「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/02/05
賃金統計不正問題の本質と核心
第2253号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019020520520251840
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2019年は政治決戦の年。
2012年末から6年以上続く第2次以降の安倍内閣に対する審判を下し、日
本政治に新しい道筋をつける年である。
その2019年の通常国会が召集され、国会審議が行われている。
2018年度第2次補正予算審議で取り上げられているのが統計不正問題であ
る。
経済政策を立案する際、事実認識のベースになるのが経済統計である。
ところが、その経済統計が不正に取り扱われている疑いが浮上している。
政府統計作成に従事する職員数が削減され、統計に各種不備が生じている。
このことも論じられているが、この問題と、政治権力による意図的な統計数値
操作=不正統計問題を混同するべきでない。
統計に従事する職員数が不足していることが強調され、これが統計不備の主因
であるとの節が流布されているが、これは、権力の側が問題の本当の責任を回
避するために意図的に流布させている
「印象操作」
の一部であると見るべきだ。
人員不足の問題と統計不正の問題を区分して考察することが必要だ。
統計不正の主論点が二つある。
2018年の実質賃金上昇率数値が不正にかさ上げされていた疑惑が第一。
名目GDP統計数値が不自然な制度変更で、不自然にかさ上げされている疑惑
が第二である。
この二つの疑惑に焦点を絞って問題を追及するべきだ。
この二つの問題の本質は
「アベノミクス偽装」
である。
統計不正によって、実体と乖離する良好な経済パフォーマンスを主権者に提示
した疑いである。
アベノミクスの評価が極めて低い主因は
GDP成長率の低さ
と
一人当たり実質賃金の減少
にある。
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では第一のペテンとして
「アベノミクスの嘘」
について既述した。
アベノミクスの成績は正当に評価すると最低最悪レベルである。
安倍首相はアベノミクスがもたらした数少ない「成果」と呼べるものを寄せ集
めて、これだけを繰り返しアピールしているが、「木を見て森を見ない自画自
賛」でしかない。
国民目線で経済政策を評価する場合の二大指標は
実質GDP成長率
と
一人当たり実質賃金上昇率
になる。
この二大指標でアベノミクスの成績は最低最悪なのだ。
実質GDP成長率平均値(前期比年率成長率の単純平均値)は+1.3%で、
景気が最低最悪と言われた民主党政権時代の+1.7%を大幅に下回る。
一人当たり実質賃金は約5%減少した。
2013年以降で伸び率がプラスになったのは物価上昇率がマイナスに転落し
た2016年のみである。
アベノミクスが目指したインフレ誘導に失敗したために初めて実質賃金がプラ
スになったのが2016年。
この二つの基幹統計数値を偽装するために統計不正が行われた疑いが濃厚なの
だ。
安倍内閣はもりかけ疑惑同様に「逃げの一手」に徹するだろうが、日本の主権
者は、この内閣がペテン師もどきの存在であるという本質を見極めるととも
に、アベノミクスで国民の生活が台無しという真実を正確に把握することが肝
要である。
私は、第2次安倍内閣の下で労働者一人当たりの実質賃金が大幅減少してきた
ことを繰り返し解説してきた。
また、実質GDP成長率実績が著しく悪いことも明記してきた。
これは誹謗中傷ではなく、純粋な事実の記述である。
また、安倍内閣に都合の悪い部分を抜き出したものでもない。
国民生活の視点で経済実績を評価する際に、基幹となる二つの経済指標が
実質GDP成長率
と
一人当たり実質賃金増加率
なのだ。
中立公正の立場からの経済実績評価である。
この基幹二大統計数値において、安倍内閣の実績は最低最悪なのだ。
その客観事実を事実のまま、人々に伝えてきた。
他方、安倍首相がアピールするのは、
雇用者が増えた
有効求人倍率が上昇した
企業収益が増えた
株価が上がった
外国人訪日客が増えた
なのだが、すべてが枝葉末節だ。
枝の議論、木の議論なのだ。
森の議論ではない。
この批判を安倍内閣が気にしてきたことはよく知っている。
今回の統計不正の核心は、
実質賃金指数の数値を計算する際に、2018年1月以降の数値に関するデー
タ処理を2017年12月以前の数値に関しては行っていなかったこと
にある。
このことは、
「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で
行っていたことについて」
https://bit.ly/2WEJQ1L
という文章に、分かりにくい表現で明記されている。
東京都の「500 人以上規模の事業所」について、
2018年の例では、1464事業所が全数であるのに対して実際には概ね3
分の1の事業所に対する抽出調査で済ませていた。
この抽出調査の結果を全数調査ベースに「復元」する作業を、2018年分に
は実行したが、2017年以前の数値に対しては行わなかった。
復元した数値が高く出ることから、2018年に関しては、実質賃金の前年比
上昇率が高く表示されることになった。
前年比で比較するなら、少なくとも、前年の統計数値については、同様の「復
元処理」が必要になることは当然のことだ。
このようなことは、統計の専門家でなくても誰でも分かることだ
問題は、なぜ、こうした稚拙で素朴な統計数値公表が行われたのかである。
問題が発覚しなければ、2018年の実質賃金伸び率は、真実よりも高い数値
で発表できる。
そして、実際に発表されてきた。
安倍内閣の最大のウィークポイントである
「実質賃金が減少し続けている」
との批判を跳ね返すには、前年比プラスになる実質賃金伸び率計数は、のどか
ら手が出るほど欲しいものだったはずだ。
この統計処理の変更は2015年10月16日の経済財政諮問会議での、麻生
太郎氏の発言を背景に行われたとされている。
麻生氏は次のように発言した。
https://bit.ly/2UH5Hn7
「私どもは気になっているのだが、統計についてである。
(中略)毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があると
いうこともよく指摘をされている。
(中略)統計整備の司令塔である統計委員会で一部議論されているとは聞いて
いるが、ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し
上げる。
(中略)また、総務省を始めとした関係省庁においても、GDP統計を担当す
る内閣府と協力して、これらの基礎統計の充実にぜひ努めていただきたい。」
その結果として統計処理変更が行われ、2018年の実質賃金伸び率が「偽
装」されたのだと見られる。
2019年の国政決戦、2019年10月の消費税増税論議に関連し、実質賃
金プラスは決定的に重要な経済データになる。
しかし、その数値は「偽装されたもの」だった。
真実の数値は「前年比マイナス」である。
この数値がまだ発表されない。
GDP統計の偽装については、2月2日付け記事に記述した通りだが、本質的
にまったく同じものだ。
国民に嘘のデータを示して国民を欺き、選挙で不当な議席を確保しようとして
いる。
「いつも嘘をつく国家」を私たちは2019年の政治決戦で退場させる必要が
ある。
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