★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇巨匠トスカニーニ指揮NBC交響楽団のベートーヴェン:交響曲第1番/第2番

2022-09-29 09:40:42 | 交響曲(ベートーヴェン)


ベートーヴェン:交響曲第1番
        交響曲第2番

指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ

管弦楽:NBC交響楽団

録音:カーネギー・ホール(第1番:1951年12月21日/第2番:1949年11月7日、1951年10月5日)

発売:1973年

LP:ビクター音楽産業(RCA) SRA‐8004(M)

 アルトゥーロ・トスカニーニ(1867年―1957年)は、イタリア出身の指揮者で、フルトヴェングラーやワルターなどとともに一世代を築いた大指揮者であった。その指揮ぶりは、あいまいな表現を一切排除したものでありながら、その曲の核心を突いた演奏に終始し、その後の指揮界に大きな影響を残している。それが、現在の指揮者にも連綿として引き継がれ、今現在においても、トスカニーニの精神は残されていると言っても過言ではないほどだ。このLPレコードのライナーノートで渡辺学而氏は「トスカニーニの演奏には情緒的な先入観がない。そして、これが現代の演奏法の根本であるように思う。彼が、一たび作品の再創造という行為に入ったならば、楽譜から得られる音そのものの響きから、彼の鋭い感性によって最大限の音楽を作り上げようとする。そして、これは19世紀以来中心となってきた後期ロマン派的な情緒偏重主義の演奏法との決別を意味している」と書いている。このLPレコードは、そんな大指揮者のトスカニーニが死の6年ほど前に録音したベートーヴェンの交響曲であるが、いずれもこれらの曲の代表的録音と言ってもいいほどの完成度の高い、名演を聴かせてくれている。ただ、トスカニーニの録音全般に言えることであるが、もう少し鮮明な音質で録音されていたら、と何時も思うのである。せめて、フルトヴェングラーやワルターの録音並みの音質であったなら、と思うことしきりである。なお、NBC交響楽団とは、トスカニーニの演奏をラジオ放送する目的のため米国で編成されたオーケストラであった。アルトゥーロ・トスカニーニは、1885年パルマ王立音楽学校をチェロと作曲で最高の栄誉を得て首席で卒業。1886年トリノのカリニャーノ劇場でカタラーニの歌劇「エドメア」でプロ指揮者としてデビューを果たす。1898年31歳の若さでスカラ座芸術監督に任命される。1913年メトロポリタン歌劇場にて管弦楽指揮者としての米国デビュー。1927年ウィレム・メンゲルベルクと共にニューヨーク・フィルハーモニックの常任指揮者に就任。1930年ニューヨーク・フィルを率いて欧州演奏旅行を行う。また、バイロイト音楽祭で非ドイツ系指揮者として初めて指揮する。1940年 NBC響を率いて南米演奏旅行。1948年NBC響との演奏会が初めてテレビ中継される。1950年NBC響を率いて米国内の演奏旅行を行う。1954年カーネギー・ホールでNBC響と最終演奏会を行い、68年間に及ぶ指揮者人生を終えた。このLPレコードでトスカニーニは、緊張感あふれる鋼鉄のような名指揮ぶりを聴かせる。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ルーマニアの名ヴァイオリニスト ローラ・ボベスコ ヴァイオリン小品集を弾く

2022-09-26 11:13:30 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ローラ・ボベスコ 珠玉のヴァイオリン小品集~

ラフマニノフ:ヴォカリーズ
コレルリ:テンポ・ディ・ガヴォッタ
ヴィニャフスキー:伝説曲
パラディス:シチリア舞曲
サラサーテ:サパテアード
ラフ:カヴァティーナ
グルック:ガヴォット
ヴュータン:夢想
フォーレ:アンダンテ
ラモス:ガト(アルゼンチン舞曲)

ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ

ピアノ:セルジュ・ベマン

LP:テイチク(IPGレコード) KUX-3191-PG

 ローラ・ボベスコ(1921年―2003年)は、ルーマニア出身の名ヴァイオリニスト。1934年にパリ音楽院に入学し、わずか12歳でヴァイオリン科の1等賞をとり人々を驚かせたという。1937年「イザイ・コンクール」(現「エリザベート王妃国際音楽コンクール」)で金賞を獲得し、以後、世界的に名が知られるようになる。特にフランスの作曲家の曲の演奏では、他の追従を許さない名演を聴かせた。音色は独特のまろやかさに溢れ、その気品のある高雅なヴァイオリン演奏は、ひと際日本で多くのファンを持っていた。日本においては、日本の熱烈なファンの後押しがあったことによって、彼女のLPレコードの発売が実現されたほどでもあった。このLPレコードでは、そんなローラ・ボベスコが、愛すべき不滅の珠玉ような小品が収録されており、これらの名曲を彼女の優雅なヴァイオリン演奏で聴くことができる。今となっては誠に貴重な一枚なのである。ローラ・ボベスコは、ルーマニアのクラヨーヴァの生まれ。ジョルジェ・エネスクやジャック・ティボーの薫陶を受ける。第二次世界大戦中は、ルーマニアに帰国して演奏活動を続けた。戦後はフランスのピアニスト、ジャック・ジャンティと結婚して夫婦でデュオを組む。またベルギーに活動の本拠を移し、1958年には、「ワロニー王立室内管弦楽団」を設立。1962年から1972年までブリュッセル王立音楽院とリエージュ音楽院の教授職を兼務して後進の指導にも当たった。また、1990年には「弦楽四重奏団のアルテ・デル・スオノ」を結成。そして、アンセルメ、ベーム、クリュイタンス、クレンペラー、ミュンシュほか、数多くの名指揮者たちと共演の経験を持っている。このLPレコードのライナーノートにおいて濱田滋郎氏はローラ・ボベスコの演奏について次のような文章を書き残している。「ローラ・ボベスコのヴァイオリン演奏は、音色といい、表現といい、高雅な中に何とも言えず優しい情感、そして秘めた情熱の豊かさを感じさせる。この小品集リサイタルでも、最初の『ヴォカリーズ』からして、肉声に勝るほど、あたたかな歌が聴かれる。パラディスの『シチリア舞曲』など、春浅い日のつつましいロマンスを想わせるこの旋律が、いかにふさわしく奏かれていることであろう。サラサーテでは、衰えのない技巧の冴えと、スペイン気質のあざやかな把握がうれしい。そしてフォーレの優美さは、2つの『ソナタ』の新録音を心から待望させずにおかない」(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/ロマンス第2番

2022-09-22 09:41:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
        ロマンス第2番

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:日本グラモフォン(フィリップスレコード) 13PC‐266(6570 303)

 ヘンリック・シェリング(1918年―1988年)はポーランド出身で、その後、メキシコに帰化した名ヴァイオリニスト。ベルリン、パリで学び、第2次世界大戦後にメキシコ市民権を得ている。その演奏スタイルは、正に正統派を絵で書いたようであり、実に堂々としていて、どのような曲でも真正面から取り組む真摯な演奏姿勢により、当時の多くの聴衆から圧倒的支持を得ていた。正統的演奏スタイルといっても、少しも堅苦しい所はなく、ヴァイオリンの持つ人間味溢れる音色を存分に表現することに長けていた演奏家でもあった。そんなシェリングが、これも正統派の指揮者ハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900年―1973年)とのコンビで、十八番のベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲を録音したのがこのLPレコードである。演奏内容は、両者の特徴である正統派の真髄を随所にちりばめた録音となっており、同曲を代表する録音の一枚として、現在に至るまで、その存在意義を少しも失ってはいない。このLPレコードで宇野功芳氏は「シェリングの高雅な美音は言語に絶する。音色に色と香りがあり、繊細な感受性がにじみ出ている。その表現は懐かしさの限りであり、同様に極めて高貴な強弱のニュアンスの芸術的なことにも驚かされ、聴いていて心の底から慰められてしまう」とヘンリック・シェリングの演奏を絶賛している。ヘンリク・シェリングは、ベルリンに留学して、カール・フレッシュにヴァイオリンを師事した後、パリ音楽院に入学、ジャック・ティボーに師事し、1937年に同校を首席で卒業する。メキシコ時代は教育活動に専念するが、第2次世界大戦後の1954年に、ニューヨーク市におけるデビューが高い評価を得てから以後、世界を代表するヴァイオリニストとして世界各地で演奏活動を展開した。一方、このLPレコードで堂々たる指揮ぶりを見せているハンス・シュミット=イッセルシュテットは、ドイツの正統派を代表する名指揮者。第2次世界大戦後は、北ドイツ放送交響楽団をベースとして活動したが、シュミット=イッセルシュテットの統率の下、同管弦楽団は飛躍的な進歩を遂げた。こほかにも、ベルリン・フィルやウィーン・フィルを初めとする世界の100を超える主要なオーケストラも指揮した。ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団首席指揮者などを歴任。このLPレコードは、ヘンリック・シェリングとハンス・シュミット=イッセルシュテットの二人の正統派の演奏家による記念碑的録音と評価される。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇夭折した伝説の天才ピアニスト ディヌ・リパッティのショパン:ワルツ集(全14曲)

2022-09-19 09:46:09 | 器楽曲(ピアノ)


ショパン:ワルツ集(全14曲)

ピアノ:ディヌ・リパッティ

発売:1962年9月

LP:日本コロムビア OL‐3101

 ショパンは、生涯で18曲のワルツを作曲したと言われるが、生前に出版されたのはわずか8曲であり、そして現在、通常演奏されるのは14曲である。当時、ワルツは大衆音楽としてウィーンなどで盛んに演奏され、ヨハン・シュトラウスなどがもて囃されていた。そんな大衆音楽としてのワルツに対して反発したのがショパンなのである。ショパンのワルツは、貴族趣味に貫かれてはいるが、時には舞踏のための音楽というより、精神的な面により重点が置かれた音楽ということにその存在意義がある。このLPレコードで、このショパン:ワルツ集を弾いているのは、夭折した天才ピアニストのディヌ・リパッティ(1917年―1950年)である。ディヌ・リパッティは、リサイタルでショパン:ワルツ集を弾くときは、作曲年代順ではなく、彼自身が設定した、より効果が上ると彼自身が信じていた順序で行ったそうだが、このLPレコードでも独自の順序で14曲を録音している。そして、ショパンが目指した精神的に昇華したワルツの演奏を、ものの見事に再現することに成功している。これは、師のアルフレッド・コルトー(1877年―1962年)をも越える演奏として、クラシック音楽録音史上に不滅の光を現在に至るまで投げ掛けている録音と言っても過言ではない。ディヌ・リパッティの手に掛かると、どのワルツも時代を超えて、その1曲1曲がリスナーに訴え掛けてくるかのように聴こえる。ディヌ・リパッティは、ルーマニアのブカレストに生まれたが、幼い時から病弱であったという。大ピアニストのコルトーにピアノの教えを受ける。リッパティのピアノは透明な音色をもち、その上に立って純粋な音楽を奏でるのである。そして曲全体を歌わせるがごとく弾き進むことに演奏の大きな特徴がある。その孤高なまでに洗練されたピアニズムは、他に例を見ることはできない。ショパンやモーツァルトなどを得意としたが、特にショパンのワルツ集は、師のコルトーをも上回り、現在でも絶品とされている録音である。また、フランスのナディア・ブーランジェ(1887年―1979年)などに作曲を学び、その成果である自作品を演奏した自作自演の録音も遺している。残念なことに白血病により、33歳の若さでジュネーヴ郊外でこの世を去ってしまった。このLPレコードのショパン:ワルツ集のほか、ショパン:ピアノソナタ第3番、グリーグ:ピアノ協奏曲、シューマン:ピアノ協奏曲など、演奏そのものだけをとれば、現在でもそれらの曲の演奏の最上位に位置するほどの名録音を遺している。(LPC)

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇クルト・レーデル指揮ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団によるバッハ:「音楽の捧げもの」

2022-09-15 09:51:16 | 古楽


バッハ:「音楽の捧げもの」

        1.3声のリチェルカーレ
        2.王の主題による無限カノン
        3.王の主題による各種のカノン
        4.上方5度のフーガ・カノニカ
        5.2声のカノン
        6.4声のカノン
        7.6声のリチェルカーレ
        8.トリオ・ソナタ
        9.無限カノン

指揮:クルト・レーデル

管弦楽:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団

ヴァイオリン:ヴォルフガング・マルシュナー
フルート:クルト・レーデル
チェロ:ヴィルヘルム・シュネラー
チェンバロ:レオナード・ホカソン

発売:1979年

LP:RVC E‐1006

 このLPレコードの「音楽の捧げもの」は、アマチュアのフルーティストであり作曲家でもあったプロイセンのフリードリッヒ大王(1712年―1786年)に献呈した作品である。ポツダムの宮殿にいたフリードリッヒ大王は、対位法の大家であり、鍵盤楽器の即興演奏では、当時並ぶものがいなかったバッハを呼び寄せた。フリードリッヒ大王は、バッハに自らの主題によって6声部のフーガを即興するように求めたが、バッハは、自ら選んだ主題に基づく6声部のフーガを演奏するに止めてしまった。このことが、その後に「音楽の捧げもの」を作曲する原動力になったのである。2ヵ月後、改めて大王の主題を基に6声部のフーガを含め2曲のフーガ、同じ主題に基づく10曲のカノン、大王が好んだフルートを取り入れた1曲のトリオ・ソナタ(4楽章)を加え全部で16の曲からなる「音楽の捧げもの」を完成させた。このLPレコードで指揮をしているクルト・レーデル(1918年―2013年)は、ドイツ出身の指揮者兼フルート奏者。クルト・レーデルは、1938年20歳の時にマイニンゲン州立オーケストラの首席フルート奏者に就任。さらに1941年ミュンヘンのバイエルン国立オーケストラの首席に就任。1952年に、このLPレコードで演奏しているミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を自ら創設し、音楽監督を務めた。数多くのコンサートを行い、1960年代に、エラート・レーベルにバッハやハイドン、モーツァルトなどの作品をを数多くレコーディングし、数多くのレコード賞を受賞。また20年間にわたって、自ら創設したルルド音楽祭を率いると同時に、ヨーロッパの重要なオーケストラとも共演。これらの長年の功労に対し、レコード大賞、パリ・オペラ座オルフェウス賞、エジソン賞、ドイツ連邦一等功労十字章がクルト・レーデルに授与されている。このLPレコードの演奏は、気心の合ったミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団との演奏だけに、バッハの作曲した音楽に魂が入ったとでも表現したらいいような、情感細やかな名演を繰り広げる。それにヴァイオリンのヴォルフガング・マルシュナー、フルートのクルト・レーデル、チェロのヴィルヘルム・シュネラー、チェンバロのレオナード・ホカソンらが絶妙な演奏を聴かせてくれているのが何とも嬉しい。このLPレコードでは、クルト・レーデルが、指揮に加え得意のフルートを掛け持ちして演奏している。このLPレコードから聴こえてくる調べは、音楽の純粋な悦びそのものなのである。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする