★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇クライスラー愛奏曲集(最盛期の自作自演集)

2020-11-16 09:35:12 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

クライスラー:ウィーン奇想曲(1926年4月14日録音)
       中国の太鼓(1928年2月27日録音)
       愛の喜び(1926年4月14日録音)
       愛の悲しみ(1926年4月14日録音)
       美しきロスマリン(1927年3月25日録音)
       羊飼いの牧歌(1927年3月17日録音)
       ベートーヴェンの主題によるロンディーノ(1928年12月6日)
       オールド・リフレイン(1924年4月9日録音)
       ルイ13世の歌とパヴァーヌ(1929年12月18日録音)
       ジプシー奇想曲(1927年3月25日録音)
       ユモレスク<ドヴォルザーク~クライスラー編>(1927年3月26日録音)
       インディアン・ラメント<ドヴォルザーク~クライスラー編>
                                (1928年12月21日録音)

ヴァイオリン:フリッツ・クライスラー

ピアノ:カール・ラムソン

発売:1979年

LP:RVC(RCA RECORD) RVC-1561

 このLPレコードは、名ヴァイオリニストであり、同時に愛らしい数多くの小品を残したフリッツ・クライスラー(1875年―1962年)が、自作自演の演奏をSPレコードに録音したものを、LPレコードに復刻した“赤盤復刻シリーズ”の中の1枚である。クライスラーは、1904年、29歳の時から録音を始め、SPレコードの末期に至るまでの長い期間にわたり録音したが、今回のLPレコードは、1920年代というクライスラーの最盛期の年代に録音されたものだけに、クライスラーのヴァイオリン演奏を最善な状態で記録したものとしてその存在価値は高い。音質は現在のそれとは比較にはならないが、決して聴きづらいものではなく、かえってSPレコード特有の柔らかく澄んだ音質がクライスラーの曲と演奏にぴたりと合い、決してマイナス要因にはなっていない点は特筆される。フリッツ・クライスラーはオーストリア出身で、パリ高等音楽院を12歳にして首席で卒業するなど神童ぶりを発揮。一時、軍人の道を歩み始めようとするが、音楽界に復帰し、演奏活動に邁進すると同時に作曲も手掛け始める。1914年に勃発した第一次世界大戦では陸軍中尉として召集を受け、東部戦線に出征し、重傷を負って除隊となった。除隊後は療養しながら演奏活動を再開。しかし、1938年、今度はオーストリアがナチス・ドイツに併合されたのを機にフランス国籍を取得し、パリに移住することになる。さらに1939年、ヨーロッパに第二次世界大戦勃発の気配が濃厚になると、アメリカ永住を決意してニューヨークに移り、1943年にはアメリカ国籍を取得。以後アメリカで一生を過ごすことになる。クライスラーは陽気で冗談が好きだったらしく、自作の「ルイ13世の歌とパヴァーヌ」を作曲したときなどは、クープランの作品として発表したそうで、皆を煙に巻いて一人楽しんでいたという。このLPレコードに収録されたクライスラーが作曲・編曲した曲は、皆お馴染みの曲であり無条件に楽しめる。クライスラーの演奏は、艶っぽさと同時に純真無垢な爽やかさも持ち合わせており、その魅惑的なヴァイオリンの音色は、リスナーを引き付けずにはおかない。テンポも速すぎもせず、遅すぎることもなく、その絶妙の手綱捌きは、さすが大家の雰囲気を漂わせている。今では、多くのヴァイオリニストがクライスラーの小品を録音しているが、このLPレコードは、クライスラー自身が全盛時代に、自らが作曲した小品を録音したもので、今現在でも不滅の光を放っている録音なのである。(LPC)


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