★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジョン・バルビローリ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のシベリウス:交響曲第2番

2023-12-28 10:37:25 | 交響曲


シベリウス:交響曲第2番

指揮:ジョン・バルビローリ

管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:RVC(RCA RECORDS) RVC‐1015

 シベリウスは、生涯に7つの交響曲を作曲した。このうち1番~2番は前期のロマン派的な雰囲気を残した曲。一方、4番~7番は後期の曲。3番は前期と後期の橋渡し的性格の曲。これら7曲の交響曲のなかで4番は、作曲様式を大きく転換した曲として知られ、5番、6番、そして最後の7番へと引き継がれて行く。最後に到達した7番において、シベリウスは、全く新しい様式の交響曲を生み出すことに成功するのである。この第7番の交響曲を作曲したのが、59歳の時で、以後シベリウスは、92歳で死ぬまで何故か作曲の筆を断ってしまう。今回のLPレコードは、第2番の交響曲で、この交響曲は1902年に完成した。第1番がまだ個性を出し切るところまでに至っていないのに対し、この第2番交響曲は、シベリウスの個性が存分に発揮された曲として知られている。内容は、フィンランドの自然と風土に根付いた作風であり、同時にフィンランドの民族的独立を強く意識した作品となっている。要するに民族的音楽の要素が、多くの人々の心を掴み、それが現在に至るまで続いているのである。このLPレコードでの演奏は、英国出身の指揮者ジョン・バルビローリとロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。バルビローリ(1899年―1970年)は、英国ロンドンの出身。1970年に初来日が予定されていたが、出発の直前に亡くなってしまい、来日は果たせなかった。ロンドンの王立音楽学校を卒業後、まず、チェロ奏者としてデビューし、その後、指揮者に転向した。1936年ニューヨーク・フィルハーモニックを客演指揮し好評得る。そして、トスカニーニの後任として常任指揮者を務め、世界的な指揮者の一人として名声を確立する。1943年イギリスのハレ管弦楽団の音楽監督に就任し、同管弦楽団を一流のオーケストラに育て上げた。また、ヒューストン交響楽団の常任指揮者も歴任した。その指揮ぶりは、少しの奇を衒うところがなく、演奏内容が充実し、誠実な演奏で知られていた。このことは、このLPレコードの演奏で十二分に発揮されており、シベリウス:交響曲第2番が持つ、フィンランドの自然と風土、並びに民族の独立という命題を、ひしひしと感じさせる演奏内容となっているが、あくまで客観的な指揮ぶりが印象に残る録音となっている。特に録音状態が非常に良く、LPレコード特有の音質の柔らかさを存分に堪能できることが嬉しい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リヒテルとボリショイ歌劇場弦楽四重奏団のフランク:ピアノ五重奏曲

2023-12-21 09:40:38 | 室内楽曲


フランク:ピアノ五重奏曲

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

弦楽四重奏:ボリショイ歌劇場弦楽四重奏団

録音:1956年

LP:日本コロムビア HR‐1014‐RM

 セザール・フランク(1822年―1890年)は、ベルギー出身で、後にフランスで活躍した作曲家である。1837年にパリ音楽院に入学、作曲、ピアノ、オルガン等を学ぶ。1871年にはサン=サーンス、フォーレらとともにフランス国民音楽協会の設立に加わった。さらに1872年にはパリ音楽院の教授に迎えられている。60歳を過ぎた1885年ごろからヴァイオリン・ソナタ、交響曲など、現在よく知られる代表作を次々に作曲した。最晩年に代表作を生み出すような作曲家は、フランク以外では、あまりいないのではなかろうか。作品の傾向は、フランスの作曲家というよりドイツロマン派音楽の系統に近いように感じられる。作品の特徴は、多楽章の曲において、共通の主題を繰り返し登場させる循環形式を駆使し作曲したことで知られる。このLPレコードは、フランクが1879年に作曲したピアノ五重奏曲である。この曲は、古今のピアノ五重奏曲の中でも傑作の一つに数えられているが、ここでも3つの主題による循環形式が用いられ、効果を挙げている。曲の全体の印象は、圧倒的に重厚な感じが強く、フランス音楽というよりドイツロマン派の流れを汲む作品と言えよう。そんな曲を、スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)とボリショイ歌劇場弦楽四重奏団が演奏しており、非常に力強く、うねるような重々しい表現を行い、圧倒的な名演を聴かせる。リヒテルは、非常に男性的なピアニストであると同時に、繊細さも持ち合わせており、全盛期にはピアニストの神様として尊敬を一身に受けていた伝説のピアニストだ。このLPレコードでの演奏は、そういったリヒテルの特徴が全て詰め込まれており、数多い同曲の録音の中でも光る存在と言える。ただ、録音が1956年と古く、音がデッドなところが欠点。スヴャトスラフ・リヒテルは、ドイツ人を父にウクライナで生まれた。主にロシア(旧ソ連)で活躍し、その卓越した演奏技術から20世紀最大のピアニストと称された。 1937年、22歳でモスクワ音楽院に入学し、ゲンリフ・ネイガウスに師事。ネイガウスはリヒテルを「天才である」と言い、時に荒削りの演奏をあえて直そうとはしなかったという。1945年、30歳で「全ソビエト音楽コンクール」ピアノ部門で第1位。1950年に初めて東欧で公演も行うようになり、一部の録音や評価は西側諸国でも認識され、次第に評価が高まって行った。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ファンの要望に応えて発売されたフルトヴェングラーとリパッティの初出録音盤

2023-12-18 09:37:27 | 協奏曲(ピアノ)


①モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番

  ピアノ:イヴォンヌ・ルフェビュール

  指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

②リパッティ名演集

  バッハ(ケンプ編):フルートソナタ第2番より
  バッハ(ブゾーニ編):衆讃前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」
            :衆讃前奏曲「イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ」
  ブラームス(ピアノ連弾):円舞曲集(Op.39)第6、15、2、1、14、10、5、6番

   ピアノ:ディヌ・リパッティ
       ナディア・ブーランジェ(ブラームス:ピアノ連弾)

録音:1954年5月15日(モーツアルト)/1950年7月(バッハ)/1937年2月(ブラームス)

発売:1970年

LP:東芝音楽工業 AB‐8125

 このLPレコードは、ドイツ出身の大指揮者、フルトヴェングラー(1886年―1954年)とルーマニア出身の名ピアニスト、リパッティ(1917年―1950年)の両ファンの熱烈な要望に応えて企画され、発売されたものである。つまり、フルトヴェングラーとリパッティの演奏を1枚のLPレコードに収めなければならない必然性は特にはない。このため、他の1枚のLPレコードように全体として一貫性のある内容とはなっておらず、当時絶大なる人気を誇ったフルトヴェングラーとリパッティを、共演ではなく1枚のLPレコードに収めること自体に意義があったのである。結果的に、このLPレコードは、音質はともかく、演奏内容の高さにおいては超一流なものとなった。まずA面のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番は、イヴォンヌ・ルフェビュール(1898年―1986年)の純粋な演奏内容に心が奪われる。LPレコード化の狙いは、フルトヴェングラーの伴奏指揮にあったのではあるが、結果的にリスナーは、ルフェビュールのピアノの素晴らしさを発見することになる。フルトヴェングラーの伴奏指揮は、ピアニストに何のお構いもなく、従来通りの厳格な演奏姿勢は一切崩していない。イヴォンヌ・ルフェビュールは、フランスのピアニスト、音楽教育者。ほとんど遺された録音がなく、このLPレコードが唯一の録音盤と言ってもいいほど。その唯一遺されたこのLPレコードにおけるルフェビュールの演奏内容は、如何にもモーツァルトらしい典雅さに満ち溢れ、きちっと整ったモーツァルトを聴かせてくれている。一方、B面の“リパッティ名演集”においては、リパッティが、バッハのピアノ用に編曲された作品を3曲に加え、リパッティのピアノの先生であったナディア・ブーランジェ(1887年―1979年)との連弾でブラームスの円舞曲集を弾いている。録音はあまり芳しくないが、その高貴な演奏内容は相変わらずで、リスナーの心を揺さぶらずにはおかない。ブーランジェとの連弾演奏は、聴いているだけでその楽しさが伝わってくるようだ。ナディア・ブーランジェは、フランスの作曲家、指揮者、ピアニスト、音楽教育者。今でこそ女性の指揮者はそう珍しくもないが、ブーランジェは、1912年デビューを果たした女性指揮者の先駆者といえる存在であった。さらに、音楽教育者としては、数多くの人材を輩出しており、当時の有名なピアニストの先生として、ブーランジェ女史の名前はしばしば登場していた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハンス・ホッターのドイツ歌曲集(シューベルト/シューマン/R.シュトラウス)

2023-12-14 09:54:00 | 歌曲(男声)


シューベルト:楽に寄す
         夕映えに
         セレナード(歌曲集「白鳥の歌」より)
          別離(歌曲集「白鳥の歌」より)
          春に
         菩提樹(歌曲集「冬の旅」より)
          くちづけを贈ろう
          旅人の夜の歌
         ひめごと

シューマン:月の夜(「リーダークライス」より)
      誰がお前を悩ますのだ(「ケルナーの詩による12の歌曲集」より)
      古いリュート(「ケルナーの詩による12の歌曲集」より)
      新緑(「ケルナーの詩による12の歌曲集」より)
      二人のてき弾兵

R.シュトラウス:ああ悲し、不幸なるわれ
        私は愛を抱いている

バリトン:ハンス・ホッター

ピアノ:ジェラルド・ムーア

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30197

 ハンス・ホッター(1909年―2003年)は、ドイツ出身の名バリトン歌手。その歌声は、深い思慮に満ちたもので、音質で言うとバスに近いバス・バリトンが正確であろう。ハンス・ホッターは、ワーグナー歌手として特に名高く、「ニーベルングの指環」のヴォータン、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のハンス・ザックス、また、「パルジファル」のグルネマンツなどにおいて高い評価を受けていた。同時にホッターは、シューベルト、シューマンやR.シュトラウスさらにヴォルフなどのドイツ歌曲についても定評があった。特にシューベルトの「冬の旅」「白鳥の歌」を歌わせれば右に出るものがないほどの歌唱を聴かせた。度々の来日で日本での人気も絶大であったが、特にシューベルトの「冬の旅」と言えばハンス・ホッターといったイメージが定着し、他の歌手を寄せ付けなかったほど。多分唯一対抗できた歌手は、フィッシャー・ディスカウ(1925年―2012年)ぐらいであったろう。そんな大歌手のハンス・ホッターが、お得意のドイツ・リートの選りすぐりの名曲を歌ったのが、このLPレコードである。どの曲を聴いても、ホッターの厚みのある歌声が実に気持ちいい。その存在感は、他に比較する者がないほどだが、さりとて、自分勝手な世界に埋没するするのはでなく、むしろ一曲一曲を実に丁寧に歌い込む姿勢がひしひしとリスナーに伝わる。この辺の真摯な歌う姿勢が、日本で人気が高かったことの原因の一つであろう。この“マイ・フェイバリット・ソング”とも言うべきハンス・ホッターのこのLPレコードは、常に手元に置き、聴きたい時に直ぐ聴けるのが一番の幸せというのが私の素直な感想。ハンス・ホッターとの息がぴたりと合ったジェラルド・ムーア(1899年-1987年)のピアノ伴奏がこれまた絶品。バリトンのハンス・ホッターは、 ドイツ、オッフェンバッハ・アム・マイン出身。ミュンヘン音楽大学で学ぶ。1930年「魔笛」でオペラデビュー。1950年メトロポリタン歌劇場にデビューし、ヴァーグナー作品をを演ずる。1952年バイロイト音楽祭に出演、以後15年にわたり主要なワーグナー作品に出演し、高い評価を受ける。1972年 「ワルキューレ」のヴォータンを最後にオペラの舞台を引退。ピアノのジェラルド・ムーアは、英国ハートフォード州ウォトフォード生まれで、カナダのトロントで育つ。ピアノ独奏者としてより、ピアノ伴奏者としてその名を知られた。1954年に大英勲章(OBE)を受賞。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルト指揮ハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団のブラームス:交響曲第4番

2023-12-11 09:45:31 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第4番

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:ハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9176

 ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、西ドイツの名指揮者。最晩年の1965年と1966年、1968年に来日して、NHK交響楽団を客演したが、この時の録音が遺されており、CDで今でもその優れた指揮ぶりを聴くことができる。カイルベルトは、1940年、プラハのドイツ・フィルハーモニー管弦楽団(バンベルク交響楽団の前身)の指揮者に就任した後、第二次世界大戦の終戦まで、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務めた。さらに1949年にバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、亡くなるまでその任にあった。また、1959年よりバイエルン国立歌劇場の音楽総監督に任命されたが、そのバイエルン国立歌劇場において「トリスタンとイゾルデ」を指揮している最中、心臓発作を起こして急死したのだ。その死の時の様子を菅野浩和氏は、このLPレコードのライナーノートに「それは、1968年6月2日、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』を振りながら、崩れるように倒れ、間もなく息をひきとったのである。・・・主役のビルギット・ニルソン等の悲泣の中に、とうてい代理指揮者で先を続けるなどという雰囲気のものではなく・・・」と記している。このLPレコードは、そのヨゼフ・カイルベルトがハンブルグ国立フィルハーモニー管弦楽団を指揮したブラームス:交響曲第4番である。第1楽章の出だしからして、その柔らかい演奏に心が奪われてしまう。ヨゼフ・カイルベルトの指揮ぶりは少しも奇を衒ったところはない。あくまで自然の流れに沿った演奏内容であり、その真摯な演奏態度は敬服するものがある。これだけだと、ただ単に、こじんまりと演奏しているのに過ぎないのではないか、と思われるかもしれないが、このLPレコードでもそうだが、実にコクのある、深い味わいに満ちた音楽を聴かせてくれるのだ。私はこのLPレコードを聴き終わった後、「こんなにも美しくも深い慈愛に満ちたブラームス:交響曲第4番をこれまで聴いたことがない」と思ったほどだ。菅野浩和氏も「カイルベルトは、私が全面的に心酔していた指揮者だった」とこのLPレコードのライナーノートを書き記している。来日時にN響を指揮したブラームス:交響曲第4番のライヴ盤が遺されているので、実際にヨゼフ・カイルベルトの指揮する音楽を聴いて自分の耳で確かめてもらいたい。こんなにも素晴らしい指揮者が過去にいたのだということが実感できると思う。(LPC)

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