また「神殺しの物語」の話をします。
先に言っておきますと、これから「ゼーガペイン」という作品を紹介して行きますが、この作品は、ハッキリ言ってネタバレすると楽しさが半減します。…でメインで面白いポイントは特に「神殺し」の視点という事でもないのですが、話す以上はある程度、ネタバレしてしまうのですよね(汗)
でも、ねえ…?この作品かなりマイナーだし、時が経つと共に忘れ去られていると思うんですよ。観続けた人は皆好きだというんですけど…。そうするとネタバレくらいして、アピールしないと、この文章読んで「ゼーガペイン」を観てみようかな?って思う人も出てこないんじゃないかな?……というワケでネタバレ前提で話をします(←言い訳終了)
繰り返しますがこの作品、かなりネタを隠してて、いいいいタイミングでそれを出す事で「面白さ」を出している作品です。読んでしまった人は、リアルタイムで追わなかった事をいくらか残念に思って欲しいところw
その「ゼーガペイン」ですが、ズバリ言ってしまうと超天才科学者ナーガに人類の全てを死滅させられて、おそらく何十年か経った後の世界から物語が始まっているんですね。生きている人類はもう本当に一人もいない状態の地球において、地球自体を実験場化して行くガルズオルムに抵抗して、量子兵器ロボット・ゼーガペインを駆るセレブラムの戦いは続いて行きます。
ガルズオルムというのがナーガの“遺志”を受け継いだ機械と指揮をとる男女2人の復元者を要する集団ですね。…で、そのガルズオルムと戦う(抵抗する)セレブラムというのは一体何かというと、実は
滅びてしまった人類のデータなんです。量子コンピュータの中にメモリーされた、かつて生きていた人のデータ(幻体と呼ばれている)が戦っている。本当はデータシミュレートの中で無限の時間(量子メモリーが存在し続ける限り)を夢見続けるだけの存在となってしまうんですけど、その真実に気付いた者(データ)だけセレブラントと言われる保存された量子メモリー及び量子コンピュータの管理者権限を持つ者となり、セレブラムの持つ兵器を駆ってガルズオルムと戦う事ができるんですね。
ここらへんの世界の真実を最初、主人公は“忘れている”状態で物語は始まり、次第(リアルタイム)にその全貌が明らかにされて行くという所がこの作品の見所のひとつなんです。そしてデータはデータを失う事に“心の痛み”を感じて、果てしなく戦い続ける事になるのです。
…でね。この状況のほぼ全てが、最初に述べた超天才科学者ナーガの設計した世界なんですねw量子コンピュータも量子メモリーもナーガの開発、その中に限りなく完全な形で人間を再現する技術もナーガの発明。それでナーガは人類はもう、この量子メモリーの中に入ってしまった方がより効率的な発展・進化ができる………実際にガルズオルムはメモリー内で“時間加速”をして極めて短期間で新技術を手に入れて行くんですが………という説を唱えたんですが…まあ、多分、世界に軽やかにスルーされたんで、致死率98%のオルム・ウィルス(これもナーガが開発したw)を全世界にばらまいて、人類を強制的に量子メモリーの中に避難させてしまったんですねw
もう、その時点でこの世界、
ナーガ大勝利世界でwナーガは「予想外の収穫」と呼んでいるんですが、多分、セレブラントになるシステムもナーガが設計している。メモリーの容量の関係で、世界の全てと避難した人間データの全てを果てしなくシミュレートする事は不可能なので、限られた人間に管理者権限を渡すところまではナーガの設計である事は確かでしょう。でなければセレブラムが他のシステムとアクセスする事の整合性が取られすぎている。ちなみにガルズオルムの本拠地、ジフェイタスではメモリーをがんがん増設する事でこの問題を解決しているみたいですがwまた、最終目標が“進化”であるナーガは、ガルズオルムの進歩を促す抵抗となるセレブラントの存在をある意味肯定しているのです。
つまり既にこの世界において、どうしようもなくナーガは神なんです。
どうしようもなく制限された世界のデータを守り続けるという絶望的な戦いを繰り返すセレブラントに対して、まあ、多くの視聴者が最後は肉体再生できるのだろうと予想していたとは思うんですが、その道も、技術はガルズオルムの“時間加速”の中で手に入れた技術です。
そしてナーガ自身は計画初期段階から既に人格はなく(帆場暎一、あるいは草薙素子?よろしく)量子データ空間と同化する道を選んでいる。…徹底的に永遠に生きる道を模索した結果だと思いますが、主人公たちにとってみると、自分らもデータである以上、既にナーガの一部だと言われてしまうんですね。…ここらへん後半になると衝撃的事実が続き過ぎてかなりスルーされているんですがw
ガルズオルムは時々、神託を受けるようにナーガのデータを人格レベルまで再構成して指示を仰いだりしていたみたいですが…けっこうナーガってガルズオルム寄りとは言え、
進化の観察者として、中立的なんですよね。…そりゃそうだw量子コンピュータの技術を遣い続ける限りは自分は“神”なんですからw…もしかして量子データの中にナーガが混じっているって事は実体化してもナーガのデータは残るって事かもしれないし(汗)
そしてナーガは自分の設計した世界の“理”と“利”を説きます。量子メモリーを保守し続ける限りの不老不死。量子ポータル(量子転送技術ですね)を利用した星間航法。時間加速による早期の技術革新(量子コンピュータへのフィードバック)及び早期進化。またメモリー世界ごとに区切って別系統進化を並行して実験する事もできるはず。もし進化型生物の最終目標がスターシード(星を渡る種)になる事だとしたら、ナーガの示す道は不格好ながらも確かにそれを示している。
でも、主人公は「俺の拳が!俺の上腕二頭筋が!俺の魂が怒り狂っている!俺はお前が大っ嫌いだ!何があってもお前の仲間なんかにはならねえ!」
…の一言で破棄してしまいますw…いや、確かに強引に人類殲滅をしてしまったナーガのやり方は拙速で様々な抵抗を生むものだとは思うんですが……ここらへんも思い返してみると人類が滅ぶ経緯って文献的に語られる程度で、あんまり明示的にはハッキリしていないんですよね?
これ、順序が違うかもしれない。ナーガはガルズオルム計画を月基地ジフェイタスで淡々と行っていたんだけど“時間加速”による進歩に脅威を感じた人類がガルズオルム計画を止めるために月基地に軍事力を派遣した。計画の完全停止を恐れたガルズオルムがオルム・ウィルスを開発し、地球にばらまいた…って順番かもしれないんですよねえ…。
…あれ?何かあんまり「神殺し」の話になっていないな?(汗)まあ、とにかく主人公は人類抹殺に成功してしまった“神”の提示した理想的世界、いや既に具現化されているその世界を拒絶して停止させてしまう…という角度の話がしたかったのです。
とは言え、どう考えても量子コンピュータの世界に残り続け永遠を生きる事に決める人間もいるでしょうし、実体化しても量子コンピュータ技術を捨てない限りは実はナーガは生き続ける。“時間加速”による技術革新や、恒星間航行の誘惑(?)に勝つこともできないでしょう。…結局、人類はナーガの思惑通りに発展して行くはずなんですよね。だから、結局、ガルズオルムという計画を潰す事はできたんだけど“神”を殺す事はできなかったという物語という事もできます。(主人公は頭がいいので、多分、そこらへん分かっていて軽やかに無視している)
「マトリックス」の傍流(他にもいろいろ複合してますね)としてある物語である事は確かなんですが、
「消されるな、この想い。忘れるな、我が痛み」というコピーに沿って、人が一体何を大切にするのか?何に痛みを感じて生きているのか?もっと言えば人にとって生きているって何か?(この物語の登場人物はいわば死人からスタートしているわけで)を問いかけた、なかなかの傑作だと思います。…一応、いくつか良いネタバレも隠せたはずなんで機会があったら観てみてください。