【情報圧縮論】【脱英雄譚】
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「情報圧縮論」から観える構造(その1)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/9463c36296d822054b9ae5a6abd241d7
(↑)前回の続きです。
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」目次】
http://maouyusya2828.web.fc2.com/menu.html
http://maouyusya2828.web.fc2.com/
(※既読者向けです)
前回のつづきですが、その前にちょっとこの記事の性質というか立ち位置を述べておきたいです。…とは行ってもタイトル通り、この記事は(LDが試考構築中の~)「情報圧縮論」から観た「魔王x勇者」の構造という事なんですが、誤解なきようにお願いしたいのは、それで「魔王x勇者」の総てが観えるとか、分析を網羅しているとか、そういう話ではないという事です。まあ、僕としては「情報圧縮によるモジュール」と「そうで無いもの」を選り分けたりする事によって、その「物語」の実相、あるいはテーマが観えやすくなると思っていますが、そうは言っても一つの手法/ノウハウに過ぎないワケです。また、その手法の練成のために、「魔王x勇者」を素材にしているという事でもあります。
…で「魔王x勇者」そのもののファクト(事実)を追う作業としてはGiGiさんがかなり良い記事を書いてくれています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/85/ac4452e84ae1762902a929446c017463.jpg)
【未来私考:「魔王x勇者」が「その先の物語」を書けた理由】
http://d.hatena.ne.jp/GiGir/20100510/1273472249
【未来私考:「まおゆう」再発見から1ヶ月の記録】
http://d.hatena.ne.jp/GiGir/20100525/1274774265
「魔王x勇者」の発生の前段階の状況確認から、拡散までの経緯をまとめていて「魔王x勇者」のファクト(事実)に迫った記事だと思います。…まあ、そうは言ってもGiGiさんはGiGiさんで、Twitterを含めた新メディア(?)、新ジャンルから反響を呼んだ作品としての角度で「魔王x勇者」を解こうという、僕とは違う“都合”があるのでしょうけどねw(というか「魔王x勇者」は本当に様々な角度からの検証に耐え得る「大きな物語」だと思うんですよね。故に何かえらい批判も受けてたみたいですが…)
とまれGiGiさんの記事は森を見るに、その森に踏みいってその樹の生え方を検察して来たような感じですが、僕の方は望遠鏡で眺めて、その森の中で紅葉(個人的に気にしている樹)がどこらへんに、どのくらい繁っているか?を観察したような記事です。まあ、それはそれで意味はあるよね(汗)という事で書いて行こうと思います。
あと「情報圧縮論」の説明について何かもう少し補足ができないかと思っていたんですが、つい昨日、ウチダさんとのTwitterでの会話で応用と発展の話ができたと思うので、ちょっとTogetterでまとめてリンクしておきます。まあ、こんな感じの話かと。
【「情報圧縮論」と「死亡フラグ」の話】
http://togetter.com/li/24899
さて、またまた前振りが長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。(´・ω・`)
■展開のモジュール化
う~~~~ん、ちょっとだけ引用するつもりが、思わず大量に引っ張ってきてしまった。だって、ここも、いいいシーンなんだもん。(´・ω・`)……クライマックスの前哨戦とも言うべき勇者vs蒼魔の刻印王のシーンですね。
(←)蒼魔の刻印王は何だかんだ言って、中ボスみたいなもので多少格は落ちるのかな?とは言えその魔力は間違いなく歴代魔王の力を継承しているワケで、基本的には前回張った画像のこれですね。「ネギま」のナギの決戦バトル。こういう人語を超えた壮絶なバトルがこの文中で展開しているはずなんです。
そして「魔王x勇者」のこういった描写を読むにつけ「物語」おたく界隈の人たちはけっこう戦慄を覚えたんじゃないかと思うんですよね。いや、僕は戦慄したって事なんですが(汗)この呪文(必殺技名?)と、擬音の羅列に、あと互いの自己主張のセリフを混ぜれば、この短い文章で決戦のバトルが成立してしまう事を描かれてしまったというか、バラされてしまったというか、そんな感じ?なワケです。(´・ω・`)
まあ、バラされたって言い方は正しくないかもしれないんで、控えますが……いずれにせよ、こういったシーンが「情報圧縮」された描写だと言う事は言えると考えています。ここらへんは「魔王x勇者」の特徴という以前にVip@2chのSS文化がベースになっているようですが、とりあえず分析してみます。
擬音については通常の文章運用的と思えるので置いておきますが、ここで分解したいのはバトル中、彼らが駆使した呪文の数々ですね。(余談ですが、勇者は“呪”なのに対して、刻印王は“術”なんですねえ…。ふむ。別途、検証しよう)まず「招嵐颶風呪」これは、勇者が発生させたマクー空間というか……嵐の結界の中に対象者を封じ込める呪文ですね。すげえ…周辺の被害を抑え込めちゃうじゃんwホントにスーパーヒーローだw……が、ともかくこれは“説明が必要”と判断されて、勇者の説明セリフが入ります。(本当はこの説明ももっと細かくする必要がある場合もあるのだけど)
逆に言えば、その後続く「飛脚術」、「火炎鳴動術」、「天眼察知術」、「剛力使役術」、「神速呪」、「雷剣呪」、「鏡像呪」は説明が要らないと判断できるって事です。少なくとも僕には必要なかったし、おそらくこの記事を読もうなんて考える人たちにも必要なかったでしょうwただ、ノベライズする際はそこらへんの線引きも変わってくるとは思いますが、とまれ、“僕ら”は単に説明が要らないだけではなく、勇者vs蒼魔の刻印王のバトルがどのように展開しているか己が瞼にありありと映し出せているはずです。勿論、細部はまるで違ったビジョンでしょうが、そこは問題ではない。
ちょっと付け加えると…「超」、「皇」、「帝」、「覇」、「絶」…あたりでしょうか?僕の厨二脳から選ぶと、これらの字を先程の呪文の言葉に一字混ぜるだけで、あら不思議、さらに凄い技になる事が感じられますよね?w(女騎士vs大主教の決戦でも使われてますね)だけど、「超」はともかく他はあまり根拠ないですよねw
何で分かるのか?それは一つは僕たちが漢字圏に居る事の恩恵……とか言い出そうと思いましたが、別に横文字圏でも「ライトニング~!!」とか「~ストーム!!」とか言えばいいので、あんまり関係ありませんね。(漢字はより「情報圧縮」の意味が分かりやすい素材ではありますが)つまり、そこはやはり僕らが散々、マジカル・ファンタジー・バトルに接してきた事が大きいのだと思います。
かつては魔法が使える~その事そのものに「面白さ」を感じ、様々な魔法が飽和的に生み出されていったのですが、ここはもう「先の物語」なのですから。
ある一線を超えたところで魔法は、物語の“売り”というより何かを描くための道具となってくるワケです。(そこで、誰も考えないような魔法を発想したり、魔法体系を組んだりするのも一つの道ですけどね)ひと言ふた言のワードで、皆まで言わずとも分かる物は“圧縮”して「モジュール」として置く。そしてその「モジュール」は必要な時に使う。そういう話になってきます。その成果の一つがこの「勇者vs蒼魔の刻印王」だったりするワケです。
この話をしてて、ちょっと思い出したのは「魔神人伝」(作・来留間慎一)という作品で。すんごい魔王が主人公なんですが、本来念じるだけで魔力を発動できる彼がゲーム世界に紛れ込んだときに「雰囲気を出すために」と称して即興で自分の魔力顕現に名前をつけて唱えるようになるんですね。
たしかに、昔から「ヒーローは何故、必殺技を叫ぶ!」と言われているんですけど、そうやってパッケージングするから、今、「モジュール」として使えるんですねえ…とか思ったり。もともと人間の知性はそうやって“名付ける”(結果、意味が圧縮される)ようになっていて、そうやって思考を整理して先へ進める……そういう動物なんでしょうねえ。
ここではバトルのワンシーンをサンプルとしましたが、作品を通した全体のテーマ、たとえば「善悪二元論の超克」なんていう「モジュール」も、既に説明不要な程浸透しているはずで。これについて、たとえば敵の考える正義をいちいち説かせて説明して、「受け手」の投影された主人公が“返し”に詰まる………などという説明描写を見せなくても「ああ、その話ね」と納得を引き出せる。それが「情報圧縮」ができる状況で、それをどのように「圧縮」するかは「送り手」のセンスと手法による所もあるんですが、ともかくそうやって「善悪二元論の超克」を圧縮できる前提があるから、その「先の物語」や「大きな物語」を描いて行けると。
■キャラクターのモジュール化~元型化
「魔王x勇者」の登場人物名に関する言及は、既に他でも色々されていると思います。勇者、魔王をはじめとして、その多くの登場人物を職業名で語り、そのキャラクターのビジュアル的な描写にはほとんど言及しない。とは言え、必要最低限の情報は入れる。魔王が巨乳だとか、女騎士が貧乳だとか、勇者の頭は触るともふもふだとかは入れる…必要な事だからな!(`・ω・´)しかし、メイド姉の胸がどのくらいの大きさかとかは一見、ものすごく重要そうな情報に思えるが、それは入れない……必要ない事だからな!(`・ω・´)
…いや、話が横道に逸れましたが(汗)たとえば「辣腕会計」のキャラクターが無能な怠け者であるとかあり得ないワケですよwいや、そういう変化球が必要な局面ではそれは置かれるでしょうけど、そうでなければ原則、そのキャラ名称のイメージに沿ってもらってよい。これは作者の橙乃ままれ先生の文章力……詰めて言うとキャラクターのセリフ生成力に拠る所も大きいのですが、それによって、キャラクター描写といったものはほとんど無いにも関わらず、セリフ回しと擬似キャラクター名(?)によるイメージの“膨らまかし”だけで、「受け手」が多数の登場人物たちを頭に収める事に成功させてしまっていて、結果、あのシンプルな文体で、とんでもない展開の「速度」を叩き出している。
「魔王x勇者」は、作品としてものすごく脳で整理しやすい構造をしているので、複雑長大な「物語」にも関わらず、分かりやすく頭の中に入ってくるのではないかという事です。それを「情報圧縮論」の角度から論じているワケです。
もう一つ。前回の記事で引っ張てきた、もう一つの「情報圧縮論」のサンプル「やる夫が徳川家康~」ですが、こちらはツールとして使っているキャラクターが、モロに別の物語の登場人物なので、あまり表立って使えない手法なのですが、「魔王x勇者」はそれらをキャラクターのエッセンスにまで昇華しているので、書籍化の話まで出てくるという事があります。
【情報圧縮論:やる夫が徳川家康になるようです】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/135e913ad65b8e70a5107cd716652c2c
これってキャラクターの元型(アーキタイプ)をそのままシンプルに見せてしまって、そのまま書かれてしまったって事じゃないかと思うんですが…。すみません。ここらへんはまだ考察途中で形固まってません(汗)……ちょっとだけ触れておくと、以前、ユング心理学の話を「物語」を「読む」のに利用しようと言う記事を書いた事があるのですが、その延長ですね。ここでは「心理機能」の話とかはあまり関係なくって、「元型」の話、(2)の最後のあたりの項目…。
【ユング!ユング!ユング!(2)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/55d4a687041488bcd22f9c37125d16cb
まあ、ユングの“元型”について詳しい所は調べてもらうとして…。心理学や、文化人類学?としての“元型”はある程度の広範囲…人類普遍か、あるいは民族普遍レベルの“元型”を抽出しないと、それ程意味をなさないのでしょうけど、ユングがこの考えを提唱するに至った、個人の夢のイメージと神話イメージの共通性、ひいては世界各地の神話イメージの共通性というのは、もっとミニマムに考えて「なんで、少年マンガの主人公やストーリーは同じようなのばっかなの?」とか、そういう話に接続できるんじゃないかと考えてます。
そこには、少年マンガレベルの「元型」という奴が必ず居ると思うし、おたく界隈の、そういう狭い範囲の“集合的無意識”に生ずる「元型」って在ると思うんだよね。たとえば綾波とか(´・ω・`)綾波に何らかのアニマの内包があるのは間違いない所だと思いますが、それが普遍的なものか?というとちょっと判断難しい。じゃあ、時限・アニマでも、ローカル・アニマでも、それならそれで論じちゃえばいいんじゃないの?って話ですけどね。
ちょっと話が逸れました。え~っと、「魔王x勇者」の中で登場したワケではないですけど、たとえばキャラ名「絶世美女」とかキャラ名「秀麗男子」とかそういうキャラがいたとしたら、当然、絶世の美女や、眉目秀麗の美男子をイメージしますよね?その時、ある意味では各人の“アニマ”なり、“アニムス”なりが出ていると思うんですよね。(ちょっと、アニマ/アニムスの理解を乱暴に切っていますが)それは変に形容、修飾を重ねるより、ずっとダイレクトな効果があるような気がします。
つまり「魔王x勇者」(これはひいてはVipのSS文化もかな?)のキャラクター名原則は、物理的に描写を短縮化させる効果とは別に、そういった各人の「元型」を引っ張り出す効果を持っていたんじゃないの?って仮説ですね。(元型を引っ張り出せるとどうなるかと言うと…大雑把に言うとウケるんですね。感覚的な慕情を引き出せるというか…)
「元型」の有力な“固まり”は上に引用したような5体ですけど、別に元型はそれに限らないわけで……魔王、勇者、女騎士、女魔法使い……思い返して観るとタロットカードみたいな、ある種の象徴的イメージを出すにはなかなかいいワードじゃないですかw……まあ、何とも言えませんけどね?(´・ω・`)
…………あれぇ?今回で終わる予定だったのに全然終わらないぞ?orz 序文より短くスパッとか言っていたような……orz
つづきます。次は「情報圧縮」と“省略”の違いが書けたらいいなとか。「情報圧縮」で潜在化された情報の顕現の話とか。そこらへんができるといいな…。(´・ω・`)
(↓)続く
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「情報圧縮論」から観える構造(その3)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/77c8668529ca2b47cda018dfbaaf85f2
以前の記事です。
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「先の物語」という意味(その1)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/74eed63271d173e9d4dd2c8facb30615
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「先の物語」という意味(その2)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/463b4de3919163ad00aa98250584512b
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「情報圧縮論」から観える構造(その1)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/9463c36296d822054b9ae5a6abd241d7
(↑)前回の続きです。
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」目次】
http://maouyusya2828.web.fc2.com/menu.html
http://maouyusya2828.web.fc2.com/
(※既読者向けです)
前回のつづきですが、その前にちょっとこの記事の性質というか立ち位置を述べておきたいです。…とは行ってもタイトル通り、この記事は(LDが試考構築中の~)「情報圧縮論」から観た「魔王x勇者」の構造という事なんですが、誤解なきようにお願いしたいのは、それで「魔王x勇者」の総てが観えるとか、分析を網羅しているとか、そういう話ではないという事です。まあ、僕としては「情報圧縮によるモジュール」と「そうで無いもの」を選り分けたりする事によって、その「物語」の実相、あるいはテーマが観えやすくなると思っていますが、そうは言っても一つの手法/ノウハウに過ぎないワケです。また、その手法の練成のために、「魔王x勇者」を素材にしているという事でもあります。
…で「魔王x勇者」そのもののファクト(事実)を追う作業としてはGiGiさんがかなり良い記事を書いてくれています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/85/ac4452e84ae1762902a929446c017463.jpg)
【未来私考:「魔王x勇者」が「その先の物語」を書けた理由】
http://d.hatena.ne.jp/GiGir/20100510/1273472249
【未来私考:「まおゆう」再発見から1ヶ月の記録】
http://d.hatena.ne.jp/GiGir/20100525/1274774265
「魔王x勇者」の発生の前段階の状況確認から、拡散までの経緯をまとめていて「魔王x勇者」のファクト(事実)に迫った記事だと思います。…まあ、そうは言ってもGiGiさんはGiGiさんで、Twitterを含めた新メディア(?)、新ジャンルから反響を呼んだ作品としての角度で「魔王x勇者」を解こうという、僕とは違う“都合”があるのでしょうけどねw(というか「魔王x勇者」は本当に様々な角度からの検証に耐え得る「大きな物語」だと思うんですよね。故に何かえらい批判も受けてたみたいですが…)
とまれGiGiさんの記事は森を見るに、その森に踏みいってその樹の生え方を検察して来たような感じですが、僕の方は望遠鏡で眺めて、その森の中で紅葉(個人的に気にしている樹)がどこらへんに、どのくらい繁っているか?を観察したような記事です。まあ、それはそれで意味はあるよね(汗)という事で書いて行こうと思います。
あと「情報圧縮論」の説明について何かもう少し補足ができないかと思っていたんですが、つい昨日、ウチダさんとのTwitterでの会話で応用と発展の話ができたと思うので、ちょっとTogetterでまとめてリンクしておきます。まあ、こんな感じの話かと。
【「情報圧縮論」と「死亡フラグ」の話】
http://togetter.com/li/24899
さて、またまた前振りが長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。(´・ω・`)
■展開のモジュール化
勇者「吹っ切れたぜ。どんなに人間離れしてようとな
それでみんなに嫌われようと、ひとりぼっちになっちまおうと
それでも“お前なんか”に負けるより、よっぽどましだっ!」
蒼魔の刻印王「っ!?」
勇者「おおおっ!! “招嵐颶風呪”っ!」
蒼魔の刻印王「こ、れはっ!?」
びゅごぉぉぉっ!
勇者「はっ。お前程度の飛行魔法で制御できるかっ。
こいつはごきげん直伝の気象制御呪文の強化版だっ。
俺とお前ごとふっとばす嵐の結界っ。
まずはもっとましな場所へいこうやっ」
蒼魔の刻印王「“飛脚術”っ! “火炎鳴動術”っ!
“天眼察知術”っ! “剛力使役術”っ!」
勇者「“神速呪”っ! “雷剣呪”っ! “鏡像呪”っ!」
ゴオオオオッ!!!
ガギィィン!!
勇者「いい加減に諦めろっ!」
蒼魔の刻印王「諦めたともっ! 無傷で勝つことはなっ!」
ギィン! ガギィン!! ビギィン!!
勇者「応えろ!! 黒の鎧っ! そなたは何ぞっ!!」
“我は鎧っ。汝を守り、汝が敵の刃を悉く弾く物なり”
蒼魔の刻印王「何故それを使いこなせるっ」
勇者「知ったことかぁっ!!
誰かが誰かを助けようとするのが全部手遅れだとっ!?
それが摂理だとっ!?
したり顔で語ってんじゃねぇっ!!」
ギィーーーーンッ!!!
(「魔王『この我のものとなれ、勇者よ』勇者『断る!』」8スレ目より)
う~~~~ん、ちょっとだけ引用するつもりが、思わず大量に引っ張ってきてしまった。だって、ここも、いいいシーンなんだもん。(´・ω・`)……クライマックスの前哨戦とも言うべき勇者vs蒼魔の刻印王のシーンですね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/72/70/7be3438bd036737e2bd77fd834d01e0a_s.jpg)
そして「魔王x勇者」のこういった描写を読むにつけ「物語」おたく界隈の人たちはけっこう戦慄を覚えたんじゃないかと思うんですよね。いや、僕は戦慄したって事なんですが(汗)この呪文(必殺技名?)と、擬音の羅列に、あと互いの自己主張のセリフを混ぜれば、この短い文章で決戦のバトルが成立してしまう事を描かれてしまったというか、バラされてしまったというか、そんな感じ?なワケです。(´・ω・`)
まあ、バラされたって言い方は正しくないかもしれないんで、控えますが……いずれにせよ、こういったシーンが「情報圧縮」された描写だと言う事は言えると考えています。ここらへんは「魔王x勇者」の特徴という以前にVip@2chのSS文化がベースになっているようですが、とりあえず分析してみます。
擬音については通常の文章運用的と思えるので置いておきますが、ここで分解したいのはバトル中、彼らが駆使した呪文の数々ですね。(余談ですが、勇者は“呪”なのに対して、刻印王は“術”なんですねえ…。ふむ。別途、検証しよう)まず「招嵐颶風呪」これは、勇者が発生させたマクー空間というか……嵐の結界の中に対象者を封じ込める呪文ですね。すげえ…周辺の被害を抑え込めちゃうじゃんwホントにスーパーヒーローだw……が、ともかくこれは“説明が必要”と判断されて、勇者の説明セリフが入ります。(本当はこの説明ももっと細かくする必要がある場合もあるのだけど)
逆に言えば、その後続く「飛脚術」、「火炎鳴動術」、「天眼察知術」、「剛力使役術」、「神速呪」、「雷剣呪」、「鏡像呪」は説明が要らないと判断できるって事です。少なくとも僕には必要なかったし、おそらくこの記事を読もうなんて考える人たちにも必要なかったでしょうwただ、ノベライズする際はそこらへんの線引きも変わってくるとは思いますが、とまれ、“僕ら”は単に説明が要らないだけではなく、勇者vs蒼魔の刻印王のバトルがどのように展開しているか己が瞼にありありと映し出せているはずです。勿論、細部はまるで違ったビジョンでしょうが、そこは問題ではない。
ちょっと付け加えると…「超」、「皇」、「帝」、「覇」、「絶」…あたりでしょうか?僕の厨二脳から選ぶと、これらの字を先程の呪文の言葉に一字混ぜるだけで、あら不思議、さらに凄い技になる事が感じられますよね?w(女騎士vs大主教の決戦でも使われてますね)だけど、「超」はともかく他はあまり根拠ないですよねw
何で分かるのか?それは一つは僕たちが漢字圏に居る事の恩恵……とか言い出そうと思いましたが、別に横文字圏でも「ライトニング~!!」とか「~ストーム!!」とか言えばいいので、あんまり関係ありませんね。(漢字はより「情報圧縮」の意味が分かりやすい素材ではありますが)つまり、そこはやはり僕らが散々、マジカル・ファンタジー・バトルに接してきた事が大きいのだと思います。
かつては魔法が使える~その事そのものに「面白さ」を感じ、様々な魔法が飽和的に生み出されていったのですが、ここはもう「先の物語」なのですから。
ある一線を超えたところで魔法は、物語の“売り”というより何かを描くための道具となってくるワケです。(そこで、誰も考えないような魔法を発想したり、魔法体系を組んだりするのも一つの道ですけどね)ひと言ふた言のワードで、皆まで言わずとも分かる物は“圧縮”して「モジュール」として置く。そしてその「モジュール」は必要な時に使う。そういう話になってきます。その成果の一つがこの「勇者vs蒼魔の刻印王」だったりするワケです。
![]() | 魔神伝 (1) (リュウコミックス) |
来留間 慎一 | |
徳間書店 |
この話をしてて、ちょっと思い出したのは「魔神人伝」(作・来留間慎一)という作品で。すんごい魔王が主人公なんですが、本来念じるだけで魔力を発動できる彼がゲーム世界に紛れ込んだときに「雰囲気を出すために」と称して即興で自分の魔力顕現に名前をつけて唱えるようになるんですね。
たしかに、昔から「ヒーローは何故、必殺技を叫ぶ!」と言われているんですけど、そうやってパッケージングするから、今、「モジュール」として使えるんですねえ…とか思ったり。もともと人間の知性はそうやって“名付ける”(結果、意味が圧縮される)ようになっていて、そうやって思考を整理して先へ進める……そういう動物なんでしょうねえ。
ここではバトルのワンシーンをサンプルとしましたが、作品を通した全体のテーマ、たとえば「善悪二元論の超克」なんていう「モジュール」も、既に説明不要な程浸透しているはずで。これについて、たとえば敵の考える正義をいちいち説かせて説明して、「受け手」の投影された主人公が“返し”に詰まる………などという説明描写を見せなくても「ああ、その話ね」と納得を引き出せる。それが「情報圧縮」ができる状況で、それをどのように「圧縮」するかは「送り手」のセンスと手法による所もあるんですが、ともかくそうやって「善悪二元論の超克」を圧縮できる前提があるから、その「先の物語」や「大きな物語」を描いて行けると。
■キャラクターのモジュール化~元型化
「魔王x勇者」の登場人物名に関する言及は、既に他でも色々されていると思います。勇者、魔王をはじめとして、その多くの登場人物を職業名で語り、そのキャラクターのビジュアル的な描写にはほとんど言及しない。とは言え、必要最低限の情報は入れる。魔王が巨乳だとか、女騎士が貧乳だとか、勇者の頭は触るともふもふだとかは入れる…必要な事だからな!(`・ω・´)しかし、メイド姉の胸がどのくらいの大きさかとかは一見、ものすごく重要そうな情報に思えるが、それは入れない……必要ない事だからな!(`・ω・´)
…いや、話が横道に逸れましたが(汗)たとえば「辣腕会計」のキャラクターが無能な怠け者であるとかあり得ないワケですよwいや、そういう変化球が必要な局面ではそれは置かれるでしょうけど、そうでなければ原則、そのキャラ名称のイメージに沿ってもらってよい。これは作者の橙乃ままれ先生の文章力……詰めて言うとキャラクターのセリフ生成力に拠る所も大きいのですが、それによって、キャラクター描写といったものはほとんど無いにも関わらず、セリフ回しと擬似キャラクター名(?)によるイメージの“膨らまかし”だけで、「受け手」が多数の登場人物たちを頭に収める事に成功させてしまっていて、結果、あのシンプルな文体で、とんでもない展開の「速度」を叩き出している。
「魔王x勇者」は、作品としてものすごく脳で整理しやすい構造をしているので、複雑長大な「物語」にも関わらず、分かりやすく頭の中に入ってくるのではないかという事です。それを「情報圧縮論」の角度から論じているワケです。
もう一つ。前回の記事で引っ張てきた、もう一つの「情報圧縮論」のサンプル「やる夫が徳川家康~」ですが、こちらはツールとして使っているキャラクターが、モロに別の物語の登場人物なので、あまり表立って使えない手法なのですが、「魔王x勇者」はそれらをキャラクターのエッセンスにまで昇華しているので、書籍化の話まで出てくるという事があります。
【情報圧縮論:やる夫が徳川家康になるようです】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/135e913ad65b8e70a5107cd716652c2c
これってキャラクターの元型(アーキタイプ)をそのままシンプルに見せてしまって、そのまま書かれてしまったって事じゃないかと思うんですが…。すみません。ここらへんはまだ考察途中で形固まってません(汗)……ちょっとだけ触れておくと、以前、ユング心理学の話を「物語」を「読む」のに利用しようと言う記事を書いた事があるのですが、その延長ですね。ここでは「心理機能」の話とかはあまり関係なくって、「元型」の話、(2)の最後のあたりの項目…。
【ユング!ユング!ユング!(2)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/55d4a687041488bcd22f9c37125d16cb
・グレート・マザー … 母親・子供が保護を受けるイメージ(「物語」的には母・家庭・日常の場そのもの)
・老賢者 … 理性・知恵を授かるイメージ(「物語」的には○○仙人とか××師匠とか)
・アニマ … 男性の持つ女のイメージ(「物語」的にはヒロイン)
・アニムス … 女性の持つ男のイメージ(「物語」的にはヒーロー?)
・シャドウ … 自己の反存在・克服すべきもののイメージ(「物語」的にはライバル)
…この5つでしょうか。あと“英雄”の元型や“トリックスター”といった元型も“在り”っぽいように思うのですが、ちょっと置いておきます。また、アニマ(男性の持つ女のイメージ)についえちょっと補足すると、よりアニマに近いヒロインというのは、かなり純真無垢というか…無為に保護を受けるお姫様、あるいは聖女といった存在が当たるようです。しかし、近代の物語上の“ヒロイン”はこの範疇に収まりきるものではないでしょう。でも、同時に男性と絡む以上、なんらかの形でアニマに繋がるものを内包してもいると。
まあ、ユングの“元型”について詳しい所は調べてもらうとして…。心理学や、文化人類学?としての“元型”はある程度の広範囲…人類普遍か、あるいは民族普遍レベルの“元型”を抽出しないと、それ程意味をなさないのでしょうけど、ユングがこの考えを提唱するに至った、個人の夢のイメージと神話イメージの共通性、ひいては世界各地の神話イメージの共通性というのは、もっとミニマムに考えて「なんで、少年マンガの主人公やストーリーは同じようなのばっかなの?」とか、そういう話に接続できるんじゃないかと考えてます。
そこには、少年マンガレベルの「元型」という奴が必ず居ると思うし、おたく界隈の、そういう狭い範囲の“集合的無意識”に生ずる「元型」って在ると思うんだよね。たとえば綾波とか(´・ω・`)綾波に何らかのアニマの内包があるのは間違いない所だと思いますが、それが普遍的なものか?というとちょっと判断難しい。じゃあ、時限・アニマでも、ローカル・アニマでも、それならそれで論じちゃえばいいんじゃないの?って話ですけどね。
ちょっと話が逸れました。え~っと、「魔王x勇者」の中で登場したワケではないですけど、たとえばキャラ名「絶世美女」とかキャラ名「秀麗男子」とかそういうキャラがいたとしたら、当然、絶世の美女や、眉目秀麗の美男子をイメージしますよね?その時、ある意味では各人の“アニマ”なり、“アニムス”なりが出ていると思うんですよね。(ちょっと、アニマ/アニムスの理解を乱暴に切っていますが)それは変に形容、修飾を重ねるより、ずっとダイレクトな効果があるような気がします。
つまり「魔王x勇者」(これはひいてはVipのSS文化もかな?)のキャラクター名原則は、物理的に描写を短縮化させる効果とは別に、そういった各人の「元型」を引っ張り出す効果を持っていたんじゃないの?って仮説ですね。(元型を引っ張り出せるとどうなるかと言うと…大雑把に言うとウケるんですね。感覚的な慕情を引き出せるというか…)
「元型」の有力な“固まり”は上に引用したような5体ですけど、別に元型はそれに限らないわけで……魔王、勇者、女騎士、女魔法使い……思い返して観るとタロットカードみたいな、ある種の象徴的イメージを出すにはなかなかいいワードじゃないですかw……まあ、何とも言えませんけどね?(´・ω・`)
…………あれぇ?今回で終わる予定だったのに全然終わらないぞ?orz 序文より短くスパッとか言っていたような……orz
つづきます。次は「情報圧縮」と“省略”の違いが書けたらいいなとか。「情報圧縮」で潜在化された情報の顕現の話とか。そこらへんができるといいな…。(´・ω・`)
(↓)続く
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「情報圧縮論」から観える構造(その3)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/77c8668529ca2b47cda018dfbaaf85f2
以前の記事です。
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「先の物語」という意味(その1)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/74eed63271d173e9d4dd2c8facb30615
【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「先の物語」という意味(その2)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/463b4de3919163ad00aa98250584512b