チャイコフスキー:ピアノ小曲集「四季」
1月:炉辺にて(プーシキンの詩)
2月:冬おくりの祭り(ウャーゼムスキーの詩)
3月:ひばりの歌(マイコフの詩)
4月:雪割草(マイコフの詩)
5月:白夜(フェートの詩)
6月:舟歌(プレシチェイエフの詩)
7月:草刈り人の歌(コルツォフの詩)
8月:取り入れ(コルツォフの詩)
9月:狩り(プーシキンの詩)
10月:秋の歌(トルストイの詩)
11月:トロイカ(ネクラーソフの詩)
12月:クリスマス週間(ジュコフスキーの詩)
ピアノ:アレクセイ・チェルカーソフ
録音:1973年7月、モスクワ
LP:ビクター音楽産業 VIC‐5509
このチャイコフスキーの愛すべき12曲からなるピアノ小曲集「四季」は、“12の性格的な小品”という副題が付けられている。作曲の切っ掛けは、ペテルブルグにあるある出版商から音楽雑誌に載せるため、「毎月1曲、それぞれの月に題材をとったピアノ曲を書いて欲しい」という依頼であった。そこでチャイコフスキーは、1876年1月から12月までの1年間にわたり、その音楽雑誌のために12曲のピアノの小曲を寄稿し、完成したのがこのピアノ小曲集「四季」なのである。作曲に際しては、出版商から毎月詩が届けられ、チャイコフスキーは、それらに基づいて、短時間のうちに作曲を進めたという。それらの詩人の名を挙げると、プーシキン、ウャーゼムスキー、マイコフ、フェート、プレシチェイエフ、コルツォフ、トルストイ、ネクラーソフ、ジュコフスキーであり、我々のお馴染みの名前も見受けられる。最初から毎月1曲づつという約束で引き受けたチャイコフスキーではあるが、毎月、依頼の使者がチャイコフスキーのところに現れると、チャイコフスキーは、慌てて一気に書き上げ、使者に渡したという。それぞれの楽譜の冒頭には、それらの詩が添えられた。多分、チャイコフスキーも気軽な気持ちで作曲したようであるが、現在聴いてみると、それぞれの曲が持つ雰囲気は、一度聴くと忘れられないような懐かしさに溢れたものに仕上がっている。少しも構えることなく、気軽に聴くことができるピアノ曲ではあるが、何か軽さという以上の深い情感が、それぞれの曲に込められているようでもあり、チャイコフスキーでなくては表現できない、独特の情感に溢れている。このLPレコードで演奏しているアレクセイ・チェルカーソフは、1943年、モスクワ生まれのピアニスト。モスクワ音楽院で学ぶ。1965年の「ロン=ティボー・コンクール」で1位なしの2位という実績を持つ。ここでのチェルカーソフの演奏は、ロシア人というこの曲においての優位性を差し引いても、誠に素晴らしい感性を持った演奏である。明快な演奏内容ではあるが、同時に抒情味にも富んでおり、さらに現代的なセンスも持ち合わせているということができる演奏内容に仕上がっている。チャイコフスキーの「四季」を楽しく聴き通せるには、ピアニストの“腕”が大きくものを言うが、チェルカーソフのこのLPレコードでの演奏は、これを満たすのに十二分と言える名演だ。(LPC)