★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ハンス・ホッターのシューベルト:歌曲集「冬の旅」

2022-03-03 10:10:56 | 歌曲(男声)


シューベルト:歌曲集「冬の旅」

バリトン:ハンス・ホッター

ピアノ:ジェラルド・ムーア

録音:1954年5月24日、27日

LP:東芝EMI EAC‐40096

 シューベルトの「冬の旅」は、ヴィルヘルム・ミューラーの詩に作曲した24からなる歌曲集である。同じシューベルトの歌曲集「美しき水車屋の娘」が青春賛歌のような趣があるのに対し、この歌曲集「冬の旅」は、死の前年に作曲されたこともあり、全体が陰鬱な雲に覆われた冬の不毛の大地を一人歩いて行く様子が描かれ、孤独と寂寥に包まれている歌曲集である。私がこの歌曲集を最初に聴いた時は、あまりの陰鬱さのため最後まで通して聴けなかったことを思い出す。いや、今だってこの歌曲集だけは、気楽な気分では聴けない。まず、季節である。「冬の旅」を聴くには冬、それも真冬の深夜に限る。私はそんな不文律を心に決めている。間違っても汗だくだくの真夏の昼間に聴くべき曲ではないのである。そんなわけで歌曲集「冬の旅」を聴くには1年を通して冬しかないのである。このLPレコードのライナーノートで西野茂雄氏も「ここには『水車屋』の“物語”も、牧歌的な背景もない。灰色の冬の野が私たちの視界をとざし、その中でただひとりの“私”の独白が続いてゆく。『冬の旅』の最大の特徴は、この均質な感情の異様な持続である」と表現している。しかも、この曲では歌手が決定的な要因となる。私にとって、今に至るまで「冬の旅」に最も相応しい歌手はというと・・・絶対にハンス・ホッターしかいないのである。バリトンといってもバス・バリトンの腹にこたえる重い響き、これを表現できる歌手は今に至るまでハンス・ホッター以外に絶対に存在しない、というのが私の信念になっている。「冬の旅」を歌うために生まれてきた歌手がハンス・ホッターだと言ったら言い過ぎであろうか。それにしても、第11曲「春の夢」の一時の安らぎは、とてもこの世のものとは思われないほどの心の安らぎを覚える。ハンス・ホッター(1909年ー2003年)は、ドイツ・オッフェンバッハ・アム・マイン出身。ミュンヘン音楽大学で学ぶ。1930年「魔笛」でオペラデビューを果す。1952年バイロイト音楽祭に出演し、以後15年にわたり主要なワーグナー作品に出演。これにより、ホッターはワーグナー歌いとして広く認められ、特に「ニーベルングの指環」のヴォータン、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のハンス・ザックス、「パルジファル」のグルネマンツなどの役柄において高い評価を受けた。同時にリート歌手としても活躍。中でもシューベルトの歌曲集「冬の旅」のほか歌曲集「白鳥の歌」などが広く愛聴された。(LPC)


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