★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ドヴォルザークの室内楽曲の名品、ピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番

2019-09-30 09:44:02 | 室内楽曲

ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲         
          弦楽四重奏曲第7番

ピアノ:エディット・ファルナディ

弦楽四重奏:バリリ四重奏団                      

           ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)           
           オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)           
           ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)           
           エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

発売:1976年8月

LP:日本コロムビア(ウェストミンスター名盤コレクション) OW‐8045‐AW

 ドヴォルザークの作品を挙げるとなると、「新世界交響曲」や「アメリカ弦楽四重奏曲」などが直ぐに思い浮かぶ。これらの作品は、さしずめ大広間に置かれた、多くの人に愛される一般的な名曲とすると、このLPレコードに収められたピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番は、奥座敷にひっそりと置かれ、ドヴォルザークの作品をこよなく愛する人向けの名曲と言えるのではないか。ドボルザークのピアノ三重奏曲に「ドゥムキー」という曲があるが、この「ドゥムキー」の3年前に書かれたのが、ピアノ五重奏曲である。このピアノ五重奏曲の第2楽章は「ドゥムカ」と題されている。つまりこの曲は、ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」を先取りした曲とも言えるのだ。「ドゥムカ」とは、スラヴ民族の哀歌であり、多くの場合、悲しげでゆるやかな旋律と急速で情熱的な旋律とを対立させて書かれている。さらに、この曲の第3楽章には「フリアント」と記されている。「フリアント」とは、ボヘミアの舞曲のことで、激しさと甘さとが交互に取り入れられているが、「ドゥムカ」とは対照的に、早い速度の部分を主体としている。このピアノ五重奏曲は、スラヴやボヘミアなどの民族的香りを濃厚に持つ、古今のピアノ五重奏の中でも傑作の一つに数えられている名曲なのである。一方、アメリカからの旅からボヘミアへ戻って、書かれたのが第7番と第8番の2つの弦楽四重奏曲である。弦楽四重奏曲第7番は、それまでの曲のような民族的な郷愁感は極力抑えられ、明るい幸福感に包まれ、豊かな曲想に覆われているのが特徴。伝統的な形式美を追い求め、じっくりとした深みが感じられる弦楽四重奏曲。ピアノ五重奏曲でピアノを演奏しているエディット・ファルナディは、リスト・アカデミーで学び、卒業するまでに2度までもフランツ・リスト賞を受賞したという才媛で、当時マルグリット・ロンやクララ・ハスキルと並び称された名女性ピアニスト。バリリ四重奏団は、1945年にワルター・バリリを中心に結成された名弦楽四重奏団。ピアノ五重奏曲の演奏は、エディット・ファルナディのナイーブなピアノの音色とバリリ四重奏団の弦の響きが絶妙に混ざり合い、極上の雰囲気を醸し出している。一方、弦楽四重奏曲第7番の演奏は、バリリ四重奏団の緻密な演奏内容に加え、暖かくも厚みのある、その音色にも魅了される。音は多少古めだが、2つのの曲の演奏内容とも完成度の高いものに仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

2019-09-26 09:37:13 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番        
         ピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

ヴァイオリン:ズザンネ・ラウテンバッハー

ピアノ:マルティーン・ガリング

指揮:C.A.ビュンテ

管弦楽:ベルリン交響楽団

発売:1970年7月

LP:日本コロムビア MS‐1087‐VX

 今回のLPレコードは、18世紀末に南イタリア出身の名ヴァイオリニストとして名を馳せたジョヴァンニ・バティスタ・ヴィオッティ(1758年―1824年)が作曲したヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンとオーケストラによる二重協奏曲である。昔は、ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番は、ラジオ放送されるケースがちょくちょくあり、ちょっとした有名な曲であった。ヴィオッティは、優れたヴァイオリニストとしてのほか有能な教育者でもあり、彼の門下生からは数多くの優秀なヴァイオリニストが育った。ベートーヴェンのソナタに名を残すクロイツェルも彼の門下生だったという。それらの優れた門下生達によって“フランコ・ベルギー楽派”の基礎が築かれて行った。ヴィオッティ自身の演奏はというと、甘い、メランコリックなカンタービレで当時の人々を魅了したようである。1782年にパリでデビューを行った後、10年ほど同地に留まり、マリー・アントワネットに認められて、宮廷音楽家としての契約を結んだこともあるが、最期はロンドンで一生を終えている。作曲家としてのヴィオッティは、ヴァイオリン協奏曲を29曲、弦楽四重奏曲を21曲、三重奏曲を21曲、ヴァイオリンソナタを18曲作曲するなど、かなり膨大な数の作品をを作曲した。ベートーヴェンもヴィオッティのヴァイオリン協奏曲を熟知して影響も受けており、ブラームス自身も、このヴァイオリン協奏曲第22番を大変好んでいたようだ。このLPレコードで演奏しているヴァイオリンのラウテンバッハーは、ケルン合奏団のメンバー以外にソリストとしても活躍した人。また、ピアノのガリングは、ハープシコードの演奏家でもあり、当時のヨーロッパでは広く名を知られたピアニスト。このヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番は、甘く、美しいメロディーが全楽章に散りばめられたヴァイオリン協奏曲の佳品であるが、このLPレコードでのラウテンバッハーのヴァイオリン演奏は、古き良き時代のロマンの香りがたっぷりと閉じ込められ、この曲を鑑賞するのにはぴたりと合った演奏スタイルで、リスナーが十二分に満足できる仕上がりを見せている。一方、二重協奏曲の方は、あたかも若い時代のモーツァルトのピアノ協奏曲を彷彿とさせるような優雅さが漂う曲で、ガリングの宝石のような美しいピアノ演奏に聴き惚れてしまう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団によるシューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」/第10番

2019-09-23 09:22:36 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」        
          弦楽四重奏曲第10番

弦楽四重奏:ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団                           

            ウィリー・ボスコフスキー(第1ヴァイオリン)              
            オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)              
            ルドルフ・シュトレンク(ヴィオラ)              
            ロベルト・シャイヴァン(チェロ)

発売:1979年

LP:キングレコード GT9254

 このLPレコードで演奏しているウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団は、ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)をはじめとして、当時のウィーン・フィルの首席奏者達による、ウィーン弦楽派の最高峰に位置する弦楽四重奏団であり、ヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)やワルター・バリリ(1921年生まれ)という歴代のコンサートマスターによるムジーク・フェライン弦楽四重奏団のメンバーを引き継いだ弦楽四重奏団でもあった。このLPレコードでの曲は、シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」と弦楽四重奏曲第10番の組み合わせだ。有名な弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」は、シューベルトがマティアス・クラウディウスの詩に作曲した歌曲「死と乙女」が採用されていることで広く知られている。作曲は、1824年に着手され、完成は1826年とシューベルトとしては時間を掛けた作品。それだけに霊感に飛んでいると同時に、十分な推敲がなされ、あたかもベートーヴェンの弦楽四重奏曲を思わせるような深みと迫力を備えた作品に仕上がっている。一方、弦楽四重奏曲第10番は、1813年に完成した曲。シューベルトの家では、父親のチェロ、兄二人のヴァイオリン、そしてシューベルト自身のヴィオラによって弦楽四重奏曲を演奏して楽しんでいたという。特別に目立つ曲ではないが、このLPレコードのライナーノートで小林利之氏は、「少年時代のシューベルトらしい、伸びやかなメロディーと簡素なスタイルは見逃せない」と書いているように、健康的で明るいシューベルト像がそこにはある。このLPレコードにおけるウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団の演奏は、弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」については、繊細この上ない演奏に終始している。一般的に「死と乙女」の演奏は、どのカルテットも力が入るものであるが、ここでの同四重奏団よる演奏は、通常とは真逆の道を行く。これは、この曲の持つ抒情的な面をことさら強調することによって、新しい「死と乙女」像をつくり出そうとする狙いがあったのかもしれない。デリケートで傷つきやすい「死と乙女」像がそこには出来上がっており、私なぞ「こんな演奏もあるんだ」と感じ入った次第。一方、第10番の演奏については、家庭的で明るく、伸び伸びとした演奏を聴かせ、若き日のシューベルトの残像を追い求めるような演奏内容となっている。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇巨匠オットー・クレンペラーのブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」

2019-09-19 09:38:58 | 交響曲

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1953年版)

指揮:オットー・クレンペラー

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

発売:1956年

LP:東芝音楽工業 AA‐7270

 ブルックナーは、全部で11曲の交響曲を書いているが、通常は第1番から、未完成に終わった第9番までの9曲が演奏される。これら9曲の交響曲の中で、ブルックナー自身によりニックネームが付けられた曲が、この第4番の「ロマンティック」なのである。ブルックナーの交響曲は、いずれも重厚感たっぷりで、重々しく長大な曲ばかりであり、そう気軽に聴くことは出来そうもない曲ばかりである。その理由は、ブルックナーが敬虔なカトリック信者であることと切り離しては考えられない。教会音楽、なかんずくオルガンに対するブルックナーの思い入れは強いものがあり、ブルックナーの交響曲の根幹を成すものとなっている。それに加え、ドイツ・オーストラリア系音楽の王道を歩むような堅牢な音楽であり、堂々とした聖堂を仰ぎ見るような迫力に、聴く者は圧倒されてしまう。そんな中にあって、この第4番は、比較的穏やかな表情を持った交響曲として人気が高い。まるで、ドイツの深い森の中に迷い込んだような感じがして、ある意味の爽快感を感じられるところが、人気の源かもしれない。それに、他の交響曲に比べて宗教的な傾倒が少々薄められているようでもあり、気軽に聴けるところがいいのだろう。しかし、そこはブルックナーの交響曲であり、いくら気軽に聴けるといっても、全4楽章を聴き通すと、ほぼ1時間を要する曲であり、通常の交響曲と比べたら、長大で手ごわい曲であることには違いない。このLPレコードで「ロマンティック」交響曲を指揮しているのがドイツ出身の20世紀を代表する巨匠指揮者オットー・クレンペラー(1885年―1973年)である。22歳でマーラーの推挙を受け、プラハのドイツ歌劇場の指揮者になるが、48歳の時(1933年)、ナチス・ドイツ政権樹立に伴い、アメリカへ亡命。そこで、ロサンジェルス・フィルハーモニックやピッツバーグ交響楽団の指揮者として活躍する。しかし、1939年に脳腫瘍に倒れる。復帰後、1954年(69歳)からフィルハーモニア管弦楽団とレコーディングを開始し、EMIから多くのレコードをリリース。このLPレコードは、手兵のフィルハーモニア管弦楽団を指揮した中の1枚。クレンペラーの指揮は、悠然としたテンポの中に、曲の隅々にまで強い緊張感を漂わせたもので、フィルハーモニア管弦楽団の響きも深々としており、ブルックナーの交響曲に相応しい雰囲気を醸し出すことに成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨセフ・スークのヴィヴァルディ:調和の幻想

2019-09-16 09:19:40 | 古楽

 

ヴィヴァルディ:調和の幻想                       
     
             ヴァイオリン協奏曲ト長調 Op.3の3                             
             ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.3の6                        
             ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.3の9           
             二つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調 Op.3の8           
             ヴァイオリン協奏曲ホ長調 Op.3の12

ヴァイオリン:ヨセフ・スーク

第2ソロ・ヴァイオリン:グナール・ラルサン

指揮:ルドルフ・パウムガルトナー

弦楽合奏:ルツェルン弦楽合奏団

録音:1976年9月16日、19日、スイス、ヴァインフェルト会議堂

発売:1977年9月

LP:日本コロムビア

 バロック時代のイタリアの大作曲家ヴィヴァルディの協奏曲集「調和の幻想」Op.3は、1712年に作曲されたが、この作品でヴィヴァルディの名は一躍有名になった。このLPレコードには、全部で12曲からなる「調和の幻想」の中から5曲が、ヨセフ・スークのヴァイオリン、グナール・ラルサンの第2ソロ・ヴァイオリン、それにルドルフ・パウムガルトナー指揮ルツェルン弦楽合奏団の弦楽合奏によって録音されている。全12曲は、独奏ヴァイオリンと弦と通奏低音のチェンバロによる編成(そのうち3曲はチェロを独奏に加える)によっている。このLPレコードのライナーノートで門馬直美氏は、ヴィヴァルディの「調和の幻想」が果たした音楽史上の功績として、次のような点を挙げている。①これ以後ほぼ2世紀にわたり常識となった急ー緩ー急の協奏曲の3楽章制が不動のものとして確立した②独奏を華やかで熱のこもったものとし、特に独奏を引き立てるようにした③それまでにないロマン的な要素を置き、力の対比、エコー的な効果、新鮮な叙情性などを演奏指示で強調した④明快な主題を扱い、その印象を強固なものとした⑤独奏と合奏の有機的な融合が図られている⑥中間の緩徐楽章には、即興的な雰囲気を置き、しかも悲愴味ある情緒を流すことが多い。このLPレコードで独奏ヴァイオリンを演奏しているのが、チェコの名ヴァイオリン奏者ヨゼフ・スーク(1929年―2011年)である。プラハ音楽院卒業後、プラハ四重奏団の第1ヴァイオリン奏者として音楽活動を開始。その後も、チェロのヨゼフ・フッフロ、ピアノのヤン・パネンカと「スーク・トリオ」を結成。一方、ソリストとしても1959年からツアーを行い、世界的名声を得た。ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者らしく、きちっと整った構成美の中に、ほのかなロマンの香りを漂わせたその演奏内容は、当時日本にも多くのファンを獲得していた。このLPレコードでのヨゼフ・スークの演奏は、自身が持つ演奏の特徴を最大限に発揮させると同時に、バロック時代の曲である「調和の幻想」を、現代の我々の感覚に合わせて、聴かせてくれている。特に、ルドルフ・パウムガルトナー(1917年―2002年)指揮ルツェルン弦楽合奏団との息がぴたりと合い、この世のものとも思われないような、それはそれは美しい弦の響きに、リスナーは暫しの安らぎの時間を過すことができる。(LPC)

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