玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

あえて「地域エゴ」を擁護する

2009年06月16日 | 日々思うことなど
ネット世論が「バカ叩き」大好きで極論に振れやすいのはいつものこと。
とはいえ、これはちょっとどうかと思う。

リニア新幹線Bルート要望相次ぐ 伊那でJR東海が説明会 - 長野日報 (Nagano Nippo Web)
痛いニュース(ノ∀`):【リニア】 長野「Cルートは独善的。これからの時代は1県1駅でなく駅を増やして人間的ゆとりを」
はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`):【リニア】 長野「Cルートは独善的。これからの時代は1県1駅でなく駅を増やして人間的ゆとりを」

2ちゃんねる(痛いニュース)もはてなブックマークも批判・罵倒・嘲笑であふれんばかり。
誰が誰をどんな理由で批判しようと自由ではあるけれど、社会の仕組みとかそれぞれの立場とか何も考えず「ただ叩くだけ」の批判はつまらない。

長野県(県庁)と長野県民がリニア中央新幹線計画について「諏訪回りルート」を主張していることが批判の的になっているけれど、私には何が悪いのかわからない。言うだけなら別にいいじゃないかそれくらい。
長野県に限らず、日本中あらゆる地域の自治体と住民がローカルな意見(利益)を主張するのは当たり前のことだ。リニアに限らず、オリンピック招致でも首都機能移転問題でも「ぜひうちの地域を」「わが街(県)を選ぶとこんなに利点があります」と大いに宣伝したはずだ。そのなかにはずいぶん無理なものもあるけれど、他の地域の住民が「誘致運動自体がけしからん」と叩くようなことはなかったと思う。
私は別に「長野県(県民)の言ってることは正しい、リニアは諏訪回りルートにすべきだ」と言いたいわけじゃない。むしろ「東海道線の御殿場回りじゃあるまいし、技術的にトンネルが掘れるならわざわざ遠回りさせる意味はないだろう」「そもそもリニアはスピードが命なんだから」と思っている。だが、私がそう思っているからといって、長野県民もそうしろと押し付けるのは無理だ。彼らには彼らの立場があり、長野県民の意見が他県と違っていても「けしからん」とか「恥知らず」などと糾弾されるいわれはない。

長野県(県民)のリニア路線問題に対する主張をわがままだ、地域エゴだと批判するのはたやすい。
だが、自分が同意しないローカルな主張を「地域エゴ」として安易に切り捨てたら、自分が何かの事情でローカルな利益を主張するときにも「地域エゴはやめろ」と罵倒されることを覚悟する必要がある。「情けは人のためならず、めぐりめぐって己がため」ということわざもあるが、他者の「エゴ」に対する不寛容もめぐりめぐって自分のところに戻ってくる。
たとえば自分の住んでいる地域に産廃処分場が計画されたとき、「国のために必要なんだから『地域エゴ』は慎もう」と素直に納得する人はどれくらいいるだろうか。もちろんそういうご立派な人もいるのだろうが、「そりゃちょっと困る、勘弁してくれ」と感じるほうが普通だと思う。ところが反対運動を起こすと日本中から「地域エゴ見苦しい」「イナカモノの悪あがきはいい加減にしろ」と叩かれるかもしれない。まったく他人事ではない。

実際に、沖縄の米軍基地反対運動や日本各地の原発反対運動では「わがままはいい加減にしろ」「地域エゴは見苦しい」式の批判や罵倒がぶつけられているようだ。私自身は、米軍基地も原子力発電も必要だと思っている。負担を担う(押し付けられる)地域の人たちはお気の毒だが、日本全体としてはやむをえない。やむをえないけれど、「お前らイナカモノはお国のために我慢するのが当然だ」などと威張り散らす輩はゲス野郎である。「他の地域の人間にとっては見苦しいだけの『地域エゴ』も、その地域に住むものにとっては切実な問題かもしれない」という想像力をなくしてはいけない。

リニア新幹線路線問題の長野県叩きを見ていると、光市母子殺害事件における弁護団叩きを思い出してしまう(この問題については江川昭子の記事が詳しい)。
叩いている人たちは無意識のうちにアプリオリで自明な「真実」「正義」の存在を前提にして、そこから逸脱した存在(長野県や弁護団の主張)を一顧だにせず切り捨てる。自分と異なる立場、異なる考え方の存在を認めない。時間と手間をかけて対立を解きほぐすのを嫌い、手っ取り早い解決を求める。「リニア路線問題」「光市事件の弁護団叩き」だけでなく、警官の発砲礼賛とかピースボート批判とかフィレンツェ大聖堂いたずら書き問題とかを見ると、「正義」がドミノ倒しに似てきたようでちょっぴり憂鬱になる。


話を元に戻して、リニア新幹線の路線問題について。
長野県庁とか長野県民(の団体)といったローカルな存在がローカルな利益を求めて「諏訪回りルート」を主張するのは当たり前のことだ。逆に、それくらいの主張もできないようなら何のための地方自治なのかわからない。国会議員は「国民の代表者」なのであまりローカルな利益を代弁すると顰蹙を買うが、知事とか県庁とか地方議員がローカルな利益を主張するのは彼らの義務といっていい。
JR東海にはJR東海の、長野県には長野県の利益があり、愛知県には愛知県の、東京都には東京都の…  それぞれの意見(利益)を主張して議論するのが面倒だけれど正しく民主的なやり方だ。「広く会議を興し、万機公論に決すべし」である。
議論するのは大いに結構だが、はっきり言って、諏訪回りルートは無理筋である。民主党政権になって羽田孜が国土交通相にでもならないかぎり実現する可能性はないだろう。別に恐れることも長野県バッシングする必要もない(今のところは)。


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6 コメント

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Unknown (長野県民ですが)
2009-06-16 17:02:55
私は長野県民ですが、リニアに関する主張は、非常に恥ずかしいと思っています。全ての長野県民が、こうだと思われると極めて不愉快です。
Unknown (JRの回し者じゃないですが)
2009-06-16 22:58:57
地域が地元の利益を主張するのは当然の行為。
なのに余所者が、そこまで罵倒したり
批判・中傷したりする権利があるのか?!

・・そういう主旨なんでしょうけど、
ちょっと考えてください。

もし長野県がJRの案に絶対に同意せず、
このままゴネ続けたら・・・・?

「2025年に開業」というスケジュー
ルが
大幅に遅延することも考えられます。
そうなったら、不利益を蒙るのは
国民全体ですよ。

長野に「地元の利益」を主張する権利があるように
それを批判し止めさせようとする権利も
日本国民にはあると思います。

例えがおかしい (バルク)
2009-06-17 23:26:00
まったく同意できない。

基地問題、原発問題は「不当なマイナスを除去する」行為であり、「ゴネて本来得るはずのないものを得ようとする」今回の長野側を「地域エゴ」なる言葉でくくって同一視するのはおかしい。

客観的な全体最適を考慮せず、あるいは意図的に無視して、自己の(明らかに不当な)利益のみ追求する行為に対し、「当たり前のこと」として諦めた態度をとることのほうが「つまらない」し、そういう態度が世界をつまらなくしていくと思う。

Unknown (K)
2009-07-16 21:28:17
今回は全て民間資金で行う訳で、民間事業なのです。
つまり、民間の工場誘致と同じで、長野県は企業にお願いする立場な訳です。
長野県は根本的に勘違いしています。
無理を言うと、長野県迂回ルートを取られますよ。
Unknown (夏茜)
2009-10-09 21:40:02
同じく長野県民ですが、長野県民全てがリニアを望んでいる訳でも、自分の地元に駅を誘致したいと思っているわけでもありません。
リニアのルート選定にご執心なのは、各市町村長、議員、知事、収入を得たい土建屋さん、リニアがあれば発展すると期待している一部の方たちだけでしょうね。
長野県民にも、リニア自体いらないと考える人、地元に駅を欲しいと考える人、JRの直線ルートに賛成の人、考えは様々です。
まあ、ああいった欲にまみれた知事を選んでしまったことは長野県民の責任ですが…(-_-;)。
 (CAN)
2011-01-25 00:50:51
オリンピックのような一過性のイベントと、
つくってから長い年月みんなが使い続けるインフラ(ここではリニア)を
同等の扱いで見るってのは
適切じゃないと思いますよ。

インフラってのは
「作ればいい」「できればいい」
で済む話じゃないと思います。