ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲
弦楽四重奏曲第7番
ピアノ:エディット・ファルナディ
弦楽四重奏:バリリ四重奏団
ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)
オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)
発売:1976年8月
LP:日本コロムビア(ウェストミンスター名盤コレクション) OW‐8045‐AW
ドヴォルザークの作品を挙げるとなると、「新世界交響曲」や「アメリカ弦楽四重奏曲」などが直ぐに思い浮かぶ。これらの作品は、さしずめ大広間に置かれた、多くの人に愛される一般的な名曲とすると、このLPレコードに収められたピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番は、奥座敷にひっそりと置かれ、ドヴォルザークの作品をこよなく愛する人向けの名曲と言えるのではないか。ドボルザークのピアノ三重奏曲に「ドゥムキー」という曲があるが、この「ドゥムキー」の3年前に書かれたのが、ピアノ五重奏曲である。このピアノ五重奏曲の第2楽章は「ドゥムカ」と題されている。つまりこの曲は、ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」を先取りした曲とも言えるのだ。「ドゥムカ」とは、スラヴ民族の哀歌であり、多くの場合、悲しげでゆるやかな旋律と急速で情熱的な旋律とを対立させて書かれている。さらに、この曲の第3楽章には「フリアント」と記されている。「フリアント」とは、ボヘミアの舞曲のことで、激しさと甘さとが交互に取り入れられているが、「ドゥムカ」とは対照的に、早い速度の部分を主体としている。このピアノ五重奏曲は、スラヴやボヘミアなどの民族的香りを濃厚に持つ、古今のピアノ五重奏の中でも傑作の一つに数えられている名曲なのである。一方、アメリカからの旅からボヘミアへ戻って、書かれたのが第7番と第8番の2つの弦楽四重奏曲である。弦楽四重奏曲第7番は、それまでの曲のような民族的な郷愁感は極力抑えられ、明るい幸福感に包まれ、豊かな曲想に覆われているのが特徴。伝統的な形式美を追い求め、じっくりとした深みが感じられる弦楽四重奏曲。ピアノ五重奏曲でピアノを演奏しているエディット・ファルナディは、リスト・アカデミーで学び、卒業するまでに2度までもフランツ・リスト賞を受賞したという才媛で、当時マルグリット・ロンやクララ・ハスキルと並び称された名女性ピアニスト。バリリ四重奏団は、1945年にワルター・バリリを中心に結成された名弦楽四重奏団。ピアノ五重奏曲の演奏は、エディット・ファルナディのナイーブなピアノの音色とバリリ四重奏団の弦の響きが絶妙に混ざり合い、極上の雰囲気を醸し出している。一方、弦楽四重奏曲第7番の演奏は、バリリ四重奏団の緻密な演奏内容に加え、暖かくも厚みのある、その音色にも魅了される。音は多少古めだが、2つのの曲の演奏内容とも完成度の高いものに仕上がっている。(LPC)