http://www.websphinx.net/manken/come/wek1/wek1.html
少年マガジンで連載中の「コードブレイカー」(作・上条明峰)がかなりいいですね。これまでも「仕事人」ものというか、悪い奴を非合法的に抹殺するという物語はあったわけですが、それを為す主人公・大神零を糾弾し行いを改めるように説得を続ける少女・桜小路桜の存在が大きいですね。
指令や報酬によって悪人を退治する物語において、ゲスト的にその行為を糾弾するようなキャラ(こういうのって大抵女性キャラなんですが)が出てくる事はあったんですが。常時張り付いてその問題を投げかけ続けるヒロインがいる構造の作品というのはちょっと脳内検索から出てこないですね…。
「必殺シリーズ」では妻子に自分の稼ぎの理由を隠して“殺し”を続けているキャラは出てくるんですが、まあそれも最終回あたりに正体がばれるという展開があっても常に「何故、殺すのか?悪人は殺していいのか?」という問いかけを主人公におっかぶせてくる事はありません。
(再度、脳内検索)…やはり出てきませんね。全く無いという事も無いとは思うんですが、なかなか珍しい構造の作品でもあると思います。
なんで珍しいのか?というとこの話は(人死に込みの)バトル世界において
「問うてはダメな領域」というか、物語の意義を果たすために意図的にスルーしている領域に踏み込んでおり、この葛藤を常駐させてバトルをこなして行くのは、常に作劇において
とても厳しい選択を迫られる構造だからなんですね。もし、作品を描くテーマが「悪い奴をぶっ殺して読者にスッキリしてもらう」というものだったら、こんなシンドイ構造を抱えるのは避けるべきだと思います。
…そう。フィクションの物語において主人公側が行う殺人は原則「不問」なんですね。たとえば「北斗の拳」においてケンシロウに、リンが「ケン…あんなに残酷に殺さなくても…ケンは本当は殺戮を楽しんでいるの?」とか、そういう真っ当な疑問を
聞いたらダメなんです。ケンシロウも「そんな事言われても…(汗)」と思わず口ごもってしまう事でしょう(`・ω・´)それは「北斗の拳」という作品が悪い奴~読者がイメージする憎ったらしいアイツ!~を徹底的に残酷に叩きつぶしたい!!というカタルシスを代行している作品だからなんですね。他に僕がよくする話で「ドラゴンボール」のベジータとか、元々は悪人で後に主人公の味方になったキャラなんかは、かなり人間を虐殺していたり何かするんですけど、そういった過去は主人公の味方になった時点で不問なんですよね。まあベジータは悟空とつるんだとしても法で裁かれるくらいなら地球を壊すでしょうけど(そこらへん、実は「DB」も「ウルトラスーパーデラックスマン」みたいな世界なのかもしれない)…ブルマとかに「旦那が大量虐殺者な件をどう思ってますか?」とか
聞いたらダメなんです。
まあ「DB」は生き返りの設定があって話が「生き返ればいいのか!?」とかややこしくなるんですが、言ってしまえば、バトル世界においてモブの命なんてものは、たとえば、そのバトル・キャラクターの「強さ」やあるいは「恐さ」を表すための演出道具に過ぎないわけです。(だから味方になった時、多くは不問となる)
この問題…僕は「フィクションとはそういうモノであり、また、その為にあるんだろ?」って思っていて必ずしも問題という言い方に沿いませんが、子供の影響とか、命の尊さとかそういう議論は長くなるので、ここでは省略して別の機会としたいです。…まあ、少しだけ述べると、「物語」の世界なのですから、そこで現実の尺度の話をしても「楽しくない」ので、敢えてスルーするのは「物語」として正しいと僕は思っています。ただ受け手(観客)はそれでも尚“作り話”とは言え「そこに生命がある事」を感じ取れないようでは、より「物語」を楽しむ事は難しいのでしょうね。そしてそれをイメージしつつも「だからダメ」なのではなく、憎い奴を叩きつぶしたり、何かを破壊する事にも、快感やカタルシスがある事をキッチリ感じ取って、自分の中にあるその両方の心と向き合えてこそ「物語」がそこにあった、そういう“作り話”をした意味が出てくるのだと思います。
…で、本来、つまらなくなる(興が削がれる)からこそ、スルーしていたツッコみを「むしろそこを楽しむんだ!」と言ってきたのが「コードブレイカー」という事になりますw
先に行っておきますが
この物語は様々な矛盾に充ちています。…大神も多分、次第にブレてくると思いますが、上記したツッコミを一身に背負っている桜小路桜は、現時点でもかなりツッコミ放題の矛盾したキャラクターと言えると思います。…ま、桜ちゃんは、いい具合にバ…思考能力が残念な娘なんだよ?と言ってしまえば大抵いいような気もしますけどねw
しかし、読んでいて思うんですが桜が抱える矛盾というのは人の心が抱える矛盾と直結しているんですね。上条先生は必ずしもマンガの上手い人だとは思ってないですし(←あ。)、何か賢しらに「正論っぽい話」であげつらうのは簡単だと思うんですよ。でも、それは多分色々な「面白さ」や、「愉しさ」を逃していると思います。
いや、今、必ずしもマンガが上手い人だと思わないと言いましたが(汗)そうは言っても上条先生の表現がどうにも拙かったら、僕もこういう言い方はしません。でも、やっぱり桜ちゃんのキャラ表現とかね。いいいんですよ。「人殺しはいけない!」と散々いっておきながら…
「大神のやったことは悪だが…それが被害者の無念を癒した事は確か…」
って言うんですね。ああ、この娘は「人を殺したら駄目だ教」の信者ではないんだなあ…と思って。(ルイさんは宗派はそうかもしれないけど狂信者ではないという言い方をしましたが)立ち止まって考えられる。「簡単な答え」に飛びつかない。
そういえば以前も、刻に胸を揉まれて激怒するですが、刻から「どーして、ねーちゃんはよくてオレはダメなの?キョーダイだから好きなモノ一緒なの仕方ないのにサ…」とか言われて「…?そうだなキョーダイだからしかたがない…か?」とか考えているw
やはりいい具合にバカです(=´ω`=)
話がずれてしまいましたが、桜は「大神のやったことは悪だが…それが被害者の無念を癒した事は確か…」と考えつつも「どんな理由があってもやっぱり殺しちゃダメなんだ。こんなの理屈じゃないんだよ…!!」と心の性に従っている。…じゃあどうするのか?その答えを出し切れない“ゆらぎ”が大神やその他のコードブレイカーたちとの接し方に繋がっている。
連載開始された時点で、今回の展開はそのうちあるとは思っていましたが12話という早い段階でこの領域に踏み込み、多くのバトルマンガがスルーする葛藤を、決して悪くない感じに通り抜けた「コードブレイカー」はこの時点でなかなかの良作連載と言えると思います。…連載が長期化すると内容が変質する事もあるんじゃないかな~~~~?などとドキドキしつつ、ちょっと見守って行きたいですね。
※1上記でバトル世界で「聞いたらダメな話」、「原則スルーの話」をしましたが、そこらへんに踏み込んだ話として「るろうに剣心」の「人誅編」が上げられますね。…僕は必ずしも、あそこの評価は高くないのですが(←あ。)1エピに過ぎないけど、かなり厳しい選択をしていたのは分かるかと思います。
※2もう一つ、「仕事人」系ではないですけど「人殺し」と向き合う話で、おそらくは、この「コードブレイカー」の桜小路桜よりも、過酷な向き合い方をする
「特攻天女」という作品を思い出しました。(こう書くと誤解されそうですが過酷さで作品の価値は決まりません)
【ヤンデレ・天野瑞希】
http://www.websphinx.net/manken/come/wek1/wek10330.html#492
ここで対象の天野瑞希という「人殺し」の話を書いていますね。物語の後半ではあるんですが主人公である祥が、このサイコパスをどうにか人の心の痛みが分かる人間にしようと苦悩するんですが、遂にそうなる事無く物語が終わっています。…はっきり言って
名作です。機会があれば是非読んでみて下さい。