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『刀語』~全ての報われぬ物語へ

2011年02月09日 | アニメ


去年(2010年)暮れに『刀語』(原作・西尾維新)が終わりまして。この作品、その結末が僕に何ともいえない涼しげな感動を与えてくれたので、どこかで書き留めておこうと思っていたのですが、ちょっとずるずる今日まで来てしまいました。もう、いい加減タイムリーさは失せているかもしれませんが(汗)完全に寝かせて、ある日思い出したように書くか?書かないか?になるよりは、早目に書き触れておこうと思います。

『刀語』は、戦国乱世が終焉した尾張幕府の時代、奇策士と名乗る女・とがめと、刀を使わない剣術、虚刀流の七代目当主・鑢七花が全国を旅し、伝説の刀鍛冶・四季崎記紀の造りし完成形変体刀十二本の収集を図る冒険譚。
完成形変体刀の持ち主の剣士、とがめたちとは別に変体刀の収集を目指す真庭忍軍、そして暗脚するとがめのライバル(?)否定姫と配下の左右田右衛門左衛門と、様々な勢力と戦士が入り乱れて戦います。

※注意!ネタバレ入ります!

最初、僕はこの物語を明朗快活な冒険活劇のように思っていて……まあ、実際にそうなんですが、まあ、色々悲しい事もあったけど(姉ちゃんが死んだり)最後はハッピーエンドだったよねくらいの話に思っていたんですよね。…西尾維新作品に接する身としては、甘いですかね?wでも、僕としては『戯言』シリーズも、『化物語』シリーズも、そこは同じような感覚なんですよね。途中でちょっと不幸や悲しい事もあったけど、最後はハッピーエンドだったよね。くらいの感じで受け止めています。
それは最終回に一変します。まあ、バラします。この『物語』のヒロインである奇策士とがめは死にます。田村ゆかりさんの声で可愛らしい子だったんですけどねえ…。突然、右衛門左衛門の持った炎刀・銃が放つ銃弾でパンパンッと。七花は手当をする術もなく。死んで行きます。
すみません。ヒロインが死ぬという単純な“手”に引っかかったと言えば、引っかかりました。いきなり座り直しましたもん。でも、いい『死に』です。これによって、それまで積み上げられてきた話の意味が一変する出来事になっていたと思います。



この『物語』って、元々、相当死屍累々の話ではあるんですよね。変体刀を持った剣士たちは男も女もけっこう容赦なく死んで行くし、真庭忍軍の十二頭領などは全滅してしまう。それでも、とがめ(と七花)が目的を遂げられるなら、それは双方納得の死生の事だよねというか。…そういうの倫理的にどうなの?って言う人もいるかもしれませんが、それは無視するとして。
多分、この作品のベース…とは行かないまでも、ある程度、参考にしたであろう山田風太郎作品の忍法帳なんかで、可憐な姫を、ほとんど妖怪紛いの男達が必死に衛るような話ってありますよね。あれ、男はほとんど死んでしまうんですけど、まあ、姫様が無事ならよかったよね。報われたよね…として。それがもし、途中で姫さんが死んでしまったら、どういう感じでしょうね?ちょっと“形”は違いますが、とがめが死ぬというのは、それくらいの意味を持っていると思います。

バトルロワイヤルものの、一つの類型だと思うんですが、様々な剣士や忍者たちと勝負して討ち果たし、それで目的が遂げられるなら良し。それは一つの報われる物語と多くの報われなかった物語かもしれない。しかし、その最後に残る一人がそれを遂げられないならば、それは全てが報われなかった物語になるんですよね。
実際にこの話は、それを画策したもの含めて、全ての者が少なくとも掲げた目的を果たせずに終わって行きます。まあ『カブトボーグ』の村社長のように「どっちでもいい」感じの否定姫(←なぜ『カブトボーグ』出した)のような人もいるので、それが残念か?というとまた別問題ですけど。……そうすると、ああ、誰も報われなかったなあ…悲しいなあという終わり方に、もう、少しテーマに直すと「戦いは虚しい」とか「争いは悲しい」とか、そういう終わり方が見えたりもするんですが。

~ところがそんな感じでもない終わり方になっている。そこがすごく好きで感動した所です。一つは、死屍累々で誰も報われなかったように見えるけど、歴史は少し変わった“かも”しれないねという描きを入れている所、まあこれは登場人物たちがその“成果”を聞いてどれだけ満足するかというと難しいのですが、観客の視点に変えるとわずかな安心が得られるものかなと思います。
もう一つは、そのラストで………何と言うか「報われなかったけど。ま、いっか…w」とでもいう爽やかな空気ですね。具体的に言うと、最後に、とがめを殺す命令を出した否定姫と、とがめを失った悲しみから幕府を転覆寸前まで壊滅させた七花は、その旅の道連れとなって穏やかに語らい合っているんですよ。…まあ、やるだけ、やったからいいよね。さ、次ね。というかね。「報われなかったり、失ったりって、そんなに深刻になる事じゃないよね」というかね。

これ、原作もこういう“空気”なのかは僕は未読なんですけど…。僕が他の西尾作品『戯言』や『化物』、『めだかボックス』などで感じた「内面を腐する」(自虐?)ような感覚がなくってちょっと異質に思いました。たぶん、“そういうもの”はとがめの中に封じられていて、そしてそのとがめは殺される……という“形”じゃないかと考えていますが…どうなんでしょうね。
先ほど触れた山田風太郎忍法帳とか、横山光輝先生の忍者マンガとか、(白土三平先生は…違いますね。あの人のはもっと凄烈だと思う)掲げた目的は確かにあるんだけど、本質的には戦い抜くために戦っているような『物語』のもつ、涼し気な死生観。凄惨な爽やかさが僕はとても好きで。『刀語』も「ああ、そういう話だったんだ」という物語になってくれた感じです。


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1 コメント

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Unknown (チャッキー)
2011-02-09 17:25:00
最初の頃は化物語やめだかに比べて癖の少ない、王道な少年漫画にも似た印象を受けました。
刀語はあれだけ強敵倒したり城を破壊しても何事もなかったかのように歴史は動いていくし、とがめも死ぬわで虚しい物語だと感じたけどラストの否定姫とこなゆきのシーンを見てると何故か爽やかです。
普通の作品ならあれだけの出来ごとが起きれば、後の世に大きな変化が生まれる。
なのに何もないのが、物語の定番を逆手にとった西尾作品らしいとこなのかなと思いました。
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