★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヴンダーリッヒ、最期のリート録音盤

2021-10-04 09:45:07 | 歌曲(男声)


ベートーヴェン:アデライーデ/あきらめ/こまやかな愛(君を愛す)/キス
シューベルト:夕映えの中で/リュートに寄せて/ます/
       双子座の星に寄せる舟人の歌/ミューズの子
シューマン:歌曲集「詩人の恋」

テノール:フリッツ・ヴンダーリッヒ

ピアノ:フーベルト・ギーゼン

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5186

録音:1965年10月31日~11月3日、ミュンヘン高等音楽院

 このLPレコードは、不世出の名テナーのフリッツ・ヴンダーリッヒ(1930年―1966年)が、1965年にウィーンとザルツブルク音楽祭で行ったリサイタルと全く同じ曲目と伴奏者で録音した、最期のLPレコード。ヴンダーリッヒは、不慮の事故死を遂げてしまうのだが、当時、戦後ドイツが生んだ最高のリリック・テノールと評され、将来が嘱望されていただけに、その突然の死は多くの人に驚きと悲しみを与えた。フリッツ・ヴンダーリヒは、ドイツ出身のテノール歌手。フライブルク音楽大学で声楽を学ぶ。1954年、モーツァルト:歌劇「魔笛」のタミーノ役でオペラ・デビューを果たす。1955年シュトゥットガルト州立歌劇場と契約し、同じくタミーノ役でデビューを果たし、一晩にしてスターとなった。その後、バイエルン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場と契約。ザルツブルク音楽祭にも定期的に出演した。しかし、1966年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場デビューを数日後に控え、自身の誕生日を目前にして、友人の別荘の階段から転落して頭蓋骨を骨折し、翌日死亡した。ヴンダーリヒとしばしば共演した名バリトンのフィッシャー=ディースカウ(1925年―2012年)は「ヴンダーリッヒは、大きな希望であり、才能ある人物の出現が永く希求されていた声楽界にあって、その成就でもあった。彼の永遠の沈黙は、それ故に、私たちにとっての限りない衝撃であり、悲しみである」と、このLPレコードのジャケットのライナーノートに記されている。ヴンダーリヒは、この録音の後、グラモフォンに「椿姫」「皇帝と船大工」などのオペラの抜粋版を録音し、カラヤンの指揮でハイドンのオラトリオ「天地創造」を録音中に亡くなった。ヴンダーリッヒは、20世紀最大のリリコ・テノールと目されており、ドイツの歌手史上最も重要な歌手の一人とされている。ルチアーノ・パヴァロッティは、インタビューで、歴史上もっとも傑出したテナーはと聞かれ「フリッツ・ヴンダーリッヒ」と答えたほど。このLPレコードでのヴンダーリッヒの歌声はビロードのように美しく、また優しくリスナーを包んでくれる。LPレコード特有の温かみのある音質が、ヴンダーリッヒの例えようもない美しい声を今に伝えてくれる貴重な録音である。特に、B面に収められたシューマン:歌曲集「詩人の恋」は、ヴンダーリッヒの澄んだ美しい歌声が、シューマンの心情を余すところなく表現した、今でもこの曲の代表的録音の一つに挙げられる。(LPC)


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