に溢れた演奏であり、同時に抒情味も持ち合わせている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウのブルックナー:交響曲第8番

2020-11-26 09:39:26 | 交響曲

ブルックナー:交響曲第8番

指揮:エドゥアルト・ファン・ベイヌム

管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

録音:1955年6月6日―9日、アムステルダム・コンセルトヘボウ

発売:1976年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード)  PC‐1593

 このLPレコードは、エドゥアルト・ファン・ベイヌム(1901年―1959年)が手兵のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してブルックナー:交響曲第8番を収録たもの。ベイヌムは、オランダ東部の町アルンヘムで生まれ、アムステルダム音楽院で学び、1927年にプロの指揮者としてデビューを果たした。その後、ウィレム・メンゲルベルクの招きでアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の次席指揮者となり、さらには、1938年からメンゲルベルクとともに首席指揮者に就任した。第二次世界大戦後の1945年、メンゲルベルクがナチスへ協力したことでスイスに追放されたため、ベイヌムはメンゲルベルクの後をついで、同楽団の音楽監督兼終身指揮者に就任した。その後、ロンドン・フィルの首席指揮者、ロサンゼルス・フィルの終身指揮者にも就いた。しかし、1959年の4月13日に、アムステルダムでブラームスの交響曲第1番のリハーサル中に心臓発作を起こし、57歳で急逝した。ベイヌムの功績は、メンゲルベルク時代の古い演奏法を一新し、現代的な演奏法をアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団に植え付けたことにある。アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、現在世界の三大オーケストラの一つに数えられているが、その成り立ちはアムステルダム市民の手づくりオーケストラが出発点となっていた。ベイヌムが残した、このブルックナー:交響曲第8番は、超ど級と言ってもいいほど内容の充実した演奏内容となっている。ブルックナーの交響曲第8番は、ベートーヴェンの交響曲第9番に匹敵するような偉大な交響曲であるが、ここでのベイヌムの指揮ぶりは、雄大で地の底から吹き上げるような力強さに満ち溢れたものに仕上がっている。それに加え、大時代がかったところは微塵もなく、すこぶる現代的で、全体はすっきりとまとまっている。そして、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の団員一人一人の演奏能力の高さにも目を見張らされる。すべての音楽が自然の摂理の中で息づいている。分厚い響きの弦楽器群と雄大な響きの管楽器群、いずれもこれ以上は考えられないと言っていいほどブルックナーの世界を十全に表現し尽す。こんな完璧な録音が現在、忘れ去られようとしていること自体、残念至極としか言いようがない。モノラルで録音は古いが鑑賞には支障はない(CDでも発売されている)。正に「ベイヌム盤を聴かずして、ブルックナーの交響曲第8番を語るなかれ」である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇モーツァルト:ピアノと管楽器のための五重奏曲K.452/ロンドK.617/三重奏曲K.498

2020-11-23 08:35:03 | 室内楽曲

モーツァルト:ピアノと管楽器のための五重奏曲K.452
       チェレスタ、フルート、オーボエ、ヴィオラ&チェロのためのアダージョとロ
       ンドK.617
       ピアノとクラリネットとヴィオラのための三重奏曲K.498
 
リリー・クラウス(ピアノ/チェレスタ)
ピエール・ピエルロ(オーボエ)
ジャック・ランスロー(クラリネット)
ポール・オンニュ(ファゴット)
ジルベール・クールジェ(ホルン)
ジャン・ピエール・ランパル(フルート)
フランソワ・エティエンヌ(クラリネット)
ピエール・パスキエ(ヴィオラ)
エティエンヌ・パスキエ(チェロ)

LP:東芝音楽工業(仏ディスコフィル原盤) AB-8102 

 このLPレコードのジャケットの帯には、「フランス第一線の巨匠一堂に会す!!」と書かれているが、このキャッチフレーズは、このLPレコードの本質をずばりと言い当てている。ピアノのリリー・クラウス(1903年―1986年)は、最高のモーツアルト弾きとして定評があったし、皆いずれ劣らぬ名手揃いであり、当時のフランスの演奏家の最高峰を形成していた人々が名を連ねている。このLPレコードに収められたモーツァルトの室内楽3曲は、知る人ぞ知る的な名曲であり、聴き応え十分な曲ばかり。1曲目の「ピアノと管楽器のための五重奏曲K.452」は、1784年3月30年に書き上げられ、4月1日の演奏会で“まったく新しい大きな五重曲”として紹介された作品。曲は全3楽章からなっており、当時、モーツァルトは貧困にあえいでいたが、そんなことを感じさせない、明るく軽快な曲に仕上がっており、それぞれの楽器の持ち味ををよく発揮させた曲となっている。2曲目の「チェレスタ、フルート、オーボエ、ヴィオラ&チェロのためのアダージョとロンドK.617」は、もともとグラス・ハーモニカのために作曲された曲だが、このLPレコードのように現在ではチェレスタで演奏される。これは、グラス・ハーモニカの音色とチェレスタが似ているため。グラス・ハーモニカは、一時、その響きが人体に悪影響を及ぼすのではという誤った認識があり廃れたが、最近では復活の兆しもあるようだ。この曲はモーツァルトが世を去る半年前の1791年5月にウィーンで作曲された。作品の内容は、晩年のモーツァルトの作品に共通した、宗教的な浄化とでもいえる奥深さを垣間見せる室内楽作品となっている。3曲目の「ピアノとクラリネットとヴィオラのための三重奏曲K.498」は、1786年8月にウィーンで作曲された作品で、1曲目の「ピアノと管楽器のための五重奏曲K.452」に少々似た曲想を持った全3楽章からなる曲。この曲は、“ケーゲルシュタット三重奏曲”と呼ばれることがある。ケーゲルシュタットとは、ボーリングに似た九柱戯という球技を楽しむための広場のことで、モーツァルトは九柱戯をしながらこの曲を書いたと言われることから名づけられたが、その真偽は不明。これら3曲の演奏内容は、名に違わぬ名演で、特にそれぞれの楽器同士が打ち解け合いながら、モーツァルトの室内楽の世界を表現する様は見事というほかない。この繊細さと詩的な雰囲気を持つ演奏は、ドイツ・オーストリア系の演奏家のそれとは明らかに一味違う。当時のフランスの演奏家のレベルの高さが聴き取れる貴重な録音だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルのシューマン:ピアノ協奏曲/ロストロポーヴィッチのシューマン:チェロ協奏曲

2020-11-19 09:37:27 | 協奏曲

シューマン:ピアノ協奏曲
      チェロ協奏曲

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

指揮:ヴィトールド・ロヴィッキ
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー交響楽団

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

指揮:ゲンナディ・ロジェストヴェンスキ
管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本グラモフォン MG 2202

録音:1958年10月11日~12日、ワルシャワ,ナショナル・フィルハーモニー(ピアノ協奏曲)
   1960年9月12日、ロンドン、ウィンプレイ・タウンホール(チェロ協奏曲)

 このLPレコードは、シューマンのドイツ・ロマン派を代表するピアノ協奏曲とチェロ協奏曲を1枚に収め、しかもスヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)とムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)という、当時の演奏家の頂点に立つ2人が演奏している、これ以上は望めないというほどの内容が充実した録音である。シューマン:ピアノ協奏曲は、1845年に完成された、シューマンの遺した唯一のピアノ協奏曲で、初演は、1846年にクララ・シューマンのピアノ独奏によって行われた。その後、クララ・シューマンの人気とも相まって、このピアノ協奏曲は、多くの支持を集めることになる。この背景には、当時リストやパガニーニに代表されるヴィルトオーゾ風の曲の全盛時代であり、シューマン:ピアノ協奏曲の曲想は、これらとは正反対の、内省的で夢想的な、正にロマン派そのものの曲への期待が挙げられよう。一方、シューマン:チェロ協奏曲は、1850年に作曲された曲。通常3つの楽章は途切れなく演奏される。曲風は地味ながら、ピアノ協奏曲にも増してロマンの香り高い名品で、現在でもしばしばコンサートで取り上げられる曲となっている。このLPレコードにおいてリヒテルのピアノ演奏は、通常のリヒテル特有の力強いピアノタッチは鳴りを潜め、代わりに詩情豊かな柔らかいピアノタッチが響き渡る。テンポも緩やかで、思う存分シューマンのロマンの世界に浸ることができる。ベートヴェンなどで見せるリヒテルの男性的な演奏とは一味違って、ツボを心得た詩的な感情表現が誠に見事だ。わざとらしさは微塵もなく、シューマンの内省的で夢を見ているような世界を表現し、リヒテルの懐の深さを思い知らされる録音だ。一方のチェロ協奏曲は、ピアノ協奏曲が明るい夢想の世界とするなら、暗く沈み込むような夢想の世界が辺り一面に漂う曲だ。オーケストラの結び付きは、さらに緊密ととなってくる。ロストロポーヴィッチの演奏は、あたかもヴァイオリンのように軽々とチェロを奏していることにまず目を見張らされる。辺り一面に静寂さが漂い、その中をチェロとオーケストラが相互に絡み合うように曲を進める。ここには、単に技巧だけで曲を盛り上げるといった雰囲気は皆無。汲めども尽きぬ透明な泉から、真水がこんこんと自然に湧き出してくるようなみずみずしさが魅力的な演奏だ。ロジェストヴェンスキ指揮レニングラード・フィルの伴奏も、ロストロポーヴィッチのチェロ演奏に一歩も引かぬ高みに達していることが、この録音の価値を一層際立たせている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クライスラー愛奏曲集(最盛期の自作自演集)

2020-11-16 09:35:12 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

クライスラー:ウィーン奇想曲(1926年4月14日録音)
       中国の太鼓(1928年2月27日録音)
       愛の喜び(1926年4月14日録音)
       愛の悲しみ(1926年4月14日録音)
       美しきロスマリン(1927年3月25日録音)
       羊飼いの牧歌(1927年3月17日録音)
       ベートーヴェンの主題によるロンディーノ(1928年12月6日)
       オールド・リフレイン(1924年4月9日録音)
       ルイ13世の歌とパヴァーヌ(1929年12月18日録音)
       ジプシー奇想曲(1927年3月25日録音)
       ユモレスク<ドヴォルザーク~クライスラー編>(1927年3月26日録音)
       インディアン・ラメント<ドヴォルザーク~クライスラー編>
                                (1928年12月21日録音)

ヴァイオリン:フリッツ・クライスラー

ピアノ:カール・ラムソン

発売:1979年

LP:RVC(RCA RECORD) RVC-1561

 このLPレコードは、名ヴァイオリニストであり、同時に愛らしい数多くの小品を残したフリッツ・クライスラー(1875年―1962年)が、自作自演の演奏をSPレコードに録音したものを、LPレコードに復刻した“赤盤復刻シリーズ”の中の1枚である。クライスラーは、1904年、29歳の時から録音を始め、SPレコードの末期に至るまでの長い期間にわたり録音したが、今回のLPレコードは、1920年代というクライスラーの最盛期の年代に録音されたものだけに、クライスラーのヴァイオリン演奏を最善な状態で記録したものとしてその存在価値は高い。音質は現在のそれとは比較にはならないが、決して聴きづらいものではなく、かえってSPレコード特有の柔らかく澄んだ音質がクライスラーの曲と演奏にぴたりと合い、決してマイナス要因にはなっていない点は特筆される。フリッツ・クライスラーはオーストリア出身で、パリ高等音楽院を12歳にして首席で卒業するなど神童ぶりを発揮。一時、軍人の道を歩み始めようとするが、音楽界に復帰し、演奏活動に邁進すると同時に作曲も手掛け始める。1914年に勃発した第一次世界大戦では陸軍中尉として召集を受け、東部戦線に出征し、重傷を負って除隊となった。除隊後は療養しながら演奏活動を再開。しかし、1938年、今度はオーストリアがナチス・ドイツに併合されたのを機にフランス国籍を取得し、パリに移住することになる。さらに1939年、ヨーロッパに第二次世界大戦勃発の気配が濃厚になると、アメリカ永住を決意してニューヨークに移り、1943年にはアメリカ国籍を取得。以後アメリカで一生を過ごすことになる。クライスラーは陽気で冗談が好きだったらしく、自作の「ルイ13世の歌とパヴァーヌ」を作曲したときなどは、クープランの作品として発表したそうで、皆を煙に巻いて一人楽しんでいたという。このLPレコードに収録されたクライスラーが作曲・編曲した曲は、皆お馴染みの曲であり無条件に楽しめる。クライスラーの演奏は、艶っぽさと同時に純真無垢な爽やかさも持ち合わせており、その魅惑的なヴァイオリンの音色は、リスナーを引き付けずにはおかない。テンポも速すぎもせず、遅すぎることもなく、その絶妙の手綱捌きは、さすが大家の雰囲気を漂わせている。今では、多くのヴァイオリニストがクライスラーの小品を録音しているが、このLPレコードは、クライスラー自身が全盛時代に、自らが作曲した小品を録音したもので、今現在でも不滅の光を放っている録音なのである。(LPC)

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