玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

思わせぶりは良くない

2006年09月19日 | ネット・ブログ論
10日もたてばいいかげん鎮火しているだろうと思ったら、まだ燃え続けていた。

乙武洋匡公式サイト: 紀子さま出産
乙武洋匡公式サイト: 深くお詫びします

乙武氏はたぶん「いい人」なのでコメント削除をためらっているのだろうが、荒れ放題のコメント欄を放置するのは良くない。管理を放置しているようでかえって無責任に見える。「テーマと関係のないコメントは削除させていただきます。」と宣言しているのだから、重複コメントや「■ 広末涼子 裏口入学顛末記 ■」なんかは速やかに削除したほうがいい。

それにしても、素朴で正義感の強い人たちのやることは100年前と変ってない。

与謝野晶子 - Wikipedia
1904年9月、半年前に召集され旅順攻囲戦に加わっていた弟を嘆いて『君死にたまうことなかれ』を『明星』に発表。とくにその三連目で「すめらみことは戦いに/おおみずからは出でまさね(天皇は戦争に自ら出かけられない)」と唱い、文芸批評家の大町桂月は、「皇室中心主義の眼を以て、晶子の詩を検すれば、乱臣なり賊子なり、国家の刑罰を加ふべき罪人なりと絶叫せざるを得ざるものなり」と激しく非難したが、これに対して晶子は『明星』11月号に「ひらきぶみ」を発表「歌はまことの心を歌うもの」と一蹴した。

「ひとつの命が誕生したことがめでたいの?(改行略)それとも誕生した命が「男児だったから」めでたいの? 」という乙武氏の言葉も、「君死にたまふことなかれ」という与謝野晶子の言葉も、どちらも単純素朴な人道思想の表れであって「正義派」が糾弾しなければならない邪悪なものではないはずだ。乙武ブログは「皇室批判」(?)への反発と現代の日本では公然と口にできない「障害者嫌い」感情が燃料と酸素の働きをして大炎上した。無茶な想像だが、与謝野晶子がもしブログをやっていたらきっと大町桂月のような人たちが「乱臣なり賊子なり、国家の刑罰を加ふべき罪人なりと絶叫」し、女性の官能をおおらかに詠う歌風を「淫乱、ふしだら」と罵倒するコメントであふれたことだろう。乙武氏も与謝野晶子のように「ブログは本心を書くもの」と批判を一蹴したほうがよかったかもしれない。

乙武氏の価値観や考え方についてとやかく言うつもりはないが、炎上の発端となった彼の文章はお世辞にも上出来とはいえない。
特に「どちらにしても。(改行略)これで、また大事な議論は先送りにされてしまうんだろうなあ…。」という思わせぶりがよくない。乙武批判でこの部分を「乙武氏の真意」と見る人が多いけれど、私は単なる蛇足だと思う。乙武氏が本気で「大事な議論」だと考えているのであればもっと具体的に書いたはずだ。そうしないところを見るとたぶん乙武氏は「先送りにされ」た問題を重要と思ってないのだろう。大して関心のないことについて偉そうで思わせぶりな態度をとり、自分の考えをはっきりさせない稚拙な文章が多くの読者の怒りをかき立てた。
もし乙武氏が「大事な問題」について自分の考えを明確に語っていれば、それがどんな意見であろうとも読者をいらだたせてブログが炎上する事態にはならなかったんじゃないかとさえ思う。

中日ドラゴンズの山本昌広投手が16日の中日‐阪神戦でノーヒットノーランを記録したそうである(おめでとうございます)。
私は野球にほとんど興味がないので自分のブログに書こうとは思わないが、もし乙武氏のようなかたちで言及していればどうなったろう。

「山本選手ノーヒットノーラン達成」
世間は昨日から「めでたい、めでたい」と騒いでるけど……
ノーヒットノーランを達成したことがめでたいの?
それとも山本選手が「41歳だったから」めでたいの?
どちらにしても。
これで、また大事な議論は先送りにされてしまうんだろうなあ…。

これはまずい。自分がドラゴンズファンなら怒る。「言いたいことがあればはっきり言え!」という感じだ。
真面目なことを書くのに「思わせぶり」はよくない。褒めるにしろ貶すにしろ、自分の考えをはっきりさせたほうがいい。ブログ読者は生煮え料理を文句も言わず食べてくれるほど寛容ではない。


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBさせていただきました (talleyrand)
2006-09-29 16:25:25
むやみに突撃かますのもあまりほめられた行為ではありませんが、書き手が気をつけることで、ある程度、炎上を避けることはできる気がします。

とはいえ、これは一般人のブログについて言えることであって、有名人のブログは難しいのかもしれませんね。政治家しかり、ライターしかり、タレントしかり…。
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なるほど (Unknown)
2006-09-21 23:24:26
ネットイナゴは、

意見の内容そのものやロジックより

記事のレトリックや、書き手の態度が礼にかなうかなどを基準として

意見の良し悪しを判断する層で構\成される



という範囲の絞りこみができるかも知れません

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付け足し (tome-san)
2006-09-21 21:47:13
>特に「どちらにしても。(改行略)これで、また大事な議論は先送りにされてしまうんだろうなあ…。」



>乙武批判でこの部分を「乙武氏の真意」と見る人が多いけれど、私は単なる蛇足だと思う。





私も同じ見解です。

あまり考えずに頭に浮かんだ言葉を順番につなげて書いたのが乙武さんの炎上したメッセージだったのでしょうね。



何に関心が向いているのか、とても素直に表現されていて面白いと私自身は思って読んでいます。



最後の付け足しは、上の文と論点に違いがあります。

上はマスコミに対しての素朴な疑問であり、下のつけたしは法的にこれから皇室制度がどうなっていくかへの単なる興味から書かれたものに過ぎないと読めます。



ふと感じたことを書いたに過ぎないものですけど、乙武さんに関心を持っている人が多いだけに、中途半端に書かれた文に誰かが反応したのをきっかけにして、炎上して行った。

炎上の大半は、元は乙武さんのコメントですが、刺激される材料は余りにもひどいゴミメッセージと論点をどんどんずらして書かれていく、これまたひどい頓珍漢なコメントにあったのだと私は見ています。



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Unknown (nanbu_somosomo)
2006-09-21 15:04:57
 チラッと覗いてきました。コメント数4482ですか・・・。限が無いですね。



 ブーゲンビリアの何とか日記炎上時にはだいぶ書き込みを読みましたが、今回はどうも陰湿な書き込みが多そうで、なんとも触れたくないですね。



 >乙武ブログは「皇室批判」(?)への反発と現代の日本では公然と口にできない「障害者嫌い」感情が燃料と酸素の働きをして大炎上した。



 炎上リスク回避の技術云々よりも、ネットイナゴの醜さが最大限にあらわになった炎上事件ですね。



 >褒めるにしろ貶すにしろ、自分の考えをはっきりさせたほうがいい。ブログ読者は生煮え料理を文句も言わず食べてくれるほど寛容ではない。



 何で粘着するのでしょうね。嫌な料理だったらさっさと他へ行けばよいのに。まさか、自分の書き込みで相手を「矯正」出来ると思っているわけでもないでしょうに。何万とブログはあるでしょう。

 テーマとずれた感想文、失礼しました。
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結局 (straymind)
2006-09-21 08:41:41
 ものは言いようということですね。



 乙武さんに限ったことではなく、普段どんなにきちんとしたことを書いていてもああいう表現一発で炎上ですから、ある意味ブログは怖い。



 ただまぁ、たけしは毒舌で認知されているから問題ないのかもしれませんが、その「問題のなさ」が問題かもしれません。



 乙武氏はたけしのような認知ではないわけで、そこにはつるし上げの条件がそろったとたん炎上が誘発されるようなネットのいびつさ・意地の悪さが潜んでいることを感じます。
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たけし (玄倉川)
2006-09-21 01:13:46
みなさんコメントありがとうございます。

乙武ブログの炎上について考えてみると、内容を問題にする(あるいは内容が問題にされていると論じる)よりも表現や文章に注目したほうが炎上防止の参考になると思います。言っては悪いですが、彼の意見そのものは「左翼にありがち」でユニークなところはありません。

仮にビートたけしが乙武氏と同じことを軽妙な話術で語っていたら、乙武氏を批判している人の多くが「なるほどその通りだ」と感心しそうな気がします。

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Unknown (kazu-ct)
2006-09-20 08:36:34
最初の記事は読みようによっては、「男の子が産まれた」と喜んでいる人たちに向かって、「『男の子』だから殊更に喜ぶなんて、非人道的な振る舞いだし、大事な問題を忘れている近視眼的な反応だ」と受け取れるのですよね。まあ、突き詰めると本心はそうなのかもしれませんが、そこまで言うかということかと。次の"謝罪"記事でも「誕生がめでたくない、というつもりはない」とは言っていても、「男の子だから殊更に喜ぶ」事に対する理解・許容を示す表現はないですしね。
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Unknown (Unknown)
2006-09-19 23:34:10
ブログ炎上の要因は、書き手の思想や記事の文意よりも、

むしろ筋の通し方や表現方法にあることが

非常によくわかる文章ですね。



このことをよく体得できていれば、

炎上はそれほど恐れるものではないのかもしれません。

体得できていれば、ですが。
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ご無沙汰です (テツ)
2006-09-19 20:59:17
さすがです...。

おっしゃるとおり、加筆するところもございません。



別のことで言い換えると非常によくわかるものですね。
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勉強になりました。 (クレ)
2006-09-19 02:25:15
曖昧な文章オンパレードで日頃書いているので、とても考えさせられました。読む人の気持ちより、書く自分優先にしているせいかもしれません。
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