廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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若き天才の台頭

2016年01月23日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Pepper Adams / Critics' Choice  ( World Pacific PJM-407 )


ダウンビート誌の1957年のバリトン部門の新人賞を取ったペッパー・アダムスが自己名義で吹き込んだ第2作目で、スタン・ケントン楽団での盟友である
リー・カッツマンのトランぺットを相方に、ジミー・ロウルズ、ダグ・ワトキンス、メル・ルイスという素晴らしいトリオを従えたアルバム。 ワールド・
パシフィックから出ているせいで完全に盲点になっていますが、このレーベルとしては全く異質な東海岸寄りのハードバップの隠れた傑作です。

ダグ・ワトキンスが全編に渡って素晴らしいウォーキングベースを弾いており、実質的な影の主役となっていますが、メル・ルイスのドラムの上手さも
圧巻です。 若き日のジミー・ロウルズも既に趣味の良さが全開で、このリズム・セクションは本当に素晴らしい演奏をしています。 リー・カッツマンも
ビッグ・バンドの人らしくハイ・ノート・ヒッターですが、無名ながらも腕は確かで、重くなりがちなバリトン・サウンドを上手く中和しています。

録音当時アダムスは27歳でしたが既にサウンドと演奏は完成しており、圧倒的な迫力があります。 このレーベルの録音は元々音響的に奥行きが浅く、
残響を消したような乾いたサウンドが特徴でここでもその傾向は変わりませんが、それでもしっかりとハードバップとしての雰囲気が出ていて、音の分離も
良く、悪くない録音です。 各人が吹き過ぎない・弾き過ぎない演奏をしているのでワトキンスのベースラインがよく聴こえて、快楽度も高い。

トミー・フラナガン、サド・ジョーンズ、バリー・ハリスら同郷のデトロイト出身の人たちが作った曲をメインに取り上げているところも面白く、そういう
デトロイトをテーマにした他レーベルのいくつかのアルバムと雰囲気も似ています。 デトロイト出身者はみんなそのことにこだわるみたいだけれど、
なぜだろう?

※本稿の初稿では「デビュー作」と書きましたが、MODE盤がデビュー作で、このアルバムは第2作であるとご教示頂きましたので、訂正致します。
 愛聴されている方も少なからずいらっしゃることがわかり、私もうれしくなりました。 いい作品を残してくれたアダムス他メンバー達に感謝。
 


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6 コメント

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こ、これは (松葉蘭)
2016-01-23 18:06:03
私の大好きなディスクです。オリちゃんがこんな色をしているとは初めて知りました。
メンツにダグワトキンスが入っているのがやはりミソなのでしょう。そのベースを軸に、メルルイスの推進力のあるドラミング、そして録音少ないリーカッツマンのメリハリのあるトランペットサウンドを従えて、重厚ないつものバリトンが「Zec」で炸裂しています。今でもこの曲だけは何時でも車中で聞けるようにコピーを積んでいるのです。ハードバピッシュなバリトンものとしては出色で、元気出ます、これは。
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Unknown (ルネ)
2016-01-23 21:01:47
さすが、いいところをご存じですねえ。
ZEC、サド・ジョーンズですね。 本人の演奏より、こちらのほうがいいですね。 メル・ルイス、いいですねぇ。 
ただ、世間一般ではよほど人気がないみたいで、ずいぶん安い値段で寂しく転がっていました。


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アダムスのBest5に入るでしょう (YAN)
2016-01-24 11:10:45
ルネさん

こんにちは。
大好きなアダムスのアルバムが紹介されるとファンとしては嬉しいものです。

アダムス、メルルイス、リーカッツマンが揃ってスタンケントンオーケストラを辞めてロスで活動していた時のアルバムですが、このアルバムの録音の前日がダウンビートの新人賞の発表、そして翌日には西海岸での生活に区切りをつけて、ニューヨークに戻るといったたタイミングでの録音。

そして一緒に演奏するメンバーは、ケントン時代を通じて2年近く苦楽を共にした仲間達、ある意味の卒業記念となると、いい演奏になるのは必然だったように思います。

西海岸での録音、そしてパシフィックジャズというイーメジとは一味も二味も違う演奏です。

メルルイスとはニューヨークでサドメルで再会し、ここで演奏している曲もサドジョーンズの曲が多いのも何か因縁を感じます。

アダムスのアルバムというとどうしてもドナルドバードとのコンビ以降が有名ですが、デビュー作のモード盤、そして2作目のこのアルバムを経て、ニューヨークに戻ってからのアルバムでの演奏にもいい演奏が多いです。
バリトン自体の音色も、この頃はいい意味での若さを感じます。

アダムスのアルバムは大体全部聴きましたが、生涯のベストファイブに入るといってもいいと思います。

YAN
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Unknown (ルネ)
2016-01-24 11:59:15
YANさん、訂正情報ありがとうございます。 すごく助かります。
裏ジャケットのダウンビート誌の記者が書いたライナーノートに「自己名義のファーストアルバム」と書いてあるので、そのまま信じていたのに・・・・
第2作だったんですね。 いい加減だなー、ダウンビートも、裏取りもせず鵜呑みにする私も。(後で記事の記述は修正しておきます。)

ペッパー・アダムスの第一人者であらせられますYANさんのお墨付きであれば、私の感想もあながち間違いない訳で、心強いです。
はじける若さと完成した技術が同居しているところが驚異的だと思います。 一種の天才だったんですね、この人は。

MODE盤もいいんですね? まだ聴いたことがありませんので、さっそく探してみようと思います。

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間違いという訳はないですが・・ (YAN)
2016-01-24 22:59:46
ルネさん

別に間違いを指摘したのではないのでお気になさらずに。

Modo盤の録音が7月12日、そしてこのアルバムが8月23日なので、この時まだファーストアルバムは世に出ていなかったと思います。

その間、ダウンビートの発表があったので、ダウンビートの記者も、自分達のアワードを記念してファーストアルバムができたと思っても不思議ではありません。

今の時代から過去を見ると録音日で語りますが、現在進行形はやはりリリース日ですから。

というより、バリトンはプレーヤーは少ないのですが、リダーアルバムも出してない時に、新人賞をとったことが凄い事だと思います。
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なるほど。 (ルネ)
2016-01-25 06:17:08
そうだったんですね。 そうやって立て続けに録音の声がかかった、というところに当時の注目度が如何に高かったかがわかりますね。

アルバムが出ていないのに表彰されるというのは、それだけみんながライブを当たり前のようにたくさん見ていた、ということなんでしょうね。
そういうものが身近にあったというのは、なんとも羨ましいことです。 我々がどんなに頑張って音盤を買い漁っても、到底敵わないことです。

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